事件:静岡地方裁判所・平成19年(ワ)1624、平成20年(ワ)691

分譲マンションの耐震強度不足のため取り壊しを被った建築主による、誤った構造計算書等の作成に関与した設計会社とその取締役及び従業員に対する不法行為に基づく損害賠償請求並びに建築確認をした市に対する国家賠償法による損害賠償請求が容認された事例

地裁判決

主文

一 被告甲野、被告乙山、被告丙川、被告丁原は、原告に対し、連帯して、9億5946万3515円及びこれに対する被告丁原につき平成20年1月24日から、被告丙川、被告乙山及び被告丁原研究所につき同月25日から、被告甲野につき同月26日から各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え(ただし、第2項の限度で被告静岡市とも連帯)。

二 被告静岡市は、原告に対し、第一項の被告らと連帯して、6億7172万四四六一円及びこれに対する平成20年1月24日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

三 原告の被告甲野、被告乙山、被告丙川、被告丁原研究所、被告丁原及び被告静岡市に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四 原告の被告三井住友建設及び被告東京海上日動に対する請求をいずれも棄却する。

五 第一事件に係る訴訟費用は、これを五分し、その四を被告甲野、被告乙山、被告丙川、被告丁原、丁原研究所、及び被告静岡市の連帯負担とし、その余を原告の負担とする。

六 第二事件に係る訴訟費用は、原告の負担とする。

七 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

(以下、保険金請求事件である第二事件は省略)

第一 事案の概要

第一事件は、原告が、建築主として建築・販売した静岡市駿河区石田所在の分譲マンション「エストメール静岡石田」(以下「本件建物」という。)につき、耐震強度不足が発覚し、買主からの全戸買い取りを余儀なくされたところ、耐震強度不足の原因が構造計算書及び構造図の誤りにあるなどと主張して、本件建物の建築確認を行った建築主事の所属する被告静岡市、原告が本件建物の設計業務を委託した株式会社戊田設計事務所(以下「戊田設計」という。)の取締役である被告甲野、被告乙山及び従業員である被告丙川(以下「被告甲野ら」という。)並びに原告が本件建物の施工を依頼した被告三井住友建設に対し、それぞれ以下の根拠による損害賠償請求権に基づき、10億61万2039円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを請求する事案である。

被告静岡市 国家賠償法一条一項
被告甲野 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律78条、商法(平成17年法律87号による改正前のもの。以下「旧商法」という。)266条の3の第1項
被告乙山 ①民法709条、②旧商法266条の3第1項
被告丙川 民法709条
被告丁原研究所 ①民法709条、②会社法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律25条、有限会社法32条、旧商法78条2項及び民法44条1項
被告丁原 民法709条
被告三井住友建設 ①民法415条、②民法709条、③民法715条1項

(1)当事者

ア:原告 昭和25年設立、液化石油ガス等及びガス機器の製造販売、建物の建設、不動産の売買、賃貸借、仲介及び管理並びに住宅設備機器の販売を業とする株式会社である。原告には約14名の一級建築士がいるが、構造設計を専門とする建築士はいない。

イ:被告静岡市 人口2万5千人以上の市であり、建築基準法4条1項により、建築主事の設置が義務つけられている地方公共団体。

ウ:戊田設計 昭和39年設立、土木建築工事の設計及び監理業を業とする株式会社であり静岡県知事から一級建築士事務所として登録されていた。
被告甲野は、一級建築士であり、戊田設計の代表取締役社長であった。
被告乙山は、一級建築士であり、戊田設計の代表取締役副社長であった。
被告丙川は、一級建築士であり、戊田設計の従業員であった。

エ:被告丁原研究所は、昭和63年設立、構造計算を専門とする設計事務所である。
被告丁原は、一級建築士であり、被告丁原研究所の代表取締役である。

オ:被告三井住友建設は、建築工事の請負及び設計監理業等を業とする株式会社である。

争点

(1)被告静岡市関係
ア 被告静岡市が国家賠償法上の損害賠償責任を負うか。
イ 原告の被告静岡市に対する損害賠償請求が信義則に反して許されないか。

(2)被告丁原ら関係
ア 被告丁原が不法行為責任を負うか。
イ 被告丁原研究所が不法行為責任又は有限会社法32条、旧商法78条2項及び旧民法44条に基づく責任を負うか。

(3)被告甲野ら関係
ア 被告乙山、被告丙川が不法行為責任を負うか。
イ 被告甲野、被告乙山が旧商法266条の3第1項に基づく責任を負うか。

(4)被告三井住友建設関係
被告三井住友建設が請負契約上の債務不履行責任、不法行為責任若しくは使用者責任を負うか。

(5)損害の発生及びその額並びに第一事件被告らの行為と上記損害との因果関係。

(6)第一事件被告らの連帯債務となるか。

(7)省略

裁判所の判断

一 前提事実
(1)戊田設計と被告丁原研究所との関係(省略)

(2)本件建物の設計及び建築
ア 原告は、平成13年12月、分譲マンションの建設に適している静岡市の土地について、土地所有者との間で買い取ることを概ね合意し、本件建物の建設・販売を計画した。
原告は、同月26日、被告乙山に、口頭で設計業務を依頼し、平成14年3月末までに建築確認を得たいという希望を伝えた。
被告乙山は、平成14年1月8日、原告担当者と基本計画案について検討を開始した。
原告担当者は、同月11日、被告乙山に対し、全体工程表の作成を依頼した。被告乙山は、同月15日、全体工程表案を作成し、原告担当者に提示した。この案では、確認申請する日を同年2月22日、建築確認が下りる日を同年4月22日としていた。
原告は、同年1月15日、被告乙山に対し、再度同年3月末までに建築確認を得たいと希望を伝えた。

戊田設計所属の一級建築士である被告丙川は、本件建物の担当となった。
被告丙川は、本件建物の意匠設計のチーフとなり、被告丙川の部下としてさらに2,3人がチームに加わった。

戊田設計においては、建物一件に対して一人の担当取締役がついて業務を総括するという体制になっていたところ、被告乙山は、本件建物の担当取締役として、業務のほぼ全部を統括してみた。なお、被告甲野は、会社を代表する仕事をするため、原則として担当取締役にはならなかったところ、被告甲野は、本件建物についても、会社の代表として区切りの段階で顔を出すなどしただけで、意匠には関与していない。

原告と被告乙山及び被告丙川は、同年1月18日、本件建物の設計スケジュールについて打ち合わせを行った。

原告は、同日、本件建物の敷地を2億3413万4600円で購入した。

イ 被告丙川は、同日ころ、略平面図を作成、スケジュールが厳しいことを伝えたうえで、被告丁原研究所に仮定断面の依頼をした。仮定断面とは、構造計算を始めるにあたり、柱や梁の断面(サイズ)を仮定するものである。この仮定断面を用いて、重量による鉛直方向の力、地震・風による水平方向の力を組み合わせ、仮定した大きさの柱や梁にどれだけの力が働くのか計算(応力)を行うもので、鉄筋コンクリート造であれば、計算結果である応力と仮定断面サイズで必要な鉄筋量を計算する。

なお、被告乙山は、原告に対し、構造設計を被告丁原研究所に依頼することを伝えなかった。後に締結した原告と戊田設計との間の契約書には再委託先を記入する欄があるが、そこは空欄であり、被告丁原研究所は記載されてない。戊田設計が被告丁原研究所に支払った報酬は157万2900円である。

ウ 被告丁原は、同月24日ころ、仮定断面を提出した。被告乙山は、階高の検討を行い、原告に対し、階高検討用の図面を送付した。

原告担当者と被告乙山及び被告丙川は、同月25日、本件建物の間取り、仕様等について打ち合わせを行った。

被告丙川は、同日、静岡市建築指導課の職員に対し、本件建物の設計について相談した。

戊田設計は、同月28日、本件建物の中高層標識を設置した。その後、近隣住民が本件建物建設に反対運動を起こし、原告及び静岡市建築指導課に建設反対の意見書を提出した。静岡市建築指導課は、原告に対し、住民に説明をした後に建築確認申請を提出するよう要望した。

被告丙川は、同月30日及び同年2月7日、原告担当者に対し電話をし、本件建物の建設予定地の近隣住民に対する説明会等について打ち合わせをした。

被告乙山及び被告丙川は、同月11日原告とともに住民説明会を開催した。被告乙山は、同月12日、静岡市建築指導課に対し、近隣住民説明会を開催したことを報告した。

原告及び戊田設計は、同月ころ、原告が本件建物の設計全般を戊田設計に依頼する旨の平成13年12月25日付けの契約書(甲9)を取り交わした。原告から戊田設計への報酬額は2152万5000円である。

戊田設計は、平成14年2月18日、静岡市建築指導課に対し、中高層建築物標識設置届を提出した。

被告丙川は、同年3月25日、静岡市建築指導課を訪れ、本件建物の建築確認申請のチェック項目について指摘をうけた。

エ 被告丁原は、戊田設計から確認申請の日が同年3月9日頃になると聞いていた。被告丁原は、同月8日、二次設計において、保有水平耐力比が1.0を超える構造計算書及びそれに基づく構造図を作成できていなかったが、保有水平耐力比が1.0を下回る結果となっていた構造計算書及び一次設計終了段階で作成した構造図を、保有水平耐力比について法令の基準を満たしているか否かの結論を表示している判定表の記載された構造計算書最終項を抜いて戊田設計に提出した。そして、二次設計において保有水平耐力比が1.0を下回っていること及び最終項を抜いてあることを戊田設計に伝えていなかった。

被告丙川は、被告丁原から提出された構造計算書の中身をさっと見ただけで、最終項を見ることもなかった。被告乙山は、構造計算書には一切目を通していない。

被告丙川は、同月11日、被告丁原から受領した最終項の欠落した構造計算書及び構造図を添付し、静岡市建築指導課に対し設計者の名義を被告甲野として本件建物の建築確認申請(本件申請)をした。

本件申請後、戊田設計において意匠図と構造図の整合性の照合チェックが行われた。なお、被告乙山は、被告丙川を通じて、被告丁原から外階段をRCから鉄骨に、バルコニーをRCからアルミに変更したことについては報告を受けた。

オ 静岡市建築指導課では、同年4月1日時点において、乙原冬夫(以下「乙原」という。)及び丙田一郎の二名が建築主事に任命されていた。

本件建物については、意匠の審査を丁野二郎、構造の審査を甲田、設備の審査を戊山三郎がそれぞれ担当し、乙原が総合的に最終審査を行うことになった。これらのものはいずれも一級建築士である。なお、個別の審査事務の過程で難しい問題があった場合には、乙原の判断を仰ぐことになっていた。

ところで、建物が耐震強度を満たすためには、保有水平耐力比(当該建物の保有水平耐力/当該建物の必要保有水平耐力)は1・0以上でなければならない(建築基準法20条1号イ、同法6条1項3号、同法施行令82条の4)。当該建物の必要保有水平耐力の値は、地震地域係数(各地域における設計用地震動の強さの比を示す。)等により算出されるところ、国土交通省告示1793号によれば静岡県における地震地域係数は1・0とされているが、静岡市建築指導課においては地震地域係数を1・2とするよう指導している。地震地域係数を1.2倍した場合、計算の結果算出される必要保有水平耐力も1.2倍になる。地震地域係数を1.2倍とする運用は、申請者側から拒否されれば建築確認を下さなければならないものであるが、静岡市建築指導課において実際に1.2未満で建築確認を出したことはなかった。

カ 被告丙川は、同年3月下旬ころ、静岡市建築指導課に対し、構造審査の進捗状況について電話で問い合わせした。その際、甲田は構造に関する一回目の是正指示を被告丙川に伝えた。被告丙川は自分には理解できない構造の専門的な内容であったため、被告丁原に電話して上記是正指示に対応するよう指示した。被告丙川から静岡市建築指導課に対してもその旨伝えた。

被告丁原は、静岡市建築指導課を訪れた。甲田は、被告丁原に上記是正指示を口頭で伝えた。甲田は、本件建物の審査以前には、被告丁原に会ったことはない。その後、一週間以上たってから、是正書類が静岡市建築指導課に届けられた。

キ 甲田は、一回目の是正が行われた後、構造計算書の最終頁にあるはずの二次設計の判定表がないことに気づき、同年4月17日ころ、被告丁原に電話をした。電話に出たのは被告丁原本人ではなかったが、甲田は、判定表の追完を指示した。甲田は、構造計算書の最終項が抜けていた経験は過去になかったが、甲田は、製本の際に抜け落ちたなどの単純なミスであろうと考え、意図的な欠落であることは全く考えなかった。

被告丁原は、同月18日、判定表が記載された最終項を追完するために静岡市建築指導課を訪れた。甲田は、被告丁原の訪問時、会議の最中であったが、会議を中座して静岡市建築指導課のカウンター越しに被告丁原と対面した。甲田は、構造計算書を被告丁原に渡し、一旦会議に戻った。被告丁原は、最終項を構造計算書につけ加えた。被告丁原が追完した後、甲田は、再度会議を中座し、静岡市建築指導課のカウンターのところで構造計算書の内容を確認した。

被告丁原は、保有水平耐力比が法令の定める基準を満たしていることを示している「OK」と表示された判定表が記載された最終項のみを追完し、構造計算書その他の項の差し替えを行わなかったため、静岡市建築指導課に提出された構造計算書は法令の定める基準を満たしていない計算過程が記載された部分(97頁までの部分)と法令の定める基準を満たしているという結論が記載された部分(98頁)で構成されることとなった。したがって、計算過程(96、97頁)に記載されている本件建物の各階におけるX方向のフレームのせん断力、Y方向の壁せん断力の数値と最終頁(98頁)の判定表に記載されたこれらの数値は一致していない。

構造計算書は、一貫計算のソフトで作成されているところ、認定ソフトは3,4種類あり、すべてのソフトが二次設計を一貫計算している。

被告丁原の作成した構造計算書の最終頁とそれ以前の頁には、それぞれ利用者証明の利用者番号(被告丁原を示す番号)、構造プログラムのバージョン番号、工事名が記載されていたが、これらはすべて一致していた。甲田は、①利用者番号、②ソフトのバージョン番号、③頁数、④判定表部分の4つを確認したが96、97頁の数値と98頁の数値が一致しているかどうかの確認はしなかった。

甲田は、最終頁が抜けていたこと及びそれが追完されたことについて同僚や上司に報告しなかった。

ク 乙原は、本件建物の建築確認申請について決済し、同年5月13日、建築確認をした。乙原は、構造計算書の結論部分が当初欠落していたこと、その後追完されたことを知らなかった。

ケ 被告丙川は、同月19日、被告丁原から静岡市建築指導課に提出した最初の是正指示に係る検討表と構造計算書の最終項を渡されたが、そのまま受け取っただけで被告丁原に説明を求めることはなかったし、被告乙山に報告することもなかった。

被告乙山は、静岡市建築指導課からの是正指示について、意匠と設備の点では把握してたが、構造計算についての是正指示は把握しておらず、最終頁がなかったこと及びそれが追完されたことも知らなかった。

コ 原告は、同月13日、被告三井住友建設との間で、本件建物の建築工事請負契約を締結した。監理者は戊田設計であった。被告三井住友建設は、同月、本件建物の建設工事に着工した。

原告は、同月15日、住民説明会を開催し、近隣住民との間で協定書を締結することを基本的に合意した。

(3)杭頭接合部補強筋の本数
(省略)

(4)本件建物の耐震強度不足の発覚及びその後の対応

ア 国土交通省の報告書及び補強工事案の検討

(ア)国土交通省は、いわゆる姉歯事件等の一連の耐震強度不足問題の発生を受けて、耐震強度について全国で389棟のマンションを無作為に抽出して耐震調査を実施した。調査の対象として本件建物も選定された。

国土交通省は、平成19年2月23日、本件建物が耐震強度を満たしていないこと等を記載した報告書(甲80)を出した。この報告によれば、本件建物の保有水平耐力比は、X方向で0.62、Y方向で0.80であった(地震地域係数は1.2が採用されていた)。

被告静岡市は、同日、被告甲野に電話をし、国土交通省の報告書を渡した。その後、静岡市長は、同月26日、戊田設計に対し、建築基準法12条5項に基づき報告書の提出を求めた。

戊田設計は、被告丁原も含めて内部で検討し、同月28日、回答書(丙15)を提出した。

被告静岡市は、同年3月7日、原告に対し、本件建物の耐震強度が不足していることを連絡した。静岡市長は、同日、原告に対し、建築基準法12条5項に基づき構造計算書の提出を求めた。

原告は、直ちに、戊田設計に対し、被告静岡市から指摘があったことを連絡し、事実確認を行った。戊田設計は、同月20日、原告に対し、被告丁原が構造計算書の最終頁を追完しながらその最終頁が前提とする設計の変更について戊田設計に伝えるのを怠ったという説明をした。

同月20日付けの戊田設計の原告に対する報告書(甲6の1)には、「以上の顛末の主因は戊田設計事務所が、構造計算書を含む全ての設計成果図書について責任を持つ立場にありながらこれら業務を全うしていなかったことにあり、また、丁原梅夫構造研究所が行った構造設計における重大な作業ミスによるものであった。」と記載されており、被告甲野の署名押印がある。被告丁原も同様の内容の報告書(甲7)を原告に提出した。

(イ)原告は、被告三井住友建設に、在来工法による補強工事について相談した。被告三井住友建設は、これに対し見積(甲82)を提出した。同見積書によれば、在来工法による補強案の場合は4億7200万円、免振工法による場合には4億8850万円の費用がかかるとされていた。

原告は、被告三井住友建設の見積金額が高額であったため、竹中工務店に対し、本件建物の瑕疵の補強工事の可否及びその費用について検討を依頼した。

原告は、社内に本件建物の問題についての対策本部を設置した。

(ウ)原告は、同年4月1日、被告静岡市及び管理会社と共に、1回目の本件建物の住民に対する説明会を開催した。原告は、住民に対し、国土交通省から耐震強度が不足しているとの通知がきていること、補強工事の実施を検討する方針であることについて説明した。被告静岡市は、住民に対し、本件についての経緯及び被告静岡市としても耐震強度の再計算を実施していることを説明した。住民からは、マンションの買い取りを求める意見が出された。

原告は、同月11日、静岡市建築指導課を訪問し、住民への対応について意見交換をおこなった。

原告は、㈱エスアイエス建築事務所に対し、本件建物の構造計算を依頼した。㈱エスアイエス建築事務所は、同月18日、原告に対し、「保有水平耐力比が、静岡県指針に対してX方向:0.61、Y方向:0.84、建築基準法に対してX方向:0.73、Y方向:1.00」との報告をした。

同月23日付け毎日新聞(甲98)には、静岡市建築指導課の参事が「通常通りに確認をしたが、結果的に見逃したことになる。責任は逃げられない」と話した旨記載されている。

(エ)原告は2回目の住民説明会を開催し、住民に対し、補強工事の検討をしていること及び補強工事の方法について具体的になった段階で住民説明会を開くことを伝えたところ、住民からは、建て替え又は売買契約の解消による代金金額の返還を求めるなど、補強工事の実施に反対する意見が相次いだ。

(オ)原告は、同月26日、3回目の住民説明会を開催した。原告は、住民に対し、補強工事の理解を得るため、補強工事案をいくつか提案した。

住民は、補強工事の実施については理解を示さず、買い取り、建て替えを求める意見を出した。

(カ)被告静岡市は、同年5月8日付けで、原告に対し、本件建物は建築基準法に定める耐震性能が不足しているため、これを是正することを求める勧告を行った。

(キ)原告は、同月20日、4回目の住民説明会を開催した。原告は、住民に対し、補強工事案について理解を得るため、想定していた補強工事計画である外殻フレーム工法の概要について説明した。外殻フレーム工法は、日当たりが悪くなることもあり、住民からは批判する意見が出された。

 

イ 竹中工務店の補強工事についての意見書

(ア)竹中工務店は、原告に対し、同年6月18日、本件建物の設計の問題点と是正に関する意見書(甲29)を提出した。同意見書は新たに一次設計段階の瑕疵として、①杭頭接合部補強筋の不足、②鋼管コンクリート杭の強度不足、③支点引き抜き力の扱い、④柱梁接合部の耐力不足を指摘した。このうち、①以外の問題は、構造設計において「ボイドスラブの平均厚」を実際よりも23ミリメートル薄く算定し、また「仕上げ荷重」について、柱、梁仕上げ荷重を考慮せず、壁仕上げ荷重を過小評価したことから生じた問題である。

(イ)竹中工務店は、原告に対し、同月22日付けで補強工事の実施が困難であるとの意見書(甲79)を提出した。原告は、同意見書を踏まえて検討した結果、補強工事案に対しては以下の認識を持つに至った。

a 杭の増設による補強工事について

鋼管コンクリート杭の強度不足を補うために杭の増設をする方法がある。しかし、北側の杭増設のためには、隣接する明治安田生命の駐車場の土地を借りた上で、既存のブロック塀を撤去して復旧することが必要となる。また、補強工事を実施するためには北側に面するバルコニーを7階部分まで撤去しなければならず、このため住民の承諾が必要となる。また、東側の杭にについて補強工事を行うためには、ピット式駐車場を撤去する必要がある。上記杭の増設という方法による補強工事では、杭頭接合部補強筋不足の問題を解消することはできず、鋼管コンクリート杭の強度不足以外の瑕疵は是正されない。

b 杭頭接合部の補強工事について

杭頭接合部補強筋の不足及び鋼管コンクリート杭の強度不足を補うために杭頭接合部を補強する方法がある。しかし、同工事の実施のためには、フーチングと基礎梁の一部をはつり、杭頭接合部補強筋を追加する必要があるが、本件建物の敷地には重機が入り込めず、はつり工事が極めて困難である。

c 基礎部分を免震構造にする補強工事について

杭頭接合部補強筋の不足、鋼管コンクリート杭の強度不足、支点引き抜き力の扱い、柱の断面不足、大梁の断面不足及び杭梁接合部の耐力不足を補うために本件建物の基礎部分を免震構造にする方法がある。しかし、同工事の実施のためには、山留工事が必要であるが、北側の山留工事を行うためには隣接する明治安田生命の駐車場、田村アパートの土地を借りた上で、既存のブロック塀を撤去して復旧する必要がある。また、北側、西側、南側に面するバルコニーを8階部分まで撤去する必要があり、これは住民の承諾が必要となる。さらに、東側においてピット式駐車場の撤去も必要となる。上空に電線を有する歩道橋及び車道に重機を配置しての工事は困難なため、電線盛替えと道路管理者との調整が必要である。

d 中間階を免震構造にする補強工事について

鋼管コンクリート杭の強度不足、支点引き抜き力の扱い、柱の断面不足、大梁の断面不足及び杭梁接合部の耐力不足を補うために本件建物の中間階を免震構造にする方法がある。しかし、同工事は階段やエレベーターの納まりを考慮すると設計が著しく困難である。また、同工事では本件建物の基礎部分は補強されないため、杭頭接合部補強筋不足の問題は解消されない。

e 建物の階数を減らす補強工事について

杭頭接合部補強筋の不足、鋼管コンクリート杭の強度不足、支点引き抜き力の扱い、柱の断面不足、大梁の断面不足を補うために本件建物の階数を減らす方法がある。しかし、本件建物は、大型重機を用いた解体ができないし、階数を減らすことについて住民の承諾が必要となる。

f 外殻フレーム工法による補強工事について

保有水平耐力比を1.0以上に回復させるために外殻フレーム用鋼管杭により水平力を負担させる方法がある。しかし、同工事では杭頭部の水平力、鋼管杭中央部の耐力、柱・梁の耐力不足等を補うことはできない。また、外殻フレーム工法には、以下の二つの問題があり、住民に迷惑をかけるため承諾を得ることが非常に困難であり、別途リフォーム等の多額の費用が発生する可能性がある。

①外殻フレーム工法により新設される東西側の柱(4本)及び北東の角に新設される柱(1本)が住居専用部分に影響を与え、本件建物東側1階の駐車場が4台分欠如し、2~10階までのDタイプにおいて、キッチン部分と南西角の洋室のレイアウト変更が必要になる。

②居室内の柱(東西側の柱4本を除く)6本と、各住居の間仕切壁の耐力不足を外殻フレーム工法だけで補うことはできず、さらに1~5階までの柱(6本)及び1~4階までの各住居の間仕切壁に炭素繊維補強工事を施す必要がある。

ウ 買取方針の決定

原告は、同年7月6日、5回目の住民説明会を開催した。原告は、住民に対し、本件建物について補強工事ができないこと及び買取の方針について説明した。

原告は、同月10日付けで、被告静岡市からの是正指導にたいし、本件建物の住民から全戸買い取りを行い、取り壊す方針を報告した。

原告の取締役会は、同年8月3日、国土交通省の指摘と竹中工務店による検討内容を踏まえ、補強工事は不可能であると決定した。

エ 原告による被告丁原の保険金請求権に対する質権の設定等

(省略)

オ 本件訴訟の提起等

(ア)原告は、同年10月4日、丁田に対し、本件建物の杭頭接合部の構造計算を依頼した。丁田は、同年1月5か付けで、杭頭接合部補強筋についての意見書(甲32)を提出した。同意見書には、「本マンションの杭頭接合部補強筋の妥当だと思われる本数は、最低でも41本(鉄筋径25mm)は必要であり、このことは改めて杭接合部の検討を行えば、明白のことである。当初設計された、杭頭補強筋14本(25mm)は、杭自体の直径:1500mmから鑑みても、あまりにも少ないものだと判断できる。」などと記載っされている。

(イ)同年12月10日付けで、甲野は6か月、丁原は1か月の業務停止処分を受けた。

(ウ)原告は、同月25日、第一事件につき訴えを提起した。

(エ)原告は、平成20年2月12日、被告静岡市に対し、本件建物の取り壊し施工計画書を提出した。被告静岡市は、同月15日付けの書面(甲37)で、本件建物の解体工事について、是正計画として適当であることを認めた。

(オ)原告は、同年5月3日、第2事件につき訴えを提起した。

(カ)原告は、戊田設計に対し、損害賠償金の支払いを求め、戊田設計が静岡鉄道㈱に対して有していた債権を譲り受けて2325万7500円を受領した。また、戊田設計は本件訴訟継続中に破産手続きを申し立てた。原告は、配当金とした87万187円を受領した。

(キ)原告は、住民から各室及びその敷地持ち分の所有権を買い取り、同年10月31日に本件建物の解体を完了した。

二(1)建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者は、建物の建築にあたり、契約関係にない建物利用者や隣人、通行人等(以下「居住者等」という。)に対する関係であっても、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることのないように配慮すべき注意義務を負い、これを怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合は、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなどの特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負う(最高裁平成19年7月6日民集61巻5号1769頁)

この理は、施主と契約関係にある設計・施工者等にも妥当するのみならず、施主と契約関係にある設計・施工者等の履行補助者ないし履行代行者たる地位にある設計・施工者にも妥当するものと解することができる。

以下、この観点に基づき、被告らの不法行為責任の有無について検討する。

 

(2)ア 被告丁原が不法行為責任を負うか否かについて、以下検討する。

イ 被告丁原は、一次設計において杭頭接合部補強筋の本数を計算してはおらず(一(4)ア(エ))、また、二次設計において保有水平耐力比1.0という法令の基準を充たす構造計算を完了させていないにもかかわらず、保有水平耐力比が法令の定める基準を満たしていないことを示している判定表の記載された最終項を抜いた構造計算書及び一次設計のみ終了した段階で作成された構造図を戊田設計に提出し(一(2)エ)、その際もその後も戊田設計や被告静岡市にそのことを申し出ることなく放置し、本件申請について構造設計の審査を担当していた甲田から構造計算書の最終頁の追完を求められた際にも、保有水平耐力比が法令の定める基準を満たしていることを示している判定表の記載された構造計算書の最終頁のみを追完し、従前提出してあった法令の基準を満たさないこととなる計算過程が記載された構造計算書をそのままにし、構造図を差し替えることもしなかったのであり(一(2)キ、ケ)、そのため、一次設計のみ終了した段階で作成された構造図に基づいて作成された施工図により建築された本件建物が法令上必要とされる保有水平耐力を有さず(一(4)ア(ウ))、また、杭頭接合部の応力度も不十分なものとなって(一(4)イ(ア))、被告静岡市から是正勧告を受け(一(4)ア(カ))、結局、取り壊さざるを得ない結果となったのであるから(一(4)オ(キ))、本件建物に建物としての基本的な安全性がかけることがないように配慮すべき注意義務に違反したというほかない。

なお、<証拠略>によれば、被告丁原が作成した構造計算書では、地震地域係数を法令(建設省告示)によって定められた1.0ではなく、静岡県建築指導課の指導する1.2としていることが認められる。上記認定(一(2)オ)のとおり、地震地域係数を1.2倍した場合、計算の結果算出される必要保有水平耐力も1.2倍になるため、最終的に保有水平耐力比の値を1.0以上とするためには、当該建物の保有水平耐力について、法令上の定める場合と比較して1.2倍の数値を確保しなければならないことになる。したがって、被告丁原が作成した構造計算書の保有水平耐力比の値が1.0未満であったことにより、直ちに法令の基準を充たさないことになるわけではないが、本件建物は地震地域係数を法令によって定められた1.0として計算しても、X方向で0.73、Y方向で1.00となり(一(4)ア(ウ))、法令の定める基準を充たしていないのであるから、本件建物は法令によって定められた保有水平耐力を有していないものである。

ウ(ア)被告丁原らは、被告丁原研究所が戊田設計に提出した構造計算書及び構造図が法令の基準を満たしたものでないことを伝えなかったのは、後に意匠の変更があると考えており、その際に修正する予定であったからであると主張するが、被告丁原は甲田から構造計算書の最及び構造図終項をの追完を求められた際にも、最終項を追完しただけで構造計算書及び構造図を修正していないのだから、上記主張は採用することはできない。

また、被告丁原らは、戊田設計及び静岡市が構造計算書及び構造図をチェックして不備を発見しなかったことは、被告丁原にとって予見できないことであった旨主張するが、本件建物が基本的な安全性を欠くに至った原因が被告丁原の上記行為にあることは明らかであり、戊田設計及び静岡市が構造計算書及び構造図の不備を発見できなかったことによって、被告丁原の過失や被告丁原の上記行為と原告に生じた損害との間の因果関係が否定されるものではない。

(イ)a 被告丁原らは、杭頭接合部の基礎へののみ込み量を10センチメートル程度に抑えたため杭頭接合部は固定ではなく、また、杭は「短い杭」であり杭先端条件は固定又は「半剛接合」であったことから、杭頭接合部補強筋の本数は適切である旨主張する。

b ところで、原告は、被告丁原らの上記主張は、時機に遅れて提出された攻撃防御方法に該当するもので却下されるものであると主張する。

しかし、被告丁原らの上記主張は、原告の平成21年2月17日付け原告第10準備書面(同月20日第6回弁論準備手続きにおいて陳述)に対して、被告丁原らが同年12月18日付け準備書面(2)でしたものであり、原告の主張から約10か月後ではあるものの、被告丁原らの上記主張が提出された時点では本件訴訟は争点整理の中間的な段階であり、上記主張は構造設計の専門的な事項についてのものであって被告丁原らにおいても主張の検討に時間を要したと考えられるから、被告丁原らが故意又は重大な過失により時機に遅れて上記主張を提出したということはできない。

c そこで、被告丁原らの上記主張について検討する。

上記認定事項によると、昭和53年宮城県沖地震で杭頭部の被害が多数発生し、10センチメートル程度の埋め込みでは固定に近いことが判明し、昭和59年に発出された本件通達には「杭頭の固定度は特別の調査実験等によって求めるものとする。固定度が確認されていない場合は、原則として固定として計算する。」との記載があるのであるから(一(3)ア(イ))、杭頭接合部ののみ込み量が10センチメートル程度である場合は、原則として固定で計算し、固定として計算しない場合は特別の調査実験等で固定度を確認する必要があるというべきであるが、被告丁原がかかる調査実験等を行ったことを認めるに足りる証拠はない。

また、被告丁原は杭を「短い杭」として梁に関する理論を適用して杭頭接合部の曲げモーメントの大きさを計算しているが、証拠(甲89)によれば、杭頭部と杭先端の水平変位が異なること、地盤が弾性である場合には杭がある程度長くなると杭底部の影響を受けなくなることなど梁と異なる点があることが認められるから、杭について両端支持の梁に関する理論を適用することはできないと解される。

d 本件建物においては、杭頭接合部補強筋として直径25ミリメートルの鉄筋が14本使用されているところ、証拠(甲29、32、89)によれば、本件建物については、杭頭接合部補強筋は、直径25ミリメートルの鉄筋で少なくとも41本必要であることが認められる。

e そうすると、本件建物における杭頭補強筋の本数は不足していることが明らかであるから、被告丁原の上記主張は、採用できない。

エ 以上によると、被告丁原は、原告に対し、上記行為よって生じた損害について、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

オ また、旧民法44条1項は「法人は理事その他の代理人がその職務を行うにつき他人に加えたる損害を賠償する責めに任ず」と定めており、これは有限会社にも準用されるところ(有限会社法32条、旧商法78条2項)、被告丁原は、上記行為をした当時、被告丁原研究所の取締役であったのであるから(一(1)イ)、被告丁原研究所も被告丁原と連帯して責任を負うものである。

(3)ア被告丙川及び被告乙山が不法行為責任を負うか否かについて、以下検討する。

イ 被告乙山及び被告丙川は、いずれも戊田設計事務所所属の一級建築士であるところ(一(1)ア、一(2)ア)、被告乙山は、本件建物の担当取締役として本件建物にかかわる業務を統括し、被告丙川は、本件建物の意匠設計のチーフとして本件建物の設計業務を中心となって担当したが(一(2)ア)、被告丁原から提出された構造計算書の最終頁が欠落していることに気付かないまま、被告静岡市に対してそのまま提出して本件申請をし(一(2)エ)、その後も被告静岡市から是正指示があった際も被告丁原に直接対応させ、是正が正しくされたかどうか確認しようともしていないのであるから(一(2)カ、ケ)、被告乙山及び被告丙川は本件建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務に違反したものと認められる。確かに、意匠設計と構造設計は高度に専門化し、建築士は、意匠を専門とする建築士と構造を専門とする建築士に分かれ、設計業務全般を施主から請け負った建築士事務所が構造設計についてだけそれを専門とする他の建築士事務所に依頼することは建築業界において通常みられる事態であるが(一(1)ウ)、戊田設計は、構造設計も含めて原告から本件建物の設計を請け負ったのであり(一(2)ア)、原告に対し、構造設計も含めて本件建物の基本的な安全性を確保すべき義務を負う立場にあったところ、杭頭補強筋の本数の不足に気付かなかったことは意匠設計を専門とする建築士であったことからやむをえないとしても、意匠設計を専門とする建築士であっても二次設計が保有水平耐力が法令によって定められた基準を満たすか否かを確認するためのものであり、最終頁にある結論部分を形式的にチェックすることもなく建築確認申請をすることは上記注意義務に違反するというべきである。

ウ そして、被告乙山及び被告丙川が被告丁原研究所から提出された構造計算書の結論部分を形式的にチェック(結論部分があるか、結論はOKかNGかというチェック)さえしていれば、結論部分が欠落していることに気づき、被告丁原に説明を求めて構造計算書及び構造図の瑕疵を是正させることができたのである(一(2)エ)。また、後日被告丁原から構造計算書の最終頁の交付を受けた時点で、最終項の追完という頻繁にあるとは通常考え難い事態が発生したのであるから、追完された最終項とその直前2頁との連続性について、最終貢に記載されているX方向のフレームせん断耐力、Y方向の壁せん断耐力の数値とその直前2貢の計算過程に記載されている同数値との形式的な照合をしていれば、追完された最終頁の結論としてそれ以前の貢の計算が整合していないことを容易に発見することができ(一(2)キ、ケ)、被告丁原に説明を求めて構造計算書及び構造図の瑕疵を是正することができたものである。

そうすると、被告乙山及び被告丙川が、本件建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務に違反し、被告丁原から提出された構造計算書の最終頁の確認及び最終項が追完された際の連続性の確認という形式的なチェックを怠ったことにより、法令の基準に照らして耐震強度の不足する本件建物が建築され、本件建物について被告静岡市から是正勧告がされて解体されるに至ったのであるから(一(4)ア(カ)、オ(エ)、(キ))、被告乙山及び被告丙川の上記行為と解体によって原告に生じた損害について、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

(4)ア被告甲野及び被告乙山が旧商法266条の三第1項に基づく責任を負うか否かについて、以下検討する(被告乙山については不法行為に基づく損害賠償責任が認められることは上記の通りであるが、念のため、旧商法266条の三第1項に基づく責任についても検討する。)。

イ 取締役の任務懈怠により損害をうけた第三者は、その任務懈怠につき取締役の悪意又は重大な過失を主張・立証すれば、旧商法266条の三の規定により、取締役に対し損害賠償を求めることができる(最高裁昭和44年11月26日、民集23巻11号2150貢)。

ウ(ア)戊田設計は、原告から構造設計を含めた設計業務全般を請け負ったのであるから(一(2)ア)、仮に構造設計の結果である構造計算書や構造図に瑕疵があり、法令の定める基準を満たさない建築物が建築された場合は、原告に対して債務不履行責任として多額の損害賠償責任を負うべき立場にあったものである。そうすると、戊田設計の代表取締役であった被告甲野及び被告乙山としては(一(1)ア)、戊田設計がかかる責任を負うことを回避するために、構造設計の外部委託先から提出された構造計算書の結論部分の形式的なチェック(結論)においてOKなのかNGなのかのチェック)など構造設計の専門家ではなくとも容易にチェックできる点についてはチェックする体制を構築するなどして、戊田設計について損害賠償責任が発生しないよう一定の措置を講ずる義務があるというべきである。

しかし、戊田設計は、被告丁原を全面的に信頼して、被告丁原研究所から提出される構造計算書の結論部分について形式的なチェックをしたり、形式面や提出の経緯にかかわる疑問点についてこれを解消するに足りる説明を求めたりする体制を全くとっていなかったのであるから(一(1)ウ)、代表取締役であった被告甲野及び被告乙山には戊田設計に対する任務懈怠があり、かかる任務懈怠は、上記体制の構築が容易なものであること、損害賠償責任を負う場合には損害額が多額に及ぶ危険があることを考慮すると、重過失に当たるというべきである。

(イ)そして、戊田設計が、被告丁原研究所から提出された構造計算書の結論部分を形式的にチェックさえしていれば、結論部分が欠落していることに気づき、被告丁原に説明を求めて構造計算書及び構造図の瑕疵を是正させることができたものである(一(2)エ)。また、後日被告丁原から構造計算書の最終頁の交付を受けた時点で、最終項の追完という頻繁にあるとは通常考え難い事態が発生したのであるから、追完された最終頁とその直前の貢との連続性について、最終頁に記載されているX方向のフレームせん断耐力、Y方向の壁せん断耐力の数値とその直前2貢の計算過程に記載されている同数値との形式的照合をしていれば、追完された最終頁の結論とそれ以前の貢の計算が整合していないことを容易に発見することができ(一(2)キ、ケ)、被告丁原に説明を求めて構造計算書及び構造図の瑕疵を是正することができたものである。

そうすると、被告甲野及び被告乙山の上記任務懈怠により、法令の定める基準に照らして耐震強度の不足する本件建物が建築され、本件建物について被告静岡市から是正勧告がされて解体されるに至ったのであるから(一(4)ア(カ)、オ(エ)、(キ))、被告甲野及び被告乙山の上記任務懈怠と解体によって原告に生じた損害との間に相当因果関係が認められる。

エ(ア)被告甲野及び被告乙山は、意匠を専門とする建築士は構造計算に関しては基礎的な知識しか有さず、それだけでは、現在の高度に専門化した構造計算の細部を判断することは困難であり、意匠を専門とする建築士が、構造計算書の内容や構造計算書と構造図の整合性を殊更にチェックすることはない旨主張する。

しかし、戊田設計は、原告から本件建物関する構造設計を含めた全ての設計業務を受注して報酬を受け取り、元請設計事務所としての利益を得ているのであるから、被告丁原研究所から提出された構造計算書の結論部分につき形式的なチェックをしたり、形式面や提出の経緯にかかわる作業は構造設計の基礎的な知識があれば十分可能である。

(イ)また、被告甲野及び被告乙山は、意匠設計事務所が外部の構造設計事務所に構造設計を依頼することは建築業界では常識に属する事柄であり、戊田設計のパンフレットとうにも「協力事務所」として被告丁原研究所が構造設計事務所として記載されているのであるから、原告は構造計算業務が下請けに出されることを知っていた旨主張する。

しかし、被告甲野及び被告乙山の上記任務懈怠による責任は、原告が構造計算について被告丁原研究所に委託されることを知っていたかどうかに係るものでないから、被告甲野及び被告が乙山の上記主張は採用することはできない。

オ なお、被告丁原が杭頭補強筋の本数について計算しておらず、結果的にこれが不足していた点については、構造設計が高度に専門化し、意匠設計との分業が進んでいることを考慮すると、被告甲野及び被告乙山において杭頭補強筋の不足を見逃さない体制を構築していなかったとしてもやむをえないから、被告甲野及び被告乙山に任務懈怠があったとは認められない。

カ したがって、被告甲野及び被告乙山は、原告に対し、保有水平耐力が法令の基準を満たさない建物が建築されたことにつて旧商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任を負う。

 

(5)ア被告静岡市が国家賠償法上の損害賠償責任を負うか否かについて、以下検討する。

イ 建築確認において国家賠償法上保護される利益について

(ア)被告静岡市は、建築確認の制度は当該建物にかかわる建築主の財産権を保護するものではないから、建築主に対しては、国家賠償法上の違法を構築することはないと主張する。

(イ)建築主がどのような建築物を建築するかは、原則として自由であるが、建築物の構造が脆弱であると、その建築物は、地震等の際に倒壊するなどして、その建築物内にいる者、その近隣に居住する者、通行人などの利益を侵害する危険性を帯びることとなる。そこで、建築基準法は、構造耐力に関する技術基準等を定めた規定に違反する建築物が出現することを未然に防止し、もって、建物利用者等の生命、身体又は財産を危険にさらすことのないよう安全性を確保させる趣旨で、建築物の構造耐力が所定の基準に適合することを求め(同法20条)、建築主事又は指定確認検査機関が行う確認審査を受け、確認済証の交付を受けなければ、当該建物の工事に着手することができないものと定めている(同法6条、6条の2)。また、法や建築基準関係規定に違反した場合には、建築確認の有無を問わず、その除去等の必要な措置が命ぜられることがあり、これに従わなければ行政代執行をされることもある(同法9条)。

上記趣旨に照らせば、建築確認の制度は、建築主や建築業者の建築物に対する所有権保護を目的として制定されたものではなく、また、建築確認が建築主に対し当該建物の安全性を保証するものでないこともあきらかである。

しかし、建築基準法が、脆弱な建築物が建築されて、これが地震等の際に倒壊するなどして、関係者に被害が発生することを防ぐ趣旨で制定され、また、同法1条が「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民生活生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。」と規定していて、保護の対象者を限定する趣旨はうかがわれず、さらに、建築主や建築業者にとっては、確認審査を受け、確認済証の交付を受けなければ、当該建物の工事に着手することができないという負担を負うことに照らすと、建築主や建築業者の当該建物に関する財産的利益が保護の対象から全く除外されているものと解することは困難である。

(ウ)したがって、被告静岡市の上記主張は採用することができない。

ウ 建築主事の審査について

(ア)本件申請当時、建築主事は、建築基準法6条1項の申請書を受理した場合において、同項1号から3号までに係るものにあってはその受理した日から21日以内に、申請に係る建築物の計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを審査し、審査の結果、建築基準関係規定に適合することを確認したときは、当該申請者に確認済証を交付しなければならないものと定められていた(同法6条4項)。

また、建築主事が審査の基準とする法律は、建築基準法、建築基準法施行令、建築基準法4条1項の人口25万人以上の市を指定する政令、建築基準法施行規則、建築基準法に基づく指定資格検査機関等に関する省令、これらの政令・省令の委任を受けた告示などのほか、建築基準法施行令9条1号から15号までに規定されている消防法、屋外広告物法、港湾法、高圧ガス保安法、ガス事業法、駐車場法、水道法、下水道法、宅地造成等規制法、流通業務市街地の整備に関する法律、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律、都市計画法、特定空港周辺航空騒音対策特別措置法、自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律、浄化槽法などであり、多岐に及んでいた。

そうすると、建築確認審査は、そもそも、当該建築計画を建築基準関係規定に当てはめ、その要件充足の有無を判断するという裁量性の乏しいものであるところ、審査事項が上記の通り多岐にわたり、かつ、審査期間も制約されていることからすると、建築基準法は、建築主事に対し、すべての申請書類を工学的知見を持って厳密に逐一審査することまでは求めていないものというべきである。建築主事の審査は、建築基準関係規定に基づき建築確認申請に添付された図書及び同規定によって定められた事項が対象となるのであって、審査の対象とならない留意事項や推奨事項等は、設計者の判断に委ねられているものというべきである。

(イ)建築士法は、建築士の免許及びその取消し、懲戒、業務等について定める(同法4条、9条、10条、18条等)とともに、建築士にしか設計と工事監理が行えない建築物を定めている(同法3条ないし3条の3)。また、建築基準法は、建築物のうち構造が複雑であったり、大規模であったりするものについては、建築士の資格を有する者が設計し、工事監理者とならなければならず(同法5条の4)、建築確認申請にしても、建築士の作成した設計図書を申請書に添付させるものとし、その要件を欠く建築確認申請は受理することができないものと定めている(同法6条3)。

そうすると、建築確認制度は、建築専門家である建築士の技術的能力、責任感に対する信頼を前提として構築されているものということができる。

(ウ)以上によれば、建築主事は、建築基準関係規定に基づき建築確認申請に添付される図書及び同規定によって定められた事項を対象として、当該建築計画を建築基準関係規定に当てはめ、その要件充足の有無を審査、判断するものであり、その資料として提出される建築士作成の設計図書等につては、建築士の技術的能力、責任感に対する信頼を前提として審査すれば足りるということができる。

エ 本件においては、上記認定のとおり、本件建物の建築確認審査において構造設計を担当した甲田は、構造計算書の二次設計の結論部分に当たる判定表が記載された最終貢(98貢)が抜けていることに気づき、被告丁原に追完を指示し、後日被告丁原が構造計算書全体ではなく最終頁(98貢)のみを持参して追完した際、製本の際に抜け落ちるなどの単純なミスと考え、最終頁(98貢)とその前貢との連続性について単に利用者番号、ソフトのバージョン番号、貢数を確認したのみで、96貢、97貢に記載されていた本件建物の各階におけるX方向のフレームせん断力、Y方向の壁せん断耐力の数値と追完された最終頁(98貢)に記載されている同数値が一致していることを確認しなかったものである(一(2)キ)。

上記の通り、建築基準法は、建築主事に対し、すべての申請書類を工学的知見をもって厳密に逐一審査するまで求めているものではないが、保有水平耐力比が法令の定める基準を満たしているかどうかについて、二次設計の結論部分をみて、判定表で「OK」と記載されていることを確認することは最低限必要なことといえる。そして、本件建物に対する建築確認において構造設計を担当した甲田は、一級建築士であり、構造設計の専門家であるから、上記結論部分の確認を求めることは何ら無理な要求となるものではない。甲田は、肝心な構造計算書の最終頁の欠落していることに気づき、追完を求めたのであるから、結論部分の記載された最終頁が追完された際に、すでに提出された計算過程の部分と追完された最終頁が連続したものであることを慎重に確認すべきであったにもかかわらず、96貢、97貢に記載されていた本件建物の各階におけるXフレームせん断力、Y方向の壁せん断耐力の数値と追完された最終頁(98貢)に記載されている同数値が一致することを確認しないまま被告丁原の追完を受け入れ、計算過程と結論部分の齟齬する構造計算書に基づいて確認審査をし、その結果、保有水平耐力が法令の定める基準を満たしていない本件建物について建築主事である乙原において確認済証を交付するに至ったのである(一(2)ク)。

建築主事が建築確認の審査、判断の資料として提出される建築士作成の設計図書等について建築士の技術的能力、責任感に対する信頼を前提として審査すれば足りることは上記の通りであるが、当初提出された構造計算書には二次設計の結論部分である保有水平耐力が法令の定める基準を満たしているか否かの判定結果(OK又はNG)の記載された最終貢が欠落しているという頻繁にあるとは通常考え難い事態が生じたのであるから、追完の連続等を確認するだけでなく、96貢ないし97貢の数値と追完された98貢の判定表の数値が一致していることを確認することは容易なことであるから、せめてそこまでの確認はすべきである。

したがって、甲田及び甲田を補助者として建築確認をした乙原は、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と提出済みの構造計算書の計算過程と整合しない結論部分が記載された最終頁の追完を許したものであり、国家賠償法1条1項にいう違法があったといわなければならない。

また、一級建築士であり、構造の専門家である甲田には、自ら追完を求めた構造計算書の最終貢とすでに提出された構造計算書との連続性を確認することを怠った過失があり、この過失は乙原の過失としても評価できるものであ。被告静岡市は、最終頁が追完された際に、貢数が連続していること、マンション名が一致していること、構造計算プログラムが同一であることを確認したのであるから、過失はない旨主張するが、保有水平耐力比が法令の定める基準を満たしいるか否かという肝心な結論部分が記載された最終頁欠落するという頻繁にあるとは通常考え難い事態が発生したのであり、また、最終頁の重要性にかんがみても、単に貢数の連続やマンション名、プログラムの同一性だけを確認するのではなく、容易に比較できる数値の連続性まで確認すべきであったというべきであるから、被告静岡市の主張は採用することはできない。

オ これに対し、杭頭接合部の設計本体については、地震が来た時に、杭にかかった力を杭と柱を接合した上で建造物が地震に対して耐えられるようにするという設計の考え方(杭頭固定)と、杭にかかった力が基礎を通じて建物本体になるべく伝わらないようにするという設計の考え方(ピン接合)の二つの考え方があり、さらに、その中間の考え方(半固定杭、半剛接合)があるところ、杭頭接合部補強筋の本数計算については本件申請当時法令の基準が定められていなかったことからすれば、杭頭接合部のモデル化や計算は設計者に委ねられており、建築主事の審査対象になっていなかったというべきである。

原告は、杭頭接合部が建築基準法施行令82条にいう「構造耐力上主要な部分」に該当し、杭頭接合部補強筋の本数についても建築確認審査の対象となると主張するが、杭頭接合部補強筋については建築基準関係規定においては基準が定められていないのであるから、建築確認審査の対象になりえず、原告の主張は採用することはできない。

よって、建築主事において杭頭接合部補強筋の本数について審査を行うべき義務は存しなかったものである。

カ 以上によると、被告静岡市は、原告に対し、甲田及び乙原の上記行為によって生じた損害について、国家賠償法上の損害賠償責任を負う。

キ 被告静岡市は、建築主である原告は、本件申請上の代理人である戊田設計やその履行補助者である被告丁原研究所のした行為の効果帰属主体として、被告静岡市との関係においては、虚偽の構造計算書を含む建築確認申請書を提出して、建築基準関係規定に適合しない建築確認を得たものであるから、原告が、被告静岡市に対して損害賠償請求することは信義則に反すると主張する。

しかし、建築基準法が建築主の当該建築物に関する財産的利益も保護の対象としていることは上記の通りであり、建築確認申請については建築士の作成した設計図書を申請書に添付しなければならないところ、設計図書は高度に専門的なないようであり、建築主としては建築確認申請を専門の建築士に委ねざるを得ない状況にあることに照らすと、建築主が依頼した建築士に過失があるからといって、建築主事が属する地方公共団体に対する損害賠償請求が直ちに信義則に反するとまで解することはできない。

もっとも、本件申請については、上記の通り、施主である原告を代理して確認申請をした戊田設計の被告乙山及び被告丙川ならびに戊田設計の履行補助者ないし履行代行者である被告丁原に過失があるのであるから、職権で過失相殺するのが相当であるところ、本件事案の内容、性質等、特に原告(なお、原告には一級建築士が所属している。)としては所定の国家資格を有する建築士が所属するとして正規に登録された建築士事務所に設計業務を委託していること、建築確認の制度が確認申請をする建築士に対する信頼を前提として成り立っていること、被告丁原の過失の程度に鑑みると、原告に三割の過失があると認めるのが相当である。

(6)ア被告三井住友建設が不法行為若しくは使用者責任を負うか否か(省略)

三(1)原告の被告東京海上日動に対する保険金請求について(省略)

四(1)損害の発生及びその額並びに損害賠償債務が被告丁原、被告丁原研究所、被告丙川、被告乙山、被告甲野、被告静岡市の連帯債務となるか否かについて以下検討する。

(2)上記事実認定によると、原告は、補強工事案として①杭の増設②杭頭接合部の補強③基礎免振④中間階免振⑤階数低減⑥外殻フレーム用鋼管杭による水平力の負担について検討したが、上記補強工事には以下のような問題があり、住民はそのほとんどが補強工事を進めることに否定的であり、容易に住民の理解を得られる状況ではなかった。

(途中略)

(3)そうすると、本件建物の補強工事は社会通念上困難なものであり、本件建物を解体することもやむをえないものである。上記の通り被告丁原、及び被告丁原研究所は保有水平耐力の不足、杭頭接合部補強筋の不足について、被告丙川、被告乙山、被告甲野、被告静岡市は保有水平耐力の不足について責めを負うべきところ、保有水平耐力の不足及び杭頭接合部の補強筋はいずれも本件建物の構造耐力に係る問題であるから、上記被告らはいずれも本件建物の解体に係る損害について賠償責任を負うものである。

(4)上記保有水平耐力の不足及び杭頭接合部の補強筋の不足を生じせしめた被告丁原、被告丁原研究所、被告丙川、被告乙山、被告甲野、被告静岡市の各行為と相当因果関係を有する原告の損害は以下のとおりであると認められる。

ア本件建物の住民からの買い取り費用

10億885万5147円

イ固定資産税

166万9435円

ウ解体費

5880万円

エ登記費用

89万9900円

オ引っ越し費用

1523万6139円

トランクルーム費

82万3570円

引っ越し支度金

360万円

家賃

1603万526円

敷金礼金仲介料

1044万6157円

近隣対策費

105万円

構造計算等の費用

379万8000円

対策業務費367万5000円

電波障害対策費

171万1500円

不動産取得税

166万100円

その他経費

(省略)

(5)ア損益相殺(省略)

イ 過失相殺

上記のとおり被告静岡市との関係では三割の過失相殺をするのが相当である。そうすると、原告が被告静岡市に請求できる金額は、6億1072万4461円となり、被告静岡市は上記金額の限度で被告丁原、被告丁原研究所、被告丙川、被告乙山及び被告甲野と連帯して損害賠償債務を負担することになる。

ウ 弁護士費用

本件事案の内容、認容額に照らすと、被告丁原、被告丁原研究所、被告丙川、被告乙山及び被告甲野に対する関係では8700万円、被告静岡市に対する関係では6100万円が相当と認められる。

(6)したがって、原告には、被告丁原、被告丁原研究所、被告丙川、被告乙山及び被告甲野に対し9億5946万3515円、被告静岡市に6億7172万4461円の損害賠償請求が認められる。

(7)法令の定める基準を満たさない保有水平耐力しか有さない本件建物が建築される原因になった被告丁原の行為、被告丙川、被告乙山の行為、被告乙山及び被告甲野の任務懈怠及び被告静岡市の行為と原告の損害との間にはいずれも因果関係を肯定することができるところ、上記被告らは客観的に見て一体ないし不可分の損害を原告に与えたといえるから、上記被告らは民法719条1項前段の共同不法行為者として連帯債務を負担する。また、被告丁原研究所は、被告丁原と連帯して損害賠償債務を負担するものである。

そうすると、被告丁原、被告丁原研究所、被告丙川、被告乙山及び被告甲野、被告静岡市は、連帯債務を負担することになる。

五 結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告三井住友建設及び被告東京海上日動にたいする請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、被告丁原、被告丁原研究所、被告丙川、被告乙山及び被告甲野、被告静岡市に対する請求は主文の限度で理由がある。