平成28年5月30日判決言渡

平成25年(ワ)第39号 、平成26年(ワ)第32646号、平成27年(ワ)第37257号不当利得等返還請求、承継参加事件

口頭弁論終結日 平成28年1月20日

判決

原告   店舗組合員14名、承継参加人2名

被告  SDマンション管理組合法人

主文

1 被告は、原告らに対し、それぞれ別表1「認容額計算書」の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する原告有限会社KSMについては平成25年3月23日から、その余の原告らについては平成24年6月20日から各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は、原告医療法人社団S及び原告SY訴訟承継参加人STに対し、平成23年11月6日付け総会決議の基づいて定められた規約の内、店舗の管理費及び修繕積立金について、別紙2「別表4-1 店舗別及び児童館専有面積、管理費等一覧表」(ただし、「児童館」部分を除く。)記載のとおりとした部分のうち、管理費については専有面積1平方メートル当たり月額316円、修繕積立金については専有面積1平方メートル当たり月額394円を超える金額を定める部分が無効であることを確認する。

3 原告ら及び原告SY訴訟承継参加人STのその余の請求を、原告㈱HC訴訟承継参加人OSの請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、(1)原告らに生じた費用の10分の1及び被告に生じた費用の10分の1を原告らの負担とし、(2)原告SY訴訟承継参加人STに生じた費用の5分の4を同訴訟承継参加人の負担とし、(3)原告㈱HC訴訟承継参加人OSに生じた費用を同訴訟承継参加人の負担とし、(4)原告らに生じたその余の費用、原告SY訴訟承継参加人STに生じたその余の費用及び被告に生じたそのよの費用を被告の負担とする。

5 この判決1項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 被告は、原告らに対し、それぞれ別紙3「請求額計算書」の「合計過払額」欄記載の各金員及びこれに対する原告(有)KCM(以下KCMという。)については平成25年3月23日から、その余の原告らについては平成24年6月20日から各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は、原告KT、原告YN、原告㈲TB、原告MM、原告医療法人S、原告NS、原告㈱SE、原告SY訴訟承継人ST(以下参加人ST)及び原告㈱HC訴訟承継人OS(以下参加人OS)に対し、平成23年11月6日付け総会決議に基づいて定められた規約のうち、店舗の管理費及び修繕積立金について、別紙2「別表4-1店舗別及び児童館専有面積、管理費等一覧表」(ただし、「児童館」部分を除く。)記載のとおりとした部分(以下「本件規約部分」という。)が無効であることを確認する。

 

第2 事案の概要

本件は、(1)区分所有建物であるマンションの店舗の現在の区分所有者、又はかつての区分所有者である原告らが、当該マンションの管理組合法人である被告に対し、当該マンションにおいては、店舗の専有面積1平方メートル当たりの管理費及び修繕積立金(以下、管理費と修繕積立金を併せて「管理費等」という。)が住戸のそれの約2.45倍とされているところ、被告の原告らに対してした平成14年5月分~平成24年3月分の管理費等の徴収が建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)19条に違反し、原告らが支払った管理費等のうち住戸の管理費等との差額が不当利得に当たるとして、不当利得返還請求権に基づき、その差額及びこれに対する原告KCMについては平成25年3月23日(訴状送達の日の翌日)から、その余の原告らについては平成24年6月20日から(同原告らが上記差額の返還を求めて申し立てた調停において被告が答弁書を提出した翌日)から各支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに、(2)いずれも当該マンションの店舗の現在の区分所有者である原告ら8名のうち原告㈱HCのうち、店舗の専有面積1平方メートル当たりの管理費等を住戸のそれの約2.45倍とした部分が区分所有法30条3項違反、同法31条1項違反、同法35条5項違反等を理由に無効であるとして、当該部分の無効確認を求める事案である。

 

1 前提事実

次の事実は、当事者間に争いがないか、当裁判所に顕著であり、又は証拠(甲1、2,9、17~22、32~34、39~53、58、乙4~6、10~16、21の3、乙62、66、丙1~3、丁1)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。

(1)当事者等

ア 原始規約等

本件マンションの原始所有者である丸善建設㈱(以下「丸善建設」という。)は、昭和56年頃、本件マンションの分譲を開始するにあたり、「SDマンション管理規約」(乙6。以下「原始規約」という。)を作成した。

原始規約13条は、「各区分所有者は、「第5条の各区分建物の持分割合」に応じたタイプ別管理費(管理者の受ける報酬も含む。)、第12条第2項の変更費用等共用部分に係る一切の費用を負担するものとする。」と規定し、同14条は、「各区分所有者は、第13条の各管理費の10%相当額の補修積立金を負担するものとする。」と規定し、同5条は、「第2条の土地及び第4条の建物共用部分は、区分所有者全員の共有に属するものとする。各区分所有者の共有持分に対する共有持分は、建物の専有部分の総床面積に対し、各区分所有者が有する区分建物の専有床面積の割合を10,000分比に換算したものである。」と規定している。また、同第16条は、建物竣工より向こう1年間は、T・N・Sサービス㈱を管理者とし、管理組合が組織された場合は、管理組合の代表者を管理者とする旨を定めている。

価格表の「各タイプ面積・管理費・補修積立金」欄には、専有部分の建物(住戸及び店舗)の各タイプごとの専有面積、管理費等の月額が記載されている。その記載に係る管理費等の額には、住戸と店舗との間で、専有面積1平方メートル当たり、約2.45倍の格差が存した。

本件マンションの各区分所有者は、本件マンションの分譲を受けた際、T・N・Sサービスとの間で、本件マンションに係る管理委託契約を締結した。その管理委託契約書には、専有部分の建物(住戸及び店舗)の各タイプに応じた管理費等の月額が記載されているが、その額は、タイプK、N、O、Zの住戸以外は、価格表に記載された額と同じであった。

本件マンションの管理については、T・N・Sサービスが、昭和59年頃まで、上記管理委託契約に基づきこれを行っていたが、昭和60年頃から、本件マンションの区分所有者らによって組織された、被告の前身である「SD管理組合」(NIが初代理事長。以下「本件管理組合」という。)が、直接これを行うようになった。

イ 13年規約等

平成13年、OAが本件管理組合の理事長に就任した。OAは、同年、「さんろーどダイヤモンドマンション管理規約集」(甲2。以下「13年規約」という。)を作成した。

13年規約第35条2項は、管理費等の金額について、「各区分所有者の共有持ち分に応じて算出する」と規定し、57条は「各区分所有者の共有持ち分は、その所有する専有部分の割合によるもので、その範囲の限界は、各区分所有者の不動産登記法に準ずるものとする」と規定している。

平成16年5月7日、被告が設立され、本件管理組合の権利義務を承継した。被告は、平成17年頃、ダイワード株式会社に本件マンションの管理を委託した。

ウ 18年規約等

平成18年5月14日、被告の第23期定期総会(以下「18年総会」という。)において、同年8月分以降の修繕積立金を従前の12.5倍に改定する旨が決議されるとともに(以下、この決議を「本件増額決議」という。)、「SDマンション管理規約」(乙16。以下「18年規約」という。)の同日発行が決議された(以下、本件増額決議を含む18年総会における決議を「18年決議」という。)。

18年規約25条2項は、「管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出するものとする」と規定し、10条は、「各区分所有者の共有持ち分は、その所有する専有部分の割合によるもので、その範囲の限界は、各区分所有者の不動産登記法に準ずるものとする」と規定している。

エ 23年規約等

平成23年11月6日被告の臨時総会(以下「23年総会」という。)において、「管理組合法人規約集」(甲17、乙21の3.以下「本件規約集」という。)に記載された「SDマンション管理組合法人規約」(以下「23年規約」という。)。

23年規約27条2項は、「管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出した別表第4の金額とする。」と規定し、その「別表第4」として、別紙2「別表4-1店舗別及び児童館専有面積、管理費等一覧表」及び別紙4「別表第4-1住戸タイプ別専有面積、管理費等一覧表」(以下、これらを併せて「本件別紙第4」という。)が掲げられ、各戸の専有面積、管理費等の月額が記載されている。記載されている専有面積1平方メートル当たりの管理費等の額には、住戸と店舗との間で、約2.45倍の格差が存した(23年規約のうち、このような格差を定めた部分が、本件規約部分である。)。

被告は、平成24年3月31日、日本ハウズイング㈱に対し、本件マンションの管理を委託した。

(3)本件マンションにおける管理費等の支払い状況

ア 本件マンションの各区分所有者は、次のとおり、管理費等の支払いをしている。

(ア)本件マンションの分譲時から現在に至るまでの管理費の額

本件マンションの専有部分の建物(住戸及び店舗)の部屋番号又は各タイプごとの具体的な管理費月額は、別紙2及び別紙4の各「管理費」欄記載のとおりである。

専有面積1平方メートル当たり月額(なお、別紙2「別表第4-1店舗別及び児童館専有面積、管理費等一覧表」においては、101号室の専有面積が34.45平方メートルと記載されているが、乙4によれば、これは35.45平方メートルの誤記であると認められる。以下、101号室の専有面積については、35.45平方メートルであることを前提に検討する。)は、別紙5記載のとおり、住戸が153円~172円、平均158円、店舗が383円~387円、平均386円である。

(イ)平成18年7月分までの修繕積立金の額

平成18年7月分までの本件マンションの専有部分の建物(住戸及び店舗)の部屋番号又は各タイプごとの具体的な修繕積立金の額は、上記(ア)の管理費の10%相当額である。

専有面積1平方メートル当たり月額は、住戸が15.3円~17.2円、平均15.8円、店舗が38.3円~38.7円、平均約38.6円である。

(ウ)平成18年8月分以降の修繕積立金の額

平成18年8月分以降の本件マンションの専有部分の建物(住戸及び店舗)の部屋番号又は各タイプごとの具体的な修繕積立金の月額は、別紙2及び別紙4の各「修繕積立金」欄記載のとおりであり、上記(ア)の管理費の1.25倍、上記(イ)の平成18年7月分までの修繕積立金の12.5倍相当額である。

専有面積1平方メートル当たり月額は、住戸が191.6円~215.5円、平均197円、店舗が478.8円~483.7円、平均約482円である。

(エ)管理費等の支払期限

翌月分を毎月28日までに支払う。

イ 原告らは、被告に対し、それぞれ、別紙3「請求額計算書」の「③支払期間」欄記載の管理費等として、毎月、同「⑥原告が支払った管理費等の月額」記載の各金員を支払い、同「⑨支払期間」欄記載の管理費として、毎月、同「⑪原告が支払った管理費等の月額」欄記載の各金員を支払った。

被告は、店舗所有者である原告から、平成14年5月分以降の管理費等について、専有面積1平方メートル当たり、住戸の区分所有者から徴収する額の約2.45倍の額を徴収したものである。

(4)本件訴えの提起等

原告ら(ただし、原告KCMを除く。)は、平成25年5月1日、被告を相手方として、本件マンションの管理規約のうち、店舗の管理費等を住戸の管理費等の約2.45倍とした規約の定めは無効であるとして、店舗と住戸の管理費等の格差部分に係る不当利得の返還を求める民事調停の申し立てをした。被告は、上記調停において、同年6月19日、原告らの主張を争う旨の答弁書を出した。同年12月19日、上記調停が不成立となり、原告らは、平成25年1月4日、本件訴えを提起した。

 

2 争点及びこれに対する当事者の主張

(1)被告の原告らに対してした平成14年5月分~平成23年11月分の管理等の徴収が区分所有法19条に違反するかどうか(争点1)

(原告らの主張)

ア 被告は、店舗所有者である原告らから、平成14年5月分~平成23年11月分の管理費等について、「別段の定め」がないまま、専有面積1平方メートル当たりで住戸所有者よりも多い額を徴収したものであり、その持ち分に応じた共用部分の負担を定める区分所有法19条に違反したものである。

イ 被告は、平成14年5月分~平成18年5月分の管理費等の徴収について、「各区分所有者は、第5条の各区分建物の持分割合に応じたタイプ別管理費(中略)を負担とする」と定める原始規約13条1項が区分所有法19条所定の「別段の定め」に該当する旨を主張する。

しかし、原始規約については、区分所有者全員の同意を得て定められたものではなく、また、原始規約13条1項は、各専有部分の間取りや広さにより区別されるタイプが同じ場合に管理費等を同額とする趣旨に過ぎず、住戸と店舗との間に管理費等の格差を設けることを許容するものではないから、区分所有法19条所定の「別段の定め」に該当しない。

なお、13年規約35条2項は、有効に定められたところであるが、管理費等について、「各区分所有者の共有持ち分に応じて算出する。」と規定するにとどまるから、区分所有法19条所定の「別段の定め」に該当しない。

ウ 被告は、平成18年6月~平成23年11月分の管理費等の徴収について、18年規約によって、区分所有法19条所定の「別段の定め」が設けられた旨を主張する。

しかし、18年規約25条2項は、「管理費等の額については、各区分所有者の共有持ち分に応じて算出する」と規定するにとどまり、18年総会の際に配布された「駐車場使用料及び修繕積立金改定一覧表」(甲9)も、各戸の修繕積立金の記載があるのみで、管理費等の額について、住戸と店舗との間に約2.45倍の格差があることを認識し得るものではない。また、18年総会では、修繕積立金を12.5倍に改定するとの議案が普通決議事項として可決したに過ぎず、「別段の定め」を管理規約に設けるか否か、区分所有者が「修繕積立金改定表」記載の金額の負担を負うか否かの点が決議事項とされたものではない。したがって、18年規約は、区分所有法19条所定の「別段の定め」に該当しない。

(被告の主張)

ア 原始規約13条1項は、持ち分に応じない共用部分の負担を許容する区分所有法19条所定の「別段の定め」に該当する。

13年規約35条2項は、管理費等について、「各区分所有者の共有持ち分に応じて算出する。」と規定するが、総会決議を経ておらず、各戸に印刷物として配布され、区分所有者らが有効な管理規約であると誤信したものにすぎないから、無効であり、平成14年5月以降も引き続き原始規約が運用される。

したがって、被告の原告らに対してした平成14年5月分~平成18年5月分の管理費等の徴収は、区分所有法19条所定の「別段の定め」に基づいてされたものであり、同条に違反しない。

イ 18年規約25条2項は、管理費等について、「各区分所有者の共有持ち分に応じて算出する。」と規定しているが、この規定については、誤ってマンション標準管理規約(単棟型)と同じ文言が用いられたものに過ぎず、18年規約の発効が決議されたのと同一の18年総会においては、店舗と住戸のタイプに応じて設定された管理費等の額を前提とする修繕積立金の改定決議(本件増額決議)がされていること等に照らせば、18年規約の管理費の金額が従前と同様、店舗と住戸のタイプ別に設定された額によることを前提にしていたことは明白であり、18年規約によって、区分所有法19条所定の「別段の定め」が設けられたというべきである。

したがって、被告の原告らに対してした平成18年6月分~平成23年11月分の管理費等の徴収は、区分所有法19条所定の「別段の定め」に基づいてなされたものであり、同条に違反しない。

(2)被告の原告らに対してした平成23年12月分以降の管理費等の徴収が区分所有法19条に違反するかどうか(争点2)

(原告ら及び参加人らの主張)

ア 被告は、店舗所有者である原告らから、平成23年12月分以降の管理費等について、専有面積1平方メートル当たりで住戸所有者よりも多い額を徴収したものであり、区分所有法19条に違反したものである。

イ 23年規約の本件規約部分は、区分所有法19条所定の「別段の定め」に該当するところ、本件規約部分には、次の(ア)~(エ)の無効事由がある。

したがって、本件規約部分は、無効であり、平成23年12月分以降の管理費等の負担については、同条所定の「別段の定め」が存在しないことになる。

(ア)本件規約部分の無効事由1-区分所有法35条5項違反

管理費等の金額について住戸と店舗で格差を設けることは、管理規約の変更にあたるところ、23年総会招集通知(甲13、乙21の1)に添付された「管理規約改正(案)新旧規約対照表」(甲15.以下「本件対照表」という。)には、本件別表第4が添付されていなかった。また、上記招集通知に同封されていた本件規約集(甲17、乙21の3)に本件別表第4が添付されていたとしても、上記招集通知及びこれに添付された議案説明書(甲14、乙21の2)には、店舗と住戸の間で管理費等に格差を設けることについて言及した説明が付されておらず、本件規約集と議案との関係が示されていなかった。そして、23年総会においても、管理規約の全面改定についての質疑応答がなかったため、原告らは、本件規約集を既存・現行の規約集と理解しており、新しい規約と認識が出来なかった。

したがって、23年総会の招集手続きは、区分所有法35条5項に反して、管理規約の変更に係る議案の要領を欠くものであり、23年決議によって定められた本件規約部分は、無効である。

(イ)本件規約部分の無効事由2―区分所有法31条1項後段違反

本件規約部分は、従前の管理規約になかった区分所有法19条所定の「別段の定め」を新たに設けるものであり、店舗所有者に対し、住戸所有者に比して過大な負担を課すものであるから、被告は本件規約部分を定めるにあたり、区分所有法31条1項後段の規定に従い、総会時点で店舗所有者であった者の承諾を得る必要があった。

しかし、23年総会においては、本件規約部分の設定を主な改正点として取り扱っておらず、被告から原告らに対して管理費等の格差についての諾否の確認すら行われず、本件規約の設定について店舗所有者であった者の承諾を得ていない。

したがって、本件規約部分は、同項後段に違反して定められたものであり、無効である。

(ウ)本件規約部分の無効事由3―区分所有法30条3項、民法90条違反

被告が従前管理費として徴収していた金員は、被告の通常の管理経費に充てるだけでは多額の余剰が生じる過剰徴収であり、通常の管理経費をねん出するために店舗所有者に格差負担を求める必要もなかった。しかし、被告は、修繕積立金を低廉なまま維持するため、余剰となった管理費をほぼ毎年修繕積立金へ振り替えており、このような振り替えを継続するために、不必要な過剰徴収を継続していた。その後、18年総会においては、管理費を積立金に流用しないことを前提に、修繕積立金の値上げをしたが、できるだけたくさんの修繕積立金を蓄えたいとの被告理事の意向から、23年総会において、本件規約部分を設けるとともに、管理費から修繕積立金への振り替えを許容する規約に再改定したものである。このように、店舗所有者の過剰負担は、修繕積立金を蓄えるための「裏の財源」であったにすぎず、店舗所有者が、将来の修繕において、その格差負担に見合った恩恵を受ける可能性も保障もないから、住戸と店舗とで管理費等に約2.45倍の格差を設けることには合理性がない。

店舗と住戸とで用途が異なることによって管理費等の格差の合理性を説明をすることはできない。国土交通省が公表した平成25年度マンション総合調査結果報告書(甲65)に照らしても、各戸の専有面積の割合に応じて算出せず、各戸均一でもないというのは、異例中の異例である。また、本件マンションの店舗については、①形状が特別なものではないこと、②面積も住戸部分が圧倒的に多いこと、③位置関係も専用庭やバルコニーは設定されていないこと、④使用目的としても、店舗部分への人の出入りは特定少数の者に限られ、各店舗・事務所はいづれも小規模なものであり、騒音や悪臭などで周囲の環境を害したり、迷惑を及ぼすような職種でもないこと、⑤利用状況についても、エレベーター、非常階段、2階から9階の廊下・通路、給水設備についても、もっぱら住戸に利用され、店舗による利用はほとんどないことなど、区分所有法30条3項が規定する区分所有者間の衡平な負担を図るための各指標に照らしても、店舗所有者が住戸所有者より過重な管理費等を負担する理由は見当たらない。

被告は、店舗部分の管理・修繕に関して費用がかかる旨を主張するが、事業報告書の収支計算書(甲56)によれば、清掃費、電気料等の管理費額は、住戸:店舗=1:0.87となり、住戸部分のほうが清掃費等が高額となる。また、住戸と店舗間の費用の分担を論ずるのであれば、マンションの管理・修繕に要する経費を全体的に、かつ、ある程度長期的に捉えて費用額を算定すべきであり、店舗のために要する費用を羅列するのは、あまりに一面的である。しかも、被告が店舗のために要したとする費用は、必ずしも店舗の為だけの費用ではなく、防火用シャッター・火災警報設備、店舗前敷地については、住戸の玄関扉や窓ガラスと同様、本件マンションの全体の共用部分であるうえ、区分所有者全体の利益に資するものであるし、キュービクルについては、単に設計・施工担当者が、住戸を東京電力所有の高圧断路器、店舗をキュービクルと割り振ったことにより、店舗がこれを使用させられているにすぎず、地下駐車場や住戸の共用部分にも使用されている。

被告が主張するその他の費用の額も、386万円にとどまり、平成22年に実施された大規模修繕工事の見積額1億2500万円の3%にすぎず、この程度の比率の修繕工事によって、約2.45倍の格差を合理化し得るはずがない。

以上によれば、住戸と店舗との間で管理費等について約2.45倍の格差を設ける本件規約部分は、区分所有者間の利害の衡平を著しく害するものであり、区分所有法30条3項に違反し、公序良俗に反するものであるから、民90条により無効である。

(エ)本件規約部分の無効事由4―法律行為の特定性の欠如

本件規約部分は、管理費等を定める規約本文(23年規約27条2項)と本件別表第4の内容が矛盾しており、法律行為として特定性を欠くから、無効である。

 

(被告の主張)

ア 23年決議によって定められた23年規約には、本件マンションの専有部分のタイプの具体的な管理費等の金額が記載された本件別表第4が掲げられ、店舗の管理費等を住戸の管理費等の約2.45倍とする本件規約部分が定められているから、区分所有法19条所定の「別段の定め」がある。

したがって、被告の原告らに対してした平成23年12月分~平成24年3月分の管理費等の徴収は、同条所定の「別段の定め」に基づくものであり、同条に違反しない。

イ 本件規約部分は、次に述べる通り、無効であるとはいえない。

(ア)本件規約部分の無効事由1について

23年総会の招集通知に添付された本件規約集(甲17、乙21の3)には、本件別紙第4が添付されていた。また、23年決議は、管理規約全体を改める内容の決議であるから本件対照表等を伴う規約案一式を送付すれば、議案の要領の通知として足りるというべきである。

したがって、23年決議の手続きに区分所有法35条5項違反はない。

(イ)本件規約部分の無効事由2について

23年決議による本件規約部分の設定は、従前より現実に各区分所有者から異議無く支払われてきた管理費等の金額を何ら変更するものではなく、原告らの権利に特別の影響を及ぼすものではないから、原告ら全員の承諾を得なくとも、区分所有法31条1項後段に反しない。また、原告らの内9名は23年総会で賛成票を投じ、うち1名は23年決議を欠席し、その余は、当時管理組合に対して届けられた区分所有者ではない。

したがって、23年決議の手続きに区分所有法31条1項後段の違反はない。

(ウ)本件規約部分の無効事由3について

区分所有法30条3項の趣旨からは、管理費等の負担割合の違いが衡平さを欠いていると考えられる場合であっても、直ちに公序良俗に反するものとして無効とされるべきではなく、それまでの当該マンションの自治の経緯及び自治組織における検討経緯の背景的な事情も踏まえて慎重に判断されるべきである。被告は、平成17年頃までには早急に本格的な改修工事が必要という状況下で、それに必要な費用について総会に諮り、その決議を経て管理費等の徴収を行っている以上、自治の観点からは、区分所有者は、当該総会決議に従うべきものである。そして、店舗の管理費等の負担割合が衡平を欠くとされた場合であっても、これを定めた規定部分は、著しく不衡平と認められる場合に限り無効とされるべきである。

本件マンションは、いわゆる複合用途マンションであり、その管理費等の金額は、本件マンションを分譲した丸善建設が、住戸と店舗(ショッピングゾーン)との2つの用途分類したうえで、区分所有法30条3項に従い、建物の形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように決定したものであり、また、各区分所有者も、住戸と店舗の用途分類に応じて管理費等に差があることを理解し、それを承諾したうえで本件マンションを購入しているのであるから、店舗の管理費等を住戸の管理費等の約2.45とすることは合理的であり、区分所有法30条3項に反しない。

実際上も、①本件マンションには、店舗による営業経営のために、店舗が主として使用する共用部分(店舗出入り口、中通路、店舗前敷地部分等)が必要となり、その点検維持、管理補修等の費用をようすること(既に補修工事費用として約340万円支出している)、②看板等を設置することでマンションの壁面等の補修等の必要性が生じること、③店舗利用者の不特定多数の出入りにより、騒音、におい、セキュリティの問題の発生に伴う対応費用、上記共用部分の損耗、劣化の進行による点検維持管理・補修・修繕等の費用が増加し、また、多数の客の参集等による清掃の必要性も他の共用部分に比べ高くなること、④各店舗のための防火用シャッター及び自動火災警報器、キュービクル設備の点検維持管理、補修等についても、費用の支出を要するところ(例えば、平成21年に実施した消防用設備指摘事項改修工事では約92万円、平成25年に実施した同工事では約500万円の費用が発生し、今後も1269万円の修繕工事が予定されている。キュービクルの点検費用は、竣工時から平成16年まで年間約60万円、平成17年以降は年間約31万円であり、修繕・交換費用は、平成20年に約143万円を支出し、今後も、292万9000円の工事が予定されている)、これらの設備により、店舗は電気料金を低額に抑え得られるとともに、同料金を滞納した場合には、被告が立て替え払いをするというメリットをうけていること、⑤管理業務についても、店舗専有部電気料金精算業務等、特有の管理費等が生じること、⑥本件マンションが店舗として使用されることにより、住戸所有者において、本件マンションの美観・イメージの低下や店舗利用者に対する店舗前絵敷地通行を容認することを強いられる結果となることなどの事情を考慮すれば、店舗と住戸とで管理費等に格差を設けることは合理的である。

マンション管理士であるTN作成の意見書(乙48、50)においても、平成25年の収支計算書(乙49)を前提に各費用の性質、使用実態、必要な維持管理費等を考慮した場合の管理費等の合理的な負担割合は、住戸を1とすると店舗は1.84であり、これにいわゆる迷惑料的な負担の要素(0.12)及び気積(体積)の割合(0.215。なお、店舗部分は、住戸よりも気積割合が1.43倍であるが、気積の大小と使用実態とが関連しない部分も存在するため、50パーセントの0.215とするのが相当。)を乗じた2.45倍が、本件マンションの合理的な住戸と店舗の負担割合となる旨が述べられている。

なお、被告が平成20年から平成25年にかけて管理費を修繕積立金に振り替えたのは、平成20年6月の臨時総会において大規模修繕の実施が承認されたものの、金融機関の借り入れ審査が受けられず、資金調達の目処が立たなかったために、やむを得ず行われた措置である。

以上によると、店舗と住戸とで管理費等に約2.45倍の格差を定めた本件規約部分は、区分所有法30条3項に違反するものではなく、民法90条により無効となるものでない。

(エ)本件規約部分の無効事由4について

争う。

(3)被告の不当利得の額(争点3)

(原告らの主張)

前期のとおり、被告の原告らに対してした平成14年5月分~平成24年3月分の管理費等の徴収は、区分所有法19条に違反するものであるから、原告らが支払った管理費等のうち住戸の管理費等との格差については、被告がこれを保有する法律上の原因がなく、不当利得にあたるというべきである。

具体的には、本件マンションの重要事項説明書(甲22)に記載された共用部分の持ち分比率を前提に、全住戸の一共有持ち分当たりの管理費月額の平均値を算出すると、114.76円であり、住戸のうち戸数、持ち分小計が最大である住戸B,Jタイプの一共有持ち分当たりの管理費月額は、115円であることから、管理費については、少なくとも月額115円を超えて支払った金員については、不当利得に当たるというべきである。同様に、修繕積立金については、平成18年7月分までは、一共有持ち分当たり管理費の10%である11.5円、翌8月分以降は、その12.5倍である143.75円を超えて支払った金員については、不当利得に当たるというべきである。

したがって、被告が、原告らに対し、不当利得として返還すべき金額は、別紙3「請求額計算書」の「合計過払い額」欄記載のとおりである。

(被告の主張)

本件マンションにおいては、管理費等は、専有面積1平方メートル当たりの月額もって定められていたものである。本件マンションの重要事項説明書に記載された共有部分の持分比率を前提に、全住戸の一共有持ち分当たりの管理費月額の平均値を算出するなどの方法で、管理費等の額が定められるものではない。

(4)管理組合の組合員が管理費等の返還請求又は分割請求をすることができない旨の規定により原告らの不当利得の返還請求が許されないかどうか(争点4)

(被告の主張)

13年規約49条4項、18年規約60条5項、23年規約62条5項は、本件マンションの管理組合の組合員(区分所有者)は、納付した管理費等についてその返還請求又は分割請求をすることができない旨をさだめているところ、これは、管理費については、単年度会計を前提に処理・運用されるものであること、修繕積立金については、納付後の返還を認めると修繕計画を前提に逆算して徴収している積立金制度自体が崩壊してしまうなどに鑑み、納付された管理費等の返還請求を一律に禁止したものである。上記各規約は、各区分所有者の総意に基づく自治範囲であり、納付した管理費等の返還は認めないということを自治規範の内容として定めた以上、特別悪質な徴収等の場合を除き、上記自治規範どうりに運用すべきであることは当然である。したがって、原告らは、すでに納付した管理費等について返還を請求し得るものではない。

(原告らの主張)

被告が指摘する上記規定は、マンションの管理組合について、通常の共有と異なり、精算前の分割ができないという団体的拘束に服することを定めた規定である。

管理規約に及び総会決議によって具体化された額を超える額の管理費等が納入された場合は、共有財産の精算前分割禁止の問題とは全く次元が異なり、当然にその過払い分を不当利得として返還すべきである。

(5)管理費等の不当利得返還請求及び本件規約部分の無効確認請求が信義則違反又は権利濫用に当たるかどうか(争点5)

(被告の主張)

次の事項に照らせば、原告ら及び参加人らが被告に対して管理費等の不当利得返還請求及び本件規約部分の無効確認を請求することは、信義則違反又は権利濫用に当たるというべきである。

ア 原告ら及び参加人らのうち、本件マンション分譲時に区分所有権を取得した者については、分譲時に受けた説明や交付された重要事項説明書添付の価格表(乙4)等の資料から、また、分譲後に区分所有権を取得した者については、18年総会の招集通知に添付された「駐車場使用料及び修繕積立金改定一覧表」(乙20の6)や、平成19年12月23日に開催された臨時総会(以下「19年総会」という。)の前後に配布された本件規約集(乙21の3)に掲げられていた本件別表第4の内容から、既に住戸と店舗との間に管理費等の金額に格差があることを認識していたことが明らかである。

そして、23年総会の決議において、原告ら及び参加人らのうち9名は23年総会で賛成票を投じ、うち1名は23年総会を欠席し、その余は、当時管理組合に対して届けられた区分所有者ではないのであり、原告ら及び参加人らの中で23年決議において明確に反対票を投じた者はいない。

このように、原告ら及び参加人らは、18年総会及び23年総会が開催された時点において、既に管理費等に係る住戸と店舗との間の格差の存在を認識しており、これまでその格差について何ら問題視することなく管理費等の支払いを続けていたにかかわらず、平成23年11月以降になって、これを問題視するようになったものである。

イ 原告ら及び参加人らには、次のような個別事情も存在する。

(ア)原告KTは、平成19年9月、本件マンションのことを熟知している地元の不動産業者の仲介により、本件店舗(101号室)の区分所有権を取得したが、その際、当該不動産業者から、住戸と店舗との間に管理費等の金額に違いがあることについて説明を受けたものと考えられ、住戸と店舗との間に管理費等の金額に格差があることを認識していたものというべきである。

原告KTは、23年決議のほか、平成20年3月30日に開催された総会において行われた18年決議をあらためて信任する旨の決議においても、賛成票を投じた。

(イ)原告㈱HCは、以前は参加人OSが代表取締役を務めていた会社であり、平成12年12月、参加人OSから本件店舗2戸(102、112)の区分所有権を取得し、平成23年1月、これを原告APRに譲渡したものの、平成25年11月、再びこれを取得した。

参加人OSは、自ら上記店舗2戸の所有者であったほか、本件マンションの分譲会社の宅地建物取引主任者として、本件マンションの住戸と店舗の双方の販売の仲介業務に携わっていた。

また、原告㈱HCの代表取締役であるOMは、参加人OSの弟であり、昭和58年12月に自ら本マンションの住戸(806)の区分所有権を取得するとともに、本件マンションの店舗の売買の仲介業務に携わっていた。

したがって、原告㈱HC及び参加人OSは、住戸と店舗との間に管理費等の金額に格差があることを認識していたものというべきである。

(ウ)原告APRは、平成23年1月、原告㈱HCから、本件店舗2戸(102,112)の区分所有権を取得したが、参加人OSがその実質的所有者であると考えられ、住戸と店舗との間に管理費等の金額に格差があることを認識していたというべきである。

(エ)原告YTは、昭和57年1月、本件店舗(104)の区分所有権を取得し、原告YTの子である原告YNは、平成15年5月、原告YTからこれを取得した者である。原告YTは昭和58年12月から昭和61年12月にかけて、住戸と店舗の双方を所有しており、住戸と店舗との間に管理費等の金額に格差があることを認識していたというべきである。また、原告YNは、被告との間の過去の裁判手続きにおいて、18年決議が有効であり、原告YNが改定後の修繕積立金の支払い義務を負う旨の判決を受けた。

(オ)原告㈲TBHは、平成9年1月21日、本件店舗(106)の区分所有権を取得したが、原告㈲TBHは、23年決議のほか、平成20年3月30日に開催された総会において行われた18年決議をあらためて信任する旨の決議においても、賛成票を投じた。

(カ)原告MMは、平成17年1月、本件店舗(113)の区分所有権を取得したが、18年決議において賛成票を投じておきながら、改定後の修繕積立金を支払わなかったため、被告がその支払いを求める訴えを提起したところ、その裁判上の和解において、18年決議に従い、改定後の修繕積立金を誠実に支払う旨を確約した。

(キ)原告㈲KCMは、平成13年1月、本件店舗(114,115)の区分所有権を取得したが、18年決議及び23年決議のほか、平成20年3月30日に開催された総会において行われた18年決議をあらためて信任する旨の決議においても、賛成票を投じた。

(ク)原告㈱SEは、昭和59年7月、本件店舗(119)の区分所有権を取得した。取得当時の代表取締役であるSIは、昭和61年、本件マンションの管理組合の役員に就任し、店舗代表として、自家用受変電設備に関わる事項について取りまとめていたのであり、また、本件マンションの住戸及び店舗の売買の仲介業務に携わっていた。平成13年10月、SN氏がその代表取締役に就任したが、18年決議おいて賛成票を投じた。平成20年3月30日に開催された総会において行われた18年決議をあらためて信任する旨の決議には、反対票を投じたものの、その後、平成23年7月12日、被告との間の裁判上の和解において、同日までの総会決議が有効に成立したこと認め、その効力を争わなおことを確約した。そして、その後に行われた23年決議において、賛成票を投じた。

(ケ)参加人STは、一級建築士であり、平成13年8月、自らが代表取締役を務めるS設計事務所において本件店舗(117)の区分所有権を取得し、自らが代表取締役を務める㈲FRCがその店舗を使用していた。そして、平成5年3月、住戸(605)の区分所有権を取得したのであり、住戸と店舗との間に管理費等の金額に格差があることを認識していた。また、参加人STは、平成16年に被告の監事に就任し、18年総会においては、監事の立場で決算報告、監査報告を行い、18年決議に監事として賛成した。

(コ)原告YSは、平成18年1月6日付けで、参加人STが代表取締役を務めていた㈲FRCの代表取締役に就任した者である。原告YS及び原告YMは、平成18年6月、参加人STが代表取締役を務めるS建築設計事務所から本件店舗(117)の区分所有権を取得したが、23年決議のほか、平成20年3月30日に開催された総会において行われた18年決議をあらためて信任する旨の決議に賛成票を投じた。

(原告ら及び参加人らの主張)

原告らは、管理費等について、住戸と店舗との間で約2.45倍もの格差があることを知らないまま、その支払いをしてきたものであり、原告らが被告に対して管理費等の不当利得返還請求及び本件規約部分の無効確認請求をすることは、信義則違反又は権利濫用に当たるものではない。

仮に、原告らが上記格差の存在を認識していたとしても、原告ら及び参加人らは、法律的専門能力を有するものではなく、その格差を定める本件規約部分が区分所有法30条3項、民法90条に反して無効であり、住戸の管理費等を超える額の管理費等の支払いが法律上の原因を欠くことまでは認識していなかたことは明らかである。

なお、被告が、原告らの個別の事情に基づく信義則違反又は権利濫用の主張及びこれらの主張を裏付ける証拠として提出された乙68~72号証は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

前期前提事実に証拠(甲2~5,7、9~17、29、32、33、39、40、59、60、63、乙1、3~5、8の1~3、乙10~16、20の1~10、乙21の1~4、乙23、26、58、66、証人OS、被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1)本件マンションの概要

本件マンションは、敷地面積1584.61平方メートル、延べ床面積9044.03平方メートル、地下1階地上9階建て、専有部分144戸(住戸124戸、店舗19戸及び児童館1戸)とするマンションである。1階に店舗が集中的に配置され、道路に面して9店舗、マンション内部の中通路に面した両側に10店舗が入るようにされており、2階の一部には児童館が、2階~9階には住戸がある。

本件マンションの分譲をした丸善建設においては、本件店舗を小売業者に分譲し、ショッピングゾーンを形成することが計画されていたが、実際に本件店舗に入居したのは、喫茶店、不動産会社、スナック店、飲食店、理容店、整形外科・リハビリ科、保険代理店、マッサージ店、印刷関連会社、建築設計事務所などであった。

(2)本件マンションの管理費等に関する状況

ア 分譲時の状況

(ア)本件マンションは、佐藤工業㈱によって施工され、丸善建設によって昭和56年3月頃に分譲が開始された。丸善建設は、分譲開始に当たり、原始規約(乙6)及び価格表(重要事項説明書添付のもの、乙4)を作成した。

参加人OSは同年8月頃まで、丸善建設において、営業担当従業員として勤務しており、本件マンションの分譲についても、宅地建物取引主任者として携わり、その際には、原始規約や価格表にも目を通していた。

本件マンションは、昭和57年2月頃に竣工し、分譲を受けたものに対して、順次引き渡され、入居が開始された。

(イ)本件マンションの各区分所有者は、昭和56年ころから昭和59年頃まで、T・N・Sサービス㈱との間で、本件マンションに係る管理委託契約を締結していたが、その管理委託契約に係る契約書(乙5、10、12、14)には、専有部分の建物(住戸及び店舗)の各タイプに応じた管理費等の月額が記載されていた。

その記載内容は、タイプK、N,O,Zの住戸以外は、価格表(乙4)に記載された額と同じものであり(タイプK、N,O,Zの住戸の管理費は、手書きで修正が施されていた。)、住戸と店舗の専有面積1平方メートル当たりの管理費等の格差は、約2.45倍であった。

(ウ)原告らを含む本件マンションの区分所有者らは、本件マンションの区分所有権を取得して以降、上記の格差を前提とした管理費等の支払いをした。

(エ)本件マンションの管理については、昭和60年頃から、本件マンションの区分所有者らによって組織された、被告の前身である本件管理組合が、直接これを行うようになった。

イ 平成13年規約等

(ア)平成13年、Oが本件管理組合の理事長に就任した。Oは、同年、13年規約(甲2)を作成し、総会での承認決議を経た後、これを本件マンションの各戸に配布した。以降、管理組合の運営は、13年規約に基づいて行われていた。

13年規約35条2項は、管理費等の金額について、「各区分所有者の共有持ち分に応じて算出する」と規定し、57条は、「各区分所有者の共用部分は、その所有する専有部分の割合によるもので、その範囲の限界は、各区分所有者の不動産登記法に準ずるものとする」と規定している。

(イ)13年規約が作成された後も、管理費等の金額に変化はなく、原告らを含む本件マンションの区分所有者らは、上記の格差を前提とした管理費等の支払いをした。

ウ 18年決議の経緯等

(ア)平成16年5月7日、被告が設立され、本件管理組合の権利義務を承継した。被告は、

平成17年頃、ダイワード㈱に本件マンションの管理を委託した。

(イ)被告の理事長(IT)は、平成18年4月28日、被告の組合員に対し、18年総会の招集通知をした。

上記の招集通知と共に被告の組合員に対して送付された「第23期定期総会議案書」(甲4、乙20の2。以下「18年決議」という。)には、第3号議案として、「長期修繕計画表に基づく修繕積立金改定及び駐車場使用料改定に関する件」という記載がされるとともに、修繕積立金について長期修繕工事のために当時の修繕積立金の12.5倍に増額することを提案する旨が記載されていた。そして、①「長期修繕計画表(案)」(甲5、乙20の5)、②大規模修繕工事(工事費用約2億2000万円)のためには修繕積立金の増額が必要である旨が記載されたダイワード㈱作成の「大規模修繕工事に向けて」と題する書面(乙20の7)、③管理費等について住戸と店舗とで専有面積1平方メートル当たり約2.45倍の格差を残したまま、修繕積立金の額を当時の修繕積立金の額12.5倍とする旨が記載された「駐車場使用料及び修繕積立金改定一覧表」(甲9、乙20の6)がそれぞれ添付されていた。

また、18年議案書には、第6号議案として、「当マンション管理規約変更」という記載がされるとともに、標準管理規約の変更に伴い、本件マンションの管理規約の変更について審議する旨が記載され、④18年規約の原案となる「サンロードダイヤモンドマンション管理規約(案)」(乙1、20の9)が添付されていた。

(ウ)平成18年5月14日、18年総会が開催され、上記第3号議案については普通決議の要件を充たし、また、上記第6号議案については全員一致により、それぞれ可決する旨の18年決議がされた。そして、同月20日頃、「駐車場使用料及び修繕積立金改定一覧表」が添付された18年総会の議事録(甲7)が各戸に配布された。

18年決議においては、原告らのうち、原告HC,原告MM、原告㈲KCM、原告㈱SEが賛成票を投じ、原告YN及び原告㈲TBHは欠席した(なお、原告KT,原告㈱APR、原告YT、原告医療法人S、原告NS、原告YS,原告YM及び原告STは、18年総会の当時、本件マンションの専有部分の区分所有者ではなく、18年総会の招集通知受領者ではなかった。)。

(オ)18年決議の後、本件マンションの区分所有者らは、従来の12.5倍の金額の修繕積立金を支払うようになったが、管理費等に係る住戸と店舗の格差に変化はなく、原告らを含む本件マンションの区分所有者は、引き続き、住戸と店舗とで約2.45倍の格差のある管理費等の支払いを続けた。

(カ)18年決議により、平成18年5月14日、18年規約(乙16)が本件マンションの管理規約として発効した。

18年規約25条2項は、「管理費の額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出するものとする」と規定し、10条は、「各区分所有者の共有持ち分は、その所有する専有部分の割合によるもので、その範囲の限界は、各区分所有者の不動産登記法に準ずるものとする」と規定している。

エ 20年決議の経緯

(ア)被告の理事長(SK)は、平成20年3月25日、被告の組合員に対し、第25期定期総会(以下「20年総会」という。)の招集通知をした。

上記招集通知とともに被告の組合員に対して送付された「通常総会上程議案説明書」(甲11)には、第4号議案(1)として、「第23期定期総会の修繕積立金ついての決議の信任について」と記載されるとともに、その提案理由として、修繕積立金を改定する18年決議に対して一部の組合員から決議無効確認訴訟が提起されているところ、その早期解決のため、18年決議が有効であったことの信任を求める旨がきさいされていた。

(イ)平成20年3月30日、20年総会が開催され、上記議案について普通決議の要件を充たし、これを可決する旨の決議(以下「20年決議」という。)がされた。

20年決議においては、原告らのうち、原告KT、原告㈱HC、原告㈲TBH、原告YS、原告YM、及び㈲KCMが賛成票を投じたが、原告YN、原告MM、原告㈱SEは反対票を投じた(なお、原告㈱APR、原告YN、原告医療法人S、原告NS、原告STは、20年総会の当時、本件マンションの専有部分の区分所有者ではなく、20年総会の招集通知受領者ではなかった。)。

(ウ)被告は、東京地方裁判所に対し、上記反対票を投じた原告YN、原告MM、及び原告㈱SEを相手方として、滞納した管理費等の支払い等を求める訴えを提起した。

原告MMは、平成21年11月25日、被告との間で、18年決議に従い、18年決議による改定後の修繕積立金を誠実に支払うことを確約する旨の裁判上の和解をし、原告㈱SEは、平成23年7月12日、被告との間で、和解成立時点までの被告の総会決議が有効に成立したことを認めその効力を争わないことを確約する旨の裁判上の和解をした。

また、東京地裁は、平成22年4月13日、原告YNに対し、18年決議が有効であることを確認したうえで、18年決議に基づいて算出された管理費等を支払うことを命じる旨の判決を言い渡した。

オ 23年決議の経緯

(ア)被告の理事長(SK)は、平成23年10月24日、被告の組合員に対し、23年総会の招集通知(甲13、乙21の1)をした。

上記招集通知には、第1号議案として、「管理規約全面改正案承認の件」との記載がされ、①「臨時総会上程議案説明書」(甲14、乙21の2)、②「管理組合法人規約集」(本件規約集。甲17、乙21の3)、③「管理規約改正(案)新旧規約比較対照表」(本件対照表。甲15、乙21の4)等の資料が添付されていた。

上記招集通知に添付された本件規約集は、23年総会決議が承認された場合の改正後ん規約を掲載したものであり、27条2項として、「管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出した別表第4の金額とする。」との記載がされるとともに、本件別表第4が掲げられ、それに記載された各戸の管理費等の額は、住戸と店舗との間で、専有面積1平方メートル当たり、約2.45倍の格差があるものとなっていた。

上記招集通知に添付された本件対照表の「改正案(改正後)」欄には、27条2項として、「管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出した別表第4の金額とする。」との記載がされていたが、これには、本件別表第4が添付されていなかった。

また、上記招集通知には、「臨時総会出欠席用紙」(乙21の6)が添付されていたが、欠席の場合は、その「委任状」欄または「議決権行使」欄に記入することを求める記載がされるとともに、当該「委任状」欄には、「議決権行使の一切」を議長又は組合員が指定する受任者に対して委任する旨を記載する箇所が設けられ、受任者が未記入か明確でない場合には、議長に委任とみなす旨が記載され、「議決権行使」欄には、各議案について賛成又は反対を記載する箇所が設けられていた。

(イ)平成23年11月6日、23年総会が開催された。23年総会においては、上記の第1号議案について、当時の副理事長であったTHにおいて本件対照表に記載された新規定を読み上げる形で議案説明がされた後、特別決議の要件を充たして可決する旨の23年決議がなされた。

23年決議については、原告KT、原告㈱APR、原告㈲TBH、原告MM、原告NS、原告YS、原告YM、原告㈱SE、及び原告㈲KCMが賛成票を投じ、原告YNは、欠席をしたものの、上記議案に対し、反対票を投じることは無かった(なお、原告㈱HC、原告YT、原告医療法人S、原告ST及び参加人らは、23年当時、本件マンションの専有部分の区分所有者ではなく、平成23年総会の招集通知受領者ではなかった。)。

(ウ)23年決議により、平成23年11月6日、23年規約(甲17、乙21の3)が本件マンションの管理規約として発効した。

23年規約27条2項は、「管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出した別表第4の金額とする。」と規定し、同条2項は、「前項の床面積の計算は、壁芯計算(界壁の中心線で囲まれた部分の面積を算出する方法をいう。)によるものとし、その床面積は別表第4が掲げるとおりとする。」と規定している。

(エ)その後日、原告㈱APRの代理人として23年総会に出席していた参加人OSは、被告に対し、23年規約に前記の格差が存在することについて、抗議した。

 

2 争点1について

(1)区分所有法19条は、「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」と定めるところ、前記認定事実によれば、本件マンションにおいては、昭和56年頃の分譲時以降一貫して、店舗所有者から、専有面積1平方メートル当たり、住戸所有者の約2.45倍の管理費等を徴収していたことが認められる。

そこで、平成14年5月分から平成23年11分までの間の管理費等の徴収について、同条所定の「別段の定め」に基づいて行われたものか否かについて、以下検討するに、前記認定事実によれば、本件マンションにおける管理費等については、①平成13年頃、13年規約(甲2)35条2項により、「各区分所有者の共有持ち分に応じて算出する。」と規定され、②平成18年5月14日からは、18年規約(乙16)25条2項により、「管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出する。」と規定され、③平成23年11月6日からは、23年規約(甲17、乙21の3)27条2項により、「管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出した別表第4の金額とする。」と規定されたことが認められる。

以上の事実によれば、平成14年5月分から平成23年11月分(同年10月28日支払期限の分)までの管理費等については、本件マンションの管理規約において、区分所有法19条所定の「別段の定め」はなかったが、平成23年12月(同年11月28日支払期限分)以降の管理費等については、23年規約の発効により、上記「別段の定め」が設けられたものと認めるのが相当である。

したがって、平成14年5月分~平成23年11月分までの管理費等については、区分所有法19条に違反するものであると言わざるを得ない。

(2)これに対し、被告は、原始規約13条1項が区分所有法19条所定の「別段の定め」に該当することを前提に、13年規約35条2項は、総会の決議を経ておらず、平成13年に各戸に印刷物として配布され、区分所有者らが有効な管理規約であると誤信していたものにすぎないから、無効であるとし、平成14年5月分以降も、引き続き原始規約が適用される旨を主張する。

確かに、乙18号証によれば、平成16年12月ころ、被告の理事長名義で作成されたと思われる「臨時総会開催のお知らせ」と題する文書が存在し、その中には、第3号議案として「現行管理規約承認の件」という記載がされるとともに、13年規約について、既に配布し、実際に同規約で管理組合を運営しているものの、正式に管理組合総会の認証の手続きをとっていないため、改めて承認して頂きたい旨が記載されていることが認められる。

しかし、上記文書は、その体裁に照らし、案文段階のものと認められる上、乙19号証及び弁論の全趣旨によれば、上記第3号議案は、議案から外され、同議案についての審議及び決議が行われなかったものと認められるところであり、上記「臨時総会再開催のお知らせ」と題する文書の記載から、直ちに13年規約35条2項が総会の決議を経ていないものであるということはできない。

かえって、本件管理組合の初代理事長を務めたNが作成した陳述書(甲39)には、自らの後任として理事長に就任したOが13年規約を作成し、これについて総会での承認決議が行われた旨の記載があり、また、証拠(甲30、31、乙19)及び弁論の全趣旨によれば、13年規約が作成された後、本件マンションの運営は、同規約によって行われていたことが認められる一方、平成17年5月29日に開催された平成16年度定期総会までの間に、13年規約が変更されたり、新たな規約が定められたりしたことなく、むしろ、平成16年度定期総会においては、13年規約が有効な現行管理規約であることを前提として、その一部を変更する内容の議案(役員の定数削減)が審議、決議されていることがうかがわれるところである。これらの事情を併せみれば、13年規約は、本件管理組合の総会の承認手続きを経て制定されたものであり、被告の規約として有効なものであると認めるのが相当である。被告の上記主張は、採用することはできない。

(3)また、被告は、18年規約25条2項については、誤ってマンション標準管理規約(単棟型)と同じ文言が用いられたものにすぎず、18年総会において、店舗と住戸のタイプに応じて設定された管理費等の額を前提とする修繕積立金の改定決議(本件増額決議)がされていること等に照らせば、18年規約の管理費等の額が従前と同様、店舗と住戸のタイプに応じて設定された額によることを前提にしていたことは明白であり、18年規約によって、区分所有法19条所定の「別段の定め」が設けられた旨を主張する。

そこで検討するに、管理費等の金額について、住戸と店舗で格差を設ける「別段の定め」を設定することは、管理規約の変更に当たるというべきであるところ、甲第2号証によれば、被告の規約として有効であると認められる13年規約23条3項1号は、管理規約の変更にについては、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上の賛成(特別決議)を必要とする旨を定めており、管理規約の変更には、特別決議を要するものであったことが認められる(実際にも、18年総会においては、本件マンションの管理規約を18年規約に変更することを内容とする第6号議案については、特別決議が行われている。)。しかるに、前記認定事実によれば、18年総会において決議された本件増額決議は、修繕積立金を従前の12.5倍に改定するとの議案を普通決議事項として可決したものにすぎないものであり、本件増額決議については、「別段の定め」を設定するなど、管理規約の内容を変更することを目的として行われたものではなく、その効果を生じるものでもないというべきである。

そうすると、本件増額決議の存在を理由に、18年規約によって、区分所有法19条所定の「別段の定め」が設けられたと認めることはできず、被告の上記主張は、採用することができない。

(4)なお、既に判示したとおり、13年規約は、被告の規約として有効なものであると認められるころ、原告らが本件訴えにおいて求めているのは、平成14年5月分以降の管理費等に係る不当利得の返還であるから、分譲時に作成された原始規約(乙6)が有効であるか否かについては、判断を要しない。

 

3 争点2について

(1)前記認定事実によれば、本件マンションにおいては、昭和56年頃の分譲時以降一貫して、店舗所有者から、専有面積1平方メートル当たり、住戸所有者の約2.45倍の管理費等を徴収しているところ、23年規約には、上記管理費等に係る店舗と住戸との間の格差を定めた本件規約部分が存在し、平成23年12月分以降の管理費等については、本件規約部分を区分所有法19条所定の「別段の定め」として、これに基づいて徴収されていたものと認められる。

そこで、本件規約部分が無効であるといえるかどうかについて判断する。

(2)本件規約部分の無効事由1(23年総会に係る手続きの区分所有法35条5項違反)について

原告ら及び参加人らは、23年総会の招集通知に添付されていた本件対照表に本件別表第4が添付されておらず、上記招集通知及びこれに添付された議案説明書にも、店舗と住戸との間で管理費等に格差を設けることについて言及した説明が付されておらず、本件規約集と議案との関係が示されていなかったとして、23年総会の招集手続きが区分所有法35条5項に違反する旨を主張する。

しかし、前記認定事実によると、本件対照表自体には本件別表第4が添付されていなかったものの、23年総会の招集通知には、本件対照表に加えて、23年総会で改正が承認された場合の改正後規約が掲載された本件規約集も同封されており、本件規約集には、別表第4が添付されていたことが認められる。

また、前記認定事実及び証拠(甲13~15、17、乙21の1~4)によれば、23年総会の招集通知や議案説明書には、住戸と店舗とで、専有面積1平方メートル当たり約2.45倍の格差がある管理費等を定める旨が明確な形では示されていないものの、上記招集通知には、第1号議案として「管理規約全面改正承認の件」と記載され、管理規約全体が改正の対象となっていることが示されていること、本件対照表の「改正案(改正後)」欄の27条2項には、「管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出した別表第4の金額とする。」と記載され、下線のひかれた別表第4の部分が改正対象となっている旨が示されていること、本件対照表と本件規約集とを比較すると、本件規約集が改正後の規約を掲載したものであることを容易に認識し得るものであること、本件別表第4には、店舗部分と住戸部分の管理費等の金額が全て記載され、その金額から格差の算出自体が可能であることが認められる。

以上の事実関係に照らすと、23年総会の招集手続きにおいて、本件規約部分改正についての議案の要領の通知がなかったということはできず、23年総会の招集手続きが区分所有法35条5項に違反する旨の原告ら及び参加人らの上記主張は、採用することができない。

(3)本件規約部分の無効事由2(23年総会に係る手続きが区分所有法31条51項違反)について

ア 特別の影響について

区分所有法31条1項は、「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」と規定するところ、同項後段にいう「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益等を比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。管理費等の負担割合に格差を定める規約の変更についていえば、当該格差の設定は、負担割合の大きい区分所有者に対して一般的に不利益を  及ぼすものであるが、当該格差を設定することの必要性及び合理性が認められ、 かつ、当該格差に係る負担が当該区分所有関係において社会通念上相当と認められる場合には、当該規約の変更は、「特別の影響」を及ぼすものでないというべきである。また、当該格差の設定がそのままでは社会通念上相当とは認められない場合で あっても、その範囲内の一定の格差の設定をもって社会通念上相当と 認めら れる場合には、その限度で、「特別の影響」を及ぼすものではないと解するのが相当である。そして、上記格差が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情を総合的に考慮して判断すべきものである(最高裁平成8年(オ)第258号同10年10月30日第二小法廷判決・民集52巻7号1640号参照)。

そこで、本件規約部分が原告らに対して「特別の影響」を及ぼすものか否かについて。

(ァ)前期認定事実によると、本件マンションは、地下1階地上9階建ての店舗部分及び住戸部分からなるマンションであり、店舗については、1階に集中的に配置され、道路に面して9店舗、マンション内部の中通路の両サイドに面する形で10店舗が入る構造となっており、このような構造から、本件マンションの共用部分として、店舗の商業活動に伴う顧客等が利用するための出入口や中通路が設けられて

いることが認められる。そして、証拠(甲80の2、乙23、33の1~4、乙34、36~38、44、46の1~5、乙47、48)及び弁論の全趣旨によれば、本件マンションについては、店舗部分に関し、以下の事情が認められる。

a 防火設備について

1階店舗には、中通路にしか面していない店舗が存在しており、同店舗については、避難経路を確保する必要があるほか、建築基準法及び消防法上、中通路に店舗用の防火用シャッター等を設置することが義務付けられているため、電動の防火用シャッターがそれぞれ設置されている。

また、本件マンションの分譲当時は、法律上、店舗のみに自動火災感知器の設置が義務付けられており、そのため、各店舗には、共用設備として自動火災感知器が設置され、1階管理事務所に設置された自動火災報知機(共用設備)及び防火用シャッターと連動する仕組みとなっている(なお、住戸についても、その後、自動火災感知器(報知器)の設置が義務付けられるようになったが、これらについては、各住戸が自費で購入、設置している。)。

これらの防火シャッター・火災警報設備については、法律上義務付けられた点検を定期的に実施し、設備を維持修繕する必要がある。

b キュービクル設備(電気計器子メーターを含む。)について

本件マンションには、受変電設備として、東京電力株式会社所有の高圧断路器と被告が管理する高圧自家用変圧器(キュービクル)が設置されており、前者を住戸が、後者を店舗が利用している(ただし、キュービクルは、1階共用部分等のためにも利用されている。)。

上記キュービクル設備については、その点検のため、本件マンションの竣工時から平成16年までは年間約60万円、平成17年以降は年間約31万円の費用が発生している。また、その修繕・交換費用として、平成20年の工事の際、合計143万8500円が支出されている。

c 店舗前敷地(犬走り)について

店舗前敷地は、共用部分ではあるが、主に各店舗の出入口として利用されている。

また、店舗所有者の中には、同敷地上にエアコンの室外機を設置している者がいるところ、平成23年1月ころ、店舗所有者が長年にわたり店舗前敷地にエアコンの室外機等を設置していたことから、店舗前敷地の床部分の陥没や、約24箇所にわたる合流枡(雨水枡・排水升)・点検口の開閉不良が確認されたため、陥没部分補修工事及び合流枡点検口更新工事が行われ、その費用として165万円(税込み173万2500円)が支出された。

d 看板等の設置について

店舗所有者は、その店舗の営業目的のために、本件マンションの建物の壁面又は敷地の一部に看板等を設置しているが、その使用料は徴収されていない。

また、店舗所有者の中には、上記看板を容易に取り外しのできない態様で設置している者がいたため、必要な外壁下地補修工事ができなかったことがあった。

e 店舗に使用されることによる諸問題

各店舗の営業活動のために、本件マンションの1階部分や店舗前敷地が各店舗に専用的に使用され、あるいは、本件マンションの外周等に看板等が設置されることにより、①住戸所有者がマンションの外観に係る美観・イメージの低下や、店舗前敷地を店舗利用者に通行させることを容認することが必要になること、②不特定多数人の出入りによる安全・防犯リスクが増大し、防犯カメラの設置等の対策が必要となること、③多数の者の利用に伴い、共用部分である中通路、店舗前敷地、ピロティ、店舗用出入口等について、住戸専用のマンションに比して損耗・劣化の度合いや清掃の必要性が高くなり、住戸専用マンションと比較して、点検維持管理費用、補修・修繕費用等も高くなること、④店舗の営業活動に伴い、騒音等の問題が生じること、⑤飲食店等店舗については、臭い、煙、害虫の発生等の衛生面の問題も生じることが容易に想定され得る。

(イ)以上によると、本件マンションにおいては、住戸専用のマンションと比較して、店舗部分が存在すること特有の設備の維持管理や修繕に関する費用負担が生じていることが認められるほか、住戸所有者の受忍の下に、店舗所有者が営業上の利益を得ていることが認められ、これらの事情に照らすと、店舗所有者と住戸所有者の管理費等の負担割合について、一定の格差を設けること自体については、その必要性及び合理性が認められるものというべきである。

しかしながら、他方、前期認定事実によれば、本件マンションについては、その店舗部分に実際に入居している店舗の業種は、喫茶店、不動産会社、スナック店、飲食店、理容店、整形外科・リハビリ科、保険代理店、マッサージ店、印刷花蓮会社、建設設計事務所などであり、ショッピングセンターのように非常に多くの顧客が訪れることまでは想定し難いこと、本件マンション全体の長期修繕計画として想定されている費用の規模(平成18年当時で約2億2000万円)に照らすと、店舗特有の設備等の維持管理や修繕費用部分の割合は、本件マンション全体の維持管理にかかる費用の大きな部分を占めるものとまではいい難いこと、本件マンションには、エレベーターや2階より上の階の廊下・通路、給水設備等、主に住戸部分の所有者が利用する設備も存在しており、それらについても、保守点検や清掃等の特有の費用の発生が想定されることが認められる。これらの事情に照らせば、店舗に少なくとも住戸の2倍以上の管理費等の負担を課すことについては、その合理的な理由を見い出すことができないといわざるを得ず、社会通念上相当であると認めることはできない。他に上記判断を覆すに足りる事情は見当たらない。

したがって、本件規約部分のうち、少なくとも店舗の管理費等の専有面積1平方メートル当たりの額を住戸のそれの平均額の2倍を超える額と定める部分については、店舗所有者である原告らに「特別の影響」を及ぼすものであり、その承諾が必要であると解するのが相当である。

イ 原告らの承諾の有無について

そこで、原告らの承諾の有無について検討するに、前期認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件規約部分を定めた23年決議については、原告KT、原告APR(参加人OSが代理人として出席。)、原告㈲TBH、原告MM、原告NS、原告YS、原告YM、原告㈱SE及び原告㈲KCMが賛成票を投じたこと、原告YNは欠席したものの、上記決議に明確に反対票を投じていないことが認められ(なお、原告YNが反対票を投じたものに議決権の行使を委任したと認めることもできない。)、原告㈱HC、原告YT、原告医療法人S、原告S及び参加人らは、23年総会の招致通知受領者ではなかったことが認められる。これらの事実によると、23年総会において、本件規約部分を定めることについては、原告らのうち、特別の影響を受ける者としてその承諾が必要とされる者全員の承諾があったものと認めるのが相当である。

なお、本件規約部分を決議するに当たり、原告ら区分所有者らに対し、管理費等について本件別表第4の内容が定められることが事前に通知されていたことは、前記(2)において判示したとおりであり、上記承諾も、上記変更が行われることを認識した上でされたものと評価すべきである。

したがって、本件規約部分のうち原告らに「特別の影響」を与える部分についても、原告らの承諾があったものと認められる。

ウ 以上によれば、本件規約部分が区分所有法第31条1項後段に違反して定められた無効なものであるということはできない。

(4) 本件規約部分の無効事由3(区分所有法30条3項、民法90条違反)について

区分所有法30条3項は、管理費等の負担を始めとする区分所有者相互間の事項に関する規約は、「 区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない」と想定しているところ、管理費等に関する規約のうち区分所有者間の利害の衡平を害する部分については、同項及び公序良俗(民法90条)に反し、無効であるというべきである。

そこで、管理費等の金額につき店舗と住戸で約2.45倍の格差を設ける本件規約部分が、区分所有者間の利害の衡平を害するものといえるかどうかについて検討するに、前記認定事実によれば、本件マンションにおいては、分譲当時から、店舗部分と住戸部分の管理費等には約2.45倍の格差が設けられていたことが認められるものの、マンションの分譲を行っていた丸善建設が、具体的にいかなる根拠に基づいて上記格差を設定したのかについては、これを明確に示す根拠はない。

しかし、本件規約部分の無効事由2に係る判断において判示したとおり、本件マンションにおいて、店舗と住戸から徴収する管理費等に一定の格差を設けること自体については、その必要性及び合理性が認められる一方、店舗に対し、少なくとも住戸の2倍以上の管理費等の負担を課すことには合理的な理由を見出すことができないというべきである。

したがって、本件規約部分のうち、少なくとも店舗の管理費等の専有面積1平方メートル当たりの額を住戸のそれの平均額の2倍を超える額と定める部分については、本件マンションの共用部分の利用状況等の事情に照らし、区分所有者間の衡平を害するものといわざるを得ず、区分所有法30条3項、民法90条に反し、無効であるというべきである。

なお、原告ら及び参加人らは、被告が、店舗所有者から過剰に管理費等を徴収し、これを修繕積立金に振り替えて、できる限り多くの修繕積立金を蓄えるために本件規約部分を導入した旨を主張するが、これらの事情を認めるに足りる証拠はなく、採用することができない。そのほか、前記認定に反する当事者双方の主張についても、採用の限りではない。

(5) 本件規約部分の無効事由4(法律行為の特定性の欠如)について

原告ら及び参加人らは、本件規約部分は、管理費等を定める規約本文(23年規約の27条2項)と本件別表第4の内容が矛盾しており、法律行為として特定性を欠くから、無効である旨を主張する。

しかし、本件別表第4の内容は、店舗所有者と住戸所有者との間の負担割合には格差が存在するものの、店舗所有者間及び住戸所有者間においては、区分所有者の共有持分の基礎となる各区分所有者の専有面積の割合に応じて管理費等が定められているものであるから、本件規約部分の本文と本件別表第4の内容が矛盾するものとまではいえず、原告ら及び参加人らの上記主張は、採用することができない。

(6) 以上によれば、本件規約部分のうち、少なくとも店舗の管理費等の専有面積1平方メートル当たりの額を住戸のそれの平均額の2倍を超える額と定める部分については、無効であると認めるのが相当である。そして、被告の原告らに対してした平成23年12月分~平成24年3月分の管理費等の徴収は、専有面積1平方メートル当たりの額が住戸の管理費等の平均額の2倍を超える分について、区分所有法19条所定の「別段の定め」を欠くことになり、同条に違反するものというべきである。

4 争点3について

(1) 以上判断したところによれば、被告の原告らに対してした平成14年5月分~平成23年11月分の管理費等の徴収は、原告らが支払った管理費等のうち住戸の管理費等との差額について、被告がこれを保有する法律上の原因が無く、不当利得に当たるというべきである。また、被告の原告らに対してした平成23年12月分~平成24年3月分の管理費等の徴収は、専有面積1平方メートル当たりの額が住戸の管理費等の平均額の2倍を超える分について、被告がこれを保有する法律上の原因がなく、不当利得に当たるというべきである。

(2) ところで、原告らは、被告の不当利得の額について、本件マンションの重要事項説明書(甲22)に記載された共有部分の持分比率を前提に、これを算出するべき旨を主張している。

しかし、前記認定事実及び証拠(甲22、乙3)並びに弁論の全趣旨によると、本件マンションの重要事項説明書は2通存在することが認められるところ、両書面に記載された各区分所有者の持分割合は異なっているのであり、原告が前提とする共有部分の持分比率が正しいものであると認めることはできない。このような事情に加え、本件マンションにおいては、分譲後一貫して店舗部分と住戸部分とを区別せず、各区分所有者の専有面積の割合により管理費等を算出し、これを徴収してきたものであること、23年規約によると、各区分所有者の共有持分も、結局は総専有面積に対する専有面積の割合により算出されるものであることに照らすと、本件においては、住戸所有者の専有面積1平方メートル当たりの平均額(管理費について月額158円、平成18年7月分までの修繕積立金について月額15.8円、平成18年8月分以降の修繕積立金について月額197円)を基準として、被告の不当利得の額を算出するのが相当である(なお、住戸部分間においても、管理費等には格差があるものの、原告らの本件請求の内容に照らすと、住戸部分の管理費等の平均額を過払金額算出の基礎とすること自体については、原告らも承認しているものと認められる。)。

そうすると、被告の不当利得の額は、別紙1「許容額計算書」の「合計過払額」欄記載の各原告に対応する金額であると認められる。

5 争点4について

被告は、13年規約49条4項、18年規約60条5項、23年規約62条5項は、本件マンションの管理組合の組合員(区分所有者)が納付した管理費等についてその返還請求又は分割請求をすることができない旨を定めていることから、特別悪質な徴収等の場合を除き、原告らは、既に納付した管理費等について返還を請求し得るものではない旨を主張する。

しかし、上記の各規定は、管理組合の共有財産について、清算前の分割を禁止する趣旨の規定と解するのが相当であり、本件訴えにおける原告らの金銭請求は、被告の管理規約が無効であり、被告による管理費等の徴収が法律上の原因を欠くことを理由とする不当利得返還請求であるから、何ら上記の各規定の趣旨に反するものではなく、上記の各規定をもって、その請求を妨げることはできないものというべきである。

したがって、被告の上記主張は、採用することができない。

6 争点5について

(1) 被告は、原告らは、既に管理費等に係る住戸と店舗との間の格差の存在を認識し、これまでその格差について何ら問題視することなく、管理費等の支払を続け

ていたにもかかわらず、平成23年11月以降になって、これを問題視するようになったものであることなどを指摘し、原告ら及び参加人らが被告に対して管理費等の不当利得返還請求及び本件規約部分の無効確認請求をすることが、信義則違反又は権利濫用に当たる旨を主張する。

(2)そこで検討するに、前記認定事実に(乙20の7、乙59の1及び2、乙60~65、証人OS,証人TH)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告は原告らを含む本件マンションの区分所有者に対し、総会議事録や広報誌を配布することにより、折に触れて、店舗部分と住戸部分の管理費等に上記の格差があるとの情報を伝達しており、被告のこのような活動により、原告らの中には、上記の格差を認識することが十分可能なものがいたこと、参加人OSについては、本件マンション分譲の仲介業務に携わり、上記の格差の存在を前提とした管理費等が記載された重要事項説明書や価格表に目を通していた上で、自らも本件店舗を購入しており、原告YN、原告MM,原告㈱SEについても、過去の裁判手続きにおいて、上記の格差を受任するような言動をしていたことが認められるが、前判示のとおり、平成14年5月分~平成23年11月の管理費等については、店舗と住戸の管理費等の格差について区分所有法19条所定の「別段の定め」が全くないままに徴収されたものであることに照らすと、平成14年5月分~平成23年11月の管理費等にかかわる原告らの請求については、上記事情を踏まえても、なお信義則違反又は権利濫用に当たることはできないものというべきである。

また、平成23年12月分~平成24年3月分の管理費等の徴収についても、本件規約部分のうち店舗の管理費等の負担額を住戸の管理費等の平均2倍を超える額と定める部分については、区分所有法30条3項、民法90条に違反しているのであるから、上記事情のみをもって、原告らの請求が信義則違反又は権利濫用に当たるということは困難であるというべきである。

しかしながら、前記認定事実及び本件規約部分の無効事由2について判示したところによれば、原告KT,原告APR、原告㈲TBH、原告MM,原告NS,原告㈱SE及び原告YN、は本件規約部分を定める23年総会決議について、店舗と住戸の管理費等について約2.45倍の格差を定める規約変更が行われることが招集通知により事前に通知されていたにもかかわらず、上記決議に賛成し、又は、明確な反対票を投じないまま欠席し、区分所有法31条1項後段の「承諾」をしたと認められる言動に及んでいるものである。このように、本件規約部分を定めることについて承諾をしたものが、同決議によって定められた本件規約部分の無効を主張するとともに、同規約部分の無効を前提とする管理費等の不当利得返還請求するという相矛盾する行動に出ることは、信義則に違反し、又は権利濫用に当たるものと言わざるを得ない。また、前記認定事実によれば、参加人OSは、原告APRの代理人として23年総会決議に参加し、賛成票を投じていることが信義則に反し、又は権利濫用に当たるものというべきである。

なお、上記判断において前提とした事情については、特に時機に後れたものであると認められたものではなく。その余の原告らの個別事情に基づく信義則違反又は権利濫用の主張及びこれらの主張を裏付ける証拠の提出について、それが時機に後れた攻撃防御方法として却下されるか否かは、上記判断を左右するものではない。

(3)したがって、①平成14年5月分~平成23年11月分までの管理費等の不当利得返還請求は、これを請求するいずれの原告についても信義則違反又は権利濫用に当たるということはできず、また、②平成23年12月分~平成24年3月分の管理費等に係る不当利得返還請求及び本件規約部分の無効確認請求は、平成23年決議に参加していない原告医療法人S、原告ST,及び参加人STについては信義則違反又は権利濫用に当たるということはできないが、原告KT,原告APR,原告㈲TBH、原告MM,原告NS,原告㈱SE,原告YN及び参加人OSについては信義則違反又は権利濫用に当たり、その請求をすることができないというべきである。

7 結論

以上によれば、原告ら及び参加人STの請求は、主文掲記の限度で理由があり、参加人OSの請求は、理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

 

東京地方裁判所民事第32部

認容額一覧表

所有者 番号 請求額 認容額
KT 101 ¥961,791 ¥893,809
(株)HC 102 ¥2,322,802 ¥2,322,802
(株)APR 102 ¥377,787 ¥262,719
YT 104 ¥137,709 ¥137,462
YN 104 ¥1,875,958 ¥1,787,284
(有)TBH 106 ¥1,725,109 ¥1,656,548
(株)HC 112 ¥1,729,297 ¥1,729,297
(株)エーピーアール 112 ¥281,242 ¥196,704
MM 113 ¥1,757,410 ¥1,677,844
(有)KCM 114 ¥2,291,177 ¥2,291,177
医療法人S 114 ¥103,052 ¥31,660
(有)KCM 115 ¥2,146,146 ¥2,146,146
医療法人S 115 ¥96,528 ¥29,952
NS 116 ¥579,168 ¥484,386
YS 117 ¥1,005,562 ¥1,005,562
YM 117 ¥670,375 ¥670,375
MY 117 ¥103,952 ¥32,304
(株)SE 119 ¥1,070,592 ¥1,041,180