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平成25年(ワ)第39号 不当利得等返還請求事件

原告   店舗組合員13名

被告  SDマンション管理組合法人

第 10 準 備 書 面 (最終)

平成28年1月13日

東京地方裁判所民事第32部合議B係 御中

 

原告ら訴訟代理人

弁護士

 

原告らは,平成27年10月28日施行の尋問結果を踏まえ,以下のとおり主張を総括する。

 

第1  本件の主たる争点

1 本件の主たる争点は,本件マンションの管理費・修繕積立金について,建物の区分所有等に関する法律(以下,「区分所有法」という。)19条にいう「別段の定め」があるか否かであり,これを大別すると,

⑴ 建物の区分所有等に関する法律(以下,「区分所有法」という。)19条の「別段の定め」として,管理規約27条2項及び別表4(原告ら店舗区分所有者に対し住戸区分所有者に比して約2.45倍の負担を課す旨)を設定しようとする平成23年11月6日付け総会決議(以下,「23年決議」という。)が有効に成立したか(以下「争点⑴」という。),

⑵ 23年決議以前の管理規約に「別段の定め」があったか否か(以下「争点⑵」という。),

である(なお,原告らは,被告が平成18年及び平成20年の総会決議によっても「別段の定め」がなされたかの如く主張するようであるので,これに対し,上記各決議の無効確認も求めている。)。

2 そして,上記争点について判断するにあたっては,原告らがすでに第4準備書面で指摘した諸々の争点をも考慮されなければならない。

なお,本件マンションが複合用途型か否かについても,一応争点とはなっているが,乙60あるいは被告本人尋問の結果を踏まえると,この点について格別に検討を加えたり,本件マンションを複合用途型に見立てて議論したりすることは必要ではない。その理由は後述する。以下争点(2)から詳論し,争点(1)は手続面と実体面を分けて論述する。

 

 

第2 争点⑵について

1 本件において平成23年以前の管理規約として問題になるものは,①原始規約と主張されている乙6,②平成13年ころに制定されたと主張されている甲2,及び,③平成18年に総会決議により設定された乙16である。

⑴ まず,乙6は,第13条1項で,「各区分所有者は、『第5条の各区分建物の持分割合』に応じたタイプ別管理費(管理者の受ける報酬をも含む)、第12条第2項の変更費用等共用部分に係わる一切の費用を負担するものとする。」,第5条1項で,「・・・各区分所有者の共用部分に対する共有持分は,建物の専有部分の総床面積に対し,各区分所有者が有する区分建物の専有床面積の割合を10,000分比に換算したものである。」と定めている。

そして,被告は,「タイプ別管理費」が「別段の定め」として管理費・修繕積立金の格差負担を規定したものである旨主張する。

しかしながら,「タイプ別管理費」とは,本件マンションにAからZまでの部屋タイプがあるところ,タイプが同じであれば,管理費・修繕積立金が同額であるという趣旨である(O証人尋問調書3ページ以下)。すなわち,本件マンションは「広さとか間取りにより」タイプが分かれている。そのうち例えばAタイプは,「いずれも東南の角部屋」に位置し,専有面積も間取りも同一であるものの,階層に違いがあり(3階から9階まで),高層階ほど資産価値及び分譲価格が高く,エレベーターや揚水ポンプの消費電力等の経費も多くかかるものの,そのことによって管理費・修繕積立金の額に格差を設けることはせず,同じAタイプとして同一の管理費・修繕積立金とするという意味である(O証人尋問調書5,16ページ)。

したがって,「タイプ別管理費」があたかも住戸と店舗の負担格差を規定したかのように述べる被告の主張には理由がない。

乙6の5条が,共有持分を「建物の専有部分の総床面積に対し,各区分所有者が有する区分建物の専有床面積の割合を10,000分比に換算したもの」と定義している以上,管理費・修繕積立金の金額を住戸であろうと店舗であろうと専有部分の床面積に比例させる趣旨であることは明らかである。

⑵  次に,甲2は,有効に成立したか否か争いがあるものの,管理費等の金額については,各区分所有者の共有持分に応じて算出する旨規定されている(35条2項)。

⑶ さらに,乙16でも,25条2項において,「管理費等の額については,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする」と規定されている。

2 したがって,平成23年以前に本件マンションの管理規約に,住戸と店舗の管理費等の負担に関して約2.45倍の格差を認める「別段の定め」はなかったといえる。

 

第3 争点⑴(手続面)について

1 被告は,平成23年11月6日,管理規約の条項を甲17の27条2項にする旨の総会決議をした(「平成23年決議」)。同条同項は,「管理費等の額については,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出した別表第4の金額とする」と規定している。「別表4」のうち「別表4-1」は,店舗(甲17の25ページ)及び住戸(同26ページ)の管理費等の一覧表となっており,両者の金額を比較すると,住戸と店舗間に共有持分あたり約2.45倍の格差を設けた内容となっている。

⑴ 区分所有法31条1項違反

別表4-1のような規定は,従前の管理規約になく,区分所有法19条にいう「別段の定め」を新たに設けるものであり,店舗区分所有者に対し,住戸区分所有者に比して過大な負担を課すものである。とすれば,被告は,区分所有法31条1項の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」との規定に従わなければならなかった。

ところが,上記総会の議事録(甲16)によっても,T副理事長(当時。現被告代表者)が「新旧規約比較対照表」に基づき新管理規約の「主な改正点」の説明を行ったというにとどまるのであり,しかも,この「新旧比較対照表」には,別表4が添付されておらず(甲15),この「主な改正点」には,管理費等の額の算出に関する新27条2項(旧25条2項)は含まれていなかったのである(乙60)。「新旧規約比較対照表」に別表4を添付しなかった理由として,被告代表者は,「金額に関しての変更がなかったので,そのままにしておきました」(被告本人尋問調書35ページ)と供述しているが,このことに鑑みても,少なくとも被告理事の主観としては,別表4の設定を主な改正点として取り扱っていなかったこと,したがって,この点について組合員に対し注意喚起や意見形成の機会を与えた形跡もないこと(乙59の1ないし60),実際,同総会において規約改正案の承認に関してなされた質疑応答は,ガス給湯器の工事届出とペット飼育細則に関するものにとどまっていたこと(甲16)が明らかである。

一方,当時の店舗区分所有者株式会社Aの代理として総会に出席していたO証人も,23年決議で管理規約となった甲17を,議決の対象としてではなく,現行の規約集だと思っており,議案説明も新旧規約比較対照表の新規定の部分のみが読み上げられただけであり(O証人尋問調書11ページ),別表4-1についても,住戸と店舗の管理費・修繕積立金に約2.45倍もの格差を設けていることは,同表を仔細に見たうえで,計算をしなければ分からなかった旨証言する(O証人尋問調書13ページ)。

これに対し,被告は,O証人が分譲会社である丸善建設の代理人として,宅地建物取引主任者として本件マンションの区分所有権を販売していたことをもって,住戸と店舗の管理費等の格差に気づいていたはずだという趣旨の質問を行っている(O証人尋問調書17ページ)。しかしながら,被告代表者も,児童館の管理費が安いと認識を持ったことはなかった旨供述しており,格差に関しては問題意識を持って計算しないとなかなか気がつかないことを認めている(被告本人尋問調書33ページ)。管理費等の金額に習熟しているはずの被告理事ですら,格差に関して気づいていなかった経緯に照らせば,丸善建設において他の案件も扱っていたO証人(丸善建設が分譲したマンションを数百件販売していた旨証言している(O証人尋問調書17ページ)。)が,住戸と店舗間の格差に気づかずに推移していたとしても不自然ではなく,また,いずれにせよ,以上の点は他の原告らには全く当てはまらないことである。

以上のとおり,上記総会の前後を通じ,被告から原告ら店舗区分所有者に対し管理費・修繕積立金の格差について諾否の確認がなされた形跡はなく,原告ら店舗区分所有者としても,管理費・修繕積立金の金額が別表4のとおりとなる旨,しかも住戸と店舗間に約2.45倍もの格差が存在する旨予め認識することはできず,具体的に諾否の意思表示をした形跡もない。

したがって,23年決議は,区分所有法31条1項に反し,無効である。

⑵ 区分所有法35条違反

区分所有法35条1項は,「集会の招集の通知は、会日より少なくとも一週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる。」と定め,同条5項は,「第1項の通知をする場合において、会議の目的たる事項が第17条第1項、第31条第1項、第61条第5項、第62条第1項、第68条第1項又は第69条第7項に規定する決議事項であるときは、その議案の要領をも通知しなければならない。」と規定する。

別表4-1は,店舗区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす規約の設定ないし変更であるから,被告は店舗区分所有者の承諾を得なければならない上に,区分所有法31条1項に規定する決議事項として,被告において議案の要領を通知しなければならなかったものである。

ところが,平成23年の総会開催にあたって,総会招集通知に住戸と店舗の管理費等の格差について言及した資料は添付されていなかった(O証人尋問調書9ページ)。

したがって,23年決議は,区分所有法35条5項にも違反しており,無効である。

2 甲17管理規約27条2項との矛盾

また,そもそも,甲17の27条2項には,「管理費等の額については,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出した別表4の金額とする」と規定されているところ,別表4に記載された住戸と店舗の管理費・修繕積立金の金額は,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じていないから,この規定自体が矛盾している。

この点に関し,原告代理人が被告本人に乙21の4(新旧規約比較対照表)を示し,改正前の25条2項「共有持分に応じて算出する」との記載と,改正後の27条2項「共有持分に応じて算出した別表4の金額とする」との記載について,別表4だけで足り,共有持分に応じて算出した,という文言は不要ではないかと質問したことに対し,被告本人は,「複合用途型マンションですから,用途別の算出方法というのは多分あると思うんです。店舗は店舗の用途別,それから住戸は住戸の用途別に,それに応じた共有持分の割合の算出という考え方だと思うんですが」と述べた。ところが,用途別と述べながら,用途別であることがわかる条文にしようという議論は被告理事会においてなされたことはなかった(被告本人尋問調書30ページ)。

被告本人は,矛盾する規約の条文について欺罔的ではないかとの指摘に,「そうは思っていなかったですが」と述べた(同調書32ページ)。つまり,被告は矛盾するかどうかも検討することなく,とにかく管理費修繕積立金の金額を記載した別表を管理規約につけることのみを考えていたに過ぎないというべきである。

したがって,被告は矛盾する内容を管理規約の条文にしたことについて合理的な理由を説明できないのであるから,端的に甲17の27条2項は無効であるというべきである。

3 本件において,被告は,平成23年決議に,原告ら店舗区分所有者が賛成したことをもって,決議無効を主張できない旨主張する。

しかしながら,上記に述べたことからも明らかなように,およそ原告ら店舗区分所有者において,招集通知にも,総会の議場でも,住戸と店舗の管理費・修繕積立金の金額に,約2.45倍の格差があることを十分に理解して諾否の意思表示をすることなどできなかった。

したがって,原告らが平成23年決議に賛成したことをもって,本件決議の無効を争えないという被告主張には理由がない。

 

第4 争点⑴(実体面)について

1 被告代表者は,店舗の管理費が,住戸の約2.45倍であることの合理性に関し,「差があるのは当たり前と思っていましたから」,どのような計算を丸善建設がしたかについて,「正確なことは説明できません」,格差の具体的な中身については「T管理士,それから今マンションが支出している業務の実態からです」と述べ,およそ理事として,無責任な供述に終始した(被告本人尋問調書27,28ページ)。

2 しかも,「マンションが支出している業務の実態」という被告代表者の供述は,被告作成の収支計算書において,複数年度にわたり,管理費会計から,剰余金として,修繕積立金会計に多額の管理費が振り替えられている実態に照らせば,まったく理由になっていないどころか,むしろ被告が店舗から管理費を過剰徴収していた実態を示すものであるといえる。

3 すなわち,第22期決算報告書では,平成16年に,管理費から修繕積立金に1000万円が振り替えられ,鉄部塗装・防水工事の約半額を賄っている(乙46の5)。平成17年には,管理費会計の前期繰越金は6000万円を超え,そのうち500万円が修繕積立金会計に振り替えられ(乙20の4),平成18年には5000万円も振り替える旨の案も上程されていた(乙20の8)。

また,O証言によれば,上記のみならず,平成21年にも,前年に生じた管理費剰余金のうち1000万円が修繕積立金会計に振り替えられ,同22年同じく500万円,同23年同じく500円,同25年同じく300万円,同26年同じく200万円が,管理費から修繕積立金に振り替えられた(O証人尋問調書15ページ)。このうち,平成25年の300万円については,甲56の24ページ(甲67の2枚目も同様)によっても裏付けられている。

これらは,管理費会計上,ほぼ毎年,翌年に振り替えられるだけの剰余が発生していたことを示すものである。

ところが,被告本人は,かかる振替のうち,平成16年の1000万円については,「平成16年私が入居したころですので」「わかりません」と答え,平成17年の500万円については,知っている旨答え,平成18年の5000万円については,「あったようななかったような,ちょっと記憶が定かでないんで,はっきりお答えできません」と,会計について責任を持って対応すべき理事として,およそあり得ない供述に終始した(被告本人尋問調書23~24ページ)。同人の供述は,管理費を過剰に徴収していた過去を言い逃れるため,明確な供述を避けたとしか評価しようのないものである。

ところで,原告ら店舗区分所有者が平成24年に,格差分の管理費・修繕積立金の支払いを停止して以降は,管理費から修繕積立金への振替が減少している(被告本人尋問調書23~26ページ)。

他方,平成18年以前の管理規約(甲2)では,管理費から修繕積立金への振替ができることとされていたが,平成18年の管理規約では,振替ができないこととされ(乙16),平成23年の管理規約(甲17の63条)では,再び振り替えができることとされている(なお,この点に関して被告本人は,「ちょっと質問の意図がよくわからないんですけども」「わかりません」「ちょっと記憶がないので,済みません」「記録を見て回答したいと思います」(被告本人尋問調書25ページ)と供述し,自ら理事の一員として振替に従事しながら,客観的な事実の経過について明確な供述を回避した。これは,規約を恣意的に変更しつつ,あるいは規約さえも無視して,専ら被告の都合により管理費会計から修繕積立金会計に振替を行っていたことを示している。)。

以上によれば,①従前,被告が管理費として徴収していた金員は被告の通常の管理経費に充てるだけでは多額の余剰が生じる過剰徴収であった,②したがってまた,通常の管理経費を捻出するために,店舗に格差負担を求める必要も全くなかった,③ところが本件マンションでは従来,修繕積立金の金額水準が管理費額の10分の1と低廉であり,大規模修繕の経費に備えるには不安があったが,さりとて修繕積立金の額を大幅に値上げするには(現にそうであったように)組合員の強力な抵抗に合うことが予想された,④そこで被告は,不必要に多額の管理費を過剰徴収していることを知りながら,平成18年に修繕積立金を12.5倍に値上げするまで,余剰となった管理費をほぼ毎年修繕積立金に振り替え,かかる振替を継続反復するため毎年不必要に過剰な管理費を徴収し続けるという悪弊を続けていた,⑤ところが組合員の大多数を占める住戸の区分所有者は,店舗に比べて低廉な管理費額に抑えられていたから,かかる悪弊に対し異議を唱える必要性が乏しく,かかる悪弊が維持継続されてきた,⑥その後,平成18年の修繕積立金の値上げに際しては,標準管理規約に準拠した取扱いに改めることとし,修繕積立金は必要額をあくまで修繕積立金として徴収・積立てし,管理費からの流用はしないこととし,この提案が,少なからぬ反対を受けたものの可決された,⑦ところが,できるだけたくさんの修繕積立金を蓄えたいという被告理事の意向から,店舗からの過剰徴収とこれに基づく修繕積立金への多額の流用を再度合法化するため,別表4-1の導入とともに,管理費から修繕積立金への振り替えを許容する規約に再改定した,⑧これに対し,原告ら店舗区分所有者は,格差分の管理費・修繕積立金の支払を停止し,そのため被告は管理費から修繕積立金への振替を減少させざるを得なかった(過剰格差徴収と振替との間の因果関係が示されている。)との各事実を優に認定することができるというべきである。

4 このように,実質的にも,店舗の管理費の過剰負担は,修繕積立金を蓄えるための「裏の財源」であったに過ぎず,店舗の区分所有者がその格差負担に見合った恩恵を将来の大修繕の面等で受ける可能性も保障もなく,被告も,この点については何ら論証していないのであるから(奇妙なことに,被告から依頼を受けたマンション管理士作成の意見書(乙48,50)も,修繕積立金の負担割合については実質的に言及していない。),住戸と店舗の管理費・修繕積立金に約2.45倍の格差を設けることには合理性がない。

第5 被告の不当利得について

1 原告らが第4準備書面で指摘したとおり,被告は,平成14年以降毎年開催しきた定期総会において,収支予算案を決議したものの,個別の区分所有者に対する管理費等の額については記載を欠いており,管理費等の具体的な額を確定する決議は存在しない。

2 原告らが引用した最判平成16年4月23日判決は,「本件の管理費等の債権は,前記のとおり,管理規約の規定に基づいて,区分所有者に対して発生するものであり,その具体的な額は総会の決議によって確定し,月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は,基本権たる定期金債権から派生する支分権として,民法169条所定の債権に当たるものというべきである。」と判示し,総会決議によって具体的な額が確定するものとされている。

3 本件においてはそのような運用はなされておらず(だからこそ店舗区分所有者に格差が発覚しなかったところであるが),本来であれば被告は原告らに対して管理費等の徴収ができなかったものである。

したがって,かかる意味でも原告らに被告に対する不当利得返還請求権が発生しているというべきである。

 

第6 複合用途型に関する議論について

1 原告らが,本件マンションが複合用途型か否かを,本件の争点として検討する必要はないと思料する理由は,以下のとおりである。

⑴ すなわち,そもそも本件マンションが複合用途型か否かという議論は,被告が店舗区分所有者に高額な負担を課すことに根拠を見出すべく,準備書面⑶において主張し始めたものであった。

⑵ ところが,まず,乙60(広報誌No67)において,23年総会における管理規約の改正内容として告知されたものは,平成23年7月に国交省から発表された標準管理規約のうち,単棟型に関する条文であった。

この点に関し,被告本人は,本件マンションが複合用途型であると認識している旨供述しながら,広報誌で引用したのは「単棟型と複合型,両方です」と述べ,その意味合いを,「複合用途型も全てを取り入れているわけじゃありません。単棟型も全てを取り入れたわけではありません」と説明している(被告本人尋問調書21ページ)。

しかしながら,乙60で引用されている条文は,明らかに単棟型のものである(例えば,乙60で引用されている35条が役員の規定とされているのは単棟型である。複合型の35条は組合員の資格取得,喪失の際の届出規定となっている。乙27,28)

⑶ 被告代表者は,反対尋問において,乙60で引用されている条文が単棟型のものであることを認めつつ,「これはたしか理由があったと思うんですが,ちょっと思い出せないので,後で提出します」と述べ,その後再主尋問において「会計処理の連続性」などと述べている(同調書21,34ページ)。

しかしながら,被告代表者自ら,「中身をよく見ていただくとわかるんですが,単純に単棟型だけを採用するというわけにもいきませんし,複合用途型としても,複合用途型の内容をそのまま取り入れるわけにもいかない。これはなぜかというと,設備とか建物の構造,こういったものを勘案すると,ちょっと按分したり,そういったものに簡単に解決するのは難しいのではないか,そう考えたからです」と供述し(同調書34ページ),本件マンションが複合用途型でないことを自認している。

⑷ なお,被告本人が単棟型と複合用途型が共存しているような認識でいるならば,乙60にそのような記載がなされていても良いところ,乙60のみならず,いまだかつて被告から,本訴に至るまで,本件マンションの用途型についてかかる主張がなされたことも,原告らにおいて説明を受けたこともなかった。

⑸ さらに,被告代表者は,原告ら代理人から,複合用途型のマンション標準管理規約(乙28)を示され,25条2項に,全体管理費等の額については,住戸部分のために必要となる費用と店舗部分のために必要となる費用をあらかじめ按分した上で,住戸部分の区分所有者または店舗部分の区分所有者ごとに共有持分に応じて算出すると規定されていることを踏まえ,このような条文にしようという議論はなかったかと問われ,「それはわからないです。」「出ていないと思います。」「出たか出ないかもはっきりわかんないです。」と述べ,被告理事会において,本件マンションを複合用途型とするための議論をした経緯が一切ないことが判明した(被告本人尋問調書30ページ)。

⑹ したがって,本件マンションを複合用途型として立論する被告の主張にはまったく理由がない。

 

第7  結語

以上のとおり,本件において,23年決議以前に,住戸と店舗の管理費・修繕積立金の格差を約2.45倍とする別段の定めはなかったし,23年決議においてもそれが合理性を有するものとして有効に定められたことはなかったことが明らかとなった。

また,被告において,複数年度にわたって管理費会計から修繕積立金会計に多額の資金を移動させていたこと,店舗区分所有者からの過剰格差徴収は,修繕積立金の「裏の財源」として事実上連綿と維持されてきた悪弊であったことも明らかとなった。

さらに,被告が,23年総会において,別表4-1を設定することに関し,問題意識を持って議論を行ったことはなく,単にそれまで事実上徴収してきた金額を規約に書き込むという程度の認識であって,主たる改正点であるとは考えていなかったこと,そのため原告ら店舗区分所有者に対し注意を喚起することも,その諾否の意思表示を確認することもしなかったことが明らかとなった(この点に関しては,被告は,格差を合法化するための規約改正を裏口から忍び込ませる手法で敢行し,半ば成功しかかったところを,原告らに看破されたと見ることも十分可能である。いずれにせよ,原告らが格差負担を許容する別表4-1の設定に対し,具体的に承諾の意思表示をしたとは到底認定し得ないところである。)。

さらに,本件マンションを複合用途型であるとして行われた被告の主張も,根拠を欠く後付けの理屈でしかなかった。

したがって,23年決議は無効であり,それ以前に格差負担を許容する「別段の定め」もなく,被告は管理費等の具体的な額を総会の決議によって確定したこともなく,仮にかかる決議があったと仮定しても,それは「別段の定め」を欠く管理規約に抵触し,違法無効なものである。

その結果,原告ら店舗区分所有者が,住戸区分所有者と同じ単価で算定される額以上に支払った金額は被告の不当利得となるから,原告らの被告に対する不当利得返還請求が認められるべきである。

 

以 上
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