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平成26年(ハ)第6316号不当利得返還請求事件

原告  株式会社H

被告  SDマンション管理組合法人

被告準備書面(1)

平成26年5月28日

東京簡易裁判所民事部第1室2係 御中

被告訴訟代理人弁護士

第1 「第2 請求の原因」に対する認否
1 当事者
第1段落は不知。
その余は概認める。

 2 店舗に対する電気料金が不当に上乗せされていること
第1段落は認め、その余は否認ないし争う。被告の主張で述べるとおり、被   告は各店舗に対し不当に上乗せした電気料金を請求していない。

 3 原告の損失と被告の利得
否認ないし争う。

 4 結語
争う。

第2 被告の主張
1 本件マンションにおける電気設備及び電気料金について
(1)本件マンションの構造
本件マンションは、店舗部分と住居部分からなる複合用途型マンションである。分譲会社であるM建設は、本件マンションの1階店舗部分を相当規模のショッピングゾーンとすることとし(乙2)、本件マンションに中通路を設けて本件マンションを建設して分譲した(乙3)。
その結果、本件マンション1階の店舗の中には公道に面した店舗のほか、中通路にのみ面した店舗が存在している。
このように、本件マンションでは、多くの店舗の入居が予定され、また、中通路にのみ面した店舗は、公道の電柱から直接電気を引くことが事実上困難であることから、本件マンションでは、住戸用の高圧受変電施設に加え、地下に店舗及び1階共用部分のための自家用受変電設備が設置されている。

(2)店舗用の自家用受変電設備及びその電気料金の立て替え払いについて
住戸用の高圧受変電設備は東京電力の管理・所有であり、東京電力が個別に電気メーターを検針し、電気料金は各居住者に対し個別に請求される。
これに対し、自家用受変電設備は、電気事業法上、管理組合が設置・管理するものとされており、管理組合が東京電力と締結した一括契約に基づいて東京電力から請求を受けた電気料金にたいし、管理組合がいったん立て替え払いをする。その後、管理組合が各店舗に対して、その使用状況に応じた電気料金の按分計算を行って、各店舗に請求をする。

(3)電気料金立て替え及び各店舗への請求業務
被告は、自家用受変電設備の維持・管理のみならず、前述の東京電力より一括で請求を受けた電気料金の立て替え払いを一旦行い、その後、各店舗の電気料使用状況に応じた按分等の計算をして、各店舗に精算としての、電気料金の支払いを請求している。
このため、被告は、毎月各店舗の電気の使用状況を把握するために各店舗に設置されたメーター(以下「店舗の子メーター」という。)の検針を行い、各店舗の電気の使用量を把握し、その検針結果に基づいて、各店舗に按分すべき電気料金を計算し、それに基づく請求・領収業務を行っているのである。

(4)電気料金の計算
被告が原告を含む各店舗に対し、請求していた電気料金は、東京電力から請求された電気料金を按分した金額に、各店舗の子メーターの検針・計算・請求業務等にかかる事務手数料のみである。
事務手数料は店舗及び1階共用部分全体で月額約8000円であり(平成17年度以降は、平成17年に限り、約8700円だった)、これを使用実績に按分した金額を手数料として、各店舗に対して電気料金に加えて請求している。
各店舗に対する電気料金の具体的計算方式は後述のとおりである。

(5)小括
原告の請求及びその請求金額の計算方式や金額の詳細は、独自の考え方で計算されていることから、被告としては、十分には理解できないが、実質に考えると、つまるところは、上記の手数料を加算したことが、不当利得であると請求しているのではないかと推測される。
しかし、本件マンションでは店舗が利用する受変電設備が設置されており、店舗の電気使用料は被告が東京電力に立て替え払いをしていることから、被告が各店舗に按分して請求せざるを得ず、そのために検針・記録による各店舗の毎月の電気料金の計算、各店舗の使用実績に応じた東京電力請求の電気料金の按分計算、それに基づく請求書の作成及び発送、入金の確認等さまざまな事務処理が必要であり、上記手数料はそのための費用である。
原告主張にかかる期間の事務手数料の平均は、1kwあたり約77銭(原告に対する請求としては月額317円)である(別紙参照)。
原告の主張は、実質的には、この事務等の対価である月額約317円の事務手数料が不当利得になるとの主張に帰すると思われるが、これが社会常識に反する不当な主張・請求であることは明らかである。よって、本件請求には理由が無いことは明らかである。

2 計算方式
被告が、原告を含む各店舗に対して請求している電気料金計算方式は以下の通りである。

(1)基本料金について
ア 基本料金相当金額の計算
被告は、毎月、各店舗に対して基本料金相当金額と使用量相当金額の合計を請求している。
基本料金相当金額は、平成元年5月以降、被告が東京電力に支払っていた自家用受変電設備の契約設備電力(自家用電力契約量)68kwの基本料金を基に算定されており、現在の金額は9万4669円である。
なお、被告は、東京電力との間で、平成11年、基本料金を実量制(等月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうちでもっとも大きい値を契約電力とする)に変更しているが、本件マンションの各店舗に対する基本料金は契約電力量68kw(9万4669円)の価格を踏襲しており、この9万4669円の基本料金を下記のイに記載した方法で按分した金額を各店舗に請求・徴収している。

イ 計算方法
上記の基本料金を前提に、各店舗に対する基本料金相当額の計算は次の計算方法により行っている。
自家用受変電設備を通じて、東京電力から、一括して受電した電気は、各店舗に送電されるが、各店舗の電気の使途は電灯と動力の2種類に分かれている。
本件マンションの自家用受変電設備専用の子メーター設備においては、電灯及び動力の2種類の子メーターが設置された19店舗(電灯用と動力用合計38個の子メーター)、レントゲン専用の動力のみの子メーターが設置された1店舗(動力用の1個の子メーター)及び1階共用部分専用の電灯用子メーター2個の合計41個の子メーターが存在する。
そこで、
①基本料金を、店舗の子メーター(電灯用及び動力用)、レントゲン専用子メーター(動力用)及び1階共用部分メーター(電灯用)の合計数である41で除して、基本料金相当額の基礎金額として算定し(A)、
②電灯用もしくは動力用のいずれの子メーターも設置している店舗には、このAの金額の2倍の金額を基本料金相当金額としている。
原告は電灯用子メーター及び動力用子メーター双方を設置しているため、原告の基本料金は下記の通り毎月4,618円と算出される。

94,996円÷41×2=4,618円

(2)使用料金について
使用量相当金額は、被告において毎月1kwあたりの単価を定め、各店舗の電気使用量に応じて請求額を決定している。
1kwあたりの各月の単価算定の計算方式は、以下のとおりである。

{(東京電力の総請求額)ー(基本使用料金)+(手数料)}
÷総使用量kw=KW単価の使用量相当金額

まず、東京電力の毎月の総請求料金から、上記(1)の基本料金相当金額(9万4669円)を控除し、全体の総使用料金を算出する。その後、これに店舗及び1階共用部分全体に対する事務手数料(月額約8000円)を加える。
そして、上記の合計金額を毎月の店舗及び1階共用部分全体の総使用KWで除したものが、毎月の使用量相当金額のKW単価となる。
例えば平成24年4月分(甲2号証の84)のKW単価は、次のように算出される。

(229,566円ー94,669円+8,000円)
÷8,969kw≒15.932円/kw
*注・・8,969の数字は根拠のない数字で東電の請求書では11,665kw

このKW単価に店舗ごとの電気使用量(電灯使用量及び動力使用量の合算)を乗じて、各店舗の個別の使用量相当金額が算出される。
例えば、同月における原告の使用料金は、

15.932(円/kw)×609(kw)
≒9,703円

となる。

(3)各店舗への請求金額
以上の計算方式により、店舗ごとに基本料金及び使用料金を算出し、それらを合計したものを被告は電気料金として請求している。
例えば、被告の原告に対する平成24年4月の請求金額は、

4,618円+9,703円=14,321円

となる(甲2号証84)。
このように計算された基本料金及び使用料金の計算方式は合理的であり、また、これに加算して徴収している事務手数料に関しても、その請求には、当然法律上の原因があるし、手数料の徴収が原告と被告の実質的公平を害するものではないことは明らかである。
以上より、原告の主張に理由は無い。

3原告は被告に対し本件業務を委託していること
被告と原告との間で、事務手数料の徴収については明示ないし黙示の合意があったことは明らかである。
そもそも、東京電力と住戸等で直接契約を締結する個別契約と異なり、本件マンションでは、その構造上の理由から、自家用受変電設備を設置し、それに伴い必然的に、東京電力・被告間で業務用電力契約を締結して、被告管理組合が、各店舗のために、その受変電設備による電気の使用についての電気料金の請求を東京電力から受け、店舗のために立て替え払いをせざるを得ないのである。
そして、電気事業法上、自家用受変電設備の管理は設置者たる管理組合が行う必要があるため、店舗の子メーターの検針等の作業についても管理組合が行わざるを得ない。
被告において、立て替え払いをした電気料金を、原告を含む店舗に電気使用料金として請求せざるを得ないことや、その按分計算のために、各店舗の電力使用に応じた電気料金の計算の基礎となる数値の把握のために、被告が、店舗の各子メーターの検針作業・電気代請求の計算・請求等の業務が発生することは周知の事実である。
これらの業務には現実に検針・計算・請求業務の労力を要すること、また、それを外部に委託するのであれば費用が発生することは至極当然のことであり、店舗の区分所有者は、これらの事実を認識したうえで、電気料金の支払いを継続しているのである。

以上のとおり、各店舗は、自家用受変電設備を使用して業務用電力を使用するには本件業務を管理組合に委託せざるを得ないのであり、自家用受変電設備を使用して業務用電力を使用するに当たって、自家用受変電設備を使用している各店舗が本件業務の対価若しくは費用を負担する点について被告との間で明示ないしは黙示の合意をしていたことは明らかである。
被告は、上記業務の手数料として上記金額(各店舗月額平均≒317円)を請求しているのであり、その受領に法律上の原因がある。
したがって、被告には不当な利得は存しない。

4被告に利得がないこと
また、前述したところから明らかな通り、そもそも被告には利得が無い。
まず、電気料金相当額については、被告が東京電力に対し、立て替え払いをした電気料金の支払い(求償)を受けているだけである。
また、事務手数料については、電気料金を請求するためには、毎月の検針・差額計算・請求・領収業務を行わざるを得ず(被告は、現在、かかる業務を外部に委託している)、そこに費用が生ずることは明らかである。
したがって、被告に利得は何ら存しない。

以上

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