スポンサードリンク

平成25年(ワ)第39号不当利得返還請求事件

原告 店舗組合員14名

被告SDマンション管理組合法人

被告準備書面(7)

平成27年5月25日

東京地方裁判所民事第32部合議B係 御中

被告訴訟代理人弁護士

第1 甲81号証の意見書について
1 管理費及び修繕積立金の額について
平成26年12月4日付準備書面(6)にも記載した通り、今般、被告が専門家に対し意見を求めたのは、本件マンションについて、現実に支出されている費用(具体的には平成25年度の収支計算書(乙49))を前提として、その費用の性質、使用(利用)実態、設備等については設置数や設置場所、それらの耐用年数、予想される維持管理費用・修繕費用等を考慮事項とし、合理的であると考えられる住戸・店舗・児童館の負担割合を具体的な事実に基づき算出するためである。

被告は、上記目的のために、マンション管理士であり、一般社団法人荻窪マンション管理士会の代表理事であるT氏に意見を求め、同氏の意見書(乙48)及び追加意見書(乙50)を提出している。

これに対し、今般、原告が提出した平成27年4月1日付O氏の意見書(甲81)は、およそ抽象論として区分所有法について独自の解釈論を述べているにとどまり、金額・数字等の具体的な事実については一切言及していない。

したがって、O氏の意見書は、合理的と考えられる住戸・店舗・児童館の負担割合を具体的な事実に基づき算出する目的で作成されたT氏の意見書に対する反論にそもそもなっていない。

2 規約及び決議の効力について
また、O氏の上記意見書においては、本件マンションの規約及び総会決議について、「当初にさかのぼって無効を主張し得る」(12項)、「手続きを経ないまま「約2.5倍の格差」のある負担割合に関する規約が引き続き定められたことには、これを理由として決議が無効であることを主張し得る」(14項)などと主張している。

しかしながら、なぜ規約の効力について当初にさかのぼって無効を主張し得るのか、どのような理由により総会の決議までもが無効であると主張し得るのかについては、具体的な理由を述べておらず、この点についても、無効との結論ありきの独自の解釈論と言わざるを得ず、失当と言うほかない。

第2 住戸と店舗の管理費等の差は合理的な範囲であること
1 事実誤認等の訂正
被告が提出した平成26年11月28日付意見書(乙48)及び原告らが提出した平成27年2月10日付「住戸・店舗の負担割合に関する「検討書」」(以下検討書という。)(甲80の1)には、双方についての事実誤認等が存在していたことから、追加意見書(乙50)においては、事実誤認等について、指摘・修正を行ったうえで、改めて「使用実態に基づく管理費・修繕積立金等の合理的な負担割合」についての検討をおこなった。個別の支出項目について、その費用の性質、使用(利用)実態、設備等については設置数や設置場所、それらの耐用年数、予想される維持管理費用・修繕費用等を考慮事項とし、算出された住戸・店舗・児童館の負担割合は以下のとおりである(追加意見書7項記載の表参照)。

児童館 住戸 店舗
支出負担額の合計 59万5516円 1142万5716円 288万9495円
共有持分 638 8230 1132
共有持分当たりの
支出負担額
933円 1388円 2553円
住戸を1とした場合の
負担割合
0.67 1.00 1.84

2 考慮すべき事項を踏まえた検討
区分所有法30条3項には「規約は、専有部分・・・共用部分・・・建物の敷地・・・付属施設につき、これらの[形状]、[面積]、[位置関係]、[使用目的]及び[利用状況]並びに[区分所有者が支払った対価][その他の事情]を総合的に考慮([]は代理人追加)」する旨の定めがあり、管理費等の決定については、当然、上記の使用実態である[利用状況]だけでなく、上記の[形状][面積][位置関係][区分所有者が支払った対価][その他の事情]に基づく総合的な考慮が必要である。

したがって、本件マンションにおける管理費の負担割合については、区分所有法30条3項の規定を踏まえ、以下の事情も併せて考慮すべきである。

①複合用途型マンションは、その特質として[使用目的]が異なる店舗及び住居等で構成され、店舗による営利事業目的及びその遂行に伴う美観・環境・安全・衛生・騒音等に関しては、店舗の目的だけでなく[利用活動]に伴い、住戸利用の住民等にそれらの活動に伴うマイナス要素についての受忍を強いる関係にある。その意味での利害の衡平を図るための、いわゆる迷惑料的な負担(「使用目的」「利用状況」「位置関係」の考慮)、

②気積(体積)割合(「形状」「面積」の考慮)、

③分譲価格(「支払った対価」の考慮)

そして、使用実態を基にした合理的な負担割合と上記①から③の考慮事項との関係については、区分所有者間の衡平を確保する観点から、次の通りに考えるべきである。

(1)店舗の存在・営業に伴う受忍(物理的・心理的な迷惑料)について
店舗の存在・営業等に伴うマンションへの美観・環境・安全・衛生・騒音等の各種受忍を店舗側が2割から3割程度、管理費を多く負担することによって、受忍を強いることの補償を制度的に解決するのが相当であると考えれば、店舗は、上記の1.84倍X1.2~1.3倍である2.21~2.24倍の負担が相当になる。

他方、美観・環境・安全・衛生・騒音等に関する迷惑料のような考え方を採用する場合には、例えば、1店舗1日50円程度の迷惑料を支払うのが相当と考えれば、19店舗分の年間365日として計算すると、約35万円程度となり、この金額を、使用実態を基準とした店舗と住戸の各負担すべき金額に加算し、割合を求めると、2.06倍が相当ということになる。

(2)気積について
本件マンションは、店舗部分の1階と住居部分とは天井高が異なる。したがって、管理費等の負担をより精密に考えるとすれば、単純に面積を基準にするだけでなく、容積(気積)をも考慮せざるを得ない。

気積については、本件マンションの店舗は住戸よりも気積の割合が1.43ばいであることから、上記の使用実態を基準に計算した1.84倍に1.43倍を乗じた2.63倍が相当ということになる。

(3)分譲価格の差
また、分譲価格については、本件マンションの分譲価格は店舗は住戸の1.38倍に設定されている。この数値を基準にすれば、使用実態を基準に計算した1.84倍に1.38を乗じた2.54倍の管理費等の負担が相当ということになる。

(4)上記の各要素の関係の総合判断としての考察
使用実態に基づく負担割合の関係と、上記①②③の数値は、各々が使用実態の負担割合を修正すべき数値であることから、最終的な負担割合の総合的な数値を算出する場合は、各要素を足して、その合計を乗じる{(1.84X(1.00+①0.12+②0.43+③0.38))=1.84X1.94=3.57}のも一つの考えである。

もっとも、上記の計算においては、重複部分が存在することから、公平かつ合理的な負担割合を算出するためには、重複部分を控除する必要がある。その際、「使用実態に基づく負担割合」と上記①から③の重複については、次のように考えるのが相当であると思われる。

まず、①店舗の存在や営業活動等に伴うマンションの美観・環境・安全・衛生・騒音等の受忍は、「上記使用実態に基づく負担割合」で考慮された要素とは、基本的には重複しない。

次に、②気積については、店舗部分の気積が大きいために、使用実態に伴う負担割合が大きくなったものと、気積の大小と使用実態とは関係のないものとがあると考えられる。

③販売価格については、使用実態及び①・②の各要素が相当程度重複的に考慮され決定されていると考えられる。

以上を総合的に考慮すると、使用実態に基づく管理費用の支出負担額(それによる住戸を1とした場合の負担割合の数値)は、上記①のマンションの美観・環境・安全・衛生・臭気・騒音というような要素とは、基本的に関係のない要素であることから、使用実態に基づく負担割合に、この要素の倍率を乗じてあるべき数値を求めるべきである。

②気積については、気積の大小によって、現実に支出された管理費等が増減する関係にある部分を除いて、それ以外の要素の部分について倍率を乗じ(具体的にはこの数値を求めるのが困難であるため、50%程度の増加とする)、③については、①・②の部分とほぼ重複するものとして、計算上は考慮しないという考え方が合理的な考え方であると思われる。

3  本件マンションにおける住戸と店舗との間の管理費等の負担割合は十分に合理的な範囲のものであること
以上を前提に、本件マンションにおける住戸と店舗との間の管理費等の合理的な負担割合を算出すると、使用実態に基づく住戸と店舗の管理費等の負担割合である1.84に(1.00+①の要素である0.12+②の50%の0.215の合計である1.335)を乗じた数値である2.45倍が、本件マンションの合理的な店舗と住戸の負担割合となる。

上記負担割合は、「日常管理面(含法定点検費用)」のみを考察の対象に算出しているところ、本来的には、「計画修繕費(小・大規模修繕等)(6年~12年サイクル)」及び「設備補修費(5年~35年サイクル)」も含め、総合的に検討するのが相当と考えられ、この場合には、住戸と店舗の管理費等の負担割合の差はさらに拡大する可能性があることを考慮すれば、上記2.45倍という数字が、区分所有法30条3項に照らし合理的であることは明らかであり、原告の主張に理由がないことは明らかである。

ところで、本件では、自治的に定められた規約による管理費等の住戸と店舗の負担割合が区分所有法30条3項に違反するか否か、さらに、仮に違反する場合に、公序良俗(民法90条)を理由に無効とsれるか否かが問題とされることになる。

また、その負担割合となるべき数値は、総合的な判断によって算出されたものであり、その性質上、それらの数値につて、ある特定の数値のみが正しいというような絶対的な数値は存在し得ないし、特定に数値を算出するための計算方法についても同様である。

例えば、被告が消防設備の点検費用負担の計算について、点検すべき消防設備を基準にしていることに対し、原告は不当であると主張し、各消防設備の点検項目数を基準とすべきと主張している。しかし、消火設備は、様々な場所に設置されているため、点検の際には、場所の移動(点検時間)を要するが、たとえば、ハロゲン化物消火設備は一つしか存在しておらず、一か所で各点検項目を点検することができる。

消防設備の定期検査費用は、約25万円となっており、この費用の請求は一括して請求されているところ、実際に、その費用のうちどの点検費用に幾ら要したのかは定かではない。そのような中で、一か所で点検できるものも点検に移動を要するものも無視して、点検数が絶対的な基準であるべきとの原告の主張(更に、そうでなければ不合理であり、そのことが規約の法令違背、さらには公序良俗違反を導くとの主張)には、論理的な飛躍があると言わざるを得ず、区分所有法30条3項に違反する考え方であると言わざるを得ない。

以上
スポンサードリンク