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平成25年(ワ)第39号

原告 店舗組合員 14名

被告 SDマンション管理組合法人

第3準備書面

平成25年12月9日

東京地方裁判所

民事第32部3A係 御中

                 原告ら訴訟代理人 弁護士

第1  請求の趣旨の整理

1  訴状請求の趣旨のうち,

⑴ 1項は次のとおり変更する。

「被告は,原告らに対し,それぞれ別紙過払金計算書の合計過払額欄記載の各金員及びこれに対する原告有限会社Iにつき平成25年3月23日から,その余の原告らにつき平成24年6月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」

⑵ 2項及び3項は維持する。

2  平成25年3月8日付け「訴えの追加的変更申立書」「第1訴えの追加的変更の趣旨(追加する請求の趣旨)」のうち,

⑴ 1項は次のとおり変更する。

「被告は,原告ら(ただし,原告C,同有限会社I,同J及び同Kを除く。)に対し,別紙管理規約目録記載1の規約を同2の規約に変更する旨の被告平成23年11月6日付け総会決議が無効であることを確認する。」

⑵ 2項及び3項は取り下げる。

第2  請求の原因の整理

1  当事者

⑴       原告ら(ただし,原告株式会社B,同C,同有限会社I〔以下「原告I」という。〕,同J及び同Kを除く。)はいずれも,本件マンションの区分所有者であり,被告の組合員である。これらの原告が,本件マンションの区分所有者となり,被告の組合員となった日(甲2・第7条,乙16・第30条,甲17・第32条)は,本書面別紙過払金計算書の②欄記載のとおりである。

⑵       原告C,同I,同J及び同Kはいずれも,もと本件マンションの区分所有者であり,被告の組合員であった。これらの原告が,本件マンションの区分所有者となり,被告の組合員となった日は,本書面別紙過払金計算書の②欄記載のとおりである(甲42、甲43、甲47、甲48、甲50)。

これらの原告は,本件マンションの管理費及び修繕積立金(乙6・第13条では「補修積立金」、甲2・第35条では「修繕維持積立金」、乙16・第25条及び甲17条・第27条では「修繕積立金」の語が用いられている。以下、本書面では「修繕積立金」といい、これと管理費とを併せて「管理費等」という。)について,被告から,未払・滞納を主張されていない。

⑶ 原告株式会社B(以下「原告B」という。)は,もと本件マンション102号室及び112号室の区分所有者であり,被告の組合員であった。すなわち,原告Bは,平成23年1月31日,原告株式会社H(以下「原告㈱H」という。)との間の売買により,上記各号室について区分所有権を取得したが,その後,本件訴訟係属中の平成25年11月1日,上記売買を合意解除し,その効力を遡及的に失わせる旨合意した(甲41、甲45、甲53 ,甲54 )。

もっとも,かかる遡及効果は第三者たる被告に影響を及ぼさないので,原告Bと被告との間の管理費等に関する法律関係は従前どおりである。

⑷ 本件マンションの専有部分は,19戸の店舗,124戸の住戸及び1戸の施設(区立蓮沼児童館)の合計144戸で構成されているが,原告らが所有し又はもと所有していた専有部分はいずれも店舗である。

2  管理費等の負担に関する被告の管理規約の内容について

⑴ 平成14年5月1日時点における管理規約の内容について

ア 乙6について

(ア) M建設は,昭和56年ころ,乙6を作成したが,区分所有者の全員が乙6を管理規約として承認したことはなく,乙6が被告の管理規約として有効に成立したとはいえない(原告第2準備書面第3,1)。

(イ) 仮に乙6が有効に成立したと仮定しても,乙6が「各区分所有者は,『第5条の各区分建物の持分割合』に応じたタイプ別管理費(中略)を負担するものとする。」(第13条1項)と規定しているのは,区分所有建物のタイプごとに管理費の額を決定するにあたって,端数処理の関係で(例えば100円未満を切り捨てないし切り上げることにより),各区分所有者の負担する管理費の額が各区分所有者(各区分所有建物)の共有持分と完全には正比例しないことを許容したにとどまり,一共有持分あたりの管理費の額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差を設けることを許容したものとはいえない(原告第2準備書面第3,2)。

かかる格差が許容されないことは,管理費の10パーセント相当額とされている修繕(補修)積立金(乙6・第14条1項)についても同様である。

イ 甲2について

仮に乙6が有効に成立したと仮定しても,被告の総会は,平成13年ころ,管理規約を甲2に変更する旨の決議を成立させた(原告第2準備書面第1,4,同第3,4)。

甲2は,管理費等の額について,「各区分所有者の共有持分に応じて算出する。」(第35条2項)と規定している。

ウ 小括

(ア) よって,平成14年5月1日時点における被告の管理規約は,管理費等の額について,各区分所有者(各区分所有建物)の共有持分割合に応じたものであることを要求していた。これは,区分所有法19条の原則と同趣旨であり,同条の「別段の定め」はなかった。

(イ) 各区分所有者(各区分所有建物)の共有持分は,原告第2準備書面別紙持分比較表の「建物」「タイプ別土地・建物区分所有者持分比」「重要事項説明書(甲22)」「持分比率(万分率)」に記載のとおりである。

なお,国交省のマンション標準管理規約は各区分所有者の共有持分を規約別表に特定・明示しているにもかかわらず,被告は,その管理規約においてこれを特定・明示したことがなく,この態度は平成23年の甲17・別表4に至っても変わらなかった。

⑵ 平成18年5月14日時点における管理規約の内容について

ア 乙16について

被告の総会は,平成18年5月14日,管理規約を乙16に変更する旨の決議(以下「平成18年規約変更決議」という。)をした(甲3,甲4,甲7,乙16)。

乙16は,管理費等の額について,「各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。」(第25条2項)と規定している。

イ 修繕積立金増額決議との関係について

(ア) 被告の総会は,同日,修繕積立金を平成18年8月分(同年7月28日徴収分)以降12.5倍に改定する旨の決議(以下「修繕積立金増額決議」という。)をした。

(イ) 被告は,修繕積立金増額決議について,一共有持分あたりの修繕積立金の額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差が存することを前提とし,この格差割合を維持したままで修繕積立金を増額するものであると主張する。そのうえで,被告は,同一の総会において,一方で,かかる修繕積立金増額決議をしておきながら,他方で,平成18年規約変更決議をし,これによって,管理規約上,管理費等の額を各区分所有者(各区分所有建物)の共有持分割合に応じたものにしたとは考えられない旨主張する(被告準備書面⑵第5,2,⑴)。

(ウ) しかしながら,平成18年規約変更決議により乙16・第25条2項が設けられるまでは,この条項と同趣旨である甲2・第35条2項が効力を有していたのであり,同決議によって管理費等の負担割合に新たな変更が加えられたとはいえない。

しかも,一共有持分あたりの修繕積立金の額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差を設ける合理性を基礎づける事実はない。

したがって,仮に,修繕積立金増額決議が,一共有持分あたりの修繕積立金の額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差が存することを前提とし,この格差割合を維持したままで修繕積立金を増額するものであるならば,かかる修繕積立金増額決議は,合理的な理由もなく修繕積立金の金額の格差を更に拡大させるものであって,そのうち店舗に係る部分は無効といわざるをえない(原告第2準備書面第3,3。甲27,甲28)。

(エ) 以上のとおりであるから,平成18年規約変更決議により設けられた乙16・第25条2項の効力及び解釈が,修繕積立金増額決議の存在によって左右されることはない。

ウ 小括

(ア) よって,平成18年5月14日時点における被告の管理規約は,管理費等の額について,各区分所有者(各区分所有建物)の共有持分割合に応じたものであることを要求していた。これは,区分所有法19条の原則と同趣旨であり,同条の「別段の定め」はなかった。

(イ) 各区分所有者(各区分所有建物)の共有持分は,平成14年5月1日時点と同じであり,各区分所有者の共有持分を管理規約で特定・明示しないという被告の態度にも変わりがなかった。

⑶ 平成23年11月6日時点における管理規約の内容について

ア 甲17について

(ア) 被告の総会は,平成23年11月6日,管理規約を甲17に変更する旨の決議(以下「平成23年規約変更決議」という。)をした(甲13ないし甲16)。

甲17は,管理費等の額について,「各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出した別表第4の金額とする。」(第27条2項)と規定しており,「別表第4」は,一共有持分あたりの管理費等の額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差を設けることを内容としている。

(イ) 被告は,平成23年10月24日付けで,上記総会の招集通知をしたが(甲13),この招集通知には,上記格差を設けることについて何ら説明がなく(甲14),「別表第4」も添付されていなかった(平成25年3月8日付け「訴えの追加的変更申立書」第2,4)。

(ウ) 上記総会時点で区分所有者であった原告ら(すなわち,原告㈱H,同C,同I,同Lは除かれる。)は,管理規約上において管理費等の額を「別表第4」記載のとおりとすることを承諾していない。

原告Bは,上記総会終了後,「別表第4」の内容を精査し,住戸と店舗間の約2.45倍の格差を認識し,同月22日付けで,被告に対し,抗議の意思表示をした。その他の原告については,その後,原告Bからの指摘により,上記格差を認識するに至った(平成25年3月8日付け「訴えの追加的変更申立書」第2,4,⑴,⑵,原告第2準備書面第3,5)。

イ 小括

(ア) 以上のとおり,平成23年規約変更決議は,①招集手続に区分所有法35条5項違反(議案の要領の不通知)という重大な瑕疵があること,②上記総会時点で店舗の区分所有者であった者の承諾(区分所有法31条1項)がないこと,③その内容が区分所有法30条3項・民法90条(公序良俗)に違反すること,④「各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出した別表第4の金額とする。」(第27条2項)との規定は本文と別表第4とが矛盾しており,かかる規定を設ける決議は法律行為として特定性に欠けること,により無効である(平成25年3月8日付け「訴えの追加的変更申立書」第2,4,⑶,原告第1準備書面,第4)。

(イ) よって,平成23年11月6日時点における被告の管理規約の内容は,平成18年5月14日時点におけるのと同じであり,各区分所有者の共有持分を管理規約で特定・明示しないという被告の態度にも変わりがなかった。

3  管理費等の具体的な額を確定させる総会決議について

⑴       被告の会計(事業)年度及び定期総会の開催について

ア 被告の一会計(事業)年度は,暦年の1月1日から12月31日までであり(甲2・第45条,乙16・56条,甲17・58条),平成14年度(同年1月1日から同年12月31日まで)を第20期(予算案年度)とし,以後,順次同様である(甲3,甲7,甲8は臨時,甲10,甲11など)。

イ 被告は,次のとおり定期総会を開催し,前年度の決算報告の承認と当年度の予算案の承認とを議案としてきた。

開 催 日       議 案

(ア)平成14年3ないし5月ころ 平成14年度(第20期)予算案等

(イ)平成15年3ないし5月ころ 平成15年度(第21期)予算案等

(ウ)平成16年5月30日     平成16年度(第22期)予算案

(エ)平成17年5月29日     平成17年度(第23期)予算案

(オ)平成18年5月14日     平成18年度(第24期)予算案

(カ)平成19年3月31日     平成19年度(第25期)予算案

(キ)平成20年3月30日     平成20年度(第26期)予算案

(ク)平成21年3月29日     平成21年度(第27期)予算案

(ケ)平成22年3月27日     平成22年度(第28期)予算案

(コ)平成23年4月3日      平成23年度(第29期)予算案

(サ)平成24年3月31日     平成24年度(第30期)予算案

⑵ 具体的な管理費等債権の支分権としての発生原因について

ア 甲2には,管理費等に関する定めとして,次のような規定がある。

(ア) 区分所有者は,敷地及び共用部分の管理に要する経費に充てるため,管理費等を被告に納入しなければならない(第35条1項),

(イ) その額については,各区分所有者の共有持分に応じて算出し(第35条2項),毎会計年度の収支予算案により,総会の承認を受けなければならない(第47条1項),

(ウ) 特別修繕費は修繕維持積立金として積み立てるものとし(第38条),

(エ) 被告は,管理費等について,組合員が各自開設する預金口座からの自動振替の方法等により(翌月分を)毎月28日に徴収し(49条),

(オ)管理費等の額並びに賦課徴収方法については,総会の決議を経なければならない(第24条),

というものである。

イ 乙16及び甲17にも,管理費等に関する定めとして,上記同様の規定がある(乙16の第25条1項・2項,第58条1項,第28条1項,第60条1項,第48条2号・3号,甲17の第27条1項,第60条1項,第30条1項,第62条1項,第50条2号・3号)。

ウ よって,本件の管理費等の債権は,基本権としての定期金債権が,管理規約の規定に基づいて,区分所有者に対して発生し,その具体的な額が総会の決議によって確定することにより,月々支払うべき具体的な管理費等債権が,上記基本権から派生する支分権として発生すると解される(原告第1準備書面第1,1。最高裁平成16年4月23日第二小法廷判決・民集58巻4号959頁)。

⑶ 管理費等の具体的な額を確定する決議の不存在ないし無効について

ア 決議の不存在

被告は,上記各総会において,収支予算案については決議をしたものの,これらの収支予算案はいずれも各区分所有者ごとの管理費等の額について記載を欠いており,管理費等の具体的な額を確定する決議は不存在である(原告第1準備書面第1,2,⑴)。

イ 決議の無効

(ア) 被告が主張する管理費等の額は,大要,次のとおりである。

すなわち,管理費月額は,当初から現在に至るまで,住戸が本書面別紙住戸の管理費一覧表の④欄記載のとおりであり,原告ら店舗が本書面別紙過払金計算書の⑤欄記載のとおりであり,修繕積立金月額は,住戸・店舗を問わず,平成18年7月分(同年6月28日徴収分)までは各管理費月額の10パーセントであり,平成18年8月分(同年7月28日徴収分)以降は各管理費月額の1.25倍(従前の10パーセントに12.5を乗じたもの)である,というものである。

(イ) しかし仮に,上記各総会において,各区分所有者ごとの管理費等の具体的な額を上記のとおりとする各決議が存在したと仮定しても,かかる各決議は,そのときどきの管理規約(平成14年1月1日以降平成18年5月13日までは甲2・第35条2項ないし乙6・第13条1項であり,翌14日以降平成24年12月31日までは乙16・第25条2項である。)が,管理費等の額について,各区分所有者(各区分所有建物)の共有持分割合に応じたものであることを要求していること(区分所有法19条の「別段の定め」を設けていないこと)に違反しているのみならず,区分所有法30条3項・民法90条(公序良俗)にも違反している(原告第1準備書面第1,2,⑵)。

(ウ) したがって,上記各決議のうち,少なくとも原告ら店舗の区分所有者に対し管理費等を一共有持分あたり単価において住戸と同額を超えて負担させる部分について無効である。

4  不当利得返還請求

⑴ 被告の不当利得

ア 以上のとおり管理費等の具体的な額を確定させる総会決議が不存在又は無効であるにもかかわらず,被告は,原告らに対し,少なくとも平成14年5月1日から平成24年3月31日までの分の管理費等について,一共有持分あたり単価を住戸の約2.45倍の割合として,その支払いを請求し,原告らはこれを支払った(本書面別紙過払金計算書の③ないし⑥欄及び⑨ないし⑪欄記載のとおりである。)。

イ 住戸内部においても,前記2,⑴,ア,で述べた端数処理の関係で,一共有持分あたりの管理費月額に若干の誤差があるが,一共有持分あたりの管理費月額について全住戸で平均値をとると,本書面別紙住戸の管理費一覧表の⑥の「住戸合計」欄記載のとおり114.76円である。住戸のうち戸数・持分小計ともに最大であるB・Jタイプでは,一共有持分あたりの管理費月額が115.00円であり,一共有持分あたりの修繕積立金月額は,平成18年7月分まではその10パーセントである11.5円,翌8月分以降はその12.5倍である143.75円であった。

ウ したがって,少なくとも,原告らが一共有持分あたりで上記イのB・Jタイプの額を超えて支払った金員(本書面別紙過払金計算書の「⑧+⑬」欄記載のとおりである。)については,被告が法律上の原因なく利得し,そのために原告らに同額の損失を及ぼしたものである。

⑵ 返還請求日

原告らのうち原告Iを除く者は,遅くとも平成24年6月19日(被告が本件に先行する不当利得返還請求調停事件において調停申立書の送付を受けたうえで答弁書を提出した日。甲18)に,また,原告Iは,平成25年3月22日(本件訴状送達日)に,それぞれ被告に対し,上記⑴の不当利得の返還を請求した。

⑶ 小括

よって,原告らは,被告に対し,不当利得として上記⑴ウ記載の金員及びこれに対する上記⑵の各請求日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

5  決議無効確認請求

⑴ 被告は,平成23年規約変更決議によって,被告の管理規約が甲17に変更されたとし,甲17の第27条2項及び別表第4により,一共有持分あたりの管理費等の額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差があることは適法である旨主張している(被告準備書面⑴第4,3,⑵)。

このため,被告は,平成24年4月1日以降の分についても,更には,平成25年度(第31期)以降の分についても,管理費等の具体的な額を確定する総会決議を経,又は経ずして,甲17・別表第4に基づき,原告ら(ただし,原告C,同I,同J及び同Kを除く。以下,本項において同じである。)に対し,管理費等の支払を現に請求し,又は請求してくる虞が大きい。

⑵ 一方,上記4の不当利得返還請求は,平成14年5月1日から平成24年3月31日までの分の管理費等に係るものであり,既判力が及ぶ範囲もこれに限定される。

⑶ したがって,上記⑴の紛争を抜本的に解決するためには,原告らが,被告に対し,平成23年規約変更決議の無効確認を求めることが必要不可欠であり,原告らにはその確認の利益がある。

⑷ 小括

よって,原告らは,被告に対し,平成23年規約変更決議の無効確認を求める。

以 上

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