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東京地方裁判所民事第32部 御中

意見書

平成27年4月1日
マンション管理士 OT

はじめに
1 依頼事項
当職は、東京地方裁判所平成25年(ワ)第39号不当利得返還請求事件(原告ら・Kほか、被告・SDマンション管理組合法人)の原告ら代理人である弁護士から、SDマンション(以下「事件マンション」とう。)の下記事項について、マンション管理士としての意見を述べることを依頼された。
(1)事件マンションは複合用途型マンションと言えるか。あるいは事件マンションはマンション標準管理規約(複合用途型)に準拠した規約により管理されていると言えるか。
(2)事件マンションにおいて店舗の区分所有者の管理費等の負担割合を高くする合理性はあるか。
(3)そのような格差を規定する現行規約は有効か。
そこで、本意見書では、まず区分所有法が複合用途型マンションについてどのような扱いをしているのかを解説し(①)、次に、「一部共用部分」の有無・規模に応じてどのような管理の実施方法があるのかを概観した上で、事件マンションにおける管理の実施方法がどのようになっているかを検討し(②)、しかる後に、事件マンションにおいて店舗の区分所有者の管理費等の負担割合を高くする合理性はあるか(③)、そのような格差を規定する現行規約は有効か(④)を検討することとする。
2 基礎資料
本意見書の作成にあたっては、当職は、表記事件の甲第1~第79号証の28および乙第1~第49号証をPDFで受領して閲読したほか、平成27年2月16日(月)午後3時頃から午後5時頃まで事件マンションを実地に見分した。
① 複合用途型マンションと区分所有法の関係
区分所有権の成立要件(第1条)を通じて、専有部分の用途が住居、店舗、事務所、倉庫など、多様であることは分かるが、区分所有法中に「複合用途」というものに関する具体的な規定はない。
複合用途型マンションと区分所有法の関係については、同法の規定のうち、区分所有者の団体、共用部分、一部共用部分の管理、規約などの規定の横断的な関係の理解が求められる。
(1)区分所有者全員の団体と一部の区分所有者の団体(第3条後段)
(区分所有者の団体)
第3条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
一棟の区分所有建物の中に区分所有者全員の利害に関係しない廊下や階段その他の一部共用部分が存在し、かつ、その一部共用部分の管理を区分所有者全員で行う旨の規約が定められていない場合(一部の区分所有者だけで管理することになる場合)には、それら一部の区分所有者を構成員とする団体が成立する。
言い換えれば、この一部の区分所有者の団体が成立するケースは、区分所有建物の中に区分所有者全員の利害に関係しない一部共用部分が存在し、かつ、その一部共用部分の管理を区分所有者全員の団体で行う旨の規約が定められていない場合に限られる。
全員で構成される団体と一部の区分所有者によって構成される団体は、並存し、それぞれの管理対象物の管理を行う。
(2)共用部分の共有関係(第11条)
(共用部分の共有関係)
第11条 共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。ただし、一部共用部分は、
これを共用すべき区分所有者の共有に属する。
2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第27条第1項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることができない。
3 民法第177条の規定は、共用部分には適用しない。
区分所有者全員で共用する共用部分(全体共用部分)と、一部の区分所有者だけが共用することが明らかな一部共用部分の共有関係をそれぞれ規定する。 1
(3)共用部分の持分の割合(第14条)
(共用部分の持分の割合)
第14条 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。
2 前項の場合において、一部共用部分(附属の建物であるものを除く。)で床面積を有するものがあるときは、その一部共用部分の床面積は、これを共用すべき各区分所有者の専有部分の床面積の割合により配分して、それぞれの区分所有者の専有部分の床面積に算入するものとする。
3 前2項の床面積は、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積による。
4 前3項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
一部共用部分がある場合の持分割合の算定方法を規定する。
カッコ書に「附属の建物であるものを除く」とあるのは、規約共用部分とされた附属の建物の床面積は、専有部分の床面積への算入において、対象外とするという意味である。
附属の建物は、本体である区分所有建物の共用部分についての共有持分割合とは無関係なことによるもの。
ただし、第4項により、この算定方法についても、規約で別段の定めをすることが認められる。
(4)一部共用部分の管理(第16条)
(一部共用部分の管理)
第16条 一部共用部分の管理のうち、区分所有者全員の利害に関係するもの又は第31条第2項の規約に定めがあるものは区分所有者全員で、その他のものはこれを共用すべき区分所有者のみで行う。
一部共用部分の管理の実施方法を規定する。
次のように分解すると理解が容易。
(一部共用部分の管理)
第16条 一部共用部分の管理の実施方法は、次のとおり。
一 一部共用部分が区分所有者全員の利害に関係する場合には、全員で
構成される団体(管理組合)で管理する。
二 一部共用部分が区分所有者全員の利害に関係しない場合で、その一部
共用部分を区分所有者全員で管理することが全員の管理組合の規約に定められているときは、全員で管理する。
三 一部共用部分が区分所有者全員の利害に関係しない場合で、その一部
共用部分を区分所有者全員で管理することが全員の管理組合の規約に定められていないときは、その一部共用部分を共用すべき区分所有者によって構成される一部管理組合で管理する。
2
(5)共用部分の管理に関する費用の負担等(第19条)
(共用部分の負担及び利益収取)
第19条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
規約に別段の定めがない限り、共用部分(全体共用部分)、一部共用部分とも、 共有者は、それぞれの共用部分の持分に応じてその負担に任じ、それぞれの共用部分から生ずる利益を収取する。
一部共用部分がある複合用途型マンションでは、それぞれの共用部分の共有関係に基づいて細分化された費用負担に関するルールを規約に定めて運用することになるのが通常。(マンション標準管理規約複合用途型)
(6)規約事項の区分(第30条第2項)
(規約事項)
第30条 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
3 前2項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
4 第1項及び第2項の場合には、区分所有者以外の者の権利を害することができない。
5 規約は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により、これを作成しなければならない。
一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものについては、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定め得ることが規定される。
言い換えれば、一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものについて、区分所有者全員の規約に定めがない場合には、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者で構成される一部管理組合の規約で定め得ることを明らかにしているものである。
これにより定められる規約事項は、当該一部共用部分の管理または使用に関する具体的なルールになる。 3
(7)全員の利害に関係しない一部共用部分の全員の規約事項の設定、変更及び廃止に関する特則(第31条第2項)
(規約の設定、変更及び廃止)
第31条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2 前条第2項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の4分の1を超える者又はその議決権の4分の1を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
第16条中にある「第31条第2項の規約」とは、区分所有者全員の利害に関係しない一部共用部分について、区分所有者全員の規約に定めようとする事項や、すでに定められている事項を指す。
この規約事項を定めたり、すでに定められた規約事項を変更し、または廃止したりするにあたっては、いずれも全員の管理組合の集会(総会)において、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による決議が求められる。
一方、この決議については、一部共用部分を共有すべき特定少数の区分所有者の利害に関わる事項をそれ以外の(大多数の)区分所有者の意思によって決定するという特殊性を有し、別の観点から、いわゆる多数決の横暴により、特定少数の区分所有者にとって不本意な(不利となる)規約が定められてしまう可能性もある。
こうした関係に照らして特定少数の区分所有者の権利の保護を図る必要があるため、区分所有者全員の利害に関係しない一部共用部分に関する区分所有者全員の規約の設定、変更または廃止に際して、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の4分の1を超える者またはその議決権の4分の1を超える議決権を有する者が反対したときは、その設定、変更または廃止をすることはできないことが第31条第2項に規定される。
区分所有者全員の利害に関係しない一部共用部分について、全体で一元的に管理することを前提としているマンション標準管理規約(複合用途型)第51条第7項にも、この規定が確認的に定められている。
■具体例
次ページの図のように、20人の区分所有者(A~Q)が同一面積の20の専有部分を所有するマンションの1階の区分所有者ABCDのみの共有に属する全員の利害に関係しない一部共用部分について、全員の規約の設定、変更または廃止を集会で決議するケースを考える。(議決権は1戸につき1個=合計20個)

規約の設定、変更または廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。
これによれば、1階の区分所有者であるABCD(4人)の全員が反対しても、2階以上の区分所有者(16人)全員が賛成すれば、区分所有者及び議決権の各4分の3以上を満たすため、決議することができてしまう。
しかし、全員の利害に関係しない一部共用部分に関する区分所有者全員の規約の設定、変更または廃止になるので、2階以上の区分所有者全員が賛成しても、ABCDのうち2人が反対すれば「一部共用部分を共用すべき区分所有者または議決権の4分の1を超える者」が反対していることになり、全体として「4分の3以上」の要件は満たすことにはなるが、これを決議することはできない。
ここにいう反対者とは、積極的に反対の意思表示をした者のみをいい、議決権を行使しなかったような者(消極的な反対者)は含まないと解されている。

② 複合用途型マンションの管理の実施方法など
区分所有者全員の利害に関係しない一部共用部分(以下、単に「一部共用部分」という。)の有無や、その管理の実施方法等によって、次の3タイプに分類することができる。
(1)区分所有法第3条後段の規定に基づく「一部管理組合」が存在するマンション
相対的に「住宅部分、非住宅部分のそれぞれの独立性が強いマンション」は、それに伴ってそれぞれの一部共用部分のスケールも大きくなる。
したがって、これを次(2)のように全員で管理することとした場合には、各一部共用部分について共有関係にない区分所有者間の利害の対立も予想されるため、共有関係にある区分所有者だけの団体(一部管理組合)を構成して管理するのか望ましいと考えられる結果、このタイプによる管理が合理的と判断される。

基本的に、全体、住宅、非住宅の3つの管理組合があり、これらの管理組合ごとに規約が定められることになるが、一棟の建物の関連性の点で、一体の規約として存在している場合が多い。
それぞれの共用部分の管理に要する費用は、基本的に各管理組合の構成員である(共有関係にある)区分所有者が当該共用部分の持分に応じて負担する。
(2)一部共用部分があるが、それを全員で管理することとしているマンション
一部の区分所有者の共有物である一部共用部分についても、区分所有者全員で構成される管理組合で一元的に管理するものとし、一部管理組合が存在しないタイプ。
マンション標準管理規約(複合用途型)がモデルとしているタイプに当たり、敷地及び全体共用部分と各一部共用部分の(建物内の)位置の分別、それらの管理に要する費用の明確化・細分化、それぞれの区分経理、残余財産の帰属に関する規約事項のほか、一部共用部分に関する規約事項の設定、変更または廃止に際する区分所有法第31条第2項の規定の運用などが必須となる。
ここにおいても、前(1)と同様、例えば、住戸一部共用部分の管理に要する費用については、あくまで当該住戸一部共用部分を共有すべき(住戸の)区分所有者のみが負担する関係にあり、店舗等の一部共用部分についても同様である。
一方、前(1)との決定的な違いは、ひとつの管理組合による管理(一元管理)が行われる点にあるため、マンション標準管理規約(複合用途型)第60条では、管理組合としての意思を決定する機関ではないが、住宅部分、店舗部分の一部共用部分の管理等について協議する組織として、管理組合に住戸部分の区分所有者で構成する住宅部会と店舗部分の区分所有者で構成する店舗部会を置くことがモデル的に示されている。
(3)一部共用部分がない(またはそれを観念しない)ことで、すべての共用部分を 全員で管理することとしているマンション
店舗等が併設されているマンションであっても、その併設比率が小さく、店舗一部共用部分、住宅一部共用部分がない場合は、建物の共用部分を区分所有者全員の共有物として管理することになり、マンション標準管理規約(複合用途型)でも、その旨がコメントされている。
このタイプのマンションでは、店舗等の非住宅の専有部分が存在する中で、円滑な共同生活の維持や非住宅の専有部分の権利関係の明確化に資すると考えられる固有の規約事項(専用使用権等)が定められることになる一方、建物内のすべての共用部分が全員の共有物に当たるため、その管理に要する費用は、基本的に全員が共用部分の持分に応じて負担する。
ちなみに、小職の関与歴があるこのタイプのマンションでは、別添資料のとおり、店舗・事務所と住宅の管理費等の負担割合は同一である。
関連して、実態上、複合用途タイプのマンションである点は同じでも、こうしたマンションでは、マンション標準管理規約(複合用途型)の特徴として前(2)に記した「各一部共用部分の(建物内の)位置の分別」「それらの管理に要する費用の明確化・細分化、それぞれの区分経理」などに関する規約事項を定めなくても済むことになるため、実質的にマンション標準管理規約(単棟型)に準拠した規約が定められることになる。
とりあえず、事件マンションは、この方法による管理を実践しているマンションであり、その規約についても、一部の用語の使用などを除き、基本的にマンション標準管理規約(単棟型)に準拠した内容となっている。
なお、ここにおいて、「一部共用部分がない」という点については、一見する限り一部共用部分に当たると思われる建物の部分があっても、それを一部共用部分と観念しないケースが含まれ、具体的には以下のようなケースを指す。
例えば、1階が店舗、2階以上が住戸の用にそれぞれ供され、入口も別になっている建物において、①2階以上の階に出入りするために通過するエントランスホール、②そこから上階へ通じるエレベーター、③上階の共用廊下や階段などは通常、住宅一部共用部分に当たると考えるべきだが、このような建物において、店舗部分の空調室外機が管路を介して屋上(屋根)に設置され、専用使用権までが設定されていたりするケースがある。
この場合、実際には一時的な使用にせよ、店舗の区分所有者は屋上に設置した空調室外機の管理のために上階の廊下や階段を通行(使用)しないわけにはいかないことで、前記の①②③の箇所などが全員の共有に属する共用部分と位置付けざるを得ないようなケースを「一部共用部分を観念しない」と表現しているものである。
このようなマンションにおいて後年、店舗の空調室外機の設置位置が屋根から敷地上に変更されることになった場合には、店舗の区分所有者から前記の①②③の箇所を引き続き全員の共有に属する共用部分と位置付けることについて消極的な意見が出される可能性もある。
ちなみに、前記と反対のケースになるが、同じマンションの地階部分に住戸の区分所有者も使用し得る共用倉庫があり、管理組合との賃貸借契約に基づいて倉庫を使用している住戸の区分所有者が地階に行くためには、一見すると店舗の区分所有者のみの共有に属する1階共用廊下を一時的にせよ通行(使用)しなければならない関係にあるため、ここでもこの共用廊下を全員の共有に属する共用部分と位置付けざるを得ないことになる。
以上のようなケースは、かなり多くの複合用途タイプのマンションに見ることができると考えられ、別の意味では、建物が完成した以降においても、ある出来事をきっかけとして建物の特定の箇所が一部共用部分と化したり、あるいはその逆のようなことがあり得ることになり、規約との関係において、その見直しが行われる場合には、そうした変化が考慮されなければならないと考えられる。

事件マンションに当てはめてみると、建物の1階に中通路があり、一見する限り、ここが店舗一部共用部分に当たるようにも思えてしまうが、中通路に住宅の区分所有者の自転車置き場が併設されるとともに、住宅の区分所有者の通行の連続性や自由性が認められる(逆に言えば、店舗の区分所有者による排他性が認められない)ことにより、ここは住宅の区分所有者も共用し得ることが明らかな部分であるため、「店舗一部共用部分は観念できない」ということになる。
③ 複合用途型マンションの管理に要する費用負担関係の考え方など
(1)基本事項と事件マンションの個別性に関すること
以上に見てきたとおり、一口に複合用途型マンションと言っても、一部共用部分の有無(その観念の有無を含む。以下において同じ。)によって管理の実施方法や費用負担関係の考え方が異なる。
簡単に記せば、一部共用部分がある場合には、一部の区分所有者で構成される管理組合でそれを管理する場合も、全員で管理する場合も、基本的に当該一部共用部分の管理を行うために必要となる費用を前提として、各区分所有者が負担すべき管理費等の額が決められることになる。
例えば、一棟の建物に店舗一部共用部分と住宅一部共用部分に当たる箇所がそれぞれ存在し、たまたま各一部共用部分を共用すべき区分所有者も同人数であり、かつ、店舗一部共用部分の方が管理に必要となる費用が多いようなケースでは、必然と店舗の区分所有者の管理費等の額が高くなる関係にあるが、店舗一部共用部分の共有関係においては、あくまでその共有持分等に応じて公平に負担し合うことになっているのが通常と考えられる。
また、再開発事業などによって誕生するマンションに関し、各共用部分の管理の実施のために予想される業務量に応じて、特定の一部共用部分の共有者に当たる区分所有者の管理費等の額が高く設定されるようなケースがあるようだが、そうすることが合理的と判断される前提で、規約にその旨の定めを置くなどの有効な手続きを経て負担割合が決められている以上、それによって(例えば店舗などの)特定の一部共用部分の共有者に当たる区分所有者の管理費等の額が当該特定の一部共用部分の共有者に当たらない他の区分所有者と比べて高くなるとしても、やむを得ないことと言える。
神戸市長田区の震災復興マンション「アスタくにづか」の店舗の区分所有者57人が、住宅の区分所有者と比べて管理費が高すぎるとして管理者に過払い分の返還等を求めていた訴訟で、神戸地裁は平成27年2月10日、「衡平性に反しない」との理由で店舗側の請求を棄却したが、店舗と住宅の各共用部分を区分した管理を実践しているマンションにあって、高いとしても「合理的かつ衡平な算定方法」であるとの判断である。(なお、当該マンションにおける「店舗と住宅の各共用部分の区分」の詳細は、甲第72号証を参照。)対して、事件マンションの管理の実施方法は、7ページに記したとおり、すべての共用部分を全員で管理する方法であり、言い換えれば、一部共用部分の存在やその共有関係という観念のないものである。
すなわち、すべての共用部分が区分所有者全員の共有物に当たり、既述のとおり、その管理に要する費用は、基本的に全員が共用部分の持分に応じて負担し合う関係にあるという決定的な相違点に照らし、上記神戸地裁の判断が事件マンションの店舗の区分所有者の管理費等に当てはまらないことは、言うまでもない。
以上の諸点については、マンション標準管理規約(複合用途型)に準拠した内容の規約が定められているケースを含めて、すべては一部共用部分の存在とその共有関係に応じた管理を行うことを前提として管理費等の負担割合や額が決められているという点がポイントである。
(2)マンション管理士の意見書に関すること
事件マンションの「2.5倍の格差の問題」に関し、高橋伸夫マンション管理士(東京都杉並区)が「貴管理組合のマンション管理組合の管理費・修繕積立金について」という題名の意見書を管理組合法人宛に提出し、乙第48号証とされている。
結論として、意見書の内容に基づく検証を通じて、事件マンションにおいて店舗の区分所有者の管理費等の負担割合が住宅の区分所有者と比べて約2.5倍であることは、十分合理的な範囲内に収まっているとされているが、同じ専門家の立場からは、次のような点で、管理組合関係者の誤った判断につながるおそれが高く、店舗の区分所有者の権利に甚大な悪影響を及ぼしかねない意見としか思えない。
1. 繰り返しになるが、事件マンションの管理組合にマンション標準管理規約(複合用途型)に準拠した規約は定められていない。にもかかわらず、この複合用途型規約が拠り所としている「全体共用部分・住宅一部共用部分・店舗一部共用部分」という区分を持ち出し、これらの各共用部分の管理に要する費用の額に応じて、管理費、修繕積立金の額を定めるのが合理的といった論理を展開している。
2. 既述のとおり、マンション標準管理規約(複合用途型)にいう「店舗の管理に要する費用」とは、「店舗一部共用部分」というものが観念されて初めて算出し得るものであり、全体や住宅のそれについても同様である。全体、住宅一部、店舗一部の各共用部分が全く観念されていない(敷地や共用部分等が区分所有者全員の共有とされている)中で、それらの管理に要する費用を使用実態等に基づいて按分し、店舗・住宅の各区分所有者の負担割合を算出して示すとは、あまりにも乱暴な手法と思わざるを得ない。
3. 前1.2.に関連して、店舗一部共用部分や住戸一部共用部分を観念できない複合用途タイプのマンションに対してまで「マンション標準管理規約(複合用途型)」の考えを当てはめることを国(公表者の国土交通省)が推奨しているがごとくの誤認を生じかねない。

4. 管理費等の負担割合について、共用部分の持分以外の割合による場合には、規約に定めるという方法によらなければならず、その場合には、区分所有法第30条第3項で「専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。」と規定されていることを説明していながら、使用実態以外の要素を含む「それ以外に考慮すべき事項」に対する説明が、次(3)で述べるとおり甚だ心許ない。
(3)一部の区分所有者の管理費等の負担割合を高くするために求められる合理性
事件マンションと同じように一部共用部分がない複合用途タイプのマンション(管理組合)において、店舗の区分所有者の管理費等を住宅の区分所有者のそれより高めに設定する旨の規約事項が定められることは、あり得る。
上記のTマンション管理士の意見書中には、店舗の区分所有者の管理費等の負担割合が住宅の区分所有者と比べて高めに設定される理由として、①店舗の営業に伴う美観、環境、安全、衛生、騒音について住宅の区分所有者が強いられる犠牲、②気積、③分譲価格の設定などの要素のほか、高橋マンション管理士の経験に基づく要素などが羅列されているが、実際には、こうした要素を比較・考量して合理的と判断される範囲内において、一部の区分所有者の管理費等の負担割合を高めに設定する旨の規約を定めることが認められると考えるべきである。
一方、そのような規約の設定や変更の決議が利害の一致する大多数の区分所有者の多数決の横暴によってなされるようなことも容易に予想できるため、規定自体は抽象的ながら絶対に外せないルールとして、そのような規約の設定や変更等によって一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときには、当該区分所有者の承諾を得なければならないことが規定されている。(区分所有法第31条第1項)
特別の影響とは、「規約の設定、変更等の必要性及び合理性と、これによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、区分所有関係に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合」とされる。(最高裁:平成10年10月30日)
以上の前提において、どのような関係があれば、事件マンションの店舗の区分所有者に住宅の区分所有者と比べて約2.5倍の管理費等を負担してもらうことが合理的と考えられるか。
①店舗の営業に伴う美観、環境、安全、衛生、騒音等について住宅の区分所有者が強いられる犠牲との関連では、例えば美観の点で、大勢の者が敷地や共用部分を歩行することに伴う床面などの関係箇所の損耗が実際に認められ、かつ、そうしたことがなければ生じないことが明らかな当該関係箇所の修繕費が定期的に発生するとすれば、その修繕費の財源とするべく、店舗の区分所有者にその修繕の見合いの分だけ多額の管理費等を納入してもらうことには、明らかな合理性があると考えられる。
しかし、大勢の者が敷地や共用部分を歩行することに伴う床面などの関係箇所の損耗が実際に認められるとしても、定期的に多額の費用を投じて修繕をしなければならないようなケースは稀であり、また、当該箇所を工事範囲とする建築関係の大規模修繕工事が10数年ごとに実施される際に当該箇所に対して行われる修繕の内容は、仮に損耗が生じていなかったとしても同じ内容であることが容易に予想される。
したがって、美観や環境を維持するために店舗の区分所有者に多額の管理費等を納入してもらうことには、合理性が認められない。
次に、例えば安全の点で、店舗の酔客が頻繁に出現し、それによる風紀の悪化を防止(または治安を維持)する目的で、夕方以降の時間帯に管理組合法人の責任と負担で有人警備を実施(ガードマンを配置)するのであれば、有人警備の実施のための費用の財源を確保する観点から、店舗の区分所有者に多額の管理費等を納入してもらうことは、上記と同じ関係式により合理的である。
この点については、管理組合法人の責任と負担で有人警備などが実施された史実があるのであれば、そもそも店舗の区分所有者の管理費等の負担割合が合理的であることについて、団体内に共通認識が形成されやすいことで、今回のような事件に発展するようなこと自体がなかったと考えられるが、事件マンションにそうした史実があったとは考え難い。
さらに、②気積が考慮される可能性があるとしても、それを半永久的に変わらないものと位置付ければ、原始規約の段階で、具体的な管理費の額ではなく、共用部分の持分に対して反映されるべき要素と考えられ、当初から専有部分の床面積割合に立脚した持分割合が定められている事件マンションでは、考慮の対象になっていなかったと考えるのが自然である。
上記のほか、「③分譲価格」「営利事業の舞台となることの見合い」「新築分譲時の戦略」などによって、店舗の区分所有者の管理費等が住宅の区分所有者と比べて約2.5倍の額に設定されたと仮定しても、その事や理由を知っているのは、おそらくマンションの売主とその関係者だけと考えられ、これらの者からその合理性に関する説明を受ける方法によらない限り、事実や理由が判明しない関係にあるが、現実にそうした説明は受けておらず、今さら受けることもできない。
事件マンションの店舗の区分所有者の管理費等の負担割合の妥当性について、区分所有法第30条第3項が規定する「それ以外に考慮すべき要素」を考えるにあたっては、以上のような個別具体的な考察が求められると考えられるところ、何らそうした考察を経ずに未知の可能性を並べ立て、店舗の区分所有者の管理費等が高いことは合理的な範囲内に収まっているとする高橋マンション管理士の説明には、甚だ心許なさ
を否めず、管理組合法人としても、店舗・住宅の各区分所有者としても、こうした説明に納得する必要がないことは言うまでもない。

④ 区分所有法の改正と規約の改定時期に照らした現行規約の効力
事件マンション(管理組合)には、新築分譲時から問題の負担割合を定めた規約が存在していたことや、その後、規約が改定(変更)された経過などは、裁判の書証を通じて確認できる。
ここで肝心なことは、その後、平成14年に区分所有法が改正され、規約の定め方や効力に対する考え方が大きく変化していることである。
(1)原始規約の効力
昭和37年に区分所有法が制定され、翌38年から施行された以降、昭和58年に大掛かりな改正を経るも、規約事項の適否(衡平性)を巡る係争が多数発生していたことなどを受け、その後に改正された平成14年法では、「規約の適正化」に関する規定が新設された。
具体的に、規約は、「専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。」というものであり、改正法の施行前にすでに設定されていた規約事項に対する適用も(改正附則などで)排除されていない。
この改正により、事件マンションで問題となっている「約2.5倍の格差」がここにいう「区分所有者間の利害の衡平」を著しく害するものであるなら、適当な時期にさかのぼって無効と判断される可能性が生じることになる。
事件マンションにおいて、原始規約が区分所有者全員の合意によって有効に成立しているか否かについては、当事者間に争いがあるうえ、証拠上も判然としない。
しかし、仮に全員の合意があったと仮定しても、そもそも原始規約第13条1項が格差を規定したものと解すことには、かなり無理があると思われる。
また、仮に格差を規定したものと仮定しても、既述のとおり、かかる格差に合理性があるとは認められず、当初にさかのぼって無効を主張し得ると考えられる。
(2)規約の衡平性の判断に際して考慮すべき事項(立法趣旨等)
平成14年法第30条第3項において、規約は、「専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。」とされていることについて、次の書物に「考慮すべき事項」が具体的に記述されている。

一問一答 改正マンション法(平成14年区分所有法改正の解説)
法務省民事局参事官 吉田徹 編著
発行所 株式会社商事法務
それによれば、特に、「その他の事情」とは、物件の個別性をはじめとした諸般の事情を広く考慮すべき趣旨であり、例えば、マンションの新規分譲においては、分譲業者が規約原案(いわゆる原始規約の案)を作成し、購入者がこれに書面で同意することによって規約が設定されるケースが多い中、分譲時の説明が十分ではなく、その内容について理解を得ないままこれに同意したことが紛争の原因になっている場合があることに鑑み、こうした場合に分譲業者が規約の内容についてどの程度の説明を尽くしたかなどの規約設定に至る経緯も、ここにいう「その他の事情」に含まれることになると考えられるとされている。
ちなみに、平成14年法第30条第3項に羅列された要素のうち、「区分所有者が支払った対価」とは、専有部分の取得の対価(分譲価格)を指しているように誤解しそうだが、この要素については、「特定の区分所有者が共用部分を専用使用する権利(一般に「専用使用権」と言われている権利。)の対価の有無及びその多寡」を指すことなども、この書物中で明らかにされている。
なお、別の書物「これからのマンション法(丸山英気弁護士・折田泰宏弁護士:編)」において、複合用途型マンションで店舗の区分所有者の管理費等の負担を加重することがより一層許容されることになるとの記述があり、それについて上記書物中の「共用部分等の利用頻度」という記述を根拠としている部分が乙第22号証とされているが、この点について、事件マンションにおいて利用頻度というものを考えるにあたっては、総じて規模が小さい店舗の来客が1階の中通路などの共用部分を利用する頻度と、例えば、多数の友人等を頻繁に自室に招き入れる住宅の区分所有者がある場合における当該友人等が同じ箇所を利用する頻度などを対比した慎重な考慮が求められるべきことと言え、当然に店舗の区分所有者の管理費等の負担の加重が許容されるといった趣旨ではないことに注意する必要がある。
(3)結論
以上のとおり、区分所有法第30条第3項が新設された以降における管理組合の規約の改正については、以前から定められている規約事項を含めて、上記の「その他の事情」を含む衡平性の要素が総合的に考慮されたものでなければならなかったことになる。
言い換えれば、新法の施行日以降には、衡平性を欠く規約を定めること自体ができなくなっている。
この点については、たとえその時点で団体的(管理組合法人)に法律の不知(無知)があろうとも、それにより一部の区分所有者の権利が不当に害されるおそれを伴っている以上、法律の不知(無知)を理由として、衡平性の要素が総合的に考慮された改正ではなかったことを正当化するようなことはできないと考えられるとともに、仮にそうした主張が認められることがあれば、確実に法制度の形骸化につながってしまう。
具体的に言及すれば、事件マンションの管理組合法人において、改正法の施行日となる平成15年6月1日以降になされる規約の改定に関しては、問題の「約2.5倍の格差」が区分所有者間の利害の衡平を著しく害する規約事項に当たる可能性について、分譲業者が規約の内容についてどの程度の説明を尽くしたかなどの規約設定に至る経緯を考慮し、その合理性を確認する手続きが必要であったことになる。
そして、その時点で、この合理性をきちんと説明できる区分所有者が皆無であったとすれば、分譲業者が設定した「約2.5倍の格差」の負担割合を定める規約事項については、そもそも合理性がなかった(衡平ではない)という事情を考慮して、負担割合が再考されるべきであったことになる。
書証を通じて確認する限り、少なくとも平成15年6月1日以降になされた規約の改定が、法律で要請されている事情を総合的に考慮した区分所有者間の利害の衡平が図られた改定であったとは、いささか考え難い。したがって、この時点で現在の「約2.5倍の格差」のある負担割合に関する規約を定め直すことについて、衡平性を肯定し得る合理的理由が存在したとも考えられず、従前と同じ内容であるとしても、それを定め直すためには、店舗の区分所有者全員の個別の承諾が必要である。
この手続きを経ないまま「約2.5倍の格差」のある負担割合に関する規約が引き続き定められたことには、重大な瑕疵があったと考えられ、店舗の区分所有者は、これを理由として決議が無効であることを主張し得ると考えられる。
以上

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