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平成14年9月24日最高裁判例
建築請負の目的物の建物に重大なる瑕疵があり建て替えざるを得ない場合、注文者は、請負人に対して建物の建て替えを要する費用相当額の損害賠償請求ができるとされました。この判決は請負契約に関して大きな影響を及ぼすことになりました。
構造は木造ですが請負に関しての重要な判例となりますので敢えて表示しておきます。

概要
施主・・X
建設会社・・Y
設計事務所・・Z

請負金額4,352,000円、設計監理3、612,000円
木造ステンレス葺2階建て

XはYとZが設計した設計図に基づき建物を建築する請負契約を締結しました。工期は遅れ完成を待たずXは入居しました。建物には多くの瑕疵がありXは、その損害を被ったとしてY、その代表者者、そしてZにそれぞれ損害賠償を求め提訴しました。

Xの主張
建物には多くの瑕疵があり、特に下記に示す構造上、施工上の重要な欠陥を挙げ、全体を解体し作り直す必要があると主張。
①基礎の欠陥
②土台と基礎の隙間
③火打ち土台の欠陥
④柱の寸法不足
⑤横架材の仕口などの施工不良
⑥火打ち梁の仕口施工不良
⑦筋交いの欠陥

Yの反論
材料や施工方法は通常のもの以上のを用いており、建築基準法の基準の2~3倍上回る安全率を考慮した構造となっており、原告の指摘にはその都度対応し、建て替えをしなければ安全性が確保されないというものではない。

①に対して・・設計図書に記された基礎が一部無いことは認めるも、その長さが短く構造上に影響は無い。
②に対して・・基礎と土台の間にはモルタルを注入して、問題は解消した。土台が基礎に完全に緊結しなければならないというものではない。
③べた基礎の場合は火打ち土台は必要ない。
④建築主の指摘で取り換えられている。
⑤指摘部分は建物の構造の強度に影響はない。
⑥公庫の融資住宅でもその仕様に合わない部分があったとしても、直ちに施工不良となるものではない。
⑦必要に応じて補強金物が用いられている。

Zの反論
瑕疵があることは認めるが、施工上の瑕疵は施行者の監督の問題であり、設計監理者の責任にない。

横浜地裁小田原支部の判決(2001年8月9日)
瑕疵の内容を詳しく検討するに①基礎の心と土台の心のずれを修復するには土台を取り除いて基礎をやり直す必要がある。②木構造も全体をやり直さなければならない。
また、鑑定人も判断している。この鑑定人が過去の多数の鑑定で、立て直しを判定したのは本件だけであることも重視された。

認定された損害額
改修費用3444万円
引っ越し費用 192万7560円
代替住居費 144万円
駐車場代 7万5000円
慰謝料 100万円
瑕疵調査費 42万円
弁護士費用 300万円
合計 4230万2560円
未払代金を控除し3328万1942円となる。

Y及びZの責任
建設会社Yは、瑕疵担保責任
建設会社Yの工事監督者は、不法行為責任
設計監理者Zは、債務不履行責任
それぞれ連帯して支払うよう命じた。
なお、建設会社Yの副社長及び専務の責任を否定した。

地裁の判決を不服としY及びYの工事監督者は控訴しました。

東京高裁の判決(2002年1月23日)
建物全体にわたって極めて多数の欠陥があり、主要な構造部分に、安全性、耐久性に重大な影響を及ぼす欠陥が存在すると認定。技術的、経済的に見ても、建て替えるほかないと。と判断しました。

認容額
一審判決をベースにして、そこから建築主が5年間居住していた利益600万円を控除、慰謝料は認めず、弁護士費用は230万円に減額し、2558万1924円としました。

東京高裁の欠陥認定
①設計図書に記載されている基礎立ち上がり部分3か所が欠落、基礎と土台27か所のずれており、その幅が40mm。べた基礎外周部高さは設計では600mmになっているが実際は460~485mmしかなかった。また、べた基礎のコンクリートにひび割れが見られる。
②土台と基礎の間が大きく隙間のあいた所が随所に見られ、隙間に木片がかませただけのところもある。隙間のあるところで土台を継いだところもある。
③設計図書で設置されることとなっている部分に火打ち土台が設置されていないところがある。火打ち土台はあるもののその寸法が足りず本来納めるべきところに収まっていない。(それぞれ1っ所)
④母屋、小屋束、梁、柱、間柱の寸法が短く、ほぞが穴に完全に収まっていない箇所が随所にみられる。寸足らずの柱と横架材の間に木片をかませている個所や羽子板ボルトの取り付け位置が不良のところもある。
⑤公庫仕様では、火打ち梁の仕口は、”かたぎ大入れ”となっているが、現状は突き合わせになっているだけのところがある。
⑥筋交い3本は、著しく寸法が不足し、そのすきまに木片を挟んだり、筋交いの仕口が単に突き合わせの上、くぎ打ちのみで補強金物が無いか所、金物があっても隙間があったり、補強金物が裏返しについているところもある。

Yは最高裁に上告しました。

Yの主張
Yは民法635条但し書きの規定に照らし、建て替え費用の賠償は認められないと主張しました。

(民法635条但し書き)・・建物その他土地の工作物を目的とする請負契約は目的物の瑕疵によって解除することが出来ない。

つまり、建て替え費用を認めることは、契約解除以上の効果を認める結果になるから許されない。と抗弁しました。

最高裁の判決(2002年9月24日)
瑕疵によって契約の目的を達成できないからと言って契約の解除を認めると、何らかの利用価値があっても請負人はその建物を除去しなければならず、請負んにとって苛酷で、かつ社会経済的な損失も大きい。
しかし、建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかない場合は、その建物を収去することは社会経済に大きな損失をもたらすものではなく、また、そのような建物を建て替えてこれに要する費用を請負人に負担させることは、契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって、請負人にとって過酷ともいえない。したがって、建て替えに要する費用相当額の賠償請求を認めても、民法第635条但し書きの趣旨に反するものとはいえない。

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