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被告準備書面(3)

平成26年2月12日

東京地方裁判所民事第32部3A係 御中

被告訴訟代理人 弁護士

第1 本件の争点
本件は、原告らが下記の主張を基に不当利得返還請求及び平成23年の規約変更決議の無効確認を求めているものである。

①原始規約(乙6)は有効に成立していない。

②仮に、原始規約(乙6)が成立していたとしても、一共有持ち分あたりの管理費額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差を設けることを許容したものではない。

③仮に、原始規約(乙6)が有効に成立していたとしても、平成13年頃、管理規約は、甲2の管理規約に変更され、管理費等の額については、「各区分所有者の共有持ち分に応じて算出する」(第35条2項)と規定されたので、住戸と店舗の管理費等額に格差が生じることは管理規約に違反する。

④平成18年に管理規約は乙16の管理規約に変更され、管理費等の額については「各区分所有者の共有持ち分に応じて算出する」(第25条2項)とされているから、住戸と店舗の管理費額に格差が生じることは当該管理規約に違反する。

⑤平成18年の修繕積立金増額決議は、合理的理由も無く修繕積立金の金額の格差を更に拡大させるものであって、そのうち店舗に係る部分は無効である。

⑥平成23年に管理規約は甲17の管理規約に変更され、管理費等の額については、「各区分所有者の共有持ち分に応じて算出した別表第4の金額とする」(第27条2項)とされているが、平成23年規約変更決議は、無効である。

しかし、第2以降で詳述するとおり、原告らの上記主張はいずれも理由が無く、原告らの請求は速やかに棄却されるべきである。

第2 原始規約(乙6)が有効に成立していること

1 原始規約(乙6)は、本件マンションの引き渡し・登記・現実に各区分所有者が入居を開始した昭和57年2月乃至3月頃に、当時の区分所有者全員の書面による同意により有効に成立している。
すなわち、本件マンションの分譲時にあたっては、分譲業者であるM建設が作成した売買契約書(乙9;第18条参照)及び規約承認書にも署名・捺印をしており、原始規約は各区分所有者の書面による合意により有効に成立している。
なお、当時、本件マンションには、販売未了物件が存在しているが、その所有者はM建設であり、同社は当該管理規約、そして管理規約の定めに従う旨の売買契約書及び規約承認書の作成者である以上、M建設が管理費等の成立に同意していたことは明らかである。

2 また、本件マンションでは、区分所有者が入居を開始した昭和57年2月乃至3月以来、各区分所有者は、原始規約の管理費・補修積立金を負担し、支払ってきており、全区分所有者が、原始規約について異議なく承認をしていたことは明らかである。
東京地裁八王子支部平成5年2月10日判決(判例タイムズ815号198頁)は、ある区分所有者が管理規約を承認せず、管理費及び修繕積立金の支払いを拒否していた事案についてさえ、当該区分所有者を除く他の区分所有者が暗に異議なく承認していた事実を理由に、原始規約の規範的効力を認めている。
本件では、上記裁判例とは異なり、全区分所有者が原始規約の管理費、補修積立金を負担し、支払ってきているのであるから、上記判例に照らし、本原始規約(乙6)が有効であることは明らかである。

3 なお、原告らは、上記規約承認書(乙11、乙13、乙15)に、原始規約(乙6)に存在しない条文が記載されていることを問題としている。
この規約承認書の引用条文が誤っているのは、M建設が他の分譲マンションで使用した規約承認書を流用したことにより生じたものと推測されるが、本件マンションにおける分譲時の規約としては、乙6しか存在していないことから、規約承認書に記載された「管理規約」が乙6をさすことは明らかである。
また、原告らは、価格表(乙4)と管理委託契約書(乙5、乙10、乙12、乙14)に記載された管理費等の額が異なり、誤記が存在していることを指摘している。
すなわち、タイプKについては、正しい管理費は5600円であるところ、価格表及び管理委託契約書に9300円と誤植があったため、管理委託契約書では5600円と手書きで誤記の訂正が加えられているものである(なお、訂正記載がされないまま使用された管理委託契約書もあるようである)。
次に、タイプN・O・Zは、価格表では8200円と正しく表示されていたが、管理委託契約書では3200円と誤植がされたため管理委託契約書では8200円と手書きでの誤記の訂正が加えられているものである(これについても、訂正記載がされないまましようされた管理委託契約書もあるようである)。
いずれにしても、原告らが指摘する住戸の管理費については、上記の正しい金額が支払われてきており、書面上の誤記が管理規約の有効性に消長をきたすものでないことは明らかである。
また、原告らは、重要事項説明書について、異なる種類のもの(乙3と甲22)が存在していることを理由に、甲22の重要事項説明書が交付された際、乙4の価格表とは異なる価格表が使用されたものと推認されるとし、管理費及び修繕積立金が乙4に記載された管理費及び修繕積立金の額と異なるのではないかと主張しているようである。
しかし、乙17は、M建設が価格の値下げ等を行った以降に本件マンションを購入した702号室の区分所有者が売買契約時(昭和58年9月30日;乙9参照)に交付された価格表であるところ、管理費及び補修積立金は乙4の価格表に記載された金額と同額であり、この指摘は、事実に基づかない単なる推測によるもので、管理規約の有効性に消長をきたすものでないことは明らかである。

第3 原始規約等に基づき適正に管理費が収受されてきたこと

1 原始規約における管理費等の額について
(1)本件マンションでの現実の管理費等の支払い
本件マンションでは、第2記載のとおり、購入者が登記手続き・引き渡し・入居を開始した昭和57年2月乃至3月以降、各区分所有者が価格表(タイプKについては、訂正された金額、以下同じ)に記載された管理費等(及びそれを前提とした増額された修繕積立金)を負担し、支払ってきており、規約に基づき適正に管理費等が収受されてきた。

(2)本件マンションの性質
本件マンションは、いわゆる複合用途型マンションである。
即ち、国土交通省が設置した「マンション標準管理規約検討委員会」では、マンションの標準管理規約モデルを公表しているが、そこでは、マンションの類型分類として、下記の「3つの類型」のマンションに分類している。

①単等型
②団地型
③複合用途型

本件マンションは、①②のような住居専用マンションではなく、店舗と住戸が複合して存在するいわゆる上記③の「複合用途型」マンションに属するものである。
このような複合用途型マンションの場合、一般に、その複合する用途に応じて、管理費等が設定される(標準管理規約でモデルでも、店舗の管理費と住戸の管理費等が別異に定められることを当然の前提としている)。

(3)本原始規約の管理費等の設定
本原始規約における管理費等についても、そのことを当然の前提とした管理費等が設定されている。
即ち、原始規約においては、「タイプ別管理費」を負担する旨記載されているが、その具体的な金額は、重要事項説明書(乙3、甲22)の別添価格表(乙4、乙17)に記載された通り、店舗と住戸との用途分類に分けたうえで、それぞれ各店舗及び住戸の分類に応じて、各タイプの持ち分面積を基礎とした金額と定められている。
このように店舗と住戸との用途分類により二つに分けることを当然の前提としていることは、各タイプの表記が店舗と住戸で異なっている(店舗については「店舗1」~「店舗19」と数字で表記され、住戸については「タイプA」~「タイプZ」とアルファベットで表記されている)ことからも明らかである。このように、「タイプ別管理費」という規定は、店舗と住戸との用途分類に応じて分けることを当然の前提に、M建設が設定した金額である。
そして、各区分所有者は、本件マンションの購入時、本件マンションが複合用途型マンションであることを容易に理解し、M建設が店舗と住戸との用途分類に分けたうえで、それぞれ定めた管理費等の支払い義務があることを認識し、それを了解したうえで、区分所有者がとなっているのであり、そのような認識の下に、昭和57年2月乃至3月以降、原始規約に基づき管理費等が支払われてきたものである。

2 店舗と住戸とで管理費の額に差を設けることの合理性
本件マンションでは、上記原始規約に基づき、昭和57年2月乃至3月以降、住戸については約158円/㎡、店舗については約385円/㎡の管理費が支払われているところ、上記のとおり、店舗と住戸とが並存する複合用途型マンションにおいて、店舗の管理費及び住戸部分の管理費の金額とに差を設けることは一般的に行われており、裁判例(東京地裁昭和58年5月30日判決・判時1094号54貢)においても、肯定されているところである。
上記の本件マンションの管理費等の金額は、分譲業者であるM建設が、建物の形状、面積、位置関係、使用目的、及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者全員の利害の衡平が図られるように決定されたものである。
(1)住居専用マンションと複合用途型マンションとの違い
住居専用マンションと、商業活動用の店舗設置を許容する複合用途型マンションとでは、当該マンションの管理費用・修繕費用等が大きく異なる。即ち、店舗用との専有部分が存在する場合には、店舗による営業活動のために、その営業活動に必要な設備等も許容することとなり、それに伴う管理費等も必要となり、また、それらの営業活動や顧客の参集による店舗部分の利用に伴い、種々の状況が生じ、その対応のためにマンションの維持管理費用・補修費用も別段の配慮が必要となる。
例えば、店舗という商業的活動を許容した場合、店舗外装や看板の設置等によるマンションの統一的なイメージや美観を損なうことはもちろん、1階部分での住民以外の第3者をも対象とする営業活動等により、多数の顧客等の参集等による騒音、臭い、多数の者の使用による損耗の増加等の問題が生じる。
店舗区分所有者は、本件マンションに店舗を構え、本件マンションの1階部分において営利活動を行うことによって利益を得ることが出来る一方、その営利活動の対象は当該マンション居住者だけではなく、当該マンション居住者以外の近隣の住民等の第三者をも対象にして商業活動を行うもので、そのことにより、住民の静寂、安全等の犠牲の上で、営業活動が許容されているという面もある。
また、本件マンションには、店舗による営業活動のために、店舗が主として使用をする共用部分((2)の店舗出入り口・中通路、(3)店舗前敷地部分等)が必要となり、その点検維持管理・補修等の費用を要するほか、下記(4)の現実に看板等を設置することによるマンション壁面等の補修の必要性が生じることや、(5)乃至(7)の不特定多数の出入りによる騒音、臭い、セキュリティの問題やその対応費用の増加・当該施設の点検維持費用、店舗利用者の多数の第三者の利用による損耗。劣化の進行による点検維持管理・補修・修繕等の費用がより高くなり、また、多数の参集等による清掃の必要性も他の共用部分に比べて高くなる。
加えて、本件マンションには、各店舗のためのシャッター((8)や、主として店舗の電力を供給するためのキュービクル設備(電気計器子メーターを含む、(9))があり、それらの点検維持管理、補修費についても修繕費用等の費用の支出を要する。
本件マンションの分譲業者であるM建設が本件マンションを複合用途型マンションとして販売するに当たり、店舗と住戸の二つの用途分類したうえで、異なる管理費等を設定したのは、上記の利用状況(具体的には下記(2)如何に詳述)の諸事情等を考慮して、総合的にはんだんしたものであり、その判断は極めて合理的な者だある。

(2)共用部分である店舗利用者のための出入り口及び中通路の存在
本件マンションには、共用部分として店舗の商業活動に伴う顧客等が利用するための出入り口や中通路が存在している(乙3の2枚目上の図で「店舗出入り口」、「通路」と記載されている部分)。
店舗区分所有者は、当該共用部分を自らの商業活動による顧客等が利用できることにより、利益を享受することが出来る(中通路にエアコンの室外機を設置している店舗区分所有者もおり、自転車を置いている店舗来店者もいる)。
これらの店舗の出入り口や中通路は、住戸の者も通行できるが、商業活動による顧客等の利用も多く、そのことにより、その部分の損耗が住戸用途だけの単一型マンションよりも激しくなり、その点点検維持管理、補修等がより必要となる。
なお、中通路の床の素材はセメント系人造石(テラゾーブロック)であるため(乙3;重要事項説明書39貢)、その清掃の際にはワックスがけ等も必要となる。

(3)共用部分である店舗前敷地の利用
店舗前敷地は、共用部分ではあるが、主として、各店舗の出入り口として利用されている(同敷地上にエアコンの室外機を設置したり、ビールケース、立て看板、のぼり旗を置く等して利用している店舗区分所有者もいる。)
このように店舗前敷地は、共用部分であるが、店舗用途目的の区分所有者やその顧客等の利用に供されているものであり、それらの利用や使用結果に伴い、点検維持管理、補修・修繕費用がよりひつようになる。

(4)看板等の設置
店舗区分所有者は、その店舗の営業活動のために、本件マンションの建物の一部壁面若しくは敷地の一部に看板等を設置することになる(現実にも看板やガラス製ディスプレイケースが設置されている)。
これらの看板や宣伝物の設置等により、本件マンションの統一的な美観や建物の外観の調和が犠牲になる面があるのみならず、看板を設置するのに外壁等にドリルで穴をあけている区分所有者もいるため、建物の躯体への影響も生じ、本件マンションの修繕費用等の際には看板を撤去する必要性も生じ、撤去に伴う工事費用や躯体の復旧のために特有な工事費用等を要すること等が考えられる。(なお、現に大規模修繕工事Ⅰ期工事では看板の脱着工事費用が発生した。)
なお、複合用途型マンションにおいて、店舗用途の区分所有者が看板等を設置する場合、看板使用料を徴収することがあるが、本件マンションでは、無償で使用できることになっており、M建設は、このことも考慮したうえで、店舗の管理費等を設定したものと思われる。

(5)不特定多数の出入りによる騒音や危険の増大等
複合用途型マンションにおいては、店舗の営業活動に伴い、不特定多数の店舗利用者がマンションに出入りすることが想定される。
それに伴い、必然的に騒音や安全・防犯面のリスクの増大等が発生する。
安全・防犯のためには、防犯カメラの設置が必要となり(本件マンションでも防犯カメラが設置されている)、それに伴う点検維持管理費用、補修・修繕費用等が必要になる。

(6)多数の者の利用に伴う損耗・劣化や清掃の必要性
本件マンションには、顧客等の多くの店舗利用者が訪れることにより、共用部分である中通路、店舗前敷地、ピロティ、店舗用出入り口等は、住戸専用のマンションに比して、多数者の利用により当該部分の損耗・劣化がより激しくなり、また、清掃の必要性も住戸の単一用途型マンションに比して高くなり、それらに伴い点検維持管理・補修費用等が住戸専用マンションに比してより多くなる。

(7)店舗の営業活動に基づく騒音、臭い及び煙等
店舗が営業活動をすることにより、機械音やカラオケ等の騒音や、飲食店等の場合には料理等による臭い、煙、ゴキブリ、ネズミの発生等衛生面での問題が生じることが考えられる。
これらの対応に関連して、住戸専用のマンションに比して対策費や補修・修繕費用等が生ずることも考えられる。

(8)店舗用シャッターの保守点検
各店舗には、店舗用のシャッターが、中通路に面する店舗については、電動の防火用シャッターがそれぞれ設置されていおり、それに関しても点検維持管理費用(なお中通路に面する防火用シャッターは法定点検対象である)、補修・修繕費用等が必要となる。

(9)キュービクル設備(電気計器メーターも含む)の保守点検等
本件マンションには、キュービクル設備がある。このキュービクル設備は、主として店舗に電力を供給するためのものであり、東京電力から供給される高圧電力を一般に使用できる低圧電力に変圧するための設備である(なお、各店舗は、このキュービクル設備を利用することにより、使用量にもよるが、各住戸専有部分の電気使用料よりも安い負担となるという利益を享受する者もある)。
このキュービクル設備の関係でも、その点検維持管理・補修・修繕費用等が必要となる(なお、キュービクル設備は法定点検対象である。)

(10)小括
このように、店舗と住戸とが併存する複合用途型マンションにおいては、純粋な住戸だけの専用のマンションに比して、店舗部分があることにより、より多くの点検費用、維持管理・補修・修繕費用等の支出を余儀なくされるものであり、そのような当該マンションの特質・使用実情等を踏まえて、店舗部分と住戸部分の二つの用途目的に分けて、店舗部分の管理費等を住戸部分よりも高く設定することは、区分所有者間の利害の衡平が図る観点からは、当然許容されるところであり、区分所有法の当事者間の利害の衡平の観点からも、極めて合理的なものと言わなければならない。
本件においては、本件マンションの各区分所有者は、分譲時に本件マンションが複合用途型マンションであることを認識し、管理費等について店舗と住戸との用途分類に応じて差があることを理解し、それを承認をしたうえで購入をしている。
以上を踏まえれば、本件マンションにおける住戸と店舗という用途分類に分けたうえで、各々の分類に基づいて(さらには店舗ごと及び住戸にタイプごとに分けて)別異に定められた管理費・修繕積立金が、合理的理由に基づくこと、そして具体的な金額の範囲も合理的範囲内にあることは明らかである。

第4 甲2の管理規約は総会の欠議を欠いている(有効に成立していない)こと
原告らは、平成13年頃、管理規約を甲2に変更する旨の決議を成立させた旨主要している。
しかし、平成13年当時の集会の議事録は存在せず、関係者等に確認したところ、そもそも規約改定の集会自体が行われていないとのことである。
乙18は、平成16年12月ごろに作成された「臨時総会再開催のお知らせ」の文案であるところ、第3号議案として、「現行管理規約承認の件」と記載され、その説明として、「正式に管理組合総会で認証の手続きを取っていないため、改めて承認いただきたい」と記載されている。
上記記載から明らかなとおり、甲2の管理規約は総会の決議を経ていないものである。
なお、現実にその後開催された臨時総会においては、第3号議案が削除され、審議されていない(乙19)。その経緯は不明であるが、いずれにせよ、甲2の管理規約が総会で承認を受けた事実が無いことは明らかである。
甲2の管理規約は、平成13年頃、当時各戸に印刷物として配布されたため、それが有効な管理規約であると区分所有者に誤信され、等規約を基に事実上管理組合の運営が行われてきた面はあるものの、それによって管理費等の規定が有効に変更されたものではない。
また、現実にも平成13年以降も管理費等は従前の金額のまま実務処理が行われている。
なお、原告らは、被告が甲2の管理規約の有効性を否定することは、自白の撤回にあたる旨主張しているが、被告は、甲2の「管理規約」なる文書の存在自体を認めたに過ぎず、規約の有効性については何ら述べていない。
したがって、原告らによる甲2の管理規約について被告の自白が成立するとの主張は失当である。
以上のとおり、甲2の管理規約は総会の決議を経ていないもので、有効な管理規約でないことは明白である。

第5 平成18年の改定後の管理規約(乙16)が従前と同様の管理費の金額を前提としていること及び修繕積立金増額決議が有効であること
1 平成18年の管理規約(乙16)の改定
平成18年5月14日の第23回定期総会において、長期修繕計画表に基づく修繕積立金(第3号議案)及び管理規約改定(第6号議案)の審議がされ、修繕積立金については平成18年7月28日(8月分)の引き落とし分より改定されることが賛成多数により決議され、管理規約改定については全員の賛成により決議された。

2 管理規約(乙16)が従前と同様の管理費の金額を前提としていること
改定後の管理規約(乙16)は、文言上「共有持ち分に応じて算出する」と規定されているが、下記(1)から(4)の事実から、この管理費の金額が従前と同じ金額(即ち、本件マンションの性質である複合用途型マンションを前提として、店舗と住戸との用途分類をしたうえで、それぞれの店舗の番号及び住戸のタイプに応じて設定された額)によることを前提にしていたことは明白であり、用途分類制度を廃止したとか、タイプ別で算出された方式を特に変更するものではなかったことは明らかである。

(1)前述のとおり、国土交通省が設置した「マンション標準管理規約検討委員会」では、3つの類型のマンション(単等型、団地型、複合用途型)に分類しているところ、本件マンションはいわゆる複合用途型マンションに属し、管理費等について店舗と住戸の用途に応じた管理費を定めることは当然のことであり、そのことは区分所有者も当然の前提としたうえで、管理規約改正の決議がされている。

(2)このことは、この同一の総会において、本件マンションが複合用途型マンションであることを前提にして、店舗と住戸とを区分し、それぞれの店舗の番号及び住戸のタイプに応じて設定された管理費等の額を前提とする修繕積立金の改定決議がされていることからも明白である。

(3)この平成18年の総会の後も従前の店舗と住戸との用途分類に応じて、上記の店舗番号・住戸のタイプに分けて算出された管理費等がが支払われている。

(4)平成23年総会でも管理規約が改定されているところ、管理費等は従前通り店舗と住戸との用途分類で分けることを前提にして金額設定がされている。

管理規約の文言が「共有持ち分に応じて算出する」(乙16の第25条2項)となっているのは、改定規約の作成者が国土交通省より公表されていたマンション標準管理規約(単等型)と同じ文言を使用したためであるが、そこにた特に従前の方式を変更することを意図していなかったことは、上記(1)乃至(4)の事実からも明らかである。
マンションの理事は区分所有者の住民等で構成され、通常はボランティアとして活動している。それらの理事等は、通常は、専門的な法律知識を有さず、区分所有法等の法律知識が十分でないものである。それらの者が、単棟型マンションの標準管理規約を一般の標準管理規約と誤り、当該標準管理規約の文言を誤って使用したからと言って、区分所有者の誰もが想定していないような、規約の解釈が行われるべきでないことは、法常識的にも明らかである。

3 修繕積立金の改定決議は有効であること
原告らは、平成18年5月14日の第23回定期総会において決議された修繕積立金の増額決議について、合理的理由も無く修繕積立金の金額の格差をさらに拡大させるものであって、店舗に係る部分は無効である旨主張している。
しかし、以下の通り、上記増額決議は、現実に修繕工事の実施が迫ったという状況下で、増額の必要があり、また、その増額決議に至るプロセス等も各区分所有者に対し、十分な説明の機会を設けたうえで総会の決議をへたものであり、その金額も従前の店舗と住戸の各々の修繕積立金に一定の倍数を乗じた方式であり、合理的な理由に基づく合理的な算定による増額であったことは明らかである。
(1)修繕積立金増額の基礎として用途分類制度を維持することに合理性があったこと
本件マンションは、前述のとおり複合用途型マンションであり、店舗用途と住戸用途という別異の用途に応じて管理費等を設けることが、①共用部分である出入り口及び中通路の店舗利用者の使用、②共用部分である店舗前敷地の使用、③看板の設置、④不特定多数の人の出入りによる騒音や危険の増大、⑤顧客等の不特定多数の使用に伴う損耗・劣化や清掃の必要性⑥店舗の営業活動に基づく騒音、臭い及び煙等の発生、⑦店舗用シャッターの保守点検、⑧キュービクル設備(電気計器子メーター)の保守点検等の利用状況の実態からして合理的であることは、前記第3、2に詳述したとうりである。
そして、平成18年当時において、店舗と住戸とで各々の使用状況等を斟酌したうえで、管理費等が別異に定められていることを前提にして、修繕積立金増額決議をすることが合理的であることは、次の事実から明らかである。
平成18年当時の本件マンションに入店していた各店舗の業種は101:喫茶店、102:不動産会社、103:スナック2店、104:飲食店、105:理容業、106:スナック、107~111:医院、112:保険代理店、113:マッサージ店、114・115:印刷関連会社、116:空室、117:建築設計事務所、118:倉庫、119:不動産会社であり、平成18年当時においても、各店舗の使用目的は、各店舗において顧客の参集を目的とする営業活動であった。
本件マンションの1階店舗部分は、各々の店舗で看板等が設置され、顧客等の第三者の出入りがある店舗であり、店舗利用者のための出入り口及び中通路の存在、共用部分である店舗前敷地の利用、不特定多数の出入りによる騒音や危険の増大等、使用頻度に伴う損耗・劣化や清掃の必要性、店舗の営業活動に基づく騒音、臭い及び煙等、店舗用シャッターの保守点検、キュービクル設備(電気計器子メーター)の保守点検の利用状況及びその点検等の費用の実態からして、修繕積立金増額の基礎として用途分類制度を維持することに合理性があったこと明らかである。

(2)増額決議に至るまでの経緯
乙20の1から10は、平成18年5月14日に開催された第23回定期総会に先立ち、招集通知とともに各区分所有者に配布された資料一式である。
そこに添付されていた長期修繕計画表(案)及び「大規模修繕工事に向けて」と題する書面(以下、「大規模修繕工事実施概要」という。)は、以下の経緯を経て作成されたものである。
管理組合は、管理会社(当時D㈱)及び顧問契約を締結していたコンサルタント会社(s)の協力の下、管理会社より提出された「長期修繕計画表(案)」の検討を行い、また、建物診断調査を実施し、建物調査報告書(なお当該建物診断調査報告書は閲覧を希望する区分所有者に対して貸し出しを行っている)も参考に大規模修繕工事の概算等などの検討を行い「大規模修繕工事実施概要」をさくせいした。
その際、広く組合員の意見や理解を得るため、区分所有者を交えた公開理事会を以下の通り開催し、検討を行った。なお、公開理事会の開催告知は、本件マンションの1階エントランスにある管理組合の掲示板に掲示することによりおこなっていた。
第1回:平成17年12月16日
第2回:平成18年1月10日
第3回:平成18年1月27日
第4回:平成18年2月23日
第5回:平成18年4月8日
第6回:平成18年4月22日
以上の経過を経て、平成18年4月頃、理事会は、各区分所有者に対し、長期修繕計画表(案)及び大規模修繕工事実施概要を送付し、各区分所有者に対し、修繕積立金増額必要性及び改定後の修繕積立金額について十分に説明を行ったうえで、第23回定期総会において承認を得ている。

(3)長期修繕計画表に基づく修繕積立金増額が必要であったこと
招集通知に添付された長期修繕計画表(案)及び大規模修繕工事実施概要に記載されているとおり、そこでは、次のことが指摘されている。
●本件マンションでは、約22年に渡り、平均月額約905円という極めて低額な修繕積立金であった。
●当時の平均月額905円の積立金のまま推移した場合、修繕積立金は約1億0500万円しかたまらず、大幅な資金不足が確実視される。
●予定されている大規模修繕工事においては、金融機関より融資を受けることが不可欠であったところ、融資の条件の1つとして積立金の改定が要求されていた。
●具体的な積立金の改定額を決するに際しては、長期修繕計画を参考にシュミレーションを行ったうえで、金融機関が推奨する金額も踏まえ、それを参考に金額の検討が行われた。

(4)修繕積立金増額は一律であること
そして、修繕積立金の増額は、店舗と住戸の区分所有者共通に一律で(従前の修繕積立金の12.5倍で)増額決議がされたものである。

(5)平成20年の第25回通常総会で信任決議がなされていること
なお、本修繕積立金増額決議については、一部の組合員から総会決議無効確認訴訟(東京地裁平成20年(ワ)2679号、なお、決議が有効であることを確認する旨の和解で終結していることについては、乙7参照)が提起されたことから、平成20年3月30日に開催された第25回通常総会において、本修繕積立金増額決議を信任する旨の決議がされている。

(6)小括
以上の(1)から(5)の事実を踏まえれば、平成18年総会において、客観的にも増額の必要性があった修繕積立金について、増額の基礎として本件複合用途型マンションの性質に基づく用途分類制度を維持し、店舗と住戸について一律に12.5倍の増額決議したことが、合理的な理由に基づくものであることはもちろん、増額した範囲も合理的範囲内にあることは明らかである。
よって、この決議が有効なものであることは明らかである。

第6 平成23年の管理規約の改定決議が有効であること
1 招集通知には別表第4が添付されていること
平成23年11月6日の総会決議の招集通知一式(乙21の1から6)を見れば明らかなとおり、被告は、平成23年の総会に先立ち、各区分所有者に対し、招集通知と合わせ下記の資料を添付している。
①臨時総会上程議案説明書
②管理組合法人規約集(改定管理規約案、別表がふされている)
③管理規約改正(案)新旧規約比較対照表
④光ファイバーインターネットサービスの提案書等
⑤臨時総会出欠席用紙
上記の資料の内、②には「別表第4」が付され、「別表第4ー1」には、「店舗別及び児童館専有面積、管理費等一覧表」及び「住戸タイプ別専有面積、管理費等一覧表」が記載されている。

2 原告らの主張について

(1)招集手続きが区分所有法35条5項に反するとの主張について
原告らは、平成23年の規約変更決議について、招集通知に住戸と店舗との間で差を設けることについての説明が無く、「別表第4」も添付されていなかったとして、区分所有法35条5項違反(議案の要領の不通知)という重大な瑕疵がある旨主張している。
しかし、前記1のとおり、平成23年11月6日の臨時総会に先立ち、各区分所有者に対しては、「別表第4」を含む上記の招集通知一式が送付されており、原告らの主張は事実に基づかない主張である。
平成23年の規約変更決議は、管理規約全体を改めるものであるから、改定後の規約の全条項(別表を含む)、新旧規約対照表の規約案一式を通知すれば、議案の要領の通知(同法35条5項)として足りることは明らかであるから、原告らのそれ自体失当である。

(2)区分所有法31条1項に反するとの主張について
原告らは、平成23年の規約変更決議について、総会時点で店舗の区分所有者であった者の承認(区分所有法31条1項後段)がないため、決議は無効であると主張している。
しかし、前述のとおり、平成23年の規約変更決議は、管理費・修繕積立金について、従前より現実に各区分所有者から異議なく支払われてきた金額から特に変更されたものではない。その具体的な管理費の金額は、原始規約(乙6)から支払われてきた金額であり、修繕積立金は平成18年総会で増額決議されて以来、現実に支払われてきた金額である。
このように平成23年の規約変更は、支払われるべき管理費や修繕積立金の金額を何ら変更するものではない。
したがって、上記規約変更決議は、原告らの権利に特別の影響を及ぼすものではない。
最高裁判決では、「特別の影響を及ぼすべきとは」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解されているところ(最高裁平成8年(オ)第258号同10年10月30日第2小法廷)、平成23年決議は従前の原告らの管理費の額を何ら変更するものではなく、原告らに受忍限度を超えた不利益を貸すものではない(そもそも、決議の前後を通じて、管理費の額に変動が生じていない以上、不利益が生ずるわけがない)。
ところで、原告らの内、原告A、同B、同E、同F、同H、同J、同K、同I、同Mは、平成23年の規約変更決議について賛成票をとうじている。(なお、原告㈱H、同D、同G、同L、は当時、管理組合にたいし、届けられた区分所有者ではなく、総会招集通知の受領者ではない。また同Dは本総会を欠席している)。
その際、原告らが、本件マンションの管理費等が店舗と住戸との用途分類に応じて金額に差があることを認識していたことは、招集通知一式(乙21の1から6)に鑑みれば明らかである。
加えて、そもそも原告らは、本件マンションの区分所有者となって以来、規約で定められた用途分類及び店舗番号・住戸タイプ別に応じた管理費を負担し、支払っている。
これらの事実に鑑みれば、原告らが、平成23年の規約変更決議が店舗と住戸との用途分類を当然の前提として、それぞれの店舗番号、住戸のタイプに応じて面積を斟酌して設定された管理費等の額を負担することについて、承諾をしていたことは明らかである。

(3)区分所有法30条3項等に反するとの主張について
前述のとおり、店舗と住戸が併存する複合用途型マンションでは、店舗部分の管理費等を住戸のそれと異なって定めることは一般的に行われているところ、それは使用用途によって利用状況や使用実績も異なり、管理費等が類型的に異なるという実態に応じた合理的な制度設計というべきものであり、その制度設計により、当該区分所有関係の実態に照らして、一部の区分所有者が受ける不利益を受忍すべき限度を超えるとは到底認められないことも明らかである。
従前より、裁判例においても、店舗部分の管理費等の負担を住宅部分の管理費等の負担に比して加重することは肯定されていたところ(東京地裁昭和58年5月30日判決)、平成14年の区分所有法改正により新設された法30条3項は、考慮要素として「利用状況」を明記するに至っており、利用状況に応じて、店舗と住戸とで管理費の額に差を設けることは、より一層許容されるとの評価がされているところである(乙22、山上知裕)
したがって、本件マンションのように複合用途型マンションにおいては、前述したように店舗用途と住戸用途に分けて、各々の利用状況を踏まえて、管理費等を定めることは、同法30条3項に反しないことは明らかであり、原告らの主張は理由が無い。

第7 被告による管理費等の収受が適法であること

1 決議の不存在について
原告らは、最高裁平成16年4月23日判決を引用したうえで、縷々述べている。
しかし、上記最高裁判決は、管理費等に係る債権が民法169条所定のいわゆる定期給付金債権に該当し、2年間の短期消滅時効に服するか否かを判断したに過ぎず、管理費等を適法に収受するための一般的な要件を論じたものではない。したがって、原告らの主張はそもそも失当である。

2 管理費等の収受が適法であること
被告による管理費等の収受が適法であることは、前記第2乃至第6に述べたところから明らかである。

第8 信義則ないしは権利濫用

1 原告らは、総会決議に対し賛成を表明していること
上記平成18年5月14日の総会決議では、㈱H、同F、同I、同Mが賛成票を投じている(なお、原告D、同Eは欠席している。また、原告A、同B、同C、同G、同H、同J、同K、同Lは、そもそも総会招集通知受領者ではない)。
また、上記平成20年3月30日の総会決議では、原告A、同㈱H、同E、同J、同K、同Iが賛成票を投じている。
なお、本総会決議において、明確に反対票を投じたのは、原告D(乙8の3)、同F(乙8の2)、同M(乙8の3)であるところ、原告D、同F、同Mについては、すでに裁判手続きにおいて解決が図られている(後述2参照)。また、原告B,同C、同G、同H、同Lは、総会招集通知受領者ではない。
さらに、平成23年11月6日の総会決議では、原告A、同B、同E、同F、同H、同J、同K、同M、同Iがそれぞれ各議案に賛成票を投じている。
なお、本総会決議において、枚描くに反対票を投じた原告は存在せず、原告Dは欠席、同㈱H、同C、同G、同Lは総会招集通知受領者ではない。
原告らも認めているとおり、原告らが店舗と住戸との用途分類に基づく管理費等の金額について問題視し始めたのは、平成23年11月下旬以降であるところ、原告らはそれまでの間、管理費等の金額に格差が生じていることを知らなかったなどと主張している。
しかし、店舗と住戸で管理費等に差があることを原告らが認識していたことは、分譲会社からの説明、重要事項説明書添付の価格表記載、平成18年の総会招集通知一式等から明らかであり、原告らの主張は事実に反するものである。

2 過去の裁判における解決の不当な蒸し返しであること
準備書面(1)で述べたとおり、原告Dと被告との過去の裁判(東京地裁平成20年(ワ)11252号)において、平成18年5月14日の総会が有効である旨確認され、原告Dが改定後の修繕積立金の支払い義務を負う旨判示されている(乙8の1)。
また、原告Fも被告との過去の裁判(東京地裁平成20年(ワ)10234号)において、平成18年5月14日の総会決議に従い、改定後の修繕積立金を誠実に支払う旨を確約している(乙8の2)。
原告Mも、被告との過去の裁判(東京地裁平成22年(ワ)34252号)において、和解成立時点(平成23年7月12日)までの被告の総会決議が有効に成立したことを認め、その効力を争わないことを確約している(乙8の3)

3 小括
以上の各事実に鑑みれば、原告らの本請求が、信義則に反し、権利の濫用であり許されないことは明らかである。

第9 決議無効確認請求について
平成23年の管理規約の変更をした総会決議が有効であることは、前記第6記載のとおりであり、原告らの主張に理由が無いことは明らかである。

以上
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