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耐震設計法の歴史

新耐震設計法・・1975年の大分中部地震では、ホテルが倒壊した。建築基準法の静的な設計法では、耐震性を満足することができないことを示した。強度だけでは対応できないことと、動的効果の必要性が強く認識された。

1975年「建築基礎構造設計基準」、JASS5、JISの改定、「建築物荷重基準(案)」の公表に伴い、「鉄筋コンクリート構造計算・同解説」が改定された。さらに1979年に、基礎の算定法を改善するために改定された。

1978年に伊豆大島近海地震(M7.0)が発生した。

同年、宮城県沖地震(M7.4)が発生し、造成地盤や軟弱地盤上の木造住宅に被害が集中し、また、非構造物の被害が多数生じた。校舎の北面短柱のせん断破壊や高架水槽などの設備の被害も目立った。

1972年から77年にかけて、動的効果を考慮した耐震設計法を開発するために「新耐震設計法開発総プロジェクト」が組まれた。建築研究所と土木研究所で1977年に新耐震設計法(案)が提案された。1978年に宮城沖地震が発生し、3年間の検討後、1980年に建築基準法施行令が改正され、1981年に施行された。

この中で、高さ20mを超える鉄筋コンクリート造建物などに対して、地震力に対する検証は2段階検証法で、1次検証法が許容応力度計算、2次検証が保有水平耐力計算法によるものとなった。

保有水平耐力計算は、1階床スラブより上部の構造に対する検討で、1階床から下は原則として検討されない。それまでの計算は、地震力が震度分布を用いて各層に慣性力として与えられ、各断面での許容応力度計算による検証だけで、崩壊メカニズムも保有水平耐力も確かめられず、建物の保有する性能を検証することができなかった。しかし、保有水平耐力計算では、変形に関して、まだ、非線形解析をできるような高度な技術や道具もなく、建物の保有する性能としては、半分の性能しか得られないので、2000年の限界耐力計算を待つことになった。

新耐震設計法では、震度法と違い、建物の固有周期や、層せん断力分布係数、剛性率、返信率、が定義されなければならない。

したがって、ツインタワーや大きな吹き抜けのある、非剛床を有する建物や、斜面地に建つ建築物は適応から外れ、時刻歴応答解析によらざるを得なかった。

また、せん断補強筋が閉鎖型や、端部が90度曲げから135度になり、兵庫県南部地震では、これらのフープを密に用いた鉄筋コンクリート造の被害が軽微であった。

1982年に、「鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説」が、付録の設計例でこれに対処し、併せてスラブの過大なたわみやひび割れ防止のため、床スラブを中心に改定された。

1983年に、施行令の改正に伴いプレストレスコンクリート構造の告示が改正。

1987年、「鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説」が、保有水平耐力の検討が行えるように改定された。

1988年に「建築基礎構造設計基準・同解説」が、「建築基礎構造設計指針」へ改定された。また、「鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説」が、JASS5、JISの改定に整合させるために改定された。

1989年にロマブリータ地震(M7.6)

同年「免震構造設計指針」が刊行された。

しかし、1980年の施行令の改正を契機に、建築学会の各種計算基準に対して、建築指導課の新たな通達がなくなり、また、建築学会の各種計算基準が独自に改定されるようになり、両者の関連が薄れた。材料・施工に関しても、学会の各種建築工事標準仕様書に代わって、公共建築協会の建築工事監理指針が使われるようになった。

1983・・日本海中部地震(M7.7)

1984・・長野県西部地震(M6.8)

1985・・メキシコ地震(M7.9)

1989・・

1993年「荷重指針」が改定された。

1993・・北海道南西沖地震(M7.8)

1994・・ノースリッジ地震(M6.8)

1994・・三陸はるか沖地震(M7.5)

1995・・兵庫県南部地震(M7.2)

さらに、1999年に法第38条が廃止され、また通達行政が禁止されたため、構造計算に対する規定があいまいになった。この状態は、2007年の改正建築基準法施行までつづくことになった。

 

1995年に兵庫県南部地震(M7.2)が発生し、戦後に建てられた木造の密集地に被害が集中したが、超高層鋼構造建築物の母材破断や残留変形、鋼構造物の溶接部の破断や柱脚の損傷、冷間成形角形鋼管の溶接部の破断、新耐震設計法を用いたピロティ建築物の倒壊、鋼構造や鉄筋コンクリート構造の不良施工の露呈、非構造部材の損傷による建築物の撤去、官庁施設が躯体や通信設備の被害を受け、防災拠点としての機能が果たせなかった、などの問題が判明した。

これまでの建築構造物の安全性は一様であること、耐震構造は躯体の損傷を前提にしていること、非構造部材は損傷することを前提にしていること、地震時や直後の建物の機能は維持されないこと、などに関して、これまで構造設計者は発注者や使用者、一般市民に説明をしてこなかったため、構造設計に関する規範に関して、構造設計者と市民のかい離がはっきりした。

1995年12月に、建設省告示第1791号と第1792号を改正し、鉄骨造の柱脚部についての安全性の確保と、ピロティ型式などの建築物についてn安全性の確保を定めた。剛性率に対するFs値の上限を撤廃し、2.0まで上げた。柱の靭性の能力と耐力の確保が規定された。

1996年に「官庁施設の総合耐震計画基準・同解説」が刊行され、施設をカテゴリーに分類し、耐震安全性の目標を、構造体で3種類、非構造部材で2種類、建築設備で2種類に分けた。また、震災時の機能維持に応じて、免震構造及び制震構造の採用が認められるようになった。

本来、この時に、高層建築物、デパート、駅舎、学校、病院、劇場などの民間施設でも官庁施設と同様に重要な施設があり、重要度係数を規定化すべきであった。

1998年に「阪神淡路大震災と今後のRC構造設計―特徴的被害の原因と設計への提案―」が出版された。また、「プレストレストコンクリート設計施工規準・同解説」は、兵庫県南部地震では大きな被害がなかったが、新たな研究の成果を取り入れて刊行された。また、「鋼構造限界状態設計指針・同解説」が刊行された。

1999年に「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が公布され、翌年度に施行された。また、同年10月から性能表示制度が始まった。「日本住宅性能表示基準」では、耐震性能に関しては次のように定めている。

1 構造の安定に関すること

1-1 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止):極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震による力(施行令第88条第3項)に対する倍率

等級3:1.5倍

等級2:1.25倍

等級1:1.0倍

1-2 耐震等級(構造躯体の損傷防止):稀に(数十年に一度程度)発生する地震による力(施行令第88条第2項)に対する倍率

等級3:1.5倍

等級2:1.25倍

等級1:1.0倍

この法律は、戸建てまたは共同住宅に適用されるが、当然に、一般の建築物にも適用されている。しかし、これは発注者の考えによるもので、社会的な考えによるものではない。また、この法律は、あまり知られておらず、建築基準法の最低基準との関連も示されていない。

1999年に「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説」が刊行された。また、「鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説―許容応力度計算法―」が改定され、柱梁接合部短期許容せん断力式の追加、付着・継手・定着の検定手法の変更が行われた。

2001年に「鉄骨鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説」が出版された。同年に「建築基礎構造設計指針」が改定された。

 

性能設計

GATTウルグアイ・ラウンドの合意を受け、日米共同で、性能規定型設計法が開発された。

日米共同研究所は、1991年から始められ、その成果が、米国では、1995年に「Vision2000」として発表されたが、日本では、総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」が、なかなか認められなかった。しかし、阪神淡路大震災を契機に同年に認められ、3年後の1997年度に終了した、この中で、地震応答推定の方法として、等価1自由度系の応答推定、縮約1自由度系に基づく多自由度系の応答推定が検討され、等価線形化法、エネルギー法がまとめられた。

1996年2月、日米首脳会談で、建築基準を性能規定化することが約束され、1998年3月、建築基準法の改定案が閣議決定、6月に国会で可決された。性能設計の採用と第38条の撤廃である。

2000年11月に、International Workshop on Performance-Based Building Sturctural Designが、建築研究所にて開催され、日本の建築基準法における構造設計に関する性能規定化、および各国の性能規定化に関する取り組みの現状報告と、性能に基づく構造設計とその技術に対して、将来の研究課題の提案が行われた。

 

限界耐力計算法

1990年11月から2000年1月にかけて、新検証法(限界耐力計算)の試設計が、基準作成委員会の中の新検証法試設計WGでおこなわれた。

2000年7月から2001年1月に、日本建築センターに「建築物の構造関係技術基準解説書」及び「限界耐力計算法の計算例とその解説」の編集委員会が発足した。

これまでの許容応力度計算法では、地震力が1階床レベルで定義されていたが、限界耐力計算法やエネルギー法、時刻歴解析法では、地震力が工学的開放基盤面で定義された。したがって、表層地盤の増幅率の評価が重要となった。

もう一つの特徴は、建物の固有周期と減衰定数が、損傷の程度によって変化することである。したがって、高さによって地震力が決まるのではなく、変形に応じた固有周期の計算が重要になった。また、荷重増分法で得られる各層の保有層せん断力―層間変形曲線では、各層が、時刻歴に応じてこの曲線状を移動するので、応答変位は、この曲線上の点として得られることがわかる。

限界耐力計算法は、この時刻応答解析の応答値を、静的に求める応答スペクトル法である。本来、この方法は応答変位と応答塑性率を推定する方法であったが、法的には必要な耐力を確認する限界耐力計算法となってしまった。

 

法第38条の廃止

行政改革の一環で、2000年4月に地方分権一括法が施行され、建築行政の大部分が機関委任事務から地方自治事務になり、国交省住宅局建築指導課から特定行政庁に移管された。さらに、通達行政が廃止された。

第38条の撤廃と通達行政の廃止に伴い、公明性、透明性が求められ、これまでに大臣の特任を受けたものや通達を受けた基準や指針、特任などが、5年にわたって告示された。しかし、告示にされるまでの期間、これらの技術基準は法的な扱いがなくなり混乱をまねいてしまった。

日本建築センターに、1999年2月から2000年3月まで、構造関係指針委員会が、施行令及び告示の検討のために委員会が設けられた。委員会には、高層建築物等部会、鉄筋コンクリート構造部会、鋼構造部会、木工造部会、基礎・擁壁部会、免震構造部会が設けられた。しかし、限界耐力計算、防火性能計算の採用以外は大きな変更がなかった。

また、「構造計算における技術的慣行」が、2001年版、建築物の構造関係技術基準解説書に掲載された。これらは、2007年に基準法改正とともに施行令や告示に変更された。

 

エネルギー法

1998年11月から2000年10月にかけて、鋼材倶楽部(現日本鉄鋼連盟)の新性能設計法研究会で、エネルギー法に基づく耐震性能評価法の検討が行われ、鋼構造のラーメン骨組、ブレース骨組及びラーメン付きラーメン骨組を対象として設計法案が提示された。

2001年7月から2002年3月にかけて、エネルギー法試設計が行われた。ここでエネルギー法の告示の詰めが行われた。

2003年3月20日に、「エネルギーの釣り合いに基づく耐震計算等の構造計算を定める件」が、パブリックコメントに公表された。

2003年12月から2004年4月に、「エネルギー法の技術基準解説及び計算例とその解説」編集委員会が日本建築センターに設けられ、「建築物の構造関係技術基準解説書」及び「エネルギー法の計算例とその解説」が作成された。

2005年に、告示「エネルギーの釣り合いに基づく耐震計算等の構造計算を定める件」が交付された。

エネルギー法は、地震動による建築物の性状について、エネルギーを媒介にして応答予測を行い、建築物の安全性を評価する手法である。

十勝沖地震と長周期地震動

2003年に十勝沖地震(M8.0)が発生し、1952年の十勝沖地震(M8.1)と同じ地震の発生機構であることが分かった。メキシコ地震と同じように、盆地構造の札幌や苫小牧では、やや長周期の地震が発生し、札幌の超高層建築物が長時間揺れ、苫小牧の石油タンクにスロッシングが生じ、多くの石油タンクの浮き屋根が破損し、石油タンクが炎上した。

2004年9月に紀伊半島沖地震(M6.9)が発生し、東京湾のタンクがスロッシングにより損傷し、関東平野でのやや長周期地震動での揺れが問題となった。

2003年に総務省の補助金を受け、建築学会と土木学会とで、やや長周期地震動に対する構造物挙動の解析のための共同研究会が組織された。

2004年に「建築物荷重指針・同解説」が改定された。

2006年に長周期地震動の共同研究会で報告書がまとめられた。

 

計算書偽造事件と建築基準法の改正

2005年11月に構造計算偽造事件が発覚した。事件再発防止のために、2006年6月の建築基準法の改正では、指定構造計算適合性判定機関が設けられ、ある一定高さ以上の建物やルート3の建物は、構造計算適合性判定(ピアチェック)を受けるようになった。

2006年の建築士法改正では構造設計一級建築士が設けられた。

建築基準法第20条は、これまでは①技術的基準に適合すること、②1号建築物から3号建築物の安全性を構造計算によって確かめることであった。改正後は、建築構造物はすべて安全性を確かめることとし、4つのジャンルに分けられた。

①1号建築:高さが60mを超える建築物では技術的基準に適合し、荷重及び外力によって連続的に生じる力及び変形を把握し、構造計算によって安全性を確かめること。

②2号建築(大規模):高さが60m以下の建築物で、特定構造物では、技術的基準に適合し、荷重および外力によって連続的に生じる力及び変形を把握し、構造計算で、大臣が定めた方法または認定プログラムによって安全性を確かめること(ルート2、ルート3、限界耐力計算等)。

③3号建築(中規模):高さが60m以下の建築物で、特殊構造物(石造、レンガ造、コンクリートブロック、無筋コンクリート造などで、高さが13mまたは、軒の高さが9mを超えるもの)では、構造耐力上主要な部分ごとに応力度が許容応力度を超えないことを構造計算で、大臣が定めた方法または認定プログラムによって安全性を確かめること。

④4号建築(小規模):構造方法の規定。

大きな改正点は、「大臣が定めた計算の方法」と「連続的に生じる変形」が設けられたことである。これは、規制緩和の時代に逆行するものであるが、今までは工学的判断の範囲があまりにも広く、設計者により性能の差が大きくならざるを得なかった。また、性能設計は変形の評価なしでは成り立たず、力から変形に評価を変えたことは大きな進歩である。

法第6条によって、2号建築と3号建築に構造計算適合性判定が義務付けられた。構造方法に関する技術的基準を定めた令第36条が改定され、適合性判定を要する建築物が規定された。

令第81条1項では、以下の4項目による構造計算の基準が定められた。

一 荷重及び外力によつて建築物の各部分に連続的に生ずる力及び変形を把握すること。

二 前号の規定により把握した力及び変形が当該建築物の各部分の耐力及び変形限度を超えないことを確かめること。

三 屋根ふき材、特定天井、外装材及び屋外に面する帳壁が、風圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して構造耐力上安全であることを確かめること。

四 前3号に掲げるもののほか、建築物が構造耐力上安全であることを確かめるために必要なものとして国土交通大臣が定める基準に適合すること。

同第2項では、構造計算として許容応力度計算、保有水平耐力、限界耐力計算、およびエネルギー法計算、時刻歴応答解析が規定されている。

なお、非構造部材の安全性の要求は、構造設計者にとって十分注意が必要である。

令第82条が、大幅に改正・追加された。2号、3号建築に適用される許容応力度計算、保有水平耐力計算、限界耐力計算などは、大臣の定める計算方法によって計算されることになった。また、これらの詳細な規定に準じて、大臣認定プログラムの再認定が行われた。
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