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被災による滅失の可否判定
建物の一部が滅失した場合の復旧についての規定は、区分所有法第六十一条において建物価格の二分の1以下に相当する部分の滅失は小規模滅失(第六一条本文)とされ建物価格の二分の1を超える滅失は大規模滅失(第六一条五項)に該当します。

また、区分所有法では全壊してしまった場合の規定はありませんので、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法によることになります。
区分所有法、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法のいづれもどの程で、小規模、大規模、滅失となるのか具体的には示されてはおりません。

判例(神戸地裁平成七年一〇月一七日)の判定例
概略
平成七年一月の阪神淡路大震災により被災した建物が、滅失したか否かが争われた裁判です。
区分所有者Yは建物が被災したことにより集会を開催し、本件建物の復旧決議を経て、建物の補修工事に着手しました。これに対してXは、本件土地共有持ち分による妨害排除請求権に基づき、補修工事差止め請求の仮処分を申し立てました。
Xは、本件建物は滅失しており、区分所有関係自体が消滅、それにより、区分所有者集会は無効である。そして、補修工事の決議も無効であり、工事に着手したことはXの本件土地共有持ち分の権利の侵害であると主張しました。

争点・・・本件建物が地震により滅失したか否か

裁判所は、Xの申し立てを却下しました。その理由は以下の通りです。

建物の被害の程度・・・一階柱却ボルトの全損、本件建物自体が六八センチ南へ、東へ二五センチ移動、そして北側が4.7センチ持ちあがり、南が10.6センチ下がり傾き、1階の柱についてはゆがみが生じたことは確認されました。
地下部分は、変形、ひび割れ、陥没は無く、二階部分以上は大きな破損は確認されませんでした。

補修方法・・・切断されたアンカーボルトの定位置での溶接、油圧ジャッキアップ工法でで本件建物の定位置への移動、1階の柱を交換しました。また、超音波探傷検査により、梁、柱の構造部分の安全性を確認、強度不足部分は補修しました。

補修工事費用・・・本件建物の補修工事は1億3640万円でしたが、新築工事(解体費含む)の約5億1600万円に比較して4分の1に抑えることができました。

以上により、建物の強度も建築当時の基準が確保され、修復工事費用も4分の1であり、本件建物の滅失を前提にしたXの主張は却下されました。
被災建築物応急危険度判定マニアル(日本建築防災協会)による判定
木造、鉄骨造、鉄筋及び鉄骨鉄筋コンクリート造の構造種別に分けて判定方法が設定されています。
この応急危険度判定は、地震による被災した建物の、その後の余震などで倒壊の危険性、建物の部分の落下、等の危険性を速やかに判定して、その建物の復旧するまでの建物の使用に危険性についての情報提供して、2次的災害を防止することが目的とされています。

ここでは鉄筋及び鉄骨鉄筋コンクリート造について記してまいります。
判定にあたりましては、応急危険度判定調査表に、建物の概要(建物名称、所在地、用途、構造種別、階数、建物規模)を記入いたします。
次に、1外観調査、2隣接建築物・周辺地盤・構造躯体に関する危険度、3落下危険物・転倒危険物に関する危険度の判定を行っていきます。
●1の判定
外観調査にあたっては、一見して危険と判定されれば、建物内には入らず、調査を終了して総合判定に移ります。

●2の判定
<判定(1)>においては損傷Ⅲ以上の部材の有無を判定します。

損傷Ⅲとは、仕上げコンクリートがかなり剥落しているが、柱内のコンクリートの剥落は少ない。また、鉄筋が少し露出しているが、変形していない。
損傷Ⅳとは、コンクリートの剥落が激しく、鉄筋が広範囲にわたって露出している。
損傷Ⅴとは、柱あるいは壁の鉄筋が曲がり、内部のコンクリートが崩れ落ち、一見して高さ方向の変形が生じている。床に沈下、傾斜がみられる。
<判定(2)>においては隣接建築物・周辺地盤の破壊による危険を判定します。隣接のたてものが傾いて、敷地内に倒れこむ場合等、崖崩れ等敷地に影響を及ぼす場合、また地盤破壊による建物全体のの沈下、そして、不動沈下による建物全体の傾斜を判定します。

<判定(3)>においては落下危険物・転倒危険物に関する危険度を判定します。窓枠、窓ガラス、看板、ブロック塀等の転倒又は落下の危険性を判定します。

●総合判定
1の判定2判定に基づいて総合判定します。
調査済み(緑)・・・「危険」「要注意」に該当しない場合。
要注意(黄)・・・建築物の沈下、傾斜、構造躯体の被害のいづれかにBランクがあれば「要注意」と判定されます。
危険(赤)・・・建築物の沈下、傾斜、構造躯体の被害のいづれかにCランクがあれば「危険」と判定されます。

ところで建物の滅失の定義はあるのでしょうか。
物理的に建物が滅失した場合だけでなく、社会的、経済的にみて、建物全体の効用が失われた場合を含む。とされており、具体的には、個々の建物について判断され、建物の損傷の程度、内容、建物の用途、そして、復旧の費用等が考慮されます。と記載されています(マンション管理の知識)
滅失において、小規模滅失と大規模滅失は区分所有法において、建物価格の過半か否かで決する規定がありましたが、全滅失か大規模滅失かの規定は定められておらず、個別に建物について判断され、建物の損傷の程度、内容、建物の用途、そして、復旧の費用等を考慮して決定することになります。上記の被災区分判定により被害程度が大きく一見して危険建物と判定され補修・補強工事が膨大となる場合においては、全滅失となる可能性が高いわけですが、最近は補修工事・耐震補強工事の認定工法(http://www.gbrc.or.jp/contents/building_confirm/self_certification/gijyutu_ninsho_list.html)が数多く考案されていますので、その採用する工法によっては補修工事費が大きく差が開くことも考えられます。建築技術は目覚ましく発展していますので、従来の感覚にとらわれず情報を集めることが必要と思われます。

参考・・・被災前建物価格と被災後建物価格
被災前建物価格=再調達価格×原価率
被災後建物価格=被災前建物価格-修復工事費用
原価率={(耐用年数-経過年数)/耐用年数}+観察減価
(社団法人)日本不動産鑑定協会

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