準備書面(10)

平成28年10月31日

東京高等裁判所第20民事イ係 御中

上記被控訴人訴訟代理人弁護士

 

  • はじめに

本準備書面は、控訴人らの平成28年8月1日付控訴理由書及び平成28年9月9日付控訴答弁書に対し、事実誤認を指摘したうえで、被控訴人の反論を述べるものである。

端的に言えば、控訴人らの主張は、いずれも同人らの根拠のない憶測、あるいは事実誤認に基づくものばかりであり、失当というほかない。

以下、詳述する。

なお、当事者の標記については、一審原告らを控訴人、一審被告を被控訴人として統一をしている。

第2 平成28年8月1日付控訴理由書について

1 平成23年規約は「著しく不公平」な内容の規約でないこと

本件マンションにおいては、区分所有者が、複合用途型マンションであることを前提として、原始規約(乙6)において定められたタイプ別管理費方式を、事後の規約改正時においても廃止することなく現在まで維持している。

そして、原始規約以来、平成23年規約まで維持されている住戸と店舗とで管理費等の金額について違いを設けるタイプ別管理費方式が、本件マンションの経緯、特質、形状、位置関係、使用目的、利用状況等からしても、また平成25年度の収支計算書(乙49)を基に現実に支出されている費用を前提に検討しても、合理性の認められる制度であり、「著しく不衡平」な内容の規約を無効とする区分所有法30条3項、民法90条に違反しないことは、平成28年7月25日付控訴理由書31頁以下で詳述したとおりである。

2 控訴人によるミスリーディングな主張と事実誤認

  • 控訴人らの主張は複合用途型マンションの特質を看過していること

控訴人らは、原判決に対し、「現実に掛かる費用全体の合理的分担という観点を欠落し、店舗に掛かる費用のみをつまみ食い的に云々し、住戸に掛かる費用については等閑視したものであって、極めて偏頗な判断と言わざるを得ない」などと主張している(控訴理由書5頁)。

しかしながら、繰り返し主張しているとおり、複合用途型マンションでは、住戸専用の単棟型マンションに比べ、店舗が存在することにより、住戸専用の単棟型マンションに比べ、店舗が存在することにより、住戸専用の単棟型マンションでは生じない費用が別途生じることから、区分所有者間の実質的衡平を図るため、住戸と店舗との間で管理費等の額に差を設ける必要が生じるのである。

従って、原判決が店舗が存在することにより、住戸専用の単棟型マンションでは生じない店舗に掛かる費用がどの程度生じているかという点を踏まえ、管理費等の金額に違いを設けることの必要性及び合理性を検討し判断したことそれ自体は、至極当然なものであり、控訴人らの主張こそ、複合用途型マンションの本質を無視したミスリーディングな主張である。

  • 店舗特有の特別管理経費を割り出すことはできず、現行の長期修繕計画を前提に修繕費用について住戸と店舗とで平米単価を算出した場合も約2.5倍店舗のほうが高いこと

控訴人らは、原判決が「本件マンション全体の長期修繕計画として想定される費用の規模(平成18年当時で約2億2000万円)に照らすと、店舗特有の説明等の維持管理や修繕費用部分の割合は、本件マンションの全体の維持管理に掛かる費用の大きな部分を占めるものとまでは言い難い」と判示した点(原判決40頁)に対し、長期修繕計画として想定されている費用(特別管理経費)と、店舗特有の通常管理経費とを対比するのは誤りであり、むしろ同計画において想定されている費用中に占める店舗特有の特別管理経費の割合は些少などと主張している(控訴理由書6頁)。

しかしながら、これもまたいずれも誤りというほかない。

そもそも平成18年の長期修繕計画表(案)の修繕項目と工事項目から、店舗特有の「特別管理経費」を割り出すことはできない。

また、現行の長期修繕計画においては、工事項目のほかに部位・項目があり、設備に関しては、工事項目が住戸や店舗といった用途ごとに分別されているものがあるところ、住戸と店舗とで、平成23年から平成52年までの30年間に現行の長期修繕計画で予定されている設備の修繕費用の概算を算出した場合、次表のとおり、

修繕費用:住戸 87,111,000円

店舗 33,093,000円

平米単価:住戸 13.5円

店舗 40.4円

となり、住戸と店舗との平米単価の負担割合は約2.99倍である。

かかる観点からも、区分所有者間の実質的衡平を図るためには、住戸と店舗とのあいだで管理費等の金額に違いを設ける必要が生じていることは明らかであり、住戸と店舗との用途分類にてらした現行の長期修繕計画における設備の修繕費用の平米単価を前提とした割合からしても控訴人の主張は失当である。

 

 

※住戸系設備①給水方式変更・高架水槽増圧直結方式の工事費用は、現行の長期修繕計画では1階店舗の給水管改修工事を含む費用となっているが、平成27年度実施された当該工事では、1階店舗の給水管工事が実施されなかったこと及び支払総額にコンサルタント費用・工事管理費用584万8200円(税込み)が含まれていたことから、実質支払い工事費用3810万円(税抜き)を

充当した(乙82、83)。

尚、シャッター交換(外部側)9戸は店舗設備の工事であるため、本来、現行の長期修繕計画では「設備」の工事項目に記載されるべきところ、鉄部塗装と大規模修繕工事とで重複していることから、現行の長期修繕計画では「建築」の工事項目へ記載されているため(甲55号証3頁③設備工事より)、今回の算出に際しては店舗の設備として算出した。また、シャッター交換(外部側)2戸及び1戸は、現行の長期修繕計画期間内にすでに実施した工事であるため、実費支払額(税抜き)をじゅうとうした。(乙84,82)

(3)出入り口と中通路について

ア 控訴人らの主張について
控訴人らは、原判決が「本件マンションの共用部分として、店舗の商業活動に伴う顧客等が利用するための出入り口や中通路が設けられている」と認定した点について、事実誤認又は実態を誤るものであるなどと主張している(控訴理由書6頁)。
しかしながら、店舗出入口と中通路は、中通路内に出入り口のある店舗の従業員や顧客が利用するものであり、原判決に何ら事実誤認はない。
そもそも中通路について、1階店舗部分の顧客等の「不特定多数の出入り」があることは、控訴人らを含む1階店舗区分所有者全員が認めている事実である(甲122号証1・2頁末尾)。
中通路は共用部分であり、ベランダとは異なり店舗区分所有者の専用使用権が設定されているわけではないため、住戸居住者が中通路を通ることも当然禁止されているものでもないが、本件マンション1階がショッピングゾーンとして想定されていた経緯(被告準備書面(4)10頁)及び本件建物の構造からして中通路が店舗の商業活動のために設けられたことは明らかである。
控訴人らは、出入口と中通路の接点個所に取り付けられたバリカー(車止め)についても、「住戸居住者の自転車が・・・自転車置き場から中通路を通って高速でとびっだし、本件マンションに面した道路の通行人や自動車等と接触することを避けるために設けられたものである」などと主張しているが、全くの虚偽である。
上記バリカーはバリア(防ぐ)とカー(車)の造語であることからも明らかなとおり、車の侵入を防ぐものであり、過去に車が本件マンションの敷地内に入ってきたことがあることから、店舗を訪れる顧客の安全を確保するため、平成23年に理事会で承認し、取り付けたものであって、住居居住者の自転車が飛び出すことを受けて設置したものではない。
また、控訴人らは中通路に通ずる避難通路について、店舗の顧客が来客時に駐輪をしていることもあり、これもまた自己の都合の良いように不当に事実を歪曲した主張である。
本件マンション1階には、19区画14店舗が入居しているところ、中通路に面していない店舗はわずか6店舗に過ぎない。控訴人らは、中通路に面した店舗の内部構造や事情につき、縷々主張し、実態とかけ離れているなどと主張しているが、仮に、控訴人らの主張が事実だとしても(なお、被控訴人は事実か否かの確認もできていない)、一時的な事情に過ぎず、所有者が変われば中通路を積極的に利活用することは十分に想定される(過去に1階店舗部分に入居していたテナントが、中通路を積極的に利活用していた事実については、後述する)。
中通路が店舗の商業活動に伴う顧客等が利用するために設けられてものであることは、本件マンションの構造からして明らかであり、控訴人らの現在の内部状況に関する主張には何ら意味がない(なお、控訴人らの管理費の滞納は、長期にわたっており、一部の店舗所有者に対しては滞納額も高額で、時効期間も迫っていることから、被控訴人は、平成28年10月7日付で東京地方裁判所に対し別途未払い管理費の請求訴訟を提起しており(平成28年(ワ)第34087号)、滞納額の支払いがない場合には、区分所有法上の強制競売についても、別途申し立てを検討する予定である)。

イ 1階店舗部分のこれまでの入居テナントの状況・・省略

(4)防火シャッター及び自動火災感知器について
原判決は、「中通路に店舗用の防火シャッター等を設置することが義務付けられているため、電動の防火用シャッターがそれぞれに設置されている」、「各店舗には、共用設備として自動火災感知器が設置され、1階管理事務所に設置された自動火災警報器(共用設備)及び防火用シャッターと連動する仕組みとなっている」、「これらの防火用シャッター・火災警報設備については、法律上義務付けられた点検を定期に実施し、設備を維持修繕する必要がある」、「以上によると本件マンションにおいては、住戸専用のマンションと比較して、店舗部分が存在すること特有の維持管理経費や修繕に関する費用負担が生じている」旨判示しているところ、原判決の上記各判示は事実に合致するものである。
これに対して、控訴人らは、中通路の防火用シャッター11枚について、点検行為が行われていないなどと述べ、原判決に対し、事実誤認である旨主張している。
しかしながら、防火用シャッターの点検行為については、防火設備の一つとして消防設備点検の防排煙設備として実施している。点検行為は実施され、消防設備点検費用は現実に支出されているのであり、控訴人らの主張こそ事実誤認である。
なお、控訴人らが主張する平成24年第30期の収支計算書(甲56)に計上された「店舗シャッター点検・保守」費用20万円というのは、手動シャッター(外周のシャッター)について、平成23年3月1日に一斉に調査・点検したところ、2店舗を除いてシャッターの取り換え工事が必要であったことから、中通路の防火シャッターについても、前述した消防設備点検とは別に調査及び点検を実施することにし、費用として計上したものである。
もっとも、平成24年4月には、本件訴訟に先立つ形で管理費等適正化委員会が立ち上げられ、協議の席で控訴人らとの間で管理等の在り方について見解の相違が顕在化し、控訴人らの強硬な反対により調査等の実施に向けた話し合いさえもままならない状況となったことから、実施を先送りしているに過ぎない。
また、控訴人は、自動火災感知器等について、「自動火災感知器を含む防火設備は、全体として店舗の利用のためだけに設置されたものではない」などとも主張している。
しかしながら、繰り返し主張しているとおり、本件マンションの1階店舗部分には、中通路にしか面していない店舗が存在しているため、これらの店舗の避難経路を確保する必要があり、法律上、中通路に店舗用の防火用シャッター等を設置することが義務付けられているとともに、各店舗には、防火用シャッターと連動する仕組みの自動火災感知器が設置されているのである。
本件マンションにおける感知器の設置数は、次表のとおりであり、全体としてみれば、控訴人の主張とは逆に、店舗のほうが住戸よりも設置数が多いことは明らかである。

区分 感知器 地区音響装置 発信機 合計
店舗 49 3 1 53
住戸 2 16 8 26

 

そして、準備書面(4)14頁以下でも主張したとおり、住戸においては、住宅用火災警報器(煙感知器・熱感知器)の設置費用を各自が負担しているのに対し、各店舗に設置した上記感知器の費用は、すべて管理補等から支払われている(別の言い方をすれば店舗の区分所有者は設置費用を何ら負担していない)のである。
以上のことからして、本件マンションは、防火シャッター及び火災感知器について、店舗の存在により特有の維持管理費用が生じている(支出されている)こと(それらの費用は当然のことながら、管理費会計から支出されていること)は明らかであり、控訴人らの主張は事実に反する。

(5)キュービクルについて
控訴人らは、原判決がキュービクル設備の「修繕・交換費用として、平成20年の工事の際、合計143万8500円が支出されている」と認定した点について(38頁)、事実誤認であるなどと主張している(控訴理由書10頁)。
しかしながら、平成20年の工事の際、上記金額が支出されていることは、乙47、乙85及び乙86により明らかであり、この点もまた控訴人らの主張が事実誤認である。
控訴人らは、乙47に記載された工事の一部は行われないことが決定されているなどと主張し、その理由として、平成20年6月13日の臨時理事会の議事録(甲96)によれば、残置変圧器撤去搬出処分工事費の費用31万000円を次回にし、除くと記載されていることを挙げている。
しかしながら、そもそも平成20年の143万8500円の支出に上記31万円は含まれていない(乙87の見積書では、残置変圧器撤去搬出処分工事費、絶縁油微量PCB検体検査費、変圧処分費31万5000円(甲96)については、再見積もりの結果、19万9500円(日本ハウズイング㈱)と減額になり、同額について検討され承認され、平成25年度修繕費「電気室内不要トランス撤去工事」として同額を支出済みである(すなわち、乙47に記載された工事はすべて実施済みである)。
このように控訴人の主張は、同人らの根拠のない憶測・誤解に基づくものばかりである。
なお、被控訴人らは、キュービクル経由による業務用電力について、店舗のほか中通路、管理室その他共用部分でも使用されており、あたかもキュービクルを店舗のみが使用しているかのごとく認定する原判決は誤っているなどと主張している(控訴理由書11頁)。
しかしながら、キュービクル経由の業務用電力を共用部分についても使用していることそれ自体は事実であるものの、平成17年から平成27年までの年間使用量の使用割合は、共用部分のみが10%、店舗のみが90%であり、使用割合の実態はむしろ店舗のみが使用しているものであって、原判決の認定には誤りはない。

自家用受変電設備使用電気料(平成17年度~平成27年度)

項目 合計kwh 年平均kwh 共用と店舗の割合
電気使用量 755,106 804,646 141,796
総使用量 649,648 723,036 124,789
共用のみ 51,655 86,460 12,556 10%
店舗のみ 597,993 636,576 112,234 90%

 

平成17年1月~平成21年12月分 現行使用量で算定
平成22年1月~平成27年12月分 訂正使用量で算定(訂正分含む)

(6)合流桝について
控訴人らは、合流桝について、陥没部分補修工事及び合流桝点検口更新工事に関する乙37は見積りに過ぎず、165万円を支出した事実はないなどと主張している(控訴理由書11頁)。
しかしながら、乙37号証の見積書に記載された工事費165万円は、平成23年度の修繕積立金収支計算書記載の大規模修繕工事1622万7500円に含まれ、既に支払い済みである(乙88、89、90)。
このことは、平成23年2月27日開催の第1期大規模修繕工事完了報告会で工事費用について報告済みである(さらに言えば、合流桝についての工事がすでに実施済みであることは、店舗所有者も認めているところであり、工事を実施しておきながら、費用を支出しないなどということがあり得ないことは、常識的に考えても理解できることである)。
したがって、この点もまた控訴人らの事実誤認に過ぎない。
次に、控訴人らは、原判決が「店舗所有者が長年にわたり店舗前敷地にエアコンの室外機を設置していたこと」が床部分の陥没や点検口の開閉不良の原因であると認定した点について、事実誤認であるなどと主張し、その理由として、店舗所有者は被控訴人がクーリングタワーを廃止、撤去したために、店舗前敷地に室外機を設置せざるを得なくなったこと、及び、点検口の開閉不良は経年劣化によるものであることを挙げている(控訴理由書12頁)。
しかしながら、そもそもクーリングタワーの廃止・撤去は店舗区分所有者からの要請により行ったものであるし、当時、クーリングタワーを利用していたのは102号室の1店舗のみであり、他の店舗は分譲直後の昭和57年頃から室外機を店舗前敷地に置いている(なお、102号室が室外機を店舗前敷地に置くようになったのは、自家用受変電設備の契約設備電力を減量し、クーリングタワーを利用することができなくなった昭和62年4月頃からのことである)。
分譲以降、約30年もの長期にわたり、店舗前敷地に室外機を設置していたからこそ、店舗前敷地の床部分の陥没や点検口の開閉不良が生じたのであり、事実誤認は原判決ではなく控訴人の主張である。
また、控訴人は、陥没した点検口の原因について、通行車両が乗り上げたためであるなどと主張しているが、これもまた根拠の乏しい憶測に過ぎない。
多くの室外機は、安全のため架台のコンクリートブロックを犬走り部分に穴をあけて固定させたうえで取り付けられており、現在でも穴が開いたままの状態であるところさえ存在しているのである。
さらに、控訴人は、24個の合流桝及び点検口は上層階の住戸の屋上やバルコニーに降った雨水を排水するための設備であるなどとも主張しているが(控訴理由書13頁)、合流桝には、店舗からの雑排水等が流れており、構造的に言って、そちらが主たる機能であることは明らかであって、控訴人の主張は詭弁というほかない。
なお、控訴人は、陥没部分補修工事及び合流桝点検口更新工事について、修繕積立金会計から支出されるべき性質の費用であり、長期修繕計画において想定される費用の規模に占める割合を問題とすべき旨主張している(控訴理由書13頁)。
しかしながら、修繕積立金の支出は、長期修繕計画に基づく修繕に充てる場合(1号)だけでなく、「不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕」(2号)あるいは「その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益の為に特別に必要となる管理」(5号)に該当するものとして支出することが認められており、長期修繕計画(1号)に該当することのみを前提とした立論は誤りである。

(7)看板について
控訴人らは、原判決が「店舗所有者は、その店舗の営業目的のために、本件マンションの建物の壁面又は敷地の一部に看板を設置しているが、その使用料は徴収差れていない」、「以上によると、本件マンションにおいては、住戸専用マンションと比較して、店舗部分が存在することにより、特有の設備の維持管理や修繕に関する費用負担が生じていることが認められるほか、住戸所有者の受忍の下に、店舗所有者が営業上の利益を得ていると認められる」と認定した点に対し(40頁)、事実誤認であるなどと主張している(控訴理由書14頁)
その理由として、控訴人らは、①営業上の利益や受忍限度を論じるのは筋違いであること、②住戸のバルコニーについて使用料は徴収されていないこと、③児童館も外壁に看板を無料で設置していることを挙げている。
しかしながら、まず①について、本件で問題とすべきは、繰り返して述べている通り、複合用途型マンションでは、住戸専用の単棟型マンションでは生じない費用が生じることから、住戸と店舗との間でいかに管理費等に差を設け、区分所有者間の実質的衡平を図るかという点である。区分所有法30条3項も、営業上の利益や受忍限度を加味することを当然に許容している。
マンションやビルの外壁、屋上などについて看板を設置する場合、実務上、月額数万円程度の広告設置料を支払うのが一般的であるところ、控訴人らは、分譲以来、一切これらの広告設置料を支払っていないのであり、区分所有者間の実質的衡平を実現するためには、上記事情を考慮することは当然に必要なことである。
次に、②については、そもそもバルコニーには専用使用権が認められているのであり、使用料など観念する余地がない。専用使用権が認められているバルコニーと何らの権利性も認められていない看板設置とを比較して論ずること自体ミスリーディングである。
また、③についても、被控訴人及び原判決が指摘をしているのは、営業に必要な看板を無償で設置している点である。本件マンションの児童館は、大田区が運営する区立の児童館であり、公共の施設である。児童館の看板は、営業に必要な広告としての看板ではなく、公共の施設として児童館名を掲示しているに過ぎないのであって、これもまた比較して論ずること自体が無意味であり、ミスリーディングである。
このように控訴人らの看板に関する主張もまた、いずれも失当というほかない。

(8)美観・イメージについて
控訴人は、原判決が「各店舗の営業活動のために」「住戸所有者がマンションの外観に係る美観・イメージの低下」を「容認することが必要となる」との事実を認定した点について(39頁)、本件マンションについて誤ったイメージを有していると言わざるを得ず、論理的におかしいなどと主張している(控訴理由書15頁)。
しかしながら、管理規約第72条において、容認事項として「営業に必要な看板等を対象物件の建物の一部壁面若しくは敷地の一部に設置できるものとする」と規定されていることからも明らかなとおり、複合用途型マンションにおいて、店舗が営業活動等のために設置する看板は、住戸所有者にとってはまさに受忍事項である。
これに対し、控訴人は、住戸居住者が洗濯物をバルコニーに干している点を取り上げ、かかる行動をとる住戸居住者にたいし管理費あるいはその他の名目で金銭的な負担を求めたことは無いなどと主張しているが(控訴理由書15頁)、住戸区分所有者が洗濯物等をバルコニーに干すことは、専用使用権に基づく行為であり、区分所有者にとっては受忍事項ではなく、店舗の営業を何ら妨害するものではない。そもそも住戸居住者が洗濯物をバルコニーに干す行為に対し、店舗所有者が金銭的な負担を求める権利さえないのであり、控訴人らの主張は、そもそも前提からして誤っており、成り立ちえない論法と言わざるを得ず、「論理のおかしさに思いを致すべき」(控訴理由書15頁)なのは、まさに控訴人らである(なお、念のため、使用細則第10条(バルコニーでの禁止行為)11号において、バルコニーの専用使用権者が、バルコニーの外壁面より外側に洗濯物などを干すことを禁止されているが、これは落下すると危険なための禁止規定であり、美観維持のものではない)。
なお、現在、控訴人らは、本件訴訟に関連して、1階店舗の目立つ箇所に、管理組合の理事らを本件訴訟と同様に根拠のない憶測・妄想に基づき、名誉棄損する看板等を複数掲げている(乙91の1、2及び3)。
被控訴人としては、本件訴訟が終了次第、直ちに刑事告訴も含め、法的措置を講ずる意向であるが、その点は置くとして、このような看板等を設置することがマンションの美観を著しく害し、さらには本件マンションの資産価値を大きく低下させ、各区分所有者に財産的損害を生じさせていることは明らかである点にも留意されたい。
(9)防犯カメラについて
控訴人は、原判決が「各店舗の営業活動のために」「不特定多数の出入りによる安全・防犯リスクが増大し、防犯カメラの設置等の対策が必要となる」と認定した点に対し(39頁)、明らかに事実誤認であるなどと主張し(控訴理由書16頁)、その理由として、①防犯カメラの設置経緯及び②設置場所を挙げている。
しかしながら、本件マンションでは、以下の設置履歴のとおり、平成12年1月頃から防犯カメラが導入され、エントランスホール、ゴミ置き場内入口前、地下駐車場と随時追加措置された後、さらに平成23年と平成28年にも追加でカメラが設置されている。
これは、本件マンション1階に店舗があることから、住民以外の第三者、すなわち店舗の商業活動に伴う顧客等の出入りが現に生じており、防犯上の理由から段階的にカメラの設置数を増やす必要が生じたためであり、上記住戸区分所有者の要請のみに基づき設置されたわけではない。

また、控訴人らは、地下駐車場について、店舗に来集する顧客に提供されるような駐車場ではないなどとも主張している。
しかしながら、102号室は、昭和59年8月から現在に至るまで駐車区画9・10を使用しているし、従前の101号室も、区画1を昭和57年3月から平成16年6月まで、来客する顧客の為使用していた。また、119号室は、昭和59年から区画18を来客する顧客にも利用させ、さらに昭和61年8月からは区画7を現在に至るまで利用している。
このように、分譲当初から駐車場の一定区画を1階店舗所有者が継続して利用しており、これらの区画を店舗の顧客等が使っている事実も目撃されているところであって、控訴人らの主張は事実に反する。
次に、控訴人は、②防犯カメラの設置場所からしても各店舗の営業活動と関係ないなどと主張している。
しかしながら、問題とすべきは、本件マンションは複合用途型マンションであり、1階部分が店舗となっているため、住戸専用の単棟型マンションにおいて生じ得ない、店舗の顧客ら不特定多数の第三者による出入りが不可避的に生じ、そのため住戸居住者の安全が日々脅かされているという事実である。店舗の顧客ら不特定多数の第三者による出入りを禁じ得ないため、上記のとおり防犯カメラの台数を増やす必要に年々迫られているのである。
そして、カメラの設置が防犯目的にある以上、店舗の顧客等が、立ち入る必然性・可能性の無い箇所こそ、事前予防・証拠保全の観点から設置することに意味があるのであり、設置場所が店舗に近いか否かはおよそ関係がない。(以下省略)

(10)損耗・劣化の度合いや清掃の必要性について
控訴人は、原判決が「各店舗の営業活動のために」「多数の者の利用に伴い、共用部分である中通路、店舗前敷地、ピロティ、店舗用出入り口について、住戸専用のマンションと比較して、点検維持管理費用、補修・修繕費用等も高くなる」と認定した点に対し(39頁)、①中通路は住戸居住者が利用する通路である旨、②長期修繕計画にも中通路の修繕費は計上されていない旨、③点検維持費用についても、住戸が存在することにって発生する費用のほうがはるかに多額である旨などを縷々主張している(控訴理由書18頁)。
しかしながら、まず①の中通路が、中通路内に出入り口のある店舗の従業員や顧客が利用するものであることは前述のとおりである。
また②について、現行の長期修繕計画の中から中通路の修繕費用を落としているのは、準備書面(4)11頁以下で述べた通り、予算に限りがあるため、優先順位をつけて、安全確保の観点から緊急性の高い順序で修繕せざるを得ないからに他ならない。
すなわち、中通路についてはテラゾーブロックが使用されているところ、テラゾーブロック1平方メートルあたりの定価は2万8000円であり(乙30の1)、住戸部分の解放廊下に使用されている長尺塩ビシート(タキストロンキュエー、約3500円)(乙30の2)と比較すると8倍程度高額である。
現在、中通路のテラゾーブロックには、亀裂が複数散見される状況にあるものの(乙31)、予算上の問題から、まずは、通路を利用する顧客等の安全を確保するために最低限必要な中通路天井部分の工事(乙32:アーケード天井ルーバー撤去)、床については、亀裂はみられるものの、差し迫った安全上の支障までは生じていないことから、修繕計画の項目から落としたに過ぎない(なお、長期修繕計画は5年ごとに見直しを行うものであり、緊急の必要性が生じた場合には、当然、修繕を行うことになる)。
なお、控訴人らの指摘する床防水工事(費用737万8245円)についても、防水工事を実施した南側2階の廊下の階下は南側店舗の専有部分であり、いずれも階下(すなわち1階店舗部分)への漏水防止のために実施したものであり、住戸居住者のためのみに実施したものではなく、事実を不当に歪曲するものである。
また、控訴人らは、「本件マンションは住戸があるため、住戸の解放廊下の損耗劣化という、住戸がない場合に発生しない問題が発生し、その分の補修・修繕費用だけでも700万円余り高くなっている」などと述べている(控訴理由書18頁)。
しかしながら、そもそも住戸がない「マンション」など存在せず(それはオフィスビルであって、比較する前提を欠くことは明らかである)、控訴人らの主張は、その内容からして誤りである。
同様に、③についても繰り返し述べている通り、本件で問題とすべきは、本件マンションが複合用途型マンションであるため、住戸専用の単棟型マンションに比べ、店舗が存在することにより、住戸専用の単棟型マンションでは生じない費用が生じることから、住戸と店舗との間でいかに管理費等に差を設け、区分所有者間の実質的衡平を図るという点であり、住戸が存在することによって発生する費用を指摘したところで意味はない。
原判決が、店舗が存在することにより、生じる費用の存在を踏まえ、管理費等に差を設けることの必要性及び合理性を判断したことは正しく、控訴人らの主張こそ複合用途型マンションの特質を看過したものである。
(11)店舗利用者の通行について
控訴人らは、原判決が「各店舗の営業活動のため」「不特定多数の出入り」「多数の者の利用」が発生することが容易に想定される旨を認定した点について(39頁)、事実誤認であるなどと主張している(控訴理由書19頁)。
しかしながら、前述したように、そもそも本件マンションの1階店舗部分に不特定多数の出入りがあることは、控訴人らを含む1階店舗区分所有者全員が認めている事実(甲122-1の2末尾)であるし、本件マンションの1階部分には、分譲以来現在に至るまで、多数の者が参集する飲食店や医療機関、さらには不同案業者が現に入居している。
これらの店舗の商業活動に伴う顧客等が出入口と中通路その他本件マンションの共用部分をまさに利用しているのであり、原判決に何ら事実誤認はない。

(12)騒音等について

控訴人らは、原判決が「店舗の営業活動に伴い、騒音等の問題が生じること」「飲食等店舗については、臭い、煙、害虫の発生等の衛生面の問題も生じることが容易に想定される」と認定した点について(39頁)、控訴人らが計測した数値や店舗区分所有者らへのアンケート、さらには、過去に対策費用が支出されていないことを理由に事実誤認などと主張している(控訴理由書20頁)。

しかしながら、まず騒音については、103号室(2店舗)及び106号室には、現在もスナックが入居しているところ、夕方ころから翌日の明け方まで営業をしており、深夜の時間帯に、1階店舗のスナックからのカラオケがうるさいとの苦情が多数寄せられている(乙92)。

また、現在はトランクルームとなっている104号室についても、前述のとおり過去、スナックや飲食店が入居しており、入居当時、店舗の換気設備等から臭気が上階居住部分へ入り込み臭いとの苦情が寄せられている。

控訴人らは、現在の、しかも恣意的に一時的な時点を切り取り、騒音被害はないなどと主張しているが(なお、調査方法が適法であったか否かさえも、被控訴人は確認できていない)、騒音被害がより深刻なのは、深夜に顧客が出入りする際、突発的に室内から外へカラオケの音が放出され、就寝中の住民が目を覚まし、眠れなくなることであり、控訴人が測定した時間帯(14時、20時、23時)には、そもそも意味はない。

また、臭気トラブルについては、以前、104号室にお好み焼き屋が入居していた際に、深刻なトラブルが生じていたものであるし、本件マンションの2階以上に入居する住戸の中から、調査当日、たまたまセンサーの値が高かった店舗を探し出し、比較することは何ら意味がない。

繰り返し主張しているとおり、本件において考慮すべきは、本件マンションでは、分譲以来、1階店舗部分には飲食店等が入居しており、過去にトラブルを引き起こしていること、そして、今後についても、現テナントが後退した際には、騒音や臭気、ボヤなどのトラブルが引き起こされる可能性は依然として存在する点である。

控訴人らの調査結果にはそもそも疑義があるところであるが、その点は措くとしても、本件で問題となっている平成23年規約の改定時はもちろん、それ以前についても、分譲以来、上記の通り、多数の顧客の来集がしょうじているテナントが現に入居しているのであり、将来についても同様の状況になることは十二分に裁定されるところであり、仮に控訴人らの主張が事実であるとして、そのような一過性の事情を区分所有者間の衡平を実現する際の考慮要素として加味することが適切でないことは明らかである。

(13)管理費と修繕積立金を混同しているとの主張について

控訴人は、修繕積立金について、住戸と店舗との間で金額に差を設けることについて、不必要かつ不合理であるなどと主張している(控訴理由書23頁)。

しかしながら、そもそも管理費は日々のメンテナンスのための費用であり、修繕積立金は、管理費では賄いきれない部分のため積み立てるものであるため、維持管理費に必要な割合と修繕の割合とは、基本的に比例するものである。

本件マンションは、複合用途型マンションであるため、区分所有者間の実質的衡平を実現する観点から、住戸と店舗との間で管理費等に差を設けられているのであり、その割合を前提に(維持したまま)同じ比率で修繕積立金の金額を決定することは、一つの合理的な方法である。

修繕積立金の増額決議は、事前に繰り返し理事会を公開する形で実施し、区分所有者に十分な理解を求めたうえで、平成18年の総会において、招集通知にも住戸と店舗とで管理費の金額はもちろん、修繕積立金の金額についても違いがあることは一見してわかる一覧表を付し、周知したうえで、普通決議により可決されているのであり、その手続き及び内容に何ら瑕疵はない。

控訴人らは、縷々主張したうえで、修繕積立金について住戸と店舗との間でいかに管理費等に差を設けることはおよそ正当化できないなどと主張しているが、独自の見解というほかなく無意味である。

のみならず、控訴人がその論拠として挙げる点が、以下の通り何れも誤りである。

まず、控訴人は、長期修繕計画表の外壁修繕費について、主として住戸部分の補修を目的としたものであったなどと主張している。

しかしながら、大規模修繕工事設計会社による平成19年5月の調査報告には、「外壁調査(躯体コンクリート、塗膜仕上げ、磁器タイル仕上げ)について、躯体コンクリートに関しては、ひび割れ、モルタルの浮き、鉄筋爆裂(露出)、エフロレッセンスが建物全体で認められ、劣化がかなり進行し、至急工事が必要」との所見が記載されているところ、躯体コンクリート等が落下した場合は、事故につながる危険性があり、特に当マンションは公道に面しており、店舗を利用する不特定多数の顧客の参集も多くあることから、第三者への事故防止、さらには建物全体として躯体保全の観点から実施したものであり、住戸部分の補修を目的としたものではない。

次に、控訴人は、給水設備について、店舗の給水は東京都水道局の本管から直結であり、すべて住戸のための費用であるなどと主張している。

しかしながら、本管から各店舗までの水道水は、当マンション共用部分及び共用部分の店舗前敷地(犬走り)等に埋設している管から専有部に供給されており、事実誤認である。

次に、控訴人は、平成25年の長期修繕計画書に基づき算出した場合、修繕積立金の負担割合は住戸1に対し、店舗は0.76であった旨主張しているが、現行の長期修繕計画における住戸と店舗という用途分類に照らして、現行の長期修繕計画における平米単価あたりの割合は、住戸1に対して店舗が2.99倍であることは前述のとおりである。

このように控訴人らの主張は、その前提とする事実自体がそもそも誤っており、さらに主張の内容も失当というほかない。

3 法律行為の特定性を欠くとの主張について

控訴人は、原判決が平成23年規約の27条2項本文と別表4の内容が矛盾するとまではいえないと判断した点について(42頁以降)、規約本文に記載されていない内容を読み込むものであるなどと主張している(控訴理由書25頁)。

しかしながら、一般の区分所有者を基準に規約及び別表4を解釈した場合、何ら問題ないのであり、原判決が上記規約本文と別表4の内容について、住戸と店舗所有者間において専有面積に応じているから矛盾は無いとした点については、合理的な解釈であり正当である。

4 区分所有法35条5項について

控訴人らは、原判決が招集通知に規約集が添付されていたことを理由として、議案の要領について区分所有法35条5項に違反しないと判示した点に対し、招集通知本文あるいは議案説明書に記載のないこと自体が35条5項に抵触するし、別表4の記載まではたどり着くことはできず、あたかも別表4の記載を容易に確認できるかのように判断したことは事実である旨主張している。

しかしながら、準備書面(3)21頁で述べた通り、被控訴人は、平成23年11月6日の臨時総会に先立ち、区分所有者に対し、「別表4」を含む上記の招集通知一式が送付しているところ、平成23年の規約変更決議は、管理規約全体を改めるものであるから、改正後の規約の全条項、新旧対照表の規約案一式を通知すれば、議案の要領通知として足りることは明らかであり、原判決に何ら問題はない。

そもそも、控訴人は、原審において、当初、別表4は添付されていなかった旨主張していたところ(第4準備書面)、自らの主張が虚偽であり、原審裁判所にも看破され、上記主張自体を維持することができなくなるや否や、「別表4の記載までたどり着くことはできない」などと苦し紛れに主張を変遷させているのであり、かかる経緯からして控訴人らの主張は失当であることは明らかである。

第3 平成28年9月9日付控訴答弁書について

1 原始規約が有効に成立していること及びタイプ別管理方式について

原始規約(乙6)が区分所有者全員の承認により有効に成立していることは、被控訴人の平成28年7月25日付控訴理由書7頁以下及び同21頁・第4・2以下で詳述したとおりである。

控訴人らは、原始規約において定められたタイプ別管理費方式について、「住戸にAからZまであるタイプの内部では・・・同一金額とするという趣旨であり、住戸と店舗との間で負担割合の格差を定めたものではない」などと主張している。

しかしながら、管理委託契約書(乙5)に記載されているとおり、店舗についても、「各タイプ」として、1戸あたりの管理費が明記されており、住戸のみならず店舗についても、タイプ別に管理費は定められていること、すなわち、タイプ別管理費方式が採用されていることは明らかであり、控訴人の主張は虚偽である。

2 原始規約における修繕積立金の定め

控訴人らは、原始規約14条1項において、修繕積立金の金額が管理費の10%と明示的に規定されることと、管理費等の負担割合について住戸と店舗との間で違いを設ける根拠があることは、全くの別問題であるなどと主張している(控訴答弁書3頁)。

しかしながら、既に繰り返し述べているとおり、本件マンションにおいては、原始規約において、住戸と店舗との管理費等の金額について、タイプ別管理費方式が採用されている。そして、タイプ別管理費方式が採用したうえで、修繕積立金の金額を管理費の10%と規定している以上、修繕積立金の負担割合について、原始規約上の根拠があることは明らかである。

3 マンション自治について

マンションの管理組合(被控訴人)が、住民自治の下、区分所有者の完全なボランティアにより運営されている自治組織であること、被控訴人は、本件を含め、マンションの運営に際し問題が生じた場合、区分所有法が予定する自治のあり方(まず各組合員に現状・問題点を知らせ、広く意見を求め、必要に応じて総会において区分所有者全員で協議し、改めるべきは改める)に基づき、マンション運営を行っていることは、被控訴人の控訴理由書11頁以下で述べたとおりである。

控訴人は、現理事の中には管理会社に勤務するS氏がいることをもって、素人集団ではないなどと主張しているが(控訴答弁書3頁)、S氏が理事に就任したのは、平成22年5月のことである。本件で問題となっているのは、平成18年規約を上程する際、改定規約の作成者が当時国土交通省より公表されたマンション標準管理規約(単棟型)と同じ文言を使用した管理会社作成の素案にしたがって、この文言を使ってしまった点にあるところ、S氏が理事に就任したのは、平成18年規約が可決承認された後のことであり、控訴人の主張に理由がない。

また、控訴人は、被控訴人がOS氏の要望を受け入れた点についてO氏は、来年29年の通常総会に「管理費、修繕積立金不平等負担」について規約を修正するべく、「通常総会議案」としてもらいたい旨を通知したのであり、「(2.44倍の)格差を周知する」よう依頼したことは無いなどと主張している(控訴答弁書)。

しかしながら、平成23年12月10日に、管理事務所において、O氏と面談をした際(出席者:S理事長、T、K、Y、S、日本ハウズイングY氏)、O氏は、通常総会に「格差があることを周知する」ことで了承をしている

被控訴人は、平成24年3月1日の通常総会において、O氏が了承した通り、第3号議案として管理費等の負担割合について、格差にあることを周知したうえで、本格的な検討をすることを提案しているのであり、被控訴人らの対応に何ら非難される点はない。

4 控訴人らのハラスメント行為

被控訴人は、控訴理由書において、控訴人らによる裁判対応に加え、裁判外での被控訴人からの100通を超える質問状等(その中には、被控訴人らの思い込みや誤解に基づくもの、回答しても何度も繰り返される質問もあり、理事の誰もがハラスメントを感じるほどである)の対応等、理事会として対応すべきことが極めて多忙になってきているが、それでも、役員として皆ボランティア精神を貫き活動している、そして、このような多忙な理事会としての活動の中で、病気になったり、長時間の文章作成、調査などによって体調を崩すものも出てきたりするほどであるが、本件マンションを維持するため、理事会をさせてくださっている多数の組合員のために、各理事は日々誠心誠意対応にあたっていることを主張している。

今般、控訴人から、甲117以下、これまでに被控訴人から提出された質問状の一部が証拠提出されたが、これを見るだけでも、控訴人らが根拠のない憶測や自らの勘違い(事実誤認)に基づき、常軌を逸した行動に出ていることは明らかである。

平成23年以降に限っても、ST、OM、OS氏の三氏による質問状等は、次表のとおりである。その中には、理事らを誹謗中傷する内容も含まれており、区分所有者としての正当な権利行使を逸脱するものである。

表は省略

被控訴人としては、上記質問状には、多くの事実誤認が含まれているため、本来であれば1つ1つ反論をしたいところであるが、本件争点と関係を考慮し、ここでは下記のST氏の陳述書を除き、特に触れない。

ST氏の陳述書(甲211)の甲195「ご報告」について、まず、第26期(平成20年度)以降のY報告書の次期繰越金の金額と、決算書の剰余金合計の金額とにズレが生じているのは、Y報告書では管理費会計の剰余金を剰余金処分に基づき(甲206~208)、修繕積立金会計に移行したうえで(修繕積立金会計として)移行後の金額を時期繰越金として記載しているのに対し、決算書では管理費会計の剰余金を修繕積立金会計に移行する前の金額として(すなわち、管理費会計の収支計算書に基づいて)記載しているため生じたものに過ぎず、実際の収支にはズレは生じていない。

また、S氏が陳述書で約395万円の不明金が生じていると指摘している第22期(平成16年度)決算については、そもそも決算書を作成したのは、当時管理組合の顧問であるマンション管理コンサルタント会社SJS㈱で、平成17年5月の通常総会で決算報告を行ったのは当時監事を務めたS氏である。

そのため、当時の監事(責任者)として、説明責任を果たす必要があるのは、S氏本人である。

不明金395万円については、調査の結果、次表のとおり、第21期決算報告書の次期繰り越し金と第22期決算報告書の前期繰越金合計が合致しないことによることが判明している。

第20期(平成14年度)、第21期(平成15年度)の決算報告書一式及び甲197~208の決算報告書一式には、平成24年5月25日に理事のT氏が、S氏本人からの要請により手渡した資料一式であるが、本日現在、S氏から管理組合に対し何の説明もない。

5 平成13年規約が成立していないこと
いわゆる平成13年規約について、「臨時総会開催のお知らせ」(乙18)に記載されてた内容、当時の管理組合理事らの説明(乙73)、さらには平成13年規約を作成したO氏自身も平成13年規約の内容を前提としていない行動をとっていることなどからして、総会決議を経ていないことは明らかであり、有効に成立したものではないことは、控訴理由書14頁以下で述べた通りである(乙94)。
これに対し、控訴人らは、原判決の判断は正当であり、論旨には理由がないなどと主張しているが(控訴答弁書5頁)、何ら具体的な証拠を提出できないばかりか、虚偽の内容であるN氏の陳述書以外に、具体的な理由さえ述べることができていない。
被控訴人は、一審の段階から、繰り返し、控訴人らに対し、客観証拠等を提出するように、仮に総会決議を経たと主張するのであれば、具体的に、いつ行われたのかを説明するよう求めているが、控訴人らは、一切説明ができていない。
被控訴人による度重なる要求に対し、何ら対応ができない事実からしても、いわゆる平成13年規約がおよそ有効に成立したものでないことは明らかである。
なお、前回の期日において、裁判所から、今のところ、N氏の証人尋問を実施する意向はないとの説明があった。被控訴人としては、裁判所が、N氏の陳述書の内容は、およそ信用することができず、事実認定に利用しないのであっれば、承認申請の取り下げにも応じる意向であるが、陳述書の内容を事実認定の資料として利用する可能性がわずかでもある場合には、反対尋問権の保障の観点からも、かならず証人尋問により、供述の信用性を吟味する機会を与えられたい。
6 業務用電力に対する管理費の支出について
控訴人は、本件マンション竣工当時、管理費等に格差が設けられた理由として、業務用電力の電気料金が管理費で賄われていた経緯があると主張している(控訴答弁書6頁)
本件マンションにおいては、業務用電力について、東京電力から1階の店舗所有者らに対し、直接請求されるのではなく、いったん被控訴人管理組合が請求を受け、立て替え払いした後、被控訴人から1階店舗所有者らに対し、個別に電気料金の請求を行う仕組みとなっている。
これは、自家用受変電設備の設置者が被控訴人管理組合であり、東電との間の業務用電力契約の契約当事者でもあることから、契約上、東電への支払い義務は、被控訴人管理組合が負うためである。
現在も、被控訴人はいったん管理費から立て替え払いをしているのであり、さらにいえば、電気代を支払わない店舗所有者がいる場合にも、過去の裁判例を前提とするとライフライン(電気・ガス・水道)については一方的に供給を止めることはできないため、事実上、管理組合が保証人的な地位に立たされているのである。
7 平成18年規約について
平成18年規約について、
・平成18年総会当時も修繕積立金増額の基礎として住戸と店舗という用途分類に基づいて各々のタイプに応じたタイプ別の計算方法を維持することは合理的であったこと、
・平成18年総会に至る経緯からして、当時の区分所有者が住戸と店舗との間で管理費等の金額に違いがあることを当然の前提としていたことはあきらかであること
・平成18年総会においては、原始規約以来の「タイプ別管理費」を維持することを前提に修繕積立金の増額決議がされていること
・原判決のように、修繕積立金の増額決議自体は、住戸と店舗とで管理費等の金額に違いがあることを当然の前提におきながら、同日に決議した管理規約の変更決議において、原始規約以来継続しているタイプ別管理費方式を維持する目的はなく、住戸と店舗とで管理費等の金額について等倍とすることが区分所有者の意思であったと考えた場合には、同日行われた2つの決議について、相互矛盾が生じること
・平成18年総会以降も、控訴人も、繰り返し、住戸と店舗及び各々のタイプごとに管理費等の金額について違いがあることを説明し、また、各区分所有者も同じ認識をしたうえで、それを前提とする修繕積立金の増額決議を、平成20年に信任する旨決議を行っていること(甲10,11,12)
・平成18年規約の文言が「共有持ち分に応じて算出する」(乙16の第25条2項)となっているのは、改定規約の作成者が当時国土交通省より公表されたマンション標準管理規約(単棟型)と同じ文言を使用した管理会社作成の素案に従って、この文言を使ってしまったに過ぎないこと
・平成23年規約も、全くの同一文言で、明確にするために「別表のとおり」と記載されているだけであること、
は、控訴理由書24頁以下で詳述したとおりである。
8 タイプ別管理費方式が合理的制度であること
本件マンションにおけるタイプ別管理費方式が、①原始規約設定時の状況からしても、②平成18年当時の規約改定時の状況からしても、③現在、現実に支出されている費用を前提に、各費用の性質、使用実態、必要な維持管理費用等を考慮しても、さらには、前述のとおり、④住戸と店舗との用途分類に照らした現行の長期修繕計画における修繕費用の割合からしても、合理的制度であることは、控訴理由書31頁以下及び本準備書面3頁以下で詳述したとおりである。
また、控訴人らは、本件マンションの実態について異なる旨を縷々主張しているが、控訴人らの根拠のない憶測、あるいは事実誤認に基づくものに過ぎない。
なお、控訴人らは、管理費について「格差の根拠が存在しない、あるいはなくなったことが判明すれば、その時点で店舗を交えて真摯に話し合い、負担割合を見直すべき」などと主張しているが(控訴答弁書10頁)、被控訴人こそが用意をした話し合いの場(検討委員会)を反故にし、唐突に裁判手続きを利用し、憶測や誤解に基づく一方的な主張を述べていることは、これまで述べた通りである。
第4 権利濫用について
控訴人らの請求が、信義則違反または権利濫用として認められるべきでないことは、控訴理由書48頁以下で詳述したとおりである。
控訴人らは、この期に及んでもなお、住戸と店舗との間の管理費等の金額の違いについて、認識を持つ機会はなかったなどと主張しているが(控訴答弁書12頁)、控訴理由書で述べた通り、控訴人が店舗の区分所有権を取得した時期はそれぞれ異なるものの、取得後、その違いについての正確な倍率の数値は別としても、住戸と店舗とで管理費等の金額に違いがあることを認識したうえで、管理費等を支払い、各総会の決議に賛成し、それに基づいて管理費等の支払いを継続してきたことは明らかである。
以上