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平成28年(ネ)第3088号 不当利得返還等請求控訴事件

控訴人 KT外11名

被控訴人 SDマンション管理組合法人

 

控訴理由書

 

平成28年8月1日

東京高等裁判所第20民事部イ係 御中

 

上記控訴人ら訴訟代理人弁護士

 

控訴人らの控訴理由は下記のとおりである。

 

第1 原判決は控訴人株式会社HCの規約無効確認請求について裁判を脱漏している

1 控訴人HCは,平成28年1月28日付け訂正申立書2と題する書面において,当初の請求のうち規約無効確認請求について訴えを取り下げた。その経緯は,次のとおりである。すなわち,同控訴人は,原判決が認定するように,本件店舗2戸(102号室及び112号室)の区分所有者であったところ,平成25年11月5日,そのうち112号室の区分所有権を控訴人OS(以下,「控訴人OS」という。)に譲渡した(原判決6~7頁)。そこで,控訴人OSは,平成27年12月22日,承継参加申立を行った。原審裁判所は,控訴人OSの参加を踏まえて,控訴人HC代理人らに対し,同控訴人はもはや規約無効確認請求について訴えの利益を有しないとして,取り下げを勧告した。この勧告に従い,同控訴人は,上記のとおり取り下げをしたのである。

しかし,上記譲渡の経緯からすれば,控訴人HCが規約無効確認請求について訴えを取り下げたのは,もっぱら控訴人OSに区分所有権を譲渡した112号室の前区分所有者としてであって,102号室の現区分所有者としては何ら取り下げなければならない理由がなく,かかる取り下げが真意でないことは,同控訴人が約3年間にわたって当該請求を維持し,訴訟追行に当たってきたという弁論の全趣旨等にも照らせば,明らかである。

したがって,控訴人HCは,平成23年11月6日付け総会決議に基づいて定められた規約について,102号室の現区分所有者としてはなお請求を維持していると解されるべきであったし,少なくとも原審裁判所の釈明義務違反を否定しえないところである。

2 原判決書に不自然な脱漏があることもこのことを裏付けている。すなわち,原判決は,「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の柱書において(5頁),規約無効確認請求について整理し,「店舗の現在の区分所有者である原告ら8名のうち原告株式会社ハウジングキのうち,店舗の専有面積1平方メートル当たりの管理費等を住戸のそれの約2.45倍とした部分が区分所有法30条3項違反,同法31条1項後段違反,同法35条5項違反等を理由に無効であるとして,当該部分の無効確認を求める事案である。」との記載をしているが,明らかに請求者の特定に関する記述が途中で途切れており(「…ハウジングキ」,他方,無効確認の対象に関する記述が途中から始まっている(「…のうち,店舗の専有面積」)。

このことは,原判決が,いったん「原告ら8名のうち原告株式会社HCを除く7名が」と請求者を特定する起案をした後,上記の経緯から真実同原告が訴えを取り下げたものか疑義を生じ,当該起案部分を抹消したこと,その際に,同部分に続けておそらく「平成23年11月6日付け総会決議に基づいて定められた規約のうち」とあったであろう起案部分のうち最終3文字を除く部分についても誤って抹消してしまったこと,その後,その他の起案部分に専念しているうちに,規約無効確認請求の主体の特定や,上記抹消部分の手直しについてもうやむやになってしまったことを推認させるものである。

3 以上のとおり,控訴人HCが102号室の現区分所有者としては規約無効確認請求について訴えを取り下げていないとすれば,同控訴人の同請求について原判決が判断をしていないのは,裁判の脱漏(民訴法258条1項)であり,同請求部分については,なお原審に係属していることになる。しかし逆に,控訴人HCの平成28年1月28日付け訂正申立書2の記載文言を重視し,同控訴人が,いかなる号室の区分所有者としてもおよそ規約無効確認請求について訴えを取り下げていると当審裁判所が判断するのであれば,その場合には,次のような処理がなされるべきである。

すなわち,仮に控訴人HCが102号室の現区分所有者としても規約無効確認請求について訴えを取り下げたと判断されるとしても,同控訴人は,相手方が原判決に対し控訴した場合,附帯控訴の方式により,その請求の拡張をなし,再度上記請求を行うことができるものと解すべきところ,同控訴人が平成28年6月10日付け控訴状「控訴の趣旨」3項をもってした請求の拡張は,これを実質的にみれば,附帯控訴にほかならず,その方式においても,民訴法293条3項(改正前374条),286条(改正前367条)に反するところがなく,貼用印紙についても欠けるところがないから,これをもって附帯控訴の方式による請求の拡張がなされたものと解されるべきである(最高裁昭和32年12月13日判決・民集11巻13号2143頁参照)。

 

第2 原判決は23年規約が区分所有法30条3項,民法90条に違反して住戸と店舗の管理費に格差を設けたこと自体を有効であると判断しているが,不当である

1 はじめに

23年規約が店舗所有者と住戸所有者の管理費等の負担割合について格差を設けたこと自体,区分所有法30条3項,民法90条に違反しているにもかかわらず,この点に関し,原判決は,以下のような事実を認定し,住戸と店舗の管理費等に一定の格差を設けることに必要性及び合理性がある旨判断をしている。

すなわち,原判決は,①店舗の商業活動に伴う顧客等が利用するための出入口や中通路が設けられていること,②中通路にしか面していない店舗が存在しており,同店舗の避難経路を確保する必要があるほか,中通路に店舗用の防火用シャッター,各店舗には,自動火災感知器が設置されており,定期的に点検を実施し,設備を維持修繕する必要があること,③本件マンションには,被告が管理する高圧自家用変圧器(キュービクル)が設置されており,これを店舗と1階共用部分等が利用しているが,その点検のため,平成16年までは年間約60万円,平成17年以降は年間約31万円の費用が発生し,また,その修繕・交換費用として,平成20年の工事の際,合計143万8500円が支出されていること,④店舗所有者が長年にわたり店舗前敷地にエアコンの室外機等を設置していたことから,店舗前敷地の床部分の陥没や,約24箇所にわたる合流枡(雨水枡・排水升)・点検口の開閉不良が確認されたため,陥没部分補修工事及び合流枡点検口更新工事が行われ,165万円(税込み173万2500円)が支出されたこと,⑤店舗の営業目的のために,壁面又は敷地の一部に看板等を設置しているが,その使用料は徴収されていないこと,⑥店舗に使用されることによる諸問題として,住戸所有者が美観・イメージの低下,店舗前敷地を店舗利用者に通行させることを容認することが必要になること,⑦不特定多数の出入りによる安全・防犯リスクが増大し,防犯カメラの設置等の対策が必要になること,⑧多数の者の利用に伴い,共用部分である中通路,店舗前敷地,ピロティ,店舗前出入口等について,住戸専用のマンションに比して損耗,劣化の度合いや清掃の必要性が高くなり,住戸専用マンションと比較して,点検維持管理費用,補修・修繕費用等も高くなること,⑨店舗の営業に伴い,騒音等の問題が生じ,飲食店等店舗については,臭い,煙,害虫の発生等の衛生面の問題も生じることが容易に想定され得ること,以上の各事実を認定し,店舗所有者と住戸所有者の管理費等の負担割合にについて,一定の格差を設けること自体については,その必要性及び合理性が認められると判断した。

しかしながら,原判決がこれらの事実を認定し,それを基礎として上記のような判断をしたことには,次のような瑕疵がある。

第1に,原判決は,その基礎とした前提事実に誤認があるか又は実態に合致しない一般的な抽象論を述べるものにすぎない。マンション管理に係る専門技術的な事項について,被告の主張を鵜呑みにした結果,事実誤認に陥っているのである。

第2に,原判決は,現実に掛かる費用全体の合理的分担という観点を欠落し,店舗に掛かる費用のみをつまみ食い的に云々し,住戸に掛かる費用については等閑視したものであって,極めて偏頗な判断といわざるを得ない。「本件マンションには,エレベーターや2階より上の階の廊下・通路,給水設備等,主に住戸部分の所有者が利用する設備も存在しており,それらについても,保守点検や清掃等の特有の費用の発生が想定される」と認定しておきながら(40頁),これら住戸特有の費用の規模・金額と,上記のとおり店舗特有の費用であると原判決が認定するところの費用の規模・金額とを端的に対比することなく,前者を単に「2倍以上の管理費等の負担を課すことについては,その合理的な理由を見い出すことができない」とする理由にとどめ,「一定の格差を設けること自体について」の必要性及び合理性に何ら疑問を抱かないという誤りを犯している。

第3に,原判決は,通常の管理に要する経費に充当すべき管理費(甲17,23年規約29条)と,特別の管理(一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕や不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕等)に要する経費に充てるべき修繕積立金(同30条)とを混同している。すなわち原判決は,「本件マンション全体の長期修繕計画として想定されている費用の規模(平成18年当時で約2億2000万円)に照らすと,店舗特有の設備等の維持管理や修繕費用部分の割合は,本件マンションの全体の維持管理にかかる費用の大きな部分を占めるものとまでは言い難い」と判示しているが(40頁),長期修繕計画として想定されている費用(特別管理経費)と,店舗特有の通常管理経費とを対比するのは誤りであり,むしろ同計画において想定されている費用中に占める店舗特有の特別管理経費の割合は些少なのであるから,端的に,修繕積立金の負担割合について一定の格差を設けること自体の必要性及び合理性に疑いをもつべきであった。しかるに上記混同の結果,ここでも「2倍以上の管理費等の負担を課すことについては,その合理的な理由を見い出すことができない」とする理由にとどめられてしまっている。

以下項を改め,以上の原判決の誤りについて順次詳述する。

2 原判決の前提事実の誤認

(1)出入口と中通路に関する原判決の事実誤認

ア 原判決は,「本件マンションの共用部分として,店舗の商業活動に伴う顧客等が利用するための出入口や中通路が設けられている」との事実を認定するが(37頁),事実誤認又は実態を見誤るものである。

イ 本件マンションの一階共用部分には,中通路(面積174.6㎡。甲80の2資料2-4)の西側に,中通路に引き続く形で,T字型に連続した避難通路(甲22,2枚目,1階平面図左側「ピロティ」と記載のある部分)がある(面積133.6㎡。甲80の2資料2-4では「自転車置き場」)。この避難通路は,実際上は,ほぼ居住者が使用している自転車置き場となっており,常時110台程度(内店舗分は4台)の自転車が駐輪している(甲94の1,調査報告書。甲106,6枚目写真)。

一方,自転車置き場の東側,本件マンションの表に面した出入口には,金属製の柵が設けられている(甲93,柵の状況を撮影した写真)。この柵は,住戸居住者の自転車が上記自転車置き場から中通路を通って高速で飛び出し,本件マンションに面した道路の通行人や自動車等と接触することを避けるために設けられたものである。

すなわち,出入口と中通路は,主に自転車を使用する住戸居住者が利用しているのである。控訴人らは,この事実を裏付けるために,中通路の使用状況について1週間にわたり,午前9時から午後7時まで通行人の人数と帰属について調査を実施した。その結果,通行総数1263人,うち住戸関係者は55%693名,店舗関係者は33%421名,不明者は12%149名であった(甲94の1,調査報告書,甲94の2,CDR)。

それにもかかわらず,原判決は,住戸居住者用の自転車置き場の存在と住戸居住者による中通路通行の実態をまったく看過しており,事実誤認である。

ウ 本件マンションには19区画15店舗が存在するところ,中通路に唯一の出入口が面しているのは112号室と113号室の2店舗のみである。すなわち,102~106及び119号室の7店舗は中通路に面していない。107~111号室の整形外科は裏口が1箇所,114と115号室の保育所は裏口が1箇所,それぞれ中通路に面しているが,これら2店舗はそれぞれ南側公道面と北側公道面に主たる出入口がある。101号室は東側公道面の出入口を使用し,116~118号室の3店舗は北側公道面の出入口を使用している。これらの4店舗は中通路に面したシャッターがあるものの,内側は壁であり,常時降りている状態である。つまり,19区画15店舗のうち,中通路を使用するのは4店舗に過ぎない。もっとも,中通路に唯一の出入口を有する112号室は極めて小規模な損害保険会社の事務所,113号室は出張介護マッサージ事務所であり,来客はほとんどない。また,中通路に1箇所ずつ出入口を有する整形外科と保育所のうち,前者はまったくの裏口であり,後者は従業員,園児,特定の業差が通行するだけである(甲95,店舗名を記載した1階平面図。①~⑲まで,一桁の数字には左に10,二桁の数字には左に1をつけると号室の番号となる)。

エ したがって,原判決が認定した「店舗の商業活動に伴う顧客等が利用するための出入口や中通路」は,実態とかけ離れており,事実誤認である。

なお,被控訴人は,中通路の利用実態について,防犯カメラ4台(甲105,平面図⑪から⑭の場所に設置されたカメラ)の録画データを,平成28年7月24日から遡る1週間分提出されたい。

(2)防火シャッター及び自動火災感知器に関する事実誤認

ア 原判決は,「中通路に店舗用の防火用シャッター等を設置することが義務付けられているため,電動の防火用シャッターがそれぞれ設置されている。」,「各店舗には,共用設備として自動火災感知器が設置され,1階管理事務所に設置された自動火災警報器(共用設備)及び防火用シャッターと連動する仕組みとなっている」,「これらの防火シャッター・火災警報設備については,法律上義務づけられた点検を定期的に実施し,設備を維持修繕する必要がある。」(38頁),「以上によると,本件マンションにおいては,住戸専用のマンションと比較して,店舗部分が存在すること特有の設備の維持管理や修繕に関する費用負担が生じている」(39頁)との事実認定をしている。

イ しかし,被控訴人ないし被控訴人から管理業務の委託を受けた訴外日本ハウズイング株式会社は,中通路の防火シャッター11枚について,特に点検行為はしていない。

すなわち23年規約(甲17)には,被控訴人の業務として防災に関する業務が規定されているものの(34条13号),被控訴人が自ら点検することはない。被控訴人は,本件マンションの管理業務を,訴外日本ハウズイング株式会社に委託しているが,同社との管理委託契約書(甲58)13頁及び管理仕様書(甲58)23頁に記載されている,「定額委託業務」中の「シャッター設備点検」(年2回,2000円)とは,共用部分である地下駐車場シャッターの点検のことであり,中通路の防火シャッターのことではない。

このように,「定額委託業務」中の「シャッター設備点検」が中通路の防火シャッターを含まないため,被控訴人は,平成24年度,中通路の防火シャッターの保守点検について,予算20万円を計上したことがあった。しかし結局,被控訴人は,何も支出しなかったのである。すなわち,平成24年度第30期の収支計算書(甲56,下部頁数の9頁)には「店舗シャッター点検・保守」として予算額が20万円計上されているが,決算額は0円であった。そして,翌31期の収支予算案(甲56,下部頁数の26頁)では,店舗シャッター点検・保守費用の記載が消滅した。

以上から明らかなように,原判決は,中通路の防火シャッターが店舗の利益(利用)のために存在するかのような誤った前提に立ったうえで,「店舗部分が存在すること特有の設備の維持管理や修繕に関する費用負担が生じている」との事実を認定しているが,実際には,何らの費用負担も生じていないのである。

ウ また,自動火災感知器は,店舗のみに設置されているのではなく,店舗に49個,地下の共用部分に54個,エレベーター機械室に1個の計104個が設置されている。もっとも,自動火災感知器だけでは防火設備として不十分であり,他に自動火災警報機(地区音響装置)が地下に2個,1階店舗外壁に1個,中通路に2個,2~9階住戸に16個の合計21個設置されている。さらに,発信機が地下に1個,中通路に1個,2~9階に8個の合計10個設置されている(甲80の2,資料8及び訂正した甲85)。この他に停電時の予備電源1個と受信機・中継器1個を含めて防火のために設置された機器の数は137個となる。うち店舗に係わるのは50個に過ぎない。

以上のとおり,自動火災報知器は店舗に49個設置されているものの,逆に,自動火災警報器は住戸に16個,発信器も住戸に8個と,店舗より多数が設置されている。もとより自動火災感知器を含む防火設備は,全体として,店舗の利益(利用)のためだけに設置されているものではないから,店舗の存在により特有の維持修繕費が掛かるものでもない。

したがって,原判決の認定は事実誤認である。

(3)キュービクルに関する事実誤認

ア 原判決は,キュービクル設備の「修繕・交換費用として,平成20年の工事の際,合計143万8500円が支出されている。」との事実を認定しているが(38頁),事実誤認である。

イ 原判決が上記143万8500円の支出を認定したのは,平成20年7月5日付け注文請書(乙47)及び平成20年度(第26期)の収支予算案(甲37,2枚目,修繕積立金会計)に自家用電気設備改修工事の予算額として150万円が計上されているところによるものと思われる。しかしながら,他方で,平成20年6月13日に行われた被控訴人の臨時理事会の議事録(甲96)によれば,残置変圧器撤去搬出処分工事,絶縁油微量PCB検体検査費,変圧器処分費310,000円を次回にし,除く事とする旨記載され,乙47に記載された工事の一部は行わないことが決定されている。

しかも,上記予算額は,収支予算案の修繕積立金会計の欄に記載されていることから明らかなように,特別の管理に要する経費として修繕積立金会計から支出されることが予定されているのであるから,当然,長期修繕計画において想定されている費用の規模(甲5最終頁によれば累計6億9795万円,甲55の8頁によれば累計7億8467万4000円)に占める割合をこそ問題とし,その割合が極めて些少であることをこそ認定すべきあったのに,通常の管理に要する経費の問題と混同し,管理費の格差を正当化する根拠として用いるという誤りを犯している。

ウ また,キュービクル経由による業務用電力は,店舗のほかに中通路,管理室その他の共用部分でも使用されている。したがって,あたかもキュービクルを店舗のみが使用しているかのごとく認定する原判決は誤っている。

(4)合流枡に関する事実誤認

ア 原判決は,「平成23年1月ころ,店舗所有者が長年にわたり店舗前敷地にエアコンの室外機等を設置していたことから,店舗前敷地の床部分の陥没や,約24箇所にわたる合流枡(雨水枡・排水枡)・点検口の開閉不良が確認されたため,陥没部分補修工事及び合流枡点検口更新工事が行われ,その費用として165万円(税込み173万2500円)が支出された。」と認定し(39頁),「店舗所有者と住戸所有者の管理費等の負担割合について,一定の格差を設けること自体については,その必要性及び合理性が認められる」と判断している(40頁)。

イ しかしながら,まず,原判決が165万円の支出を認定した証拠である乙37は,見積明細書に過ぎない。右上に手書でH23.1.23とあることから,原判決では「23年1月ころ」行われた工事と認定したものと思われるが,平成23年1月1日から始まる第29期の収支計算書によれば(甲97),管理費会計でも,修繕積立金会計でも,165万円を支出したことを示す決算額の記載は見受けられない。前年の第28期の収支計算書(甲98)を見ても,やはり管理費会計にも,修繕積立金会計にも165万円を支出したことを示す決算額の記載は見当たらない。

また,乙37には,店舗前敷地の床部分(犬走り)の陥没部分補修工事の記載はないから,同工事が行われたことを認定する証拠として用いることはできないはずである。

そこで,被控訴人においては,陥没部分補修工事及び合流枡点検口更新工事が行われ,その費用として165万円を支出したことを示す証拠を提出されたい。

ウ 次に,原判決は,「店舗所有者が長年にわたり店舗前敷地にエアコンの室外機等を設置していたこと」が床部分の陥没や点検口の開閉不良の原因であると認定しているが,事実誤認である。

そもそも,店舗所有者は,平成7年に被控訴人が屋上のクーリングタワーを廃止・撤去したことを契機として,店舗前敷地にエアコンの室外機を設置せざるを得なくなった経緯がある。また,本件マンション1階部分は,昭和57年2月1日新築であるところ(甲40ほか),平成23年1月時点まで,約30年以上にわたり合流枡・点検口の維持修繕がなされたことはなかった。このため,点検口の受け口の金属部分が錆び付き,蓋と受け口の間に土砂が堆積する等して,開閉不良が生じた。原因は経年劣化である。

約24箇所の点検口のうちわずか3箇所について,陥没したことがあったようであるが,それは本件マンションの北東角,すなわち大田東矢口三郵便局の向かい側の犬走りにある点検口3箇所である。しかも,陥没の原因は,車両が郵便局前に停車していることが多く,通行車両が本件マンションの北東角を,停車車両を避けつつ通り抜けるに際して,店舗前敷地部分に乗り上げて走行していたことであった(甲99の1~3,写真)。室外機を設置しても点検口が陥没することはなく,仮に陥没したとすればそれに伴い室外機も傾いてその使用に支障を来すはずであるが,そのような事態が生じたことはない。

被控訴人は,通行車両の乗り上げが陥没の原因であり,しかも上記3箇所に生じたものにすぎないのに,これを24箇所全体に推し及ぼし,かつ原因を室外機の設置であるかのようにねつ造したのである。むしろ被控訴人において,車両が犬走りに乗り上げないよう車止めなどを設置すべきであったのに,これを懈怠したことこそが原因である。

エ 元々,24個の合流枡及び点検口は上層階の住戸の屋上やバルコニーに降った雨水を排水するための設備であって,店舗ではなく住戸のための設備である(甲100の1~5,写真)。したがって,その更新工事の費用を店舗が存在すること特有の費用と捉えること自体,事実誤認である。

オ そしていずれにせよ,この費用の支出は,特別の管理に要する経費として修繕積立金会計から支出されるべき性質ものであるから,当然ここでも,長期修繕計画において想定されている費用の規模(甲5最終頁によれば累計6億9795万円,甲55の8頁によれば累計7億8467万4000円)に占める割合をこそ問題とし,その割合が極めて些少であることをこそ認定すべきあった。仮に,費用額165万円の点検口更新工事を20年ごとに行うとした場合,それに要する費用は,平米あたり月額0.9円(165万円÷20年÷12か月÷7,573.93㎡〔住戸5,983,63㎡+児童館・店舗1,590,3㎡〕)であり,仮に児童館と店舗の負担とした場合でも平米あたり月4.3円程度のものである。到底,修繕積立金の負担割合について,2.45倍の格差を設けることを正当化する根拠となり得ないことは明らかである。

(5)看板に関する事実誤認

ア 原判決は,「店舗所有者は,その店舗の営業目的のために,本件マンションの建物の壁面又は敷地の一部に看板を設置しているが,その使用料は徴収されていない。」(39頁),「以上によると,本件マンションにおいては,住戸専用のマンションと比較して,店舗部分が存在すること特有の設備の維持管理や修繕に関する費用負担が生じていることが認められるほか,住戸所有者の受忍の下に,店舗所有者が営業上の利益を得ていることが認められ」ると認定している(40頁)。

イ しかし,看板の設置がそれによって住戸所有者に何らかの不利益を受忍させているという関係にはないのであり(美観の問題は後述する。),原判決の事実誤認は明らかである。

ウ しかも,管理費等は,通常又は特別の管理に要する経費に充てるために徴収されるものであるから,その負担割合を考えるに当たっては,いかなる管理にどれだけの経費が掛かるのかをあくまで問題とすべきであって(標準管理規約複合用途型の考え方も同様である。),ここで営業上の利益や受忍限度を論じるのは全くの筋違いといわざるを得ない。

本件マンションでは,住戸所有者に住戸のバルコニーの専用使用が認められているが,その使用料は徴収されていない。したがって,原判決のように言うならば,住戸所有者も,バルコニーを使用することができない店舗所有者の受忍の下に,生活上の利益を得ていることになるので,管理費等の負担割合に一定の格差を設ける必要性及び合理性があるということになりかねない。しかしこのようなことを管理費等の負担割合を考える上で持ち出すのは明らかに筋違いというほかないし,このようなことを際限なく論じるのは不適当であるからこそ,区分所有法は持分(専有部分の床面積)あたりの負担を同等とするのを原則としているのである。

エ ちなみに,児童館も,本件マンションの外壁に大規模な看板を設置しているが(甲102,児童館看板写真),児童館の管理費等の負担割合は,本件マンションの竣工時から平成19年12月末日までは住戸の2分の1,平成20年1月1日以降現在に至るまで住戸と同等である。このことからしても,看板の設置は管理費等の負担割合を加重すべき要因ではあり得ず,被控訴人もそのことを先刻承知していることが明らかである。

(6)美観・イメージの低下に関する事実誤認

ア 原判決は,「各店舗の営業活動のために」「住戸所有者がマンションの外観に係る美観・イメージの低下」を「容認することが必要になる」との事実を認定し(39頁),管理費等の負担割合について格差を設ける必要性及び合理性を肯認している。

イ しかし,原審裁判官は一度も本件マンションを実地に見分したことがないために本件マンションについて誤ったイメージを有しているといわざるを得ない。本件マンションの住戸居住者の多くは,毎日,洗濯物等をバルコニーの手すりや手すりよりも高い位置に無造作に干している(甲103の1~4,写真)。本件マンションはいわゆる高級マンションではないし,住戸居住者の美意識も所詮その程度のものであり,このような行動によって本件マンションの美観・イメージが低下し,資産価値が低下するなどと考えている住戸所有者がいるとは到底思われない。被控訴人も,かかる行動をとる住戸居住者に対し管理費等あるいはその他の名目で金銭的な負担を求めたことはない。

原判決の論理に従えば,各住戸の生活活動のために,本件マンションの住戸のバルコニーが各住戸に専用的に使用され,あるいは,バルコニーの手すりや手すりよりも高い位置に洗濯物等が干されることにより,店舗所有者がマンションの外観に係る美観・イメージの低下を容認することが必要となることになり,店舗所有者の管理費等の負担割合を軽減させる理由ということになる。原審裁判官は,物事を反対の立場からも吟味し,かかる論理のおかしさに思いを致すべきであった。

このようなことを際限なく論じるのが不適当であるからこそ,区分所有法は持分(専有部分の床面積)あたりの負担を同等とするのを原則としているということをここでも繰り返し指摘しておきたい。

(7)防犯カメラの設置に関する事実誤認

ア 原判決は,「各店舗の営業活動のために」「不特定多数人の出入りによる安全・防犯リスクが増大し,防犯カメラの設置等の対策が必要となる」との事実を認定し(39頁),管理費等の負担割合について格差を設ける必要性及び合理性を肯認している。

しかし,防犯カメラの設置が各店舗の営業活動に起因するとの原判決の認定は,明らかに誤認である。

イ まず,本件マンションにおいて防犯カメラが設置された経緯からして,各店舗の営業活動とは関係がない。

すなわち,本件マンションでは,住戸区分所有者の一人が,地下駐車場にカメラを設置するべきだと主張して,総会で要請したことが防犯カメラ設置の契機である(甲104)。本件マンションの地下駐車場は,住戸・店舗の双方が共同して使用しているが,店舗に来集する不特定多数の顧客に提供されるような駐車場はなく(そもそも本件マンションの店舗に不特定多数の顧客が来集することはないことは原判決も認定するとおりである。40頁。),各店舗の営業活動により地下駐車場に侵入する部外者が増大するという事実関係もない。本件マンション近辺に不特定多数人が参集する要因は,東急池上線蓮沼駅の利用及び大田東矢口三郵便局の2施設にほぼ尽きており,それ以外に本件マンションの各店舗が人の往来数に付け加えるものはほとんどない。

ウ 次に,防犯カメラの設置場所からしても,同設置と各店舗の営業活動とは関係がない。

すなわち,平成28年3月に開催された被控訴人の通常総会の提出資料によれば,現況,防犯カメラは,住戸・店舗の双方が使用する地下駐車場内に3台(①~③),住戸居住者が使用するエレベーターホールに4台(④~⑦),住戸・店舗の双方が使用するゴミ置場内側に1台(⑧),同ゴミ置場外側に1台(⑨),エレベーターホール脇の階段に1台(⑩),主に住戸居住者が使用する自転車置き場に2台(⑪,⑫),主に住戸居住者が使用する中通路内に2台(⑬,⑭),住戸居住者が使用する住戸玄関外側に1台(⑮),住戸・店舗の双方が使用する地下駐車場出入口に1台(⑯)の合計16台である(甲105,カメラ設置図。甲106の1~8,写真)。

このうち,エレベーターホールに設置されている防犯カメラ4台(④~⑦)は,純粋に住戸居住者の利用空間の安全・防犯を確保するためのものである。そのほかはいずれも,住戸・店舗の双方が使用する場所の安全・防犯を確保するためのである。

各店舗の営業活動によって不審者の侵入等が増大したといった事実関係はないうえに(後述19頁),防犯カメラによって安全・防犯が確保されるのは,住戸居住者の利用空間か又は住戸・店舗が共通して利用する場所なのであるから,受益者負担の考え方によっても店舗の管理費等の負担を加重する理由となりえないことは明らかである。

(8)損耗・劣化の度合や清掃の必要性に関する事実誤認

ア 原判決は,「各店舗の営業活動のために」「多数の者の利用に伴い,共用部分である中通路,店舗前敷地,ピロティ,店舗用出入口等について,住戸専用マンションに比して損耗・劣化の度合いや清掃の必要性が高くなり,住戸専用マンションと比較して,点検維持管理費用,補修・修繕費用等も高くなる」との事実を認定し(39頁),管理費等の負担割合について格差を設ける必要性及び合理性を肯認している。

イ しかし,本件マンションの中通路は,むしろもっぱら住戸区分所有者が自転車置き場を使用する場合に利用する通路であるから,中通路の清掃によって,控訴人ら店舗所有者が利益を受けるわけではない。

しかも,その床仕様は,大理石とテラゾータイルの張り合わせで強度が強く,損耗・劣化がほとんどない材質が採用されている。事実,平成17年にダイワード株式会社が作成した長期修繕計画表(甲5),平成25年に翔設計が作成した長期修繕計画書(甲55),さらには平成20年に小田急建設株式会社が作成した見積書(甲101)にも中通路の修繕費用は計上されていない。損耗劣化はむしろ住戸の開放廊下が激しく,上記見積書においては,その床防水工事費用として7,378,245円が計上されている(甲101,17枚目)。

住戸と店舗間の費用の分担を論ずるのであれば,マンションの管理・修繕に要する経費を全体的,かつ,ある程度長期的に捉えて費用額を算定すべきであり,店舗のために要する経費を羅列するのは,あまりに一面的である。本件マンションは住戸があるために,住戸の開放廊下の損耗劣化という,住戸がない場合には発生しない問題が発生し,その分の補修・修繕費用だけでも700万円余りも高くなっているのである。この点を等閑視しつつ店舗前敷地等の補修・修繕費用だけを云々して負担割合を考えるのは,まったく無意味である。

ウ また,本件マンションの管理委託契約書・管理仕様書中,清掃箇所に「一階中通路」の記載はない。控訴人らは,第33期総会の質疑において,この点を問い質した。被控訴人は,「中通路は廊下に該当すると考えられる」,「日常清掃の廊下部分にあたる」「中通路を単独の項目として特別考慮していない」などと曖昧な回答に終始した(甲107,33期通常総会議事録)。

かかる被控訴人の回答を前提にすれば,被控訴人自体,中通路の清掃のために特別な費用がかかると認識しているわけではないことは明白である。

エ 更に,原判決は,点検維持管理費用についても,住戸専用マンションと比較して高くなるとの事実を認定し,管理費等の負担割合の格差を肯認している。しかし,本件マンションにおいては,エレベーター保守点検費用,給排水設備点検費用,貯水槽水質検査・汚水槽清掃費など,住戸が存在することによって発生する費用のほうがはるかに多額である。控訴人らが計算したところ,平成19年で136万2836円,平成27年で86万6396円であった。

これは,店舗にかかる業務用電力の変電設備(キュービクル)の点検費用約26万2964円の3倍を超える金額である。これに設備の維持のためにかかる電気料を加味した場合は,控訴人らの計算によれば,少なく見積もっても約6倍である(甲94の1,調査報告書)。

以上のとおり,原判決が,点検維持管理費用のうち主要な部分を占めるエレベーターや揚水ポンプ等(ちなみに控訴人らが把握しているところでは,平成14年以降のエレベーター,揚水・汚水ポンプの使用電気量・電気料は,年間2万KW,72万円以上である),住戸が存在するために余分に掛かる経費の存在について考慮せず,他方で,店舗が存在するために余分に発生する経費の存在だけを理由に,上記格差を肯認したのは,極めて不当である。

(9)店舗利用者の通行に関する事実誤認

ア 原判決は,「各店舗の営業活動のために」「不特定多数人の出入り」,「多数の者の利用」が発生することが容易に想定される旨の事実を認定し(39頁),管理費等の負担割合の格差を肯認しているが,これは原判決自体が「非常に多くの顧客が訪れることまでは想定し難い」(40頁)と認定していることと矛盾すると同時に,事実誤認も甚だしい。

イ 控訴人ら代理人において,週末金曜日(平成28年6月24日)の日中及び平日火曜日(同年7月12日)の午前中に,本件マンション周辺を撮影したところ,人通りはほとんど皆無であった。また,本件マンションの店舗は,内部を壁で閉鎖し,シャッターを降ろして営業をしていない店舗(倉庫)もあり,営業している店舗にも客が入店する様子はなかった(甲108,控訴人ら代理人報告書,甲109各号,写真)。また,控訴人らは,平成28年7月25日から1週間にわたって,中通路の通行調査を行った結果は7頁で述べたとおり,住戸関係の出入りが多数であった。

本件マンションは,ターミナル駅であるJR蒲田駅から一駅乗り継いだ東急池上線蓮沼駅の裏側に位置する。近隣住民が利用する商店街は本件マンションとは同駅を挟んで反対側にある。地方の駅前商店街で社会問題化したいわゆるシャッター通りと同様の様相を呈しているのである。

ウ 以上のとおり,店舗の存在によって不特定多数人の参集が生じるかのごとく原判決が前提にしているのは事実誤認といわざるを得ない。

(10)騒音等に関する事実誤認

ア 原判決は,「店舗の営業活動に伴い,騒音等の問題が生じること」,「飲食店等店舗については,臭い,煙,害虫の発生等の衛生面の問題も生じることが容易に想定され得る。」との事実を認定し(39頁),管理費等の負担割合について格差を肯認した。

イ しかし,各店舗のうち,医療関係(整形外科・マッサージ業)が315.85㎡(41.84%),保育所97.78㎡(12.95%),損保,不動産,建築設計事務所が150.33㎡(19.92%),倉庫が34.68㎡(4.59%),理髪店が39.16㎡(5.19%),飲食店(スナック)が4店舗117.02㎡(15.5%)であるが(甲95記載の面積による計算),飲食店はわずか15.5%に過ぎない。しかも,いずれも小規模であり,従前,104号室出火のボヤ騒ぎを除いて,各店舗について,騒音,臭い,煙,害虫の発生等で被控訴人から問題とされた事例はない。被控訴人が防音対策や,臭い・煙・害虫除去対策を総会で議案としたこともない。したがってそれらの対策費用も一切支出していない。

ウ 本件マンション近辺における主な騒音は,東急池上線の車両通過音,本件マンションの東隣にある東急池上線踏切の警報器の音,同踏切を発進・通過する車両のエンジン音,住戸・店舗を問わず,空調室外機の運転音,換気扇の回転音であり,発生させる騒音に関し,住戸と店舗間に有意的な差異はない。控訴人らが住戸(ベランダ)と店舗(戸口)で騒音を計測したところ,以下のとおり差異はほとんどなかった(甲94の1,調査報告書。なお,101,102号室は池上線の踏み切りに面している。103は2店舗が併設されている。単位はデシベルである)。

14時 20時 23時
617(住戸) 56 56.9 56.2
101(飲食) 開店前 60.1 58
102(不動産) 61.2 閉店後 閉店後
103(飲食) 開店前 58.3(別の店舗は開店前) 53,55.2
106(飲食) 開店前 57.2デシベル 58
115(保育所) 51.9デシベル 閉店後 閉店後

エ 臭気に関しては,控訴人らが「ニオイセンサXP-329-3R」で計測した結果,住戸の臭気のほうが強かった(甲94の1,調査報告書)。

14時45分頃 17時45分頃 20時頃
305(住戸) 326
801(住戸)
102(不動産) 152
115(保育所)
117(設計)
101(飲食) 27
103(飲食) 18・47
106(飲食) 101

オ 控訴人らが店舗のうちスナックを経営する3店舗に実施したアンケートによれば,3店舗のごみ1日当たりの排出量は30g~380g(甲94の1,調査報告書)であった。一方,平成27年版環境統計集では国民1人1日当たりのごみ排出量は平成24年で964gである(甲110)。本件マンション住戸部分の1世帯の同居家族を平均2.5人とすると964×2.5人=2,410gである。店舗が排出するごみは住戸よりも大幅に少ないことがわかる。

カ そのほか,煙についても,控訴人らが各店舗営業時間中の煙の排出の有無を確認したところ,煙を排出している店舗はなかった。

また,害虫については,本件マンションの管理規約(甲17)第34条に,管理組合の業務として「消毒」を行うものと定められている。この消毒には当然「害虫の駆除」も含むと解される。ところが被控訴人の収支計算書で「消毒」「害虫駆除」費用が支出されたことはない。また,管理会社日本ハウズイング株式会社との管理委託契約書にも「消毒」「害虫駆除」が委託業務として記載されていない。原判決があたかも害虫が発生したかのような前提で格差を正当化する理由として認定したことは誤りである。

(11)小括

以上のとおり,原判決は,事実誤認に基づき,管理費等の負担割合について,店舗所有者と住戸所有者間に格差を設ける必要性及び合理性を肯認したものであって,極めて不当であり,取り消されなければならない。

3 管理費と修繕積立金を混同する誤り

(1)本件マンションでは,修繕積立金の管理費に対する金額比が,竣工時から平成18年7月までは10%,翌8月以降は125%とされ,この比率は23年規約においても踏襲された。このため,原判決は,店舗所有者と住戸所有者間で,管理費について2対1の格差を設けることが合理的であるならば,修繕積立金についても2対1の格差を設けることが合理的であるとの前提で判断している。

しかしこれはまったく証拠に基づかない判断といわざるを得ない。

(2)証拠に基づき,現実に掛かる(掛かることが見込まれる)費用全体の合理的分担という観点から,住戸と店舗間の負担割合を考えるならば,修繕積立金について両者間に格差を設けること自体,不必要かつ不合理であることは明らかであり,以上に反する証拠は存在しない。

すなわち,平成17年当時,本件マンションを管理していた訴外ダイワード株式会社が作成した長期修繕計画表(甲5)によれば,本件においてもっとも高額な修繕費目は外壁修繕費であり,以下,給水管更新費,排水管更新費,エレベーター改修費の順となっている。

甲5は,平成19年に前年修繕積立金を12.5倍とした総会決議の無効確認を求め,本件マンションの区分所有者21名が提訴した際,被告管理組合法人(本件被控訴人)から提出された証拠でもあった(東京地方裁判所平成19年(ワ)第11971号,乙14)。

当時,被控訴人は,外壁修繕の必要性を立証する証拠として,ベランダひび割れやタイルの落下,コンクリートの剥離,手摺タイルの剥離,雨漏りによる損傷,9階階段の状況など,いずれも住戸部分の損傷を撮影した写真を提出した(甲111,証拠説明書,甲112,写真)。

つまり,甲5の外壁補修費は主として住戸部分の補修を目的としたものであったことがわかる。

また,給水設備の更新費用についても,店舗への給水は東京都水道局の本管から直結であり,すべて住戸のための費用である(1階共同トイレは被控訴人が鍵をかけて店舗所有者が自由に使用できない状況にされている)。

さらに,エレベーターの改修費用についても,店舗は1階部分のみであり,エレベーターは住戸部分の区分所有者しか使用しない。

以上のとおり,修繕積立金について,店舗が住戸の2.45倍の負担をしなければならない理由はない。

(3)また,平成25年の長期修繕計画書(甲55)に基づき,標準管理規約(複合型)の費用分担方式に従って算定しても,修繕積立金の負担割合は,住戸1に対し,店舗0.76という結論であった(原審における原告ら第4準備書面24~26頁)。

(4)更に,マンション管理士である控訴人HC代表者が,平成20年6月に被控訴人の依頼に基づき提出された小田急建設株式会社作成の長期修繕工事見積書(甲101)に基づいて,標準管理規約(複合用途型)の費用分担方式に従って算定しても,修繕積立金の負担割合は,住戸1に対し,店舗0.63(エレベーター改修工事及び給水設備工事について見積額でなく実績額を採用した場合の負担割合は0.56)という結論であった(甲113,検討書3)。

上記長期修繕工事見積書(甲101)は,平成20年6月13日に開催された臨時理事会で理事長が提案して全会一致で承認され(甲96),総会でも承認されたが,住宅公庫からの借り入れができなかったので数期にわたって分割して実施されることなった。そのうちの鉄部塗装工事3,461,421円,ベランダ手摺交換工事15,320,130円,防水工事16,534,594円,エレベーター改修工事13,173,000円,給水設備改修工事28,866,200円を含む住戸のための工事金額は84,851,238円にも及ぶ。これにエレベーター改修工事増額分7,037,000円及び給水設備改修工事増額分12,648,800円合計19,685,800円を加算した実際の工事金額は1億45万2700円である(甲113,検討書3,下部に記載した頁数1・32・35頁)。これらの工事は明らかに住戸部分において住戸のためだけに支払われたものである。

また,これに先立つ平成16年には,2059万3250円の工事が実施されているが,これは,住戸バルコニーの手すり鉄部塗装,屋上及び中通路屋根の防水工事であり,いずれも住戸関連と共用部関連のみであって,店舗関連工事支出はなかった。

このように,本件マンションにおける長期修繕計画は,住戸のための費用が極めて多額であり,実際の工事費支出の殆どが住戸のためであったことからすれば,修繕積立金について,住戸所有者と店舗所有者間で格差を設けることはおよそ正当化しえず,原判決が2倍の格差を容認したのは誤りというべきである。

 

第3 23年規約の27条2項本文と別表第4-1との矛盾に関する判断の誤り

1 原判決は,管理費等を定める規約本文(23年規約27条2項)と本件別表第4の内容が矛盾しており,法律行為として特定性を欠くから,無効である旨の控訴人ら主張に対し,「本件別表第4の内容は,店舗所有者と住戸所有者との間の負担割合には格差が存在するものの,店舗所有者間及び住戸所有者間においては,区分所有者の共有持分の基礎となる各区分所有者の専有面積の割合に応じて管理費等が定められているものであるから,本件規約部分の本文と本件別表第4の内容が矛盾するとまではいえ」ないと判断している(42~43頁)。

2 しかしながら,23年規約27条2項は,「管理費等の額については,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出した別表第4の金額とする」と定めているだけであり,「各区分所有者」の内部に住戸,店舗及び児童館の区別を設けた規定にはなっていない。この規約本文を素直に読めば,管理費等は住戸・店舗・児童館の区別なく,あくまでも「各区分所有者」の共有持分(専有面積)に応じて比例した金額にならなければおかしい。

それにもかかわらず,原判決が,店舗所有者間及び住戸所有者間においては,専有面積に応じているから矛盾するものでないとしたのは,規約本文に記載されていない内容を読み込むもので,牽強付会も甚だしいというべきである。ましてや,別表第4は,児童館についてのみ住戸所有者との間で共有持分(専有面積)に応じて比例した金額になっているが,規約本文の文理として,店舗所有者間,住戸所有者間及び住戸所有者と児童館との間において共有持分(専有面積)に応じていればよいという趣旨に読むことはまったくできないはずである。

 

第4 区分所有法35条5項に関する判断の誤り

1 原判決は,「本件対照表自体には本件別表4が添付されていなかったものの,23年総会の招集通知には,本件対照表に加えて,23年総会で改正が承認された場合の改正後規約が掲載された本件規約集も同封されており,本件規約集には,別表4が添付されていたことが認められる。」,「23年総会の招集通知や議案説明書には,住戸と店舗とで,専有面積1平方メートル当たり約2.45倍の格差がある管理費等を定める旨が明確な形では示されていないものの,上記招集通知には,第1号議案として『管理規約全面改正承認の件』と記載され,管理規約全体が改正の対象となっていることが示されていること,本件対照表の『改正案(改正後)』欄の27条2項には,「管理費等の額については,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出した別表第4の金額とする。」と記載され,下線の引かれた別表4の部分が改正対象となっている旨が示されていること,本件対照表と本件規約集とを比較すると,本件規約集が改正後の規約を掲載したものであることを容易に認識し得るものであること,本件別表第4には,店舗部分及び住戸部分の管理費等の金額が全て記載され,その金額から格差の算出自体が可能であることが認められる」と事実を認定したうえで,「本件規約部分改正についての議案の要領の通知がなかったということはでき」ないと判示して(36頁),23年総会の招集手続が区分所有法35条5項に違反する旨の控訴人らの主張を排斥した。

2 しかし,東京高裁平成7年12月18日判決(判例タイムズ929号,199頁)は,「(区分所有法35条5項の趣旨は)区分所有者の権利に重要な影響を及ぼす事項を決議する場合には,区分所有者が予め十分な検討をした上で総会に臨むことができるようにするほか,総会に出席しない組合員も書面によって議決権を行使することができるようにし,もって議事の充実を図ろうとしたことにあると解される。右のような法の趣旨に照らせば,右議案の要領は,事前に賛否の検討が可能な程度に議案の具体的内容を明らかにしたものであることを要するものというべきである。これを本件についてみるに,本件総会㈠の招集通知には,本件決議㈠2に対応する第五号議案として,『規約・規則の改正の件(保険次項,近隣関連次項,総会事項,議決権条項,理事会条項)』と記載されているに過ぎないところ(当事者間に争いがない。),右をもって議案の内容を事前に把握し賛否を検討することが可能な程度の具体性のある記載があるとは到底いうことができない」と判示している。

本件においても,まさに上記事案と同様,控訴人らに送付された23年総会の招集通知(甲13)には,単に「第1号議案 管理規約全面改正案承認の件(特別決議)」との記載があるのみで,約2.45倍の格差を決議する旨の記載はない。これは議案の要領ではなく,議題に過ぎない。

また,招集通知に添付された議案説明書においては,住戸と店舗の管理費等の格差について説明する内容は一切記載されておらず,むしろ現行の管理規約が駐車場の4区画が管理組合で使用可能となったことから,規約が現状にそぐわなくなったこと,国土交通省が「マンション標準管理規約」を平成23年7月に見直したことから,標準管理規約に沿った内容とするため,管理規約の改正を上程する旨が説明されているにとどまる(甲14)。つまり,この招集通知を受領した者において,住戸と店舗の管理費等について約2.45倍の格差の是非を決議することが予定されていると理解できるはずがないのである。

また,被控訴人が平成23年11月6日の臨時総会に先立ち,配布した広報誌には,改正される予定の規約の条数が記載されているものの,どこにも管理費の条文(27条2項)が改訂される旨の記載はない。更に,被控訴人が総会後の平成23年11月10日に配布した「管理組合法人管理規約集の利用と一部訂正について」と題する書面(乙65)では,招集通知には記載されなかった,管理組合法人規約集が正式な管理規約集となった旨が記載された。ちなみに23年規約改定には標準管理規約と相反する,役員の居住要件(店舗所有者は役員になることができない旨。37条2項),残余財産の精算(管理費等は約2.45倍で徴収し,清算時は住戸と等倍。67条),店舗電気料余剰(過剰徴収)金の管理費繰入(72条4号④)など,店舗所有者に重大な影響を与える規定も同時に盛り込まれたが,これについても招集通知に要領の記載がなく,控訴人らは気付きようもなかった。これらの経緯を全体として観察すれば,被控訴人は,総会前には控訴人らに重大な影響を与える改正の要点を告知せず,容易に閲読することができない大部の規約集(控訴人OSは,案と書いていないので,これから決まる規約集ではなく,現行の規約集だと思っていた旨証言している〔OS11頁〕)を添付して決議を取り,従前の取扱いを既成事実化しようと企図していたことが示されている。

以上に対し,原判決は,規約集が添付されていたことを理由に,議案の要領について35条5項違反はないと判断しているが,前掲東京高裁の判断に照らせば,招集通知本文あるいは議案説明書に一切記載のないこと自体が,そもそも35条5項に抵触するというべきである。しかも,規約集は書式を含めて全体で91頁の大部なものであり,格差の件を,控訴人らにおいて問題意識を持って読み込まない限り,別表4の記載にまでたどり着くことはできないことは明白である。それを,あたかも別表4の記載を容易に確認できるかのように判断した原判決は,事実誤認であると同時に,失当である。

 

第5 権利濫用に関する判断の誤り

1 原判決は,「原告K,原告APR,原告東京BH,原告M,原告N,原告SE及び原告YNは,本件規約部分を定める23年決議について,店舗と住戸の管理費等について約2.45倍の格差を定める規約変更が行われることが招集通知により事前に通知されていたにもかかわらず,上記決議に賛成し,または,明確な反対票を投じないまま欠席し,区分所有法31条1項後段の『承諾』をしたと認められる言動に及んでいるものである。(中略)同規約部分の無効を前提とする管理費等の不当利得返還等を請求するという相矛盾する行動に出ることは,信義則に反し,又は権利濫用に当たるものといわざるを得ない。また,前記認定事実によると,参加人OSは,原告APRの代理人として23年決議に参加し,賛成票を投じていることが認められ,参加人OSについても,本件規約部分の無効を主張することが信義則に反し,又は権利濫用に該当するものというべきである」と判断している(46頁)。

2 しかしながら,原判決のように,「事前に通知されていたにもかかわらず,決議に賛成し,又は,明確な反対票を投じないまま欠席し」たことを理由に,信義則を適用することは,裏を返せば,これらの者から店舗の区分所有権を譲り受けた者については本件規約部分の無効の主張を容認するということを意味し,マンションという集団的法律関係において管理費等の負担割合という重要事項の処理が,人によって区々に分かれるという弊害をもたらすことになる。

信義則という法的技術を本件に適用することには,このような弊害が伴う以上,本当にかかる法的技術を適用すべきほど,上記控訴人らに信義に欠ける行為があったのかという観点から,本争点を考える必要がある。そしてその際,管理費等の負担割合の変更に関する被控訴人側の態度の誠実性についても吟味する必要がある。

3 この点,前記引用のとおり,「23年総会の招集通知や議案説明書には,住戸と店舗とで,専有面積1平方メートル当たり約2.45倍の格差がある管理費等を定める旨が明確な形では示されていない」。また,23年総会の招集通知には,第1号議案として「管理規約全面改正承認の件」と記載されているにとどまる。これは議案やその要領ではなく,議題を示したものにすぎない。更に,被控訴人が総会前に開催した説明会においては,駐車場の使用形態の変化に関する説明がなされたにとどまる(乙59の1,2)。管理費等の負担割合の変更については,被控訴人が総会前に配布した概要案においても,何ら記載がなされず(乙60),総会における担当理事による口頭説明もなく,この点に関する質疑応答もなかった(甲16,乙58,証人T6頁)。

原判決は,「23年総会の招集通知には,本件対照表に加えて,23年総会で改正が承認された場合の改正後規約が掲載された本件規約集も同封されており,本件規約集には,本件別表第4が添付されていた」,「本件対照表と本件規約集とを比較すると,本件規約集が改正後の規約を掲載したものであることを容認に認識し得る」,「本件別表第4には,店舗部分及び住戸部分の管理費等の金額が全て記載され,その金額から格差の算出自体が可能である」と判示するが(36頁),そのように言えるのは裁判官が判決を起案するに当たって記録を精査したからこそそのように思えるだけであって,一般人にそのような作業を当然のように要求するのは困難を強いるものであって酷に過ぎるというべきである。そして,原審裁判官が要求する,かかる「認識」や「算定」を総会の投票までにすることができなかったからといって,管理費等の負担割合について,他の区分所有者とは異なる差別を甘受しなければならないというのはあまりに不当である。

 

第6 結語

以上のとおり,原判決には看過し難い重大な誤りがあるから,速やかに取り消されるべきである。

以  上



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