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1、マンション管理方式の多様化への展望・玉田弘毅著では

区分所有法上の管理者は、実質的には、民法上の代理権を伴う委任契約における受任者とほぼ同様の法的立場にあり、区分所有法も、 同法に定めるもののほかは、委任に関する規定に従うとしていること(同法28条)からも明らかなように、区分所有法上の管理者の法的責務(義務)は、基本的には、民法上の代理権を伴う任意委任における受任者の法的責務(義務)と同様の状況にあるということが出来る。以下においては、民法上の代理権を伴う委任における受任者の法的責務(義務)として判例・学説上確認されているところに依拠し、また、信託法の受任者の法的責務(義務)の内容を意識しながら、区分所有法上の管理者の法的責務(義務)を見ていくことにする。

(1)管理事務処理義務
管理者は、区分所有者のため、共用部分、建物の敷地・附属施設を保存し、集会の決議を実行し、規約に定められた行為をする義務を負う(区分所有法第26条1項)。
管理者は、区分所有者の代理人として、その職務を行う義務を負う(同条2項)。

(2)善管注意義務
管理者は、区分所有者のため、善良な管理者の注意を以て、管理事務を処理する義務を負う(区分所有法28条→民法644条)。

(3)忠実義務
管理者は、区分所有者のため、忠実にその職務を追行する義務を負う。区分所有法には、管理者の忠実義務を直截に明記した条文は置かれていないが、管理者は、すでに上記したとおり、実質上、民法上の代理権を伴う委任における受任者と同様の法的立場にある。したがって、管理者には、民法108条の事故契約・双方代理の禁止・制限規定の適用があり、同条は、「同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることは出来ない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない」と定めるが、これは、代理権を伴う委任における受任者は、①もっぱら本人のために行為すべきであり、自己や第三者のために行為してはならない、②本人の利益と自己の利益が抵触するような地位に身を置いてはならないという法理、すなわち、忠実義務を具体化したものである、とされる。したがって、同法条を根拠に、管理者には忠実義務があるとするものである。
管理者の忠実義務は、善管注意義務と対置・区別されるべき別個の義務ではなく、善管注意義務の一環であり、その内容をなすものと解される。

(4)公平義務
管理者は、区分所有者のため、公平に管理事務を処理する義務を負う。区分所有法には、管理者の公平義務を直截に明記した条文は置かれていないし、これまで、法理上も実務上も特に論議されたことはないが、管理者が、管理事務を処理するに当たり、区分所有者との関わりにおいて、いずれにも偏らず、バランスのとれた判断・行動をすべきであって、そうである以上、公平義務は善管注意義務の一ないようとして承認されるべきものである。
(5)分別管理義務
(6)自己執行義務
(7)情報提供義務

 

2、マンション管理紛争解決マニュアル・自由国民社では

区分所有者は総会の決議によって管理者を選任することとなっており、規約によって管理組合の理事長がこの管理者であることとされるのが通例です。そのようにして選ばれた理事長は、民法の委任に関する規定に従うこととされていますので(同法28条)、理事長は管理組合の受任者たる地位に立ち、善良な管理者の注意を以て委任事務を処理する義務を負います(民法644条)。したがって、その職務を行う際、その義務を怠って管理組合に損害を与えた時は、これを賠償する責任を負います。
管理者でない他の理事については、区分所有法には直接の規定はありませんが、役員として理事長ともども組合の決議で選任されますので、規約において組合員のために誠実にまたは忠実にその職務を遂行すべき義務を定めているのが一般的です。したがって、理事長以外の役員についても、理事長と同時に、委任関係に立つと解され、同じように善管注意義務を負います。
このため、組合役員が単独で職務を行うにつき、故意又は過失によって組合に損害を与えた場合には、その役員個人が責任を負います。また、その職務行為が理事会の決議を経て行われたものである場合には、この決議に参加し、これに賛成した他の理事も共同して賠償義務を負担する場合が出てきます。
ところで、管理組合の業務に関する重要事項については、総会の決議を経つことが一般的ですが(標準管理規約48条15号)、理事がこの重要事項に該当すると判断して総会の決議にかけた上で職務を執行した場合に責任はないと言えるでしょうか。結論から言いますと、総会の決議があったからと言って、常に役員の責任が無くなるというものではありません。故意又は過失に基づく誤った議案を作成して総会にかけた責任は無くならないからです。
ただ、総会上程議案を作成する段階で、十分な検討をし、総会でも事案の内容や問題点等十分に説明し、組合員の意思によりこれを決したという事情があれば、役員は善管注意義務を尽くしたものとして免責されると考えられます。

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