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平成25年(ワ)第39号 不当利得返還等請求事件(管理費格差)

原告 店舗組合員14名

被告 SDマンション管理組合法人

第4準備書面

平成26年4月4日

東京地方裁判所

民事第32部3A係 御中

原告ら訴訟代理人 弁護士

第1 被告準備書面⑶記載の事実に対する認否・反論

1 第1について

本件の争点は,一言でいえば、本件マンションの管理規約において住戸と店舗の所有者間の管理費・修繕積立金(以下併せて「管理費等」という)の格差負担(2.45倍)を許容するような「別段の定め」(区分所有法19条。以下単に「別段の定め」という。)が有効に成立しているか、である。
この点を更に分解すると、
①原始規約(乙6)が全区分所有者の承諾により有効に成立しているか(原告らは否定、被告は肯定。),原始規約(乙6)の第13条1項は「特段の定め」をしたものか(原告らは否定、被告は肯定。)、
②「特段の定め」のないことに争いのない平成13年規約(甲2)は有効に成立しているか(原告らは肯定、被告は否定。)、
③文言上「特段の定め」がなく且つ有効に成立していることに争いの無い平成18年規約(乙16)は「修繕積立金増額決議」を含むその成立経過や格差の合理性からして実質的に「特段の定め」を維持したものか(原告らは否定、被告は肯定。)、
④平成23年規約「特段の定め」(第27条2項及び「別表第4」)は手続き面、内容面(衡平・公序良俗)及び内容の特定性の面で有効に成立しているか(原告らは否定、被告は肯定。)、原告らが被告の請求する管理費等の額を支払ってきたことや原告らの一部が平成23年規約変更決議に賛成票を投じたことは上記格差負担を認識・認容したうえで平成23年規約の「特段の定め」を承諾したものか(原告らは否定、被告は肯定。)、
である。
そして、上記③の格差の合理性及び④の衡平との関連で、
⑤本件マンションは「複合用途型」か(原告らは否定、被告は肯定。)、「複合用途型」は上記格差の合理性を基礎づけるものか(原告らは否定、被告は肯定。)、
が新たに争点となっている。後記原告らの主張で述べるとおり、被告が「複合用途型」を持ち出したのは不適切なラベリングであり、端的に、格差の合理性・衡平を基礎付ける事実の存否が争点とされるべきであると原告らは考えている。
また、「法律上の原因」(民法703条)の存否に関連して、
⑥被告の平成14年以降の各定期総会は管理費等の具体的な額を確定させる決議をすることにより管理費等の債権を発生させたものか(原告らは最判平成16年4月23日を引用の上否定、被告は同最判の本件への引用を否定し原告らの主張自体失当を主張。)、
も争点である。被告は、原告らの主張を要約する際、この争点を落とし、「被告による管理費等の収受が適法である」かという争点の立て方を指向しているが、適当とは思われない。収受した給付を保持しうる「法律上の原因」(民法703条)があるかの問題である以上、管理費等債権の存否及び額は避けて通ることのできない問題と考えられる。以上のほか、
⑦原告らの請求を信義則違反ないし権利濫用とする事情があるか(原告らは否定、被告は肯定。)、
も問題とされている。
被告から新たな主張(「複合用途型」)が追加されたので、この追加点についての主張も含め、原告らの主張の総括を後記原告らの主張において行うこととする。

 

2 第2について

(1) 1は否認ないし争う。

被告は,原始規約(乙6)について,各区分所有者が入居を開始した昭和57年2月ないし3月ころに,当時の区分所有者全員の書面による同意をもって成立した旨主張する。

しかしながら,まず,被告が,原始規約の発効時期について,所有権移転登記や引き渡し・入居が開始して区分所有者が当該マンションの使用を開始した時点が,規約に効力が生じるに相応しい時期であるという点は,独自の見解に過ぎない。また,被告の主張は,全員の書面による同意があったとする証拠がおよそ不十分である。昭和57年2月ないし3月というのは,未だ分譲途中であり,102号室を区分所有するS工業が同意していない等,およそこの段階で区分所有者全員の書面による同意があったとはいえない。

更に,被告は,販売未了物件の所有者であるM建設株式会社(以下,「M建設」という。)が当該管理規約の作成者であることを根拠に,同社が原始規約に同意していると見なすようであるが,同社は分譲販売のために形式的に所有権を保有していたに過ぎず,同社が、買受人と同等の資格で本件マンションの管理に参加する旨表明し,その前提で規約の効力を発生させることにつき改めて買受人の同意を得たなどという事情(原告第2準備書面16貢参照)は存在しないから,区分所有者全員の書面による同意があったとは到底評価できない。

(2) 2のうち,入居以来,本件マンションの区分所有者が管理費を支払ってきたこと,被告が指摘する裁判例が存在することは認め,その余は否認ないし争う。

被告が引用する裁判例は,区分所有者全員について平米あたりの管理費が均等となっている事例であり,本件マンションのように,住戸と店舗間の管理費・修繕積立金の格差が2.45倍にも上り,かつ,店舗区分所有者がそのことを知らずに管理費を支払ってきている事案とは同一には論じられない。

したがって,被告の主張には理由がない。

(3) 3記載の事実は否認ないし争う。

被告は,規約承認書と原始規約の齟齬,価格表と管理委託契約書に記載された管理費の額の齟齬,重要事項説明書が複数存在することについて,単なる誤植,あるいは原告の根拠のない推測であるとし,原始規約の有効性に問題はないと強弁する。

しかしながら,特に,異なる種類の重要事項説明書(乙3と甲22)が存在し,区分所有者の権利義務の基礎となるべき共有持分について全く異なる記載がなされていることは,規約の有効な成立に重大な疑義を抱かせるものであり,M建設が価格の値下げを行ったというようなことで合理的に説明の付く問題ではない。また,管理規約の内容について承諾を求める書面に引用されている条文が,当該管理規約の内容と異なっている以上,当該管理規約に同意があったと評価することは到底できないのであり,被告の主張には理由がない。この点は管理委託契約書も同様であり,原始規約(乙6)に対して区分所有者全員の書面による承諾があったとはいえないというべきである。

3 第3について

(1) 1(1)は否認ないし争う。

同(2)は否認ないし争う。

本件マンションは,後記原告らの主張のとおり,複合用途型マンションではない。

同(3)は否認ないし争う。

被告は,本件マンションが住戸と店舗で構成されていること(国交省がいう「住戸・店舗併用の単棟型マンション」であること)だけを捉えて,本件マンションを「複合用途型マンション」と評価しているようであるが,誤りである。仮に本件マンションを「複合用途型マンション」と捉えれば,計算上むしろ店舗負担の管理費は住戸よりも低額となる。したがって,「複合用途型マンション」であるとの被告の主張は,店舗の管理費が住戸より高額となる理由にはならない。この点に関しては,後記原告らの主張で詳述する。

(2) 2の注書部分のうち,被告が指摘する裁判例の存在は認め,その余は否認ないし争う。

被告が引用する裁判例は,住戸・店舗・別館それぞれの管理費負担について,建築士,公認会計士,弁護士らの専門的な助言を得ながら,受益者負担の考え方に立脚して策定されたものと認定された事案である。本件は,住戸と店舗の格差について合理的な理由が一切検討されていない(原告らは説明を受けたこともない)のであるから,そもそも事案が異なる。

被告は,分譲したM建設が, 建物の形状,面積,位置関係,使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して区分所有者間の利害の公平が図られるよう本件マンションにおける管理費の負担を決定した旨主張するが,そのような事実・証拠は一切ない。

むしろ,本件マンションにおける店舗の実情に鑑みれば,およそ被告の主張が事実に基づかないものであることが,自明であるというべきである。

同(1)のうち,第1段・第2段は本件マンションの実情に合致せぬ一般論・抽象論にすぎないのでこれを争い,第3段ないし第5段は,甚だしい事実誤認であるので否認し,第6段は,M建設が本件マンションを「複合用途型マンション」として販売したとの点,M建設が,上記の利用状況等の諸事情等を考慮・斟酌した上で,総合的に判断して,異なる管理費等を設定したとの点はいずれも否認し,本件マンションが「複合用途型マンション」であるとの点,M建設の判断が合理的であるとの点はいずれも争う。

本件マンションの店舗部分は,被告が主張するような多数の顧客等が参集することによる騒音,悪臭,施設の損耗を招来することはない。そもそも本件マンションは立地自体が多数の顧客を引き寄せるような場所ではない。

同(2)のうち,店舗に出入り口があること,1階に中通路(以下単に「中通路」という。)が存在することは認め,その余は否認ないし争う。

上記の通り,本件マンションはマンション関係者以外の第三者が多数参集する場所ではない。中通路は本件マンションの居住者以外ほとんど人通りがない。

また,被告は,店舗の出入り口や中通路が「商業活動により損耗が激しくなり,その点検維持管理費用,補修・修繕費用等がより必要」と主張しているが,中通路の表面仕上げ(人造大理石「テラゾ」)の張り替えが過去に行われたことはない。また,平成25年3月に被告が承認議決した長期修繕計画書(甲55。平成52年まで要する修繕が記載されている。)にも中通路のテラゾの修繕計画は記載されていない。これは,中通路に損耗がなく,修繕を必要としないことの証左である。上記修繕計画書ではむしろ,2階以上の住戸部分が主に利用する廊下仕上げ材の張替のために10,804,000円が計上されている。また,ワックス掛け等の負担については,中通路の面積約176.6㎡に対して,住戸開放廊下の面積は約879.3㎡であり,面積の比較においても中通路が管理費負担に影響を及ぼすとの主張は矛盾している。

したがって,被告の主張には理由がない。

同(3)のうち,店舗前面敷地を店舗所有者が利用していることは認め,その余は否認ないし争う。

エアコンや立て看板等の設置は,店舗使用細則に則った通常使用にほかならず,店舗所有者が住戸所有者に比して2.45倍の管理費負担を強いられる理由にはならない。

また,被告は,共用部分である店舗前面敷地について,「店舗区分所有者および,顧客の利用により,点検維持管理費用,補修・修繕費用等がより必要」であると主張するが,SDマンション管理規約別表第3(甲17)において,店舗前面敷地は,専用使用権部分とされ,住戸のバルコニー等と同様に取り扱われている。すなわち,日常の清掃等に関しては各専用使用権者が行い,修繕(更新)等の管理については管理組合が行うものである。上記(2)と同様長期修繕計画書には住戸バルコニー床の補修として19,479,000円が計上されているところ,店舗前面敷地(犬走り)タイル補修の費用計上はされていない。つまり,店舗前面敷地の損耗が進行している場合には,特別に補修項目が作成され,その計画及び費用が計上されているはずであるが,被告がそれをしていないのは損耗を認識していないからにほかならない。被告が「点検維持管理費用,補修・修繕等がより必要となる」と主張しているのは,本件マンションの実情や被告自らの運営状況とも矛盾している。

したがって,被告の主張には理由がない。

同(4)のうち,店舗に看板が設置されていることは認め,その余は否認ないし争う。

店舗・事務所の看板等について,被告は,建物の躯体に影響を及ぼしていると主張するが,事実に反する。一般的に,マンションの外壁にはコンクリート躯体があり,そこに厚さ20~30㎜のモルタルを塗り,タイルを貼って仕上げられる。通常の看板はこの仕上げ部分(モルタル,タイル)内にアンカー等で固定し,雨水の浸入を防ぎ,看板が密着するように看板の周りにシールを打つ。これで看板の密着性が確保されるため,それ以上躯体にまで影響を及ぼすアンカーは必要ではなく,実際,取り付け業者も躯体に影響する工事は行わない。本件においても各店舗は躯体に影響するような看板を設置していない。

また,被告は,看板等の設置は美観・外観を犠牲になる面があると主張するが,美観・外観は,別途管理規約等で統制すべき問題であり,店舗所有者の管理費に転嫁する理由にはならないのであって,被告の主張は不当である。

また,被告は,「看板や宣伝物の設置が躯体に影響を及ぼし躯体の補修に特有な工事費用を要する」とも主張する。

しかしながら,過去に壁面の修繕工事に伴う看板の脱着にいくら費用を要したのか,今後看板等が建物にどのように影響を及ぼし,その補修に費用がいくら掛かるのかは,長期修繕計画書には全く計上されてもいない。

したがって,被告の主張には全く根拠が示されていないというべきである。

同(5)(6)(7)は,本件マンションの実情として否認する。

前述したとおり,本件マンションの立地から,顧客の参集はほとんど期待できないのであり,被告の主張は事実に反する。

また,被告は,「店舗があることにより安全・防犯のため,防犯カメラの設置が必要」とも主張するが,いまや,防犯カメラは店舗の有無に拘らず,マンションにおいては通常設置するのが時流となっており,店舗があるから防犯カメラが必要になるという被告の説明は不適当である。

さらに,被告は,「ゴキブリ,ネズミ,騒音,臭い及び煙等による衛生問題が生ずることが考えられる。」とも主張するが,実際に,店舗の存在によってこのような問題が発生しているとはいえない。塵芥の排出はむしろ住戸部分が圧倒的に多量であり,ゴキブリ,ネズミ,騒音,臭いの発生源を店舗と決めつける根拠はない。これらの問題について,発生の蓋然性や発生原因を明確にしないまま,単に「考えられる」ということだけで管理費に格差を設けることがあってはならない。

同(8)のうち,各店舗に店舗用シャッターが,中通路に防火用シャッターが設置されていることは認め,その余はそれが店舗に対して住戸と比して2.45倍の管理費を負担させる合理的理由となるとの主張を含め,否認ないし争う。

これらのシャッターは,住戸のバルコニーと同様,全部共用部分に専用使用権が附着した部分であり,一部の区分所有者の共有に属する一部共用部分ではないから(甲17,SDマンション管理規約別表第3,甲57,標準管理規約(複合用途型)8条,9条,14条,21条,別表第4),その管理に要する経費を店舗所有者のみの負担とすることは許されない。

なお,店舗用シャッターの保守点検について,SDマンション管理組合第30期決算書(甲56)によれば,被告は,店舗シャッター点検・保守の項目で予算額200,000円を計上しつつ,決算額が0円となっているように,何も支出していない。一方で,管理委託料は625万3380円が計上されて支出されているところ,「SDマンション管理委託契約書」(甲58)によれば,定額委託業務として「シャッター設備点検」が含まれている(第6条第1号、別紙1)。つまり、店舗シャッター点検・保守について、予算上,「店舗シャッター点検・保守」と「管理委託料」とで二重の計上がなされており、店舗の経費がかさむように虚構されているが,実績として保守点検がなされたかどうかもはっきりしない。

このように、店舗シャッター点検・保守は,店舗区分所有者に管理費の格差負担を強いる理由にはなり得ない。

同(9)のうち,本件マンションにキュービクル設備があること,キュービクル設備が,東京電力から供給される高圧電力を一般に使用できる低圧電力に変圧するための設備であることは認め,その余は否認ないし争う。

本件マンションにおいて,店舗のみがキュービクル設備を利用し,これによって住戸よりも安い電気料負担を享受しているという事実は存在しない。(なお,電気料については店舗所有者が不当に金額を上乗せされている経緯があり,原告株式会社Hはこのたび別訴を提起した。)。

被告は,「店舗があるためにキュービクルが必要となり,そのために点検維持管理費用,補修・修繕費用が必要になる」と主張しているが,全くの誤りである。

仮に本件マンションが住戸部分だけから構成されていたとしても,使用電気の総量が50KW以上の規模であるから,高圧引き込み(受電圧6000V)がなされており,したがって,高圧から低圧に変圧する変圧設備を設置しなければならないのである。実際,本件マンションには,住戸用と店舗用の変電設備が別々に設けられている。

また,原告らの調査によれば,電気の使用割合(電力量契約KW)は,住戸が124戸で930KW(3KW×31戸+9KW×93戸),店舗が19戸で181KW(9KW×19戸+レントゲン1個10KW)であり,住戸は店舗の約5.13倍となっていることから,変電設備の維持管理費用はむしろ住戸側の負担が大きくなるはずである(なお,この計算にあたっては,診療所のレントゲンのKWを計量メーター100Aの中間値と推定し、児童館は計量メーターが露出してないので除外してある。)。

以上のとおり,キュービクル設備の存在は,店舗所有者に管理費の格差負担を強いる理由にはならない。

同(10)は否認ないし争う。

被告は,店舗の経費のみを過度に強調しているが,いずれも実体に合致せぬ机上の空論に過ぎず,自ら作成した長期修繕計画書や決算書とも矛盾していることが明らかである。また,後記原告らの主張のとおり,本件マンションは「複合用途型マンション」ではないし,仮に「複合用途型マンション」であるとすると,むしろ店舗の管理費等の負担が住戸のそれよりも軽くなるのである。

なお,区分所有法第30条3項は,「規約は,専有部分もしくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設につき,これらの形状,面積,位置関係,使用目的,及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して,区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない」と定めている。

そこで本件マンションについて各項目を検討するに,

①「形状」

これは,店舗部分が,吹き抜けになって天井が高くなっていたり,スキップフロアで2階にまたがっているなど,他の専有部分との間に空間的な差異があるような場合が想定されているが,本件マンションにおいては,店舗にそのような特別な形状のものはなく,管理費等の格差負担を強いる理由にはならない。

②「面積」

本件マンションにおいて,住戸部分の面積が圧倒的に大きく,面積の点で店舗所有者に管理費等の格差負担を強いる理由はない。

③「位置関係」

これは,区分所有法30条3項制定の際の法制審議会における説明によれば,「専用庭やバルコニー」が想定されているが,本件マンションにおいて店舗に専用庭やバルコニーが設定されているという事情もない。

④「使用目的」

住戸・店舗併用の単棟型マンションにおいては,1階に,ゲームセンター,サウナ,スーパーマーケット,量販店等が混在し,不特定多数が出入りする建物もある。被告の主張はまさにこのような建物を想定しているように思われる。

しかしながら,本件マンションの敷地は,蓮沼駅の裏手に立地し,人の出入りは限られており、商売が繁盛する場所ではない。日中でも人通りはまばらであり,本件マンションの店舗部分への人の出入りは,特定少数と言っても過言ではない。被告は店舗があることによって本件マンションを第三者が通行し,損耗が激しくなるかのような主張をしているが,本件マンションの中通路を人が通ることはほとんどない。しかも,1階の店舗・事務所はいずれも小規模なものであり,騒音や悪臭などで周辺の環境を害し,迷惑となるような類の職種ではない。また,そのような職種が成り立つ立地でもない。

⑤「利用状況」

この「利用状況」とは,法制審議会における説明では,「比較的広範な状況・事項をとりこめられると考えられる。例えば,区分所有間において特定の共用部分や附属施設の利用頻度に大きな差があるような場合は,その共用部分や附属施設の維持管理に必要な費用の負担について,区分所有者間で差を設けることが考えられる。利用頻度等がここでの利用状況として衡平性を判断する要素として考えられる。」とされていた。

これを本件マンションについてみると,エレベーター,非常階段,2階~9階廊下・通路,給水設備(店舗部分については水道管からの直結方式になっており揚水の電気代が掛からない一方で,住戸部分については高架水槽式になっており,現に揚水の電気代が掛かっている。)については,住戸による利用がもっぱらであり,店舗の利用頻度はほぼゼロといえる。

一方,店舗の利用頻度が大きい部分は,せいぜい中通路の一部(自転車置き場は除く。)にとどまる。

以上のとおり,区分所有法30項3項が規定する区分所有者間の衡平な負担を図るための各指標から見ても,本件マンションにおいて,店舗が住戸より過重な管理費を負担する理由は見当たらない。

4 第4について

甲2の管理規約が区分所有者に配布されたことは認め,その余は否認ないし争う。

甲2が成立して運用されていたことは,被告が提出している平成18年4月に作成された乙2の記載(管理代行会社が引用する管理規約第35条1項は,甲2の規定の引用である)からも明らかである。この点は,すでに原告第2準備書面28ページ以下に述べたとおりである。

5 第5について

(1) 1のうち,第3号議案が賛成多数,第6号議案が全員一致で決議されたことは認め,その余は否認ないし争う。

平成18年5月14日に開催された第23回定期総会の議事録(甲7)を見れば,修繕積立金値上げの計算方法に関して質問があったにもかかわらず,被告から23年前の分譲時に設定された金額が安価に失した程度の説明しかなされておらず値上げを行うことについて,説明らしい説明が行われた形跡は皆無である。これらの事実から,区分所有者から十分な理解を得て決議が行われた事実がないことがわかる。

実際,被告理事会は,総会の開催にあたって,あらかじめ圧倒的多数を占める住戸の区分所有者から白紙委任状を取り付けることに奔走し,実質的な審理をすることなく議案に対して強行的な決議を行うのが専らであった。かかる悪弊は現在においても改められていない。

(2) 2の冒頭部分及び(1)から(4)の記載に続く後書き部分は否認ないし争う。

被告の主張によれば,本件マンションの理事は,ボランティアであって法律知識が充分でない者であったため,本件マンションが複合用途型であることを前提に,複合用途型の標準管理規約に従った管理規約を制定しようとしたつもりが,誤って,単棟型マンションの標準管理規約を引用してしまったと主張するようである。しかしながら,被告は,平成18年の定期総会当時,管理会社の補佐を受けながら議案の策定等を行っていたものであり,法律知識が充分でないとの弁解は理由にはならない。また,後記原告らの主張のとおり,本件マンションにおいては,被告が,平成18年定期総会の前後を問わず一貫して複合用途型標準管理規約による規整を回避してきたのであり,被告理事会は,複合用途型の標準管理規約を導入しようと企図したことさえないのであって,導入しようとして間違えたかの如き主張は本件訴訟になってから考えた後知恵の理屈に過ぎない。被告は,管理費の徴収は従前からの取扱いであり,区分所有者がそれに従ってきたと強弁する以外に主張らしい主張をしていないが,「タイプに応じて設定された管理費等の額」を管理規約において「別段の定め」として設けようとするのであれば,店舗に対し住戸より2.45倍も高額の管理費を負担させることについて,その根拠を説明し,原告ら店舗所有者の同意を得るべきであったが,それをしていないのである。

同(1)は否認ないし争う。

後記原告らの主張のとおり,本件マンションは,「複合用途型」ではない。

同(2)は否認ないし争う。

平成18年の定期総会において,本件マンションが複合用途型であることを前提に管理規約の改正が審議・決議がなされた事実はない。被告は,形状・機能が住戸・店舗併用の単棟型マンションであることと,複合用途型の管理規約によって規整されたマンションであることとを混同しているが,かかる解釈は,国交省の定義とも異なる誤解である。

同(3)は客観的な支払の事実としては認めるが,店舗の区分所有者が両者の格差を認識しつつ支払っていたとの趣旨であれば否認ないし争う。

同(4)は否認ないし争う。

平成23年の改正決議で初めて管理規約に別表4が付されようになったのであり,それまではそのような規定はなかった。

(3) 3のうち,柱書記載の事実は否認ないし争う。

十分な説明などなされていないことは,前述の甲7の質問と回答のやりとり,顧問の意見の内容を見ても明らかである。

同(1)は否認ないし争う。

本件マンションは複合用途型ではなく,本件マンションにおいて「用途分類制度」なる制度が設けられた事実もない。被告の主張は,まさに後付けの理屈である。甲7の議事録を見ても,本件マンションが「複合用途型マンション」である旨の説明は一切なく,議案自体,複合用途型の管理規約を導入しようとするものでは全くはない。また,総会の場以外でも,原告らは、被告から,店舗営業による様々な影響について指摘されたこともなく,管理費に格差があるなどと説明されたこともなかった。

また,被告が修繕積立金増額の合理的根拠として挙げるのは,顧客の参集による騒音や悪臭,損耗や劣化であるが,これらは、そもそも本件マンションにおいて2.45倍の格差を正当化しうる事情ではなく,ましてや,平成18年の決議によって,この格差を金額ベースで12.5倍に増幅する合理的理由も一切ない。

同(2)のうち,管理会社等との検討の経過,公開理事会の開催及び開催告知は不知,乙20の1ないし10が招集通知とともに各区分所有者に配布されたこと、第23回総会において修繕積立金の値上げについて可決されたことは認め,その余は否認ないし争う。

被告は修繕積立金の増額について十分に説明を行った旨主張しているが,甲7に記載されているように,総会の当日,なぜ修繕積立金の増額が必要なのか計算方法を示すよう質問があったこととの整合性がつかない。

つまり,総会当日にかかるやりとりがあったということは,被告の説明がなかったこと,あるいはあったとしても不十分であったこと,そして修繕積立金の不足などなかったことの証左である。

なお,平成24年に管理費格差問題について検討するために設置された専門委員会の委員長が,被告理事長に対し,過剰な修繕積立金の徴収を問題視し,質問及び資料請求をした(修繕積立金の徴収額が予定より約1億7800万円過剰徴収されていた)経緯があったが(甲44「資料提出のお願いと確認並びに再確認事項」),被告は回答を拒絶したばかりか,当時格差問題について東京簡易裁判所に調停事件が係属していたことを口実に,専門委員会の開催さえ拒否した。

同(3)は否認ないし争う。

平成18年5月14日に行われた第23回定期総会の議案書には,単に将来的な修繕工事の費用を賄うことが出来ない旨述べられているに過ぎず(甲4),甲4に添付されていた長期修繕計画表(案)は,金額が記載された一覧表が添付されているだけで,なぜ修繕積立金を12.5倍とする必要性・合理性があるのか,まったく理解できない資料である。また,前述のとおり,被告は平成24年の段階で予定徴収額より2億円近くも過剰な修繕積立金を徴収していた。これは,結果的にも平成18年の値上げが過剰であったことを示す事実である。

同(4)は認める。

同(5)は事実としては認めるが,その背景には被告理事が圧倒的多数を占める住戸所有者から白紙委任状を取得しているという実態がある。無関心な住戸所有者を利用して,実質的審議のないまま決議を得たものに過ぎないというべきである。

同(6)は否認ないし争う。

6 第6について

(1) 1のうち,23年総会招集の際に,議案説明書が送付されたことは認め,その余は否認ないし争う。

原告らは,別表4を招集段階で見たことはない。

(2) 2(1)記載の事実は否認ないし争う。

同(2)のうち,原告の主張内容,被告が引用する判例の内容,平成23年総会における原告らの出欠あるいは投票状況は認め,その余は否認ないし争う。

被告は,管理費の金額が原始規約から支払われてきた金額であり,修繕積立金の額が平成18年総会で増額決議されて以来,現実に支払われてきたことや,決議の前後を通じて管理費の額に変動が生じていないことを理由に,平成23年の規約変更決議は,原告らの権利に特別の影響を及ぼすものでないと主張する。しかし,被告の主張は,被告からの請求額を原告らが支払ってきたという事実経過をいうものに過ぎず,しかも,原告らが,格差の存否や被告の原告らに対する請求権の存否について誤認に陥っていたことを看過するものであって,失当である。平成23年の規約変更決議は,別表4によって管理規約の内容を変更し,「別段の定め」(区分所有法19条)をしようとするものであり,そうである以上,原告らの権利に特別の影響を及ぼすものであることは明らかである。原告らは,管理費の格差について認識していなかった。すなわち原告らは、管理費が共有持分割合に応じて請求されており,被告が有効な規約に基づき原告らに対しその主張額どおりの請求権を有していると誤認して,支払に応じてきたに過ぎない。被告は,原告らが原始規約から支払われてきた金額を支払ったと主張するが,そのような事実だけで,管理規約に「別段の定め」(区分所有法19条)があることになるものではなく,また,被告が請求する管理費の額が債務として存在しないことを原告らにおいて知りながら支払をしたというような特段の事情(非債弁済〔民法705条〕。通常はそのような事情はありえない。)でもない限り,原告らの不当利得返還請求が妨げられる理由もない。

また,被告は,原告らが平成23年の規約変更決議で賛成票を投じたことや,招集通知一式(乙21の1ないし6)の記載から,原告らが管理費等の格差負担を認識した上でこれを承諾していたと主張するようであるが,総会の審議や招集通知の記載において,当該規約変更決議が,管理費等の格差負担を規約化するものであって,格差に法律上の根拠を与えるものであること,したがって,原告らの権利に特別の影響を及ぼすものであることについて満足な説明すらなされていないのであり,そうである以上,原告らが具体的に承諾したとは到底認められない。

同(3)は否認ないし争う。

本件マンションの店舗所有者が住戸所有者と比較して2.45倍もの管理費を負担しなければならないような「利用状況」は存在しない。

7 第7について

(1) 1は被告の判例の理解を争う。この最判が示した管理費等債権の発生原因は,消滅時効の判断の前提としてだけでなく,本件においても妥当する(債権発生原因の判示部分が,消滅時効を判断する場合とそうでない場合とで区々になってしまうと,法解釈の統一という最高裁の機能は果たされない。)。

(2) 2は否認ないし争う。実際に発生している管理費等債権の額より多い金員を収受するのは,法律上の原因がないことに帰着する。

8 第8について

(1) 1のうち,平成18年5月14日,同20年3月30日,同23年11月6日の各総会における出欠,投票の状況,原告らが管理費の格差を認識し始めたのが平成23年11月6日の臨時総会終了後であることは認め,その余は否認ないし争う。

(2) 2のうち,被告が引用する判決書や和解調書の存在及び内容は認め,その余は,それらが本件の請求内容をも拘束するものであるとの主張を含め,否認ないし争う。

乙8の1~3については,すでに原告ら第1準備書面16ページにおいて反論したとおりであり,本件提訴は不当な蒸し返しなどではない。

(3) 3は否認ないし争う。

9 第9について

否認ないし争う。

 

第2 原告らの主張

1 従前の主張の確認

争点に関する原告らの主張は,大要,次のとおりである。

① 原始規約(乙6)は,区分所有者全員の承諾がなく,有効に成立していない。

② 仮に原始規約(乙6)が有効に成立したとしても,一共有持分あたりの管理費の額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差を設けることを許容したものとはいえない。「タイプ別管理費」(乙6の13条1項)とは,共有持分に応じたものであり,被告が主張するように,「住戸」「店舗」の別に応じて格差を設けること許容したものではない。

③ 仮に原始規約(乙6)が有効に成立したとしても,被告の総会は,平成13年ころ,管理規約を甲2に変更する旨の決議を成立させた。甲2は,管理費等の額について,「各区分所有者の共有持分に応じて算出する。」(第35条2項)と規定している。したがって,上記のような格差を設けることは管理規約に違反する。

④ 被告の総会は,平成18年5月14日,管理規約を乙16に変更する旨の決議をした。乙16は,管理費等の額について,「各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。」(第25条2項)と規定している。したがって,上記のような格差を設けることは管理規約に違反する。

平成18年の修繕積立金増額決議は,一共有持分あたりの修繕積立金の額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差が存することを前提とし,この格差割合を維持したままで修繕積立金を増額するものであるならば,かかる修繕積立金増額決議は,合理的な理由もなく修繕積立金の金額の格差を更に拡大させるものであって,そのうち店舗に係る部分は無効である。

したがって,平成18年規約変更決議により設けられた乙16・第25条2項の効力及び解釈が,修繕積立金増額決議の存在によって左右されることはない。

⑤ 被告の総会は,平成23年11月6日,管理規約を甲17に変更する旨の決議をした。甲7は,管理費等の額について,「各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出した別表第4の金額とする。」(第27条2項)と規定し,「別表第4」は,一共有持分あたりの管理費等の額に住戸と店舗との間で約2.45倍の格差を設けることを内容としている。

しかし,同決議は,(ⅰ)手に区分所有法35条5項違反(議案の要領の不通知)という重大な瑕疵があること,(ⅱ)総会時点で店舗の区分所有者であった者の承諾(区分所有法31条1項)がないこと,(ⅲ)内容が区分所有法30条3項・民法90条(公序良俗)に違反すること,(ⅳ)甲7の第27条2項は本文と別表第4とが矛盾しており,かかる規定を設ける決議は法律行為として特定性に欠けること,により無効である。

⑥ 被告は,平成14年以降毎年開催した各定期総会において,収支予算案については決議をしたものの,これらの収支予算案はいずれも各区分所有者ごとの管理費等の額について記載を欠いており,管理費等の具体的な額を確定する決議は不存在である(最高裁平成16年4月23日第二小法廷判決・民集58巻4号959頁参照)。

⑦ 原告らは,上記のような格差を認識しないまま支払っていたのであり,格差について認識していれば支払うことはなかった。

この点,102号室と112号室の区分所有者であった原告Bの代理人として平成23年11月に開催された臨時総会に出席した訴外Oが店舗と住戸の格差に気づいたのは,まさにこのときの総会の議場においてであった。同人は招集通知に同封されていた管理組合法人規約集(甲17)を,F副理事長の議案読み上げとその説明を聞きながらページをめくっていたが,同規約集は現行の規約を集めたものだろうと理解していた。招集通知には,甲17が審議の対象となる規約であることなど一切記載されていなかったからである。

ところが,同人は議事の間,規約集のページをめくりながら,26ページに,別表4-1があるのを発見した。それは住戸のみのタイプ別の管理費金額が掲載されたものであった。同人は初めてその表を見たが,金額を見た途端,店舗と住戸に多大な格差が存在するのではないかと感じ,計算を開始した。議事の最中であったため,同人は手計算により,規約集に手書で数字を記載しながら計算したものの,咄嗟のことに困惑して慌てていたため,適時に理事に対して意見を述べることが出来なかった。同人は,店舗の平米単価が住戸より高額であることをその際初めて発見したのである。

同人が後から招集通知を見返した際,招集通知には新旧対照表(甲15)が添付されており,改正後の案として「管理費等の額については,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出した別表第4の金額とする」との記載があった。しかし,招集通知に別表4はついておらず,議場における副理事長の議案読み上げでも別表4には一切触れられなかった。ましてや店舗と住戸との管理費・修繕積立金の金額に,2.45倍もの格差があることなど一切触れられることはなかった。

このような経緯により,原告らは平成23年11月以降,Oから話を聞いて,店舗と住戸の格差を認識するに至ったのである。原告らが格差を認識してからは,原告らは住戸と同等の管理費金額しか支払っていない。

⑧ 本件マンションは複合用途型ではない。

この点は,被告準備書面(3)において新たに主張されたものであり,項を改めて,以下論ずる。

2 本件マンションが複合用途型でないこと

本件マンションが住戸と店舗で構成されていることは当事者間に争いがないが,それは本件マンションが住戸・店舗併用の単棟型マンションであるというにとどまり,本件マンションが複合用途型であることにはならない。複合用途型は,国交省が,住戸・店舗併用の単棟型マンションを念頭に規定した「マンション標準管理規約」の一類型であり,次の諸点を特徴としている。

(1) 共用部分の区分

共用部分(法2条4項)を,区分所有者の共有に属する全体共用部分,住戸部分の区分所有者のみの共有に属する住宅一部共用部分及び店舗部分の区分所有者のみの共有に属する店舗一部共用部分に区分していること。

(2) 管理経費の区分

全体共用部分の管理経費に充てるための区分所有者の費用は,区分所有者が全体管理費ないし全体修繕積立金として負担するが,その際,住戸部分のために必要となる費用と店舗部分のために必要となる費用とにあらかじめ按分され,前者を住戸部分の区分所有者が,後者を店舗部分の区分所有者が,それぞれ共有持分に応じて負担すること。

住宅一部共用部分の管理経費に充てるための費用は住戸部分の区分所有者が住宅一部管理費ないし住宅一部修繕積立金として負担し,店舗一部共用部分の管理経費に充てるための費用は店舗部分の区分所有者が店舗一部管理費ないし店舗一部修繕積立金として負担すること。

(3) 経理の区分処理

管理組合は,全体管理費,住宅一部管理費,店舗一部管理費,全体修繕積立金,住宅一部修繕積立金及び店舗一部修繕積立金を区分して経理すること。

(4) 管理組織の区分

管理組合に,住戸部分の区分所有者で構成する住宅部会及び店舗部分の区分所有者で構成する店舗部会が置かれ,各別の運営細則により組織・運営されていること。

本件マンションは,住戸・店舗併用の単棟型マンションであり,国交省によって「マンション標準管理規約(複合用途方)」の採用が推奨されてはいるものの,本件マンションの管理規約は,上記(1)ないし(4)の特徴を全く備えていないから,理念型の複合用途型でないのはもとより,非定型的な複合用途型ですらない。すなわち,本件マンションは,国交省の推奨する複合用途型の採用を拒んできたのである。

そもそも国交省が複合用途型を推奨する趣旨は,管理に要する経費の構造を「区分」を通じて透明化し,費用負担をめぐる紛争を未然に防止しようとする点にあると解される。ところが,本件マンションにおいては,複合用途型の規範定立も運用もなされてこなかったために,本件紛争が生じているのである。したがって,被告がこの期に及んで,本件マンションを複合用途型であるかの如く強弁するのは倒錯した論理といわざるをえない。

2 複合用途型で本件格差を合理化できないこと

(1) 複合用途型における3種類の共用部分

仮に,本件マンションに複合用途型を導入して,管理経費を区分し経理の区分処理をしたとすると,実際は,店舗の区分所有者が負担する管理費及び修繕積立金は,住宅の区分所有者が負担するそれらよりも軽くなる。また,仮に,住宅一部管理費や住宅一部修繕積立金をすべて店舗の区分所有者に転嫁・負担させたとしても,2.45倍の格差には至らない。

そもそも,複合用途型マンションを論ずるには「一部共用部分」を理解する必要がある。「一部共用部分」とは,区分所有法第3条に「一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分」と定義され,判例においては「構造上・機能上特に一部の共用が明白な場合に限ってこれを一部共用部分として扱う」と解釈されている(東京地判平成5年3月30日,東京高判昭和59年11月29日,東京高判平成14年9月30日)。

そして,前記のとおり,複合用途型においては,共用部分は,住宅の区分所有者のみが共有する「住宅一部共用部分」,店舗の区分所有者のみが共有する「店舗一部共用部分」,そして全員で共有する「全体共用部分」に分けられ,管理費及び修繕積立金の負担は,「住宅一部共用部分」については住宅区分所有者,「店舗一部共用部分」については店舗区分所有者,「全体共用部分」については全区分所有者のそれぞれの共有部分の持ち分に応じて算出される。

(2) 各共用部分の意義

本件マンションに複合用途型管理規約が適用されると仮定して,共用部分の分類すると,次のとおりとなる(甲57標準管理規約(複合用途型)別表第2)

① 全体共用部分

共用エントランスホール,屋上,屋根,塔屋,自家用電気室,機械室,パイプスペース,メーターボックス(給湯器ボイラー等の設備を除く),内外壁,界壁,床スラブ,基礎部分,床,天井,柱,バルコニー等専有部分に属さない「建物の部分」

電気設備,排水設備,消防・防災設備,インターネット通信設備,テレビ共同受信設備,避雷設備,集合郵便受箱,各種配線配管等(給水管については,本管から各住戸メーターを含む部分,雑配水管及び汚水管については,配管継手及び立て管)等専有部分に属さない「建物の附属物」

管理事務室,管理用倉庫,清掃員室,集会室,トランクルーム,倉庫及びそれらの付属物

②住戸一部共用部分

住宅用エントランスホール,住宅用階段,住宅用廊下(本件マンションでは2階~9階),住宅用エレベーターホール(2階~9階),住宅用エレベーター室、受水槽室,高置水槽室,住宅用エレベーター設備、給水設備

③  店舗一部共用部分

店舗用廊下(本件マンションでは1階)、店舗用電気量子メーター

となる。

(3) 長期修繕計画に形状された各共用部分ごとの修繕項目

以上を前提に,平成25年に決議された長期修繕計画書(甲55)において計上されている修繕費について,全体共用部分に関する経費,住戸一部共用部分に関する経費,及び,店舗一部共用部分に関する経費に分類すると,次のとおりである。

長期修繕計画書(甲55)の5貢のうち,上裏・ボード面のバルコニー上裏(原告計算によれば,面積は906.6㎡)は全体共用部分,上裏・ボード面の廊下上裏(原告計算によれば,面積は879.3㎡)は住戸共用部分,上裏・ボード面の一階中廊下天井(原告計算によれば,174.7㎡)は店舗共用部分,廊下,渡り廊下,A階段・B階段は住戸一部共用部分に関する経費となる。

長期修繕計画書(甲55)の6ページのうち,開放廊下床防水,渡り廊下床防水,トイレ脇(現況倉庫)~2階防水,エレベーターホール床防水(1階を除く)は住戸一部共用部分に関する経費となる。

甲55の7ページのうち,給水方式変更の①,③,④,ELV(エレベーター)設備は住戸一部共用部分,店舗・中廊下・管理室用子メーター更新は店舗一部共用部分に関する経費となる。

そして,その他の項目はすべて,全体共用部分に関する経費となる。

(4) 各共用部分ごとの修繕費

修繕計画書に計上された以上の修繕費を,共用部分の種類ごとに合計すると,

① 修繕費合計 500,534,000円(直接工事費)

長期修繕計画書(甲55)6貢の建築直接工事費計の横一列を合算した金額と7ページ設備直接工事費計の横一列を合算した金額の合計金額である。但し,現場経費・一般管理費,予備費,コンサルタント料及び消費税は除く。

② 住宅一部共用部分修繕費計 112,140,000円

長期修繕計画書(甲55)5~7貢のうち,上記割り振りにより住戸一部共用部分の負担とされた項目の横一列を合算した金額の合計金額である。なお,上裏の負担は上記面積比による。

③ 店舗一部共用部分修繕費計 2,372,000円

長期修繕計画書(甲55)5~7貢のうち,上記割り振りにより店舗一部共用部分の負担とされたである上裏と中廊下の横一列を合算した金額の合計額である。なお,上裏の負担は上記面積比による。

④ 全体共用部分の修繕費計 386,022,000円

(上記長期修繕金額総合計金額から,住戸と店舗共用部分修繕費の合計額を控除した金額である。)

となる。

(5) 各修繕費の負担

本件マンション総専有面積は7,265.63㎡(甲17,さんろーど規約別表第1,24頁),そのうち住戸部分の専有面積は,5,983.63㎡(甲17,さんろーど規約別表第4-1,26~27頁),店舗及び児童館の専有面積は,1,282.00㎡(甲17,さんろーど規約別表第4-1,25頁)である。

以上を前提に,全体共用部分に係る修繕費について,全区分所有者が負担すべき㎡あたりの負担金を算定すると,5万3130円である(386,022,000円/7,265.63㎡=53,130円/㎡・・・A)。

住戸部分に係る修繕費について,住戸の区分所有者が負担すべき㎡あたりの負担金は1万8741円であり,これに全体共用部分に係る修繕費を加算すると,住戸区分所有者の㎡あたりの負担金合計額は,7万1871円である(112,140,000円/5,983.63㎡=18,741円/㎡・・・B。 A+B=71,871円/㎡)。

店舗部分に係る修繕費について,店舗の区分所有者が負担すべき㎡あたりの負担金は1850円であり,これに全体共用部分に係る修繕費を加算すると,店舗区分所有者の㎡あたりの負担金合計額は,5万4980円である(2,372,000円/1,282㎡=1,850円/㎡・・・C。A+C=54,980円/㎡)。

したがって,修繕積立金について,住戸区分所有者と店舗区分所有者とが負担すべき比率は,住戸:店舗=1:0.76となる(54,980円/71,871円=0.76)。

(6) 管理費の負担

次に,全体共用部分,住戸一部共用部分及び店舗一部共用部分の各管理(通常の管理)に要する経費について検討する。

まず,第30期事業報告書中の収支計算書(甲56・9貢)によれば,本件マンションの年間管理費(決算額)は,16,576,883円である。

そのうち,清掃業務費442,950円(甲56・9頁)は,面積に応じて全体共用部分,住戸一部共用部分,店舗一部共用部分の負担となる(面積に応じた按分額は,原告の計算によれば,全体共用部分が1310.8㎡で218,817円,住戸一部共用部分が1166㎡で194,898円,店舗一部共用部分が174.7㎡で29,235円である。)。

一方,電気料4,163,774円(甲56・9頁)は,そこから専有部分の電気料2,738,253円を控除した残額1,425,521円が,共用部分の電気料の金額となる。この共用部分の電気料は,電灯と動力とに分けられ,電灯は,原告らの試算によれば,以下のとおり,基本料金48,734円と合わせて合計346,543円である(なお,住戸と店舗が負担する電気使用料は照明器具の配置から原告らにおいて試算したものである。原告らが再三要求しているにもかかわらず,被告が使用電気量の検針結果を開示しないためである。)。

① 住戸(2~9階) 毎時使用電気量1.128KW×24時間×365日×13円(単価)=128,456円

② 中通路 毎時使用電気量0.64KW×24時間×365日×13円(単価)=72,883円

③ 避難通路 毎時使用電気量0.38KW×24時間×365日×13円(単価)=43,274円

④ エントランス 毎時使用電気量0.216KW×24時間×365日×13円(単価)=24,598円

⑤ 地下車庫 毎時使用電気量0.252KW×24時間×365日×13円(単価)=28,598円

⑥ 基本料金48,734円

以上のうち,①は住戸一部共用部分,②は店舗一部共用部分,③~⑤は全体共用部分に振り分けられる。これに,⑥の基本料金48,734円を①~⑤の各金額に応じて割り振ったものを加算すると,電灯の電気料は,住戸一部共用部分が149,477円,店舗一部共用部分が84,809円,全体共用部分が112,257円の負担となる(合計346,543円)。

前記共用部分の電気料1,425,521円からこの電灯電気料を控除した残額1,078,978円(=1,425,521円-346,543円)が動力の電気料(エレベーター・給水ポンプ用)に当たる。動力の電気料は,住戸一部共用部分に係る経費として住戸区分所有者が負担すべきものである。

更に,上記収支計算書9ページのエレベーター保守料907,200円も,住戸一部共用部分に係る経費として住戸区分所有者が負担すべきものである。

以上を集計すると,全体共用部分の管理に要した経費(管理費)の年間合計額は,1413万2286円であるから(清掃業務費218,817円+電灯電気料112,257円+それ以外の経費13,801,212円=14,132,286円),これを全区分所有者が負担すると,㎡あたりの負担金は,1945円となる(14,132,286円/7,265.63㎡=1,945円・・・A)。

住宅一部共用部分の管理に要した経費(管理費)の年間合計額は,233万0553円であるから(清掃業務費194,898円+電灯電気料149,477円+動力電気料(エレベーター・給水)1,078,978円+エレベーター保守料907,200円=2,330,553円),これを住宅の区分所有者が負担すると,㎡あたりの負担金は389円となり(2,330,553円/5,983.63㎡=389円・・・B),これに全体共用部分に係る経費(管理費)を加算すると,住戸区分所有者の㎡あたりの負担金合計額は2334円となる(A+B=2,334円)。

店舗一部共用部分の管理に要した経費(管理費)の年間合計額は,11万4044円であるから(清掃業務費29,235円+電灯電気料84,809円=114,044円),店舗の区分所有者が負担すると,㎡あたりの負担金は89円となり(114,044円/1,282㎡=89円),これに全体共用部分に係る経費(管理費)を加算すると,店舗区分所有者の㎡あたりの負担金合計額は2034円となる(A+B=2,034円)。

したがって,管理費について,住戸区分所有者と店舗区分所有者とが負担すべき比率は,住戸:店舗=1:0.87となる(2,034円/2,334円=0.87)。

結論として,仮に本件マンションが複合用途型として処理されたとしても,店舗が2.45倍の格差負担をすべき理由は益々ないことになる。被告の主張は破綻している。

3 結語

以上のとおり,住戸と店舗間に2.45倍の格差を設けて管理費等を徴収するのは,管理規約上の根拠がなく,区分所有法に違反しており,店舗所有者の原告らにおいて格差の認識がないまま事実上支払をさせられてきたものである。そして,被告が新たに主張し始めた複合用途型マンションを仮定して,共用部分・管理経費を区分したうえで経理処理をしたとしても,むしろ店舗の負担額のほうが軽くなるのであり、2.45倍の格差負担を説明するには程遠いものである。被告の不当利得は明らかである。

以    上

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