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1階店舗専有部内においてその一部に駐車することを禁止する規約改正は、その店舗区分所有者に特別の影響を与えるものかどうかが争われた事例です。

概要
原告(1階店舗区分所有者)・・X
被告(管理組合)・・Y
1階店舗賃借人・・Z
マンション・・Sマンション
所在地・・東京都大田区

マンション1階店舗を賃借しているZが、店舗内に駐車していたが、管理組合Yは、店舗内に駐車を禁止する規約変更を総会で決議しました。それに対し、原告Xは、Xの承諾の無い決議は無効であると訴えました。

争点1・・本件規約変更は、区分所有法31条1項後段の「規約の設定、変更」にあたるか。
(原告の主張)
変更前の規約では、一定の動物の保管・飼育、一定の危険物等の持ち込み・保管・製造、一定の騒音等の継続的な発生、一定の設備等への新設・付加、一定の外観に影響を与える変更行為、窓ガラス内側への掲示物等の貼付、深夜・早朝営業が禁止されているのであって、包括的な禁止条項ではない。
また、変更前の店舗使用細則では、敷地及び共有部分での禁止事項を定めたものであり、専有部分やその一部である本件スペースは、明らかに射程外である。かえって、同細則は、店舗部分の前面の敷地に物品を臨時でもおいてはなりませんと規定し、さらに、物品を置く必要がある場合には、そのスペースをシャッター内に確保することと明記しているのであるから、店舗部分の区分所有者や賃借人等がその必要に応じ、バイク、自動車、自転車を含む物品を置くスペースをシャッター内に確保すること、すなわち自動車等を置くことを許容している。
(被告の主張)
変更前の規約には、駐輪場以外の場所に自転車等を駐輪させてはならない旨及び駐車場以外の場所に自動車等を駐車させてはならない旨の規定ある。一方、本件規約変更では、区分所有者は、店舗部分を駐車場若しくは駐輪場として使用できず、区分所有者が車両等を所有する時は、その車両等を店舗内に駐車させてはならないと規定されている。そして、原始規約として分譲時に配布された重要事項説明書、図面集において、敷地内の駐車台数が規定され、その状態が過去20年近く常態化している。このように原始規約、変更前の規約が明文的に成立している店舗内駐車禁止規約に対して、原告がこれに反対することは出来ない。

争点2・・本件規約変更は、区分所有法31条1項後段の「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべき時」にあたるか。
(原告の主張)
①本件規約変更により原告が被る不利益
本件マンション建築以降、約19年に渡り専有部内店舗、そして、本件スペースを屋内駐車場として専有使用されてきた経緯、現在の区分所有者である原告も、専有部内に駐車できることを当然として購入し、使用してきたたものである。
仮に、本件スペースを駐車場として使用できないとなると、現在賃借人の業務停廃等、重大な悪影響を及ぼすことになり、ひいては原告が賃借人より賃貸借契約に関し不履行責任を追求されるおそれすらある。
また、駐車場を他で確保するには月額約23000円の費用負担となる。もっぱら原告ないしその賃借人のみの負担によることは不合理である。
②本件規約変更の必要性及び合理性
本件店舗一部分を駐車スペースとして利用しても、その前面を通行する区分所有者等への危険がおよぶ可能性は低い。
原告は多額の資金投下により店舗の区分所有権を取得した。これに対し、敷地内駐車場の利用は、区分所有者の共有する敷地を特定の物が一定期間排他的、独占的に専有する者である以上、その対価として使用料を支払うのは当然である。したがって、原告が区分所有権に基づいて本件スペースを駐車場として使用することと、本件マンションの区分所有者が敷地内駐車場を使用することとは権利の内容が異なる以上、取り扱いを別にしても平等原則には反しない。
原告は、賃借人に対し、店舗専有部分よりはみ出して駐車することを容認したことは無い。仮に、賃借人が不適切な利用状況が存在していたとしても、そのことを持って本件スペースへの駐車を一切認めないとするのは比例原則に反する。
本件スペースの奥行きは3.83mであり、はみ出すことなく駐車可能である。
以上のことから本件規約変更には必要性も合理性も無い。

(被告の主張)
省略

判決
事実認定・・省略
争点1について
①認定事実のとおり、原始規約及びこれと一体となる細則にも、平成14年規約及びこれと一体となる細則にも、1階店舗内を車庫として使用し、あるいは同室内に自動車等を駐車することを禁止する明文規定は存在しない。
これに対して、本件規約変更は、店舗内に駐車することを禁止することを明文で禁止するものであるから、「規約の設定、変更」にあたる。
②被告は、平成14年規約において店舗内に自動車等をすでに禁止されており、本件規約変更は、そのことを明記したにすぎないから規約の変更にあたらない旨主張し、このことは、重要事項説明書の記載や本件マンションの利用状況からも明らかである旨主張する。
しかし、認定事実のとおり、店舗はその物理的構造として車庫としての機能を有しており、建築確認申請の際にも車庫として申請され、同内容での建築確認を受けているうえ、重要事項説明書にも車庫として建築確認申請していることが明記されている。被告が主張するとおり、重要事項説明書及び図面集に本件マンションの駐車場が8台であることの記載があるが、この記載は、住戸部分の購入者が利用することのできる駐車場の台数を記載したものと理解することが相当であって、店舗部分をその区分所有者が車庫として利用することを否定し得る証拠となるものではない。
なお、重要事項の記載内容も店舗部分を店舗又は事務所として登記し、そのように利用することがある旨の記載したものであって、店舗部分の物理的構造にしたがって車庫として利用することをも否定するものとは評価できない。また、登記簿における建物の種類は、当該建物の主な用途から区分された内容が記載されるものにすぎないから、当該建物が記載内容のみの用途で使用されることを必ずしも意味せず、登記簿上、建物の種類が店舗とされていることを持って、店舗部分を車庫として利用することを否定するものとは評価できない。
また、事実認定のとおり平成14年店舗使用細則には車庫として禁止する明文規定は無く、(中略)被告の主張は認められない。

争点2について
①原告は、店舗区分所有者として、店舗、事務所及び車庫のいずれか又は複数の用途として使用収益することが出来る。そして、本件規約変更は、店舗の車庫としての使用を禁止することにより、原告が有する店舗部分の区分所有権に係る許容された特定の用途での使用収益を全面的に制限するものであって、原告の区分所有権の本質的内容を侵害するものと評価できる。
②他方、証拠によれば、店舗賃借人の店舗利用が平成14年規約及び使用細則に照らして不適切な状況であることは認められるものの、前提事実等及び認定事実のとおり、平成14年規約及び使用細則において、店舗の利用方法に関する被告による是正措置を含めた詳細な規定が存在しているところであって、これらの規定の適用による利用状況の改善を図りうることに加え、認定事実のとおり原告において賃借人に対する適正利用の要請が行われていることを合わせ考慮すれば、本規約変更の必要性は乏しものと評価せざるを得ない。
また、本件マンションに係る規約等において店舗を車庫としての利用が禁止されていたと評価できない。さらに、本件において被告と店舗区分所有者のやり取りを示すものとして提出された各証拠によっても、原告を含む店舗の区分所有者が、店舗部分の全部又は一部を車庫としての利用する権利を放棄した事実や車庫として利用しないことを承諾していた事実を認めることは出来ない。これらの点からすれば、本規約変更を許容すべき状況にあるとも言えない。
③そのほかに被告がるる主張する点は、いずれも採用できない。
④以上のとおり、本件規約変更が原告の店舗部分に係る区分所有権の本質的内容を侵害するものであるのに対して、本件規約変更に係る必要性も許容性も乏しいことからすれば、本件規約変更は「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するものといえる。

結論
以上のとおり本件規約変更は区分所有法31条1項後段に該当するものであるところ、前提事実のとおり原告が本件決議に反対しており、同行の定める承諾は存在しないのであるから、本件規約変更は区分所有法上の要件を充足しない無効な決議である。したがって、その確認を求める原告の請求には理由があるからこれを任用することとして主文のとおり判決する。

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