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住戸・店舗の負担割合に関する検討書(2)
平成27年5月25日
一級建築士・マンション管理士 OM

Ⅰ はじめに
本検討書においては、被告提出の乙50号証から乙57号証が指摘する点を踏まえ、検討書(甲80号証の1。以下単に「検討書」という。)の前提事実について再検討を加え、訂正すべき点は訂正した上で(後記Ⅱ~Ⅲ)、住戸・店舗の負担割合について再集計した。末尾添付の「住戸・店舗の負担割合一覧表(2)のとおりである。結果から言えば、住戸・店舗の負担割合に関する当職の結論には、有意的な変更を加える必要が生じなかった。以下詳述する。

Ⅱ 設備機器設置数及び電気使用量の再検討及びその結果について
1 建築設備定期検査(検討書(1)C-5)について
当職は、換気設備について検討書の換気設備数を「はなみずき」1台から2台、「エスアンドエー」0台から1台と訂正し、検討書・資料7を再計算した。末尾添付の資料7(2)のとおりである。
なお、被告は、中通路に設置されている非常照明(5台)を全部店舗負担としているが、誤りである。中通路は、構造的にも利用状況からしても、区分所有者全員の共用部分である。

2 消防用設備点検(検討書(1)C-6)について
自動火災報知設備の感知器(設置数)は、乙52号証では106台、被告役員が平成24年9月25日付けで矢口消防署に提出した「消防用設備等(特殊消防用設備等)点検結果報告書」(甲71)では104台とされ、設置数が相違している。当職としては、平成25年の点検結果報告書が被告の懈怠により同消防署に提出されていないので(甲86号証、非開示決定通知書)、その前年度の報告書である甲71の記載を採用するのが適当と考える。
また、甲80の2・資料8において、店舗に係る地区音響装置の数を0としたのは、末尾添付の資料8(2)のとおり、1に訂正する。
しかしいずれにせよ、感知器が104台か106台かによって、あるいは、地区音響装置が住戸の16、全体共用の5に対し店舗が1であるのか0であるのかによって、有意的な差異が生じるものではない。

3 電気料金(検討書(7))について
電気料金について考える前提として、まず、本件マンションにおける電気の供給系統について説明しておきたい。
被告は、従前、東京電力との間で、電灯(従量電灯C)契約、低圧電力契約および業務用電力契約を締結していたが、平成18年以降、前二者については、低圧高負荷契約(いわゆる「おまとめプラン」)に一本化した。
電灯(従量電灯C)契約に基づき供給される電気は、開放廊下の蛍光灯、共聴設備の電灯、監視機器の電源等をまかない、低圧電力契約に基づき供給される電気は、エレベーター、揚水ポンプ、下水ポンプの動力をまかない、業務用電力契約に基づき供給される電気は、店舗の専有部分の電灯・動力のほか、中通路・管理人室の電灯をまかなってきた。
なお、地下駐車場の電灯・シャッター用動力については、被告は、低圧電力契約に基づき供給されていると説明する一方で、別件訴訟(東京地裁平成22年(ワ)第34252号駐車場使用料等請求事件、以下、「駐車場使用料訴訟」という。東京地裁平成26年(ワ)第24663号不当利得返還請求事件、以下、「電気料訴訟」という。)においては、業務用電力契約及び低圧電力契約の双方に基づき供給されていることを示す「地下駐車場電気使用料金/資料(Y)」と題する書面(甲87)を証拠として提出し、さらには業務用電力契約に基づき供給されていることを示す「業務用電力検針表」(甲88の1~7)を証拠として提出する等、主張の変遷を極めている。
以上を前提に検討を進める。

① 被告は低圧高負荷の使用電気量(KWh)からして間違えていること。
乙50の5ページ「8.電気料金」は、平成25年度の低圧高負荷の年間使用量を24,942KWhと主張しているが、(低圧)電灯の年間使用量の誤りである。上記のとおり、低圧高負荷は、従前の(低圧)電灯と低圧電力(動力)とを一本にまとめたものである。24,942KWhというのは、(低圧)電灯の使用量であり、これに低圧電力(動力)の使用量である19,206KWhを加えた合計44,148KWhが正しい低圧高負荷の年間電気使用量である。

② 低圧高負荷の使用電気量合計に関する当職の推計はほぼ合っていること。
甲80号証では、低圧高負荷の電気使用量を合計43,428KWh、すなわち(低圧)電灯の使用量13,543KWhと、低圧電力(動力)の使用量29,885KWhの合計43,428KWhと推計した。当職が推計という手法を採用したのは、後記のとおり、被告が算定に必要な資料の開示を不当に拒否したからであるが、乙55号証が記載する年間合計使用量44,148KWhとの差は僅か720KWh(1.6%)、金額的にも12,988円(電気料金合計1,522,406円の0.85%)であり、乖離は殆ど無い。
確かに、(低圧)電灯と低圧電力(動力)の内訳で見れば、当職の推計は、乙55号証よりも、(低圧)電灯で約1万KWh少なく、その裏腹として、低圧電力(動力)で約1万KWh多かったことになる。しかし、前記のとおり、(低圧)電灯も低圧電力(動力)も、住戸部分のエレベーターや給水ポンプ及び住戸部分の開放廊下の電灯であり、店舗の専有部分が使用する電気とは関連が少ないから、その内訳に変更があっても合計に変更がない限り、店舗の負担すべき電気料金に影響を与えるものではない。
したがって、被告が提出した乙55号証を基に各負担を再計算した結果も、殆ど差が生じなかった(末尾添付の資料15(2))。
なお、乙55号証は、東京電力が平成27年3月に作成したものと説明されているが、上場企業が作成した文書であるにもかかわらず、送付状(1枚目)にも、電気使用実績(2枚目)にも東電の記名押印がなされておらず、また、封筒(3・4枚目)には東電の記名押印があるものの、その消印は平成23年3月15日付けでなされており、平成25年度の使用実績が同封されていたとは到底解されない代物である。以上からすると、送付状と電気使用実績を本当に東電が作成したのかは極めて疑わしい。

③ 被告主張と被告作成の収支報告書の店舗電気料が乖離していること。
乙48号説明資料8の店舗専有部分の電気料2,669,260円は、平成25年度第31期収支計算書の2,898,890円(甲89号証)と同期の会計であるにも拘わらず229,630円もの乖離がある。

④ 電灯・電(動)力料金を蛍光灯の本数で按分するのは不合理であること。
乙50号証の5ページ「8.電気料金について」は、動力の使用量は使用時間が判明しなければ算出することができない、動力電気料の計算は現実的には難しいと記載している。
しかし、乙55(電気使用実績)が本当に東京電力の作成文書であるとすると、東電は、電灯と低圧電力とに分けて使用実績を測定・把握していたものであることが明らかであり、動力の使用量や料金が算出できないというのは事実と異なる。
また、動力が用いられた内訳についても、エレベーター、揚水ポンプ、下水汲上げポンプ(更に駐車場シャッター)の個所毎に子メーターを設置すれば、容易に分別測定することが可能であり、その設置費用も合計5、6万円程度で済むはずである。
こうしてみると、動力の算出ができないという乙50号証の言い分は、事実とは言えないばかりか、地上9階までのエレベーターや、揚水ポンプ等の動力について、どれだけ電気料金が掛かっているのかを算出不能と主張することによって、住戸が負担すべき電気料金を過小評価していることに他ならず、合理的とはいえない。

⑤ 乙50と別件訴訟における被告の主張は甚だしく矛盾していること。
乙50・説明資料9(7)は、20Wに換算した蛍光灯の本数を合計252本であるとし、その中で136本(54%)が地下駐車場にあるとする。もしそうだとすると、平成25年度の電気料1,522,406円のうち54%に当たる822,099円(同年度の電気使用量44,148KWhのうち54%に当たる23,840KWhが地下駐車場において使用されていることになる。
ところで、かつて被告は、地下駐車場使用料の値上げに反対して値上げ後の使用料を支払わなかった区分所有者(主として住戸の区分所有者であった。)に対し、駐車場使用料訴訟(前掲東京地裁平成22年(ワ)第34252号)を提起したことがあった。そして、この訴訟において、被告は、地下駐車場の電気使用量は、低圧電力(動力)契約に基づき供給されるものが1か月435KWhであるなどと主張し(甲87の1)、それに沿う証拠(甲87の2。同訴訟証拠番号甲22の1)を提出していたことがある。これによれば、地下駐車場の電気使用量は年間でせいぜい5000KWh程度にとどまることになる。ところが、乙50の論理によれば、地下駐車場で2万5000KWh近い使用がなされていることになり、両者の主張には5倍近い開きがある。別件訴訟で上記のような主張・立証をした被告が、乙50の前提とする使用量を是としているのは、はなはだしい矛盾であり、訴訟ごとに全く違うことを主張している態度は疑問といわざるを得ない。

⑥ 地下駐車場の電気の供給系統についても乙50と別件訴訟における被告の主張は矛盾していること。
被告は、原告らとの間で別途係争中の電気料訴訟(前掲平成26年(ワ)第24663号)では、地下駐車場の電気が業務用電力であることを前提とする「業務用電力検針表」を証拠(甲88の1~7。同訴訟証拠番号乙1号証の1~7)として提出し、また、上記駐車場使用料訴訟においては、業務用電力契約及び低圧電力契約の双方に基づき供給されていることを示す「地下駐車場電気使用料金/資料(Y)」と題する書面を証拠(甲87の2。同訴訟甲22号証の1)として提出する等、主張が変遷を極めている。
別件訴訟等における被告の変遷した主張内容からすると、乙50が、地下駐車場の電気について、(もっぱら)低圧電力(動力)として供給されていることを前提としている点も、前提事実の誤認の疑いが残る。

⑦ 電気料のまとめ
以上検討したとおり、乙50が、動力の使用量を算出することができない、動力電気料の計算は現実的には難しいとしている点は、およそ是認しえない。また、動力の使用量を把握した上でなければ、住戸と店舗の合理的負担割合を算定することはおよそできないものと考える。

4 Ⅱのまとめ
以上のとおり、検討書(甲80号証)の住戸・店舗の負担割合を再検討した結果は、住戸を1とした場合、児童館が0.68から0.69、店舗が0.89から0.90となった。すなわち、結論は大勢において変わらなかった。
なお、尚、訂正したものを末尾に添付した(末尾添付の「住戸・店舗の負担割合一覧表(2)」)。

Ⅲ 被告の誤認について
1 乙50では店舗前タイルの面積を①~⑥合計約25㎡としている(P4)が、間違いである。本件マンションには、①~⑥の他に、中通路入口約17.6㎡及び雨水桝(上階のバルコニーの雨水を集める1階に設置されている枡)15か所約5㎡があり、これら約22.6㎡の合計約47㎡が正しい。

2 また、被告は連結送水口の設備を「共用」と主張(P6終行)するが誤りである。連結送水口は上階住戸の消防用放水口に送水する設備なので、設置場所が一階であっても、住戸負担が正しい。

3 被告は、自家用電気設備点検の電気子メーター数を41個(乙50 P7)としているが、実際に設置されている電気子メーターは、甲80の2資料9に示されているとおり43個であることを確認している。

4 乙50(P9)の、1階の階高(いわば天井の高さ)が、住戸より大きく(高く)なっております(乙 50P 5行目)、という主張は誤りである。1階の階高は、1階の床面から2階の床面までの高さの寸法であり、天井の高さと同義ではない。したがって、床面積と天井高さの積で表わされる気積は階高の積ではない。

Ⅳ 被告の閲覧拒否について
乙50は、甲80号証の設備機器数及び電気量が実態と乖離していると主張する。また、建築設備数の検討書・意見書双方に事実誤認があるとしている(乙50・P6)。そもそも、その原因は被告の閲覧拒否にある。原告が、平成26年12月16日に乙48号証に関する資料の閲覧を被告に申請したが(甲90、「理事会宛通知書15」と題する書面)、被告はこれを拒否(甲91、「通知書15」と題する書面)するなど、被告は、管理組合法人としての管理事務処理義務、善管注意義務、忠実義務、公平義務、情報提供義務等を果たしていない。

Ⅴ 被告乙48号証、及び乙50号証と現実負担割合の不整合
1 乙48号証では、Ⅵ 結論として負担割合を「児童館0.63」、「住戸1.00」、「店舗2.65」とし、乙50号証では、「児童館は記載なし」、「住戸1.00」、「店舗2.45」などと変遷しているが、現実の管理費負担割合「児童館1.00」、「住戸1.00」、「店舗2.45」とは全く整合せず、被告主張はここでも破綻している。
尚、児童館は平成18年までは竣工時の契約によって住戸比0.5だったが、被告理事会は平成19年から総会に諮ることなく、本件被告主張の0.6でなく1.0としたが、その根拠は規約に定める住戸と同等(1.0倍)の共有持分割合としたことが明らかである。被告が平成19年10月18日付大田区長宛に出した要望書(甲92)によれば、蓮沼児童館の管理費率が、持ち分比率に対し、非常に少なく、現行管理費の負担率は店舗216%、住居88%、児童館44%であり、区分所有者間の利害の衡平が図られるよう、住居と同様の割合で調整したとして、値上げ前の管理費等合計4万260円から、現行の8万2350円に対して、更に倍額の16万4480円(当初比4.08倍)を改定額として要望している。
方や、店舗に対しては規約の定めに反して共有持分の2.45倍(被告要望書店舗216%÷住居88%は245.45%で原告主張と一致)を徴収し続けたことはまったく整合性が無いと言わざるをえない。

負担割合 児童館 住戸 店舗
現実の負担割合 1.00 1.00 2.45
乙48 0.63 1.00 2.65
乙50 表示なし 1.00 2.45

 

2 乙48号証では、Ⅴ(P12)その他考慮すべき事項として、
1(中段)複合用途型マンションにおいては、店舗営業に伴う美観、環境、安全、衛生、騒音等について住民の犠牲を強いる面(以下「迷惑料」という。)が存在するなどと主張する。
2 要素の数値として乙48は迷惑料を数値化せず、気積を1.43、分譲価格を1.38としているが、乙50号証では迷惑料が1.00+0.12=1.12、気積が1.00+0.215=1.215、分譲価格は数値化せず、算定外となっている。

要素 乙48 乙50
迷惑料 数値化無し 1.12
気積 1.43 1.215
分譲価格 1.38 数値化無し

このように管理費負担を決定づける各要素の数値が乙48から乙50に変遷し、各要素を重要としながら、数値化したりしなかったり、乙48と乙50の算定式も明らかに違うなど一貫性がなく、規約に反する2.45倍格差の被告主張に確たる根拠がないことは明らかである。
以上

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