スポンサードリンク

平成26年(ワ)第24663号 不当利得返還請求事件

原告  株式会社HC

被告  SDマンション管理組合法人

 

第7準備書面

 

平成28年8月6日

東京地方裁判所民事第50部 御中

 

原告訴訟代理人 弁護士 OA

 

第1 共用部電力と電気料金について

1 本件における業務用電力とは,本件マンションの1階にある101~119号室の各店舗と,被告が電気料金を負担する共用部が使用した電力の合計を指す。

一般的に,業務用電力の料金支払いを請け負う管理組合は,この業務用電力(電灯と動力)の使用料金について,電力会社から請求を受け,自ら負担する共用部の電気料金と,区分所有者が負担する電気料金を合わせて一旦立替払いし,区分所有者に使用量に応じた電気料金を徴収し清算している。ところが,被告の場合には東京電力の使用Kwを超えて徴収する詐欺的行為が見受けられ(平成21年1月分の請求では,東京電力の当月使用Kwが12432となっている一方,個メーターの使用Kwすなわち原告ら店舗と被告の総使用Kwは13746になっている。乙111,そのほか乙113,115でも同じように東京電力の使用Kwを超えて徴収している実態がある),1階通路の使用量Kwを10分の1に改ざん低減して原告ら店舗に転嫁するなどの違法行為を常態化させている。

被告が提出している電気料金計算表(乙41ほか)によれば,共用部は1階通路(これまで準備書面において「中通路」と呼称していた通路である)と管理室とされている。

2 しかしながら,電気を使用する共用部は1階通路と管理室に限らない。

原告は,被告との間で本件マンションの管理費に関しても争っているところ(原審御庁平成25年(ワ)第39号不当利得返還等請求事件。控訴審東京高等裁判所平成28年(ネ)3088号),同事件において被告が提出した証拠によれば(同事件証拠乙46の1~4),被告が電気料を負担する共用部電力は,電灯は住居廊下,地下室,玄関ホール,ごみ置場,外灯,共用便所の従量電灯と1階通路,管理室の業務用電力電灯の2系統と,動力(エレベーター,揚排水ポンプ,シャッター)が記載されている(本件証拠甲18の1~4)。なお,共用部の使用電気はこのほかに1階自転車置場もある。

3 甲18の1~4には,乙41以下の電気料金計算表記載の1階通路,管理室を含む費目とその合計額が記載され,被告が負担すべき電気料金の全体が把握できる。一方,乙41以下では全体がわからないため,平成18年以降は決算書に記載されている金額を記載して,共用部電気料金の推移を別紙1「共用部料金負担金額の推移」のとおり比較した。なお,別紙2として,金額の推移をグラフで表した。平成10年から18年への被告負担金額の激減は,まさに被告の恣意的な数値の改ざんを裏付けるものである。

なお,被告は乙41以下において,共用部の基本料金を2309円としているところ,これは,動力使用量を測る個メーターを有しながらも,動力使用量を0として,電灯分の個メーター1個のみとしているためである。店舗は,動力を使用していない店舗についても個メーター2個分(電灯・動力)として4618円を計上されているが,この点も恣意的な金額の操作があるといわざるを得ない。

4 別紙1「共用部料金負担金額の推移」から,被告が負担する業務用電力の共用部使用電灯料金は,昭和60年~平成10年は28~32万円だったが,平成18年は後述する乙41以降における指示数の10分の1の改ざんと,月額8000円の手数料を店舗負担額に加算することにより,4万円台に激減した(19年も3万円台)。1階通路において10分の1の改ざんを一旦中止した平成20年は12万円(21年は19万円)となり,途中から10分の1の改ざんを再開した22年は13万円台だが,23年は8000円台,24年は1万5000円台,25年2万円台で共用部の電灯料金は非常に低額化した。10分の1の改ざんを再度中止した平成26年は14万円台となり,平成20,21年と同程度になったことがわかる。

そして,一般共用部電灯電力と上記業務用電力を合計した共用部使用電灯料金は昭和60年212万円をピークに平成元年179万円台,平成5年は176万円台,平成10年178万円台と概ね同程度の金額である。しかし,指示数を10分の1に改ざんしたり,手数料を加算したりし始めた平成18年以降は139万円台,23年は132万円台と,ピーク時の7割前後,平成元~10年頃の8割程度に減少している。本件提訴後の25年は154万円台,26年には174万円台になり,平成元~10年頃の水準に戻っている。

すなわち,平成18年(現理事会役員が就任)以降,被告は,共用部使用量Kwの指示数10分の1の改ざん(詳細は後述する)と年間9万6000円の手数料を店舗から徴収することによって毎年約30~40万円の共用部負担金の支払いを免れるとともに,原告ら店舗に転嫁してきたことが明白である。他にも東京電力の基本料金が低下したにもかかわらず,店舗の基本料金を値上げしたこともあって,原告が計算したところでは平成18年以降の9年9か月では,被告は,約20%の使用量Kwにあたる約460万円の共用負担分を不当に免れている。

 

第2 電気料金計算表(乙41~158)その他電気料金の不自然性

1 東京電力のメーター指示数について

(1) 被告が提出した電気料金計算表の左上には,東京電力のメーター指示数の記載がある。およそ電気を使用する以上,メーターの数値は日々加算されていくはずである。

(2) ところが,平成18年1月から同19年10月まで,当月指示数も,前月指示数も,182のままで変化がない(乙135~139,142~158)。

また,平成19年11月から同20年2月まではなぜか数値の記載がなく,空欄となり(乙140,141,123,124),同20年3月から7月まで,突如として当月指示数1047.53,前月指示数1024.68(乙125~129),平成20年8月は当月指示数1158.25,前月指示数1129.75(乙130),同年9月以降は再度当月指示数1047.53,前月指示数1024.68に戻り,その後は平成27年8月に至るまで,ずっと同じ数値のままとなっている(乙41~48,51~134)。平成27年9月及び10月は,当月指示数1072.981,前月指示数1054.530である(乙49・50)。

(3) これらの表記は,メーターの数値に変化がないこと自体が不自然なほか,平成20年8月から9月にかけてはむしろ指示数が減っているという異常な表記になっている。

被告が東京電力の指示数についてかかる不可解な表記をしている背景には,前述のとおり,東京電力が示した当月使用Kwの数値より,個メーターによる原告ら店舗と被告共用部の総使用Kwのほうが高いことがあり(乙111,113,115),これを巧みに隠ぺいする目的があったものと理解せざるを得ない。被告は共用部のKw数値を10分の1に改ざん(詳細下記2のとおり)はするほかに,東京電力との使用量の差を,原告ら店舗に転嫁する方法でも自ら負担すべき電気料金を原告ら店舗に転嫁する目的があったと言わざるを得ない。

2 1階通路の電灯使用Kwについて

(1) 1階通路の電灯使用Kwは,平成18年1月から同20年7月まで100Kw台で推移しているところ,同20年8月に一気に20倍以上に跳ね上がる(乙123~130,135~158)。

(2) その後,平成22年7月まで概ね1000Kw台で推移し,同年8月に2倍程度に跳ね上がり,翌9月から再度100Kw台,平成23年4月からは二桁になり,平成26年5月にまたしても10倍以上に上昇する(平成26年5月には,使用Kwが前月4月の88Kwから911Kwと,11倍以上になっている。乙49~131)。

(3) これが,仮に1階通路だけの使用電気量を示すならば,1階通路が季節に関係なく24時間常時点灯していることから,使用量は日数が長い月と短い月で若干異なることがあるものの,毎月ほぼ同一でならなければならず,桁違いの極端な変動をすることはありえない。異常な数値の変遷である。これは,本来の使用量が毎月1000Kwあるいはそれ以上であったにもかかわらず,被告が実際の使用量より過少に,すなわち10分の1に計上していた期間があったことを示している。

3 動力の指示数について

(1) 被告は1階通路について,動力の指示数欄を記載している(乙41以下)。これはおそらく平成7年ころまでクーリングタワー(業務用電力の動力により稼動していた)があった名残であると思われる。もっとも,個メーターには「共用」と表示され,平成10年以前は「外灯・1階通路・共用便所」との記載に対して(甲18の1~4),乙41以下では「1階通路」とのみ記載されているので,動力の指示数が計上されるのは誤りということになる。もっとも,いずれにせよ被告は動力電気料金を負担しなければならない(エレベーター,揚排水ポンプ等)から,動力の使用電気量は適切に表示されなければならないところである。

また,指示数も,唐突に3000kw台で現れたかと思えば突然10倍以上に増え、或いは消滅している。しかも,指示数がマイナスになることもあるなど1階通路の「動力」指示数は,あってはならない異常な数値の変遷を示している。

(2) 具体的にはまず,平成18年1月から同19年12月まで,1階通路の動力の指示数は0である(乙135~158)。

(3) ところが,平成20年1月に突如として前月3,347,当月3,347という数値が現れ,同年8月に前月3,347,0,当月3,347という記載が現れ,使用Kwは0と表記されている(乙123~130)。

(4) そして,平成20年11月の当月を3,416として使用量を69Kwと記載し(乙133),21年1月には当月数値を3,347に戻して動力使用量をマイナス69Kwと記載した(乙111)。この背景には,平成20年8月には変電設備改修工事を実施したことがあると思われる(原告ら店舗の承諾は得ていない)。変電設備工事の月に動力指示数がマイナス69Kwというありえない数値となったのは,業務用電力の共用部回路の変更(共用個メーターを通さずに直結使用とする)が行われたためではないかと思われる(そのような変更を行わなければマイナス表記になるはずがないからである)。なお,平成19年6月から一般共用電力を従量電灯と低圧電力の2契約から低圧高負荷の1契約とした(総会決議は経ていない)。

(5) 平成26年5月が前月3340,当月3340,6月が前月33470,当月33470と10倍以上に記載され,指示数の連続性が破綻しているうえ,動力の使用Kwは0のまま変動がない

(6) ここまでくると,もはや被告の負担するべき共用部の使用Kwは被告の数字遊びでしかない。これは,被告の請求通りに誠実に支払ってきた店舗を愚弄するものであり,犯罪性をも疑うべき虚偽記載であり,実に深刻な事態というしかない。

4 103スナックMの負担した電気料金について

原告において1階店舗であるスナックMに聴取したところ,同店の平成24年9月の電気料金は30,420円,25年10月は37,919円で,同27年の水準と比較して,前者は5割増,後者は2倍であった。同店において24年25年に特別電気を大量に使用したことなどなかったにもかかわらず,異常な高額であった。

スナックMは,ひと月の電気料金が4万円を超えたときには堪らず東京電力にクレームを付けたところ,被告の管理会社(株式会社日本ハウズイング)から電気料金の翌月分は免除されたとのことである。

5 また,被告は従前から,月額8000円の手数料を電気料金に加算して請求していたと主張し,乙41以降においても8000円を調整額として計上しているが,もとより原告ら店舗が手数料の徴収に同意したことはないのであるから,かかる意味でも被告の主張は不自然極まりない。

6 さらに,1階通路の電灯及び動力のメーター数値が平成26年に異常な変遷を示しており,これが単なる過誤ではなく,意図的な数値の操作としか評価できないことも(甲14),第4準備書面で指摘したとおりである。

7 これらの事実から,原告ら店舗から電気料金の支払事務の委託を受けていることを奇貨として,本来自らが負担すべき電気料金を原告ら店舗に転嫁しているというべきであり,かかる行為は許されるものではない。

 

第5 被告の不当利得金の計算

原告は別紙不当利得金計算表のとおり被告の不当利得金額を計算した。

1 別紙上段が電気使用量,下段が電気料金である。

2 上段の電気使用量は,東京電力の指示数をA,被告の指示数をBとした。AとBの差は,乙41以下に表記のないエレベーター,揚水・排水ポンプ,廊下等の使用電力量である(これをCとする)。

3 被告が計上している1階通路の使用電力(これをDとする)と管理室の使用電力(これをEとする)とCの合計が,実際に被告が使用した電力量である(これをFとする)。

4 東京電力が計上した指示数を分母に,Fを分子にした数値が,被告が本来負担すべき電気料金の割合である(これをGとする)。

5 下段の電気料金は,東京電力の請求額をHとし,被告が実際に負担した割合をIとした。

6 被告が本来負担すべき電気料金は,GからIを引いた割合に,東京電力の請求額Hを乗じた金額である。

7 以上により,被告の不当利得金は平成18年から26年までの9年間で434万2540円である。

なお,これは,被告の,店舗全体に対する不当利得金額である。現在,原告を除いた他の店舗も,被告に対して電気料金の過剰徴収について不当利得返還請求訴訟を提起すべく,準備中であるので,原告としては同訴訟が提起され次第,弁論併合の申立をし,しかる後に各店舗に対する被告の不当利得金額を計上する所存である。

 

以 上



スポンサードリンク