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被告準備書面(4)
平成26年5月30日
東京地方裁判所民事32部合議B係 御中
被告訴訟代理人 弁護士
第1 はじめに 本件は、昭和56年(1981)3月に分譲を開始し、翌57年2月に引き渡し及び入居を開始して以来、各区分所有者が、複合用途型マンションであることを当然の前提に、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等の支払い義務があることを認識し、それを了解したうえで、管理費等を支払ってきたところ、平成24年ころになり、一部店舗の区分所有者らが、突如として支払い済みの管理費等について、過払いであり不当利得である等と主張し、その返還を求めている事案である。 原告らは、本件の争点を、管理規約において、管理費等の格差負担を許容するような別段の定めが有効に成立しているかと述べているが(原告ら第4準備書面1貢)、上記経緯に鑑みれば、本件で問われるべきは、他の複合用途型マンションにおいては一般的に行われており、本件マンションにおいても、従前、何ら問題とされることなく適法に収受されてきた住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等について、過去10年にさかのぼり、不当利得の返還請求を是認することが、法的正義の観点から、正当化されうるのかということである。 繰り返し述べているとおり、原告らが、区分所有者となった当時から、住戸と店舗とで異なる管理費等が設定されていることを認識していたことは、証拠上、明らかである。 なお、本件訴訟を主導している原告Bの代理人と称するO氏は、平成23年の臨時総会の際、はじめて店舗と住戸の格差に気付いたなどと述べている(同20貢)。 しかし、O氏が、分譲当時から住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等を認識していたことは、O氏が本件マンションの分譲販売代理店であるM商事の宅地建物取引主任者として、本件マンションのを販売していた事実(乙23)からして明らかである(この点については、第2.2(2)イで詳述する)。 第2 原始規約(乙6)が有効に成立していること 1 被告の主張 原始規約(乙6)が有効に成立していること、すなわち、 ・原始規約は各区分所有者の書面(売買契約書及び規約承認書)による同意を得ていること、 ・全区分所有者が原始規約に定められた住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等を支払ってきており、原始規約について異議なく承認をしていること、 は、被告準備書面(3)2貢以下で述べたとおりである。 2 原告らの主張について (1)過去の裁判例 原告らは、縷々述べたうえで、原始規約(乙6)に対し、区分所有者全員の書面による同意があったとは言えない旨主張している(原告ら第4準備書面3貢以下)。 しかし、すでに主張しているとおり、そもそも、従来の裁判例においては、全員の書面による合意という要件は、しゃくし定規に解釈されているわけではない。 即ち、東京地裁八王子支部平成5年2月10日判決(判例タイムズ815号198貢)は、ある区分所有者が管理規約を承認せず、管理費及び修繕積立金の支払いを拒否していた事実についてさえ、当該区分所有者を除く他の区分所有者が暗に異議なく承認していた事実を理由に、原始規約の規範的効力を認めているのである。 規約という区分所有者間の団体的合意の観念的な成否は、当事者の意思解釈の問題に帰着する以上、実質的に判断すべきであることは明らかである。 本件においては、分譲に際して、分譲業者であるM建設が、管理規約を作成して、それに承認する旨の文書を徴求し、契約書、重要事項説明書、管理委託契約書及び価格表により分譲される住戸と店舗についての管理費等が明記された上で分譲され、それに基づいて約30年間にわたって、区分所有者の全員が、誰も異議を述べることなく、それらの規定に基づいて定められた管理費等の支払いを継続してきたものである。この厳然たる事実に照らせば、原告らの主張が社会常識的にも法律的にも到底認められざるものであることは明白である。 (2)原告らの主張について ア 証拠が不十分であるとの主張について 原告らは、全員の書面による同意があったという被告の主張に対し、証拠がおよそ不十分であるなどと主張している(原告ら第4準備書面3貢)。 しかし、昭和56年当時、M建設が各区分所有者にたいして分譲した際、M建設が作成した売買契約書(乙9)及び規約承認書(乙11)を使用していることは、証拠上明らかであり、原告らの主張は失当である(なお、後述するとおり、本件マンションとほぼ同時期にM建設により分譲されたMマンションにおいても、本件マンションと同じ体裁の規約承認書(乙24)及び管理委託契約書(乙25)が使用されており、このことからも本件マンションにおいて、M建設が上記売買契約書及び規約承認書を使用していたことは、明らかである。 イ S工業が同意をしていないとの主張について また、原告らは、昭和59年5月28日に102号室をS工業より購入したO氏が規約承認書の引き継を受けていないことを理由に(原告ら第2準備書面8貢)、昭和57年当時、102号室を区分所有していたS工業が同意していないなどとも主張している(原告ら第4準備書面3貢)。 しかし、そもそも102号室は、M建設からMビルが区分所有権を取得しているのであり(甲23・順位番号72)、その際、M建設が自ら作成した売買契約書及び規約承認書を使用しない理由は無い。 仮に原告らの主張するとおり、S工業からO氏にたいし、102号室の区分所有権が譲渡された際、規約承認書等の引き継ぎがなかったとしても、それ自体、S工業が規約を承認していない事実を何ら基礎づけるものではない。 ところで、冒頭述べたとおり、S工業より規約承認書等を引き継いでいないとするO氏は、分譲会社であるM商事の宅地建物取引主任者として本件マンションの販売を仲介していた人物である(乙23)。 O氏は、本件マンションにおいて、住戸と店舗の双方の販売を仲介しており、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等の額が定められていることを認識し、自ら購入者に対しその旨を説明している。 このように、宅地建物取引主任者として、本件マンションの売買を仲介していたO氏は、区分所有権を取得した者は管理規約を承認する必要があること、さらには住戸と店舗とで管理費等の額に差があることを当然に認識していたのであり、そのうえで住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等を区分所有権取得時から支払い続けている事実からも、S工業が規約に同意していたか否かにかかわらず、O氏自身が、管理規約に対し異議なく承認をしていたことは明らかである。 ウ 2種類の重要事項説明書が存在すること等について 次に、原告らは、異なる種類の重要事項説明書(乙3と甲22)が存在していることは規約の有効な成立に重大な疑義を抱かせる、規約承認書の条文の引用に誤記がある以上、同意があったと評価することは出来ないとも主張している(原告ら第4準備書面4貢)。 しかし、そもそも重要事項説明書について問題とすべきは、時期に応じて2種類の重要事項説明書が存在していることを前提に、各々の重要事項説明書が交付された際、併せて交付された価格表に記載された管理費及び修繕積立金の額が異なっているのかどうかである(被告準備書面(3)4貢)。 甲22の重要事項説明書が使用された売買時に交付された価格表(乙17)の金額が、乙3の重要事項説明書が使用された売買時に交付された価格表(乙4)に記載された金額と同額であることは、被告準備書面(3)4貢で述べたとおりである。 また、規約承認書についても、本件マンションにおける分譲時の規約としては、乙6しか存在していない以上、規約承認書に記載された「管理規約」が乙6を指すことは当事者の意思としても明らかである。 したがって、原告らの主張は、いずれも失当というほかない。 第3 原始規約等に基づき適正に管理費等が収受されてきたこと 1 本件マンションが複合用途型マンションであること 本件マンションが複合用途型マンションであること、分譲業者であるM建設が本件マンションを複合用途型マンションとして分譲していることは、証拠上明らかである。 すなわち、M建設が分譲時に使用していたパンフレット(乙26)には、一見して本件マンションが複合用途型マンションであることが分かるイラストが使用されており、また、重要事項説明書(乙3)37貢にも「建物に関する事項4、構造・種類」の欄に「公共施設併設店舗付き共同住宅」と明記されており、M建設は本件マンションが複合用途型マンションとして販売している。 原告らは、本件マンションは、「住戸・店舗併用の単棟型マンション」であるにとどまり、複合用途型ではない(原告ら第4準備書面21貢)、さらには、被告による複合用途型マンションであるの指摘は、「不適切なラベリング」であるなどと主張している。 しかし、国土交通省の「マンション標準管理規約検討委員会」では、標準管理規約の作成に際し、一般分譲の住居専用マンションを単棟型とすること及び店舗併用等のマンションを複合用途型とすることを当然の前提としており(乙27:マンション標準管理規約(単棟型)25貢コメント)、複合用途型のマンション標準管理規約(乙28)のコメント(30貢)においては、「この複合用途型標準管理規約が対象としているのは、一般分譲の住戸・店舗併用の単棟型マンションで、各住戸、各店舗についてはその床面積、規模、構造等が均質のものもバリエーションのあるものも含めている」「複合用途型マンションの形態として、”大規模な再開発等による形態のもの”と”低層階に店舗があり、上階に住宅という形態で住宅が主体のもの”とがあるが、本規約の対象としては、複合用途型として多数を占める後者の形態とした」と明記しているのである。 自らに不都合な事実を歪曲し、ミスリーディングな主張を述べているのが原告らであることは、客観的事実からして明らかである。 2 原始規約等に基づき適正に管理費等が収受されてきたこと 本件マンションにおいて、原始規約等に基づき適正に管理費等が収受されてきたこと、すなわち、 ・複合用途型マンションでは住戸と店舗という用途分類に応じて管理費等が別に定められること、 ・本件マンションが複合用途型マンションであり、原始規約において、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等の額が設定されていること、 ・各区分所有者は、本件マンションが複合用途型マンションであることを当然の前提に、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等の支払い義務があることを了解し、区分所有者となっていること、 ・各区分所有者は、原始規約等に基づき、用途分類に応じて定められた管理費等を支払ってきていること、 は、被告準備書面(3)5貢以下で述べたとおりである。 第4 住戸と店舗とで管理費等の額に差を設けることの合理性 1 はじめに 複合用途型マンションにおいて、店舗部分の管理費等の金額と住戸部分の管理費等の金額とに差を設けることは、一般的に行われており、裁判例(東京地裁昭和58年5月30日判決)においても肯定されていることは、被告準備書面(3)7貢以下で述べたとおりである。 複合用途型マンションでは、住戸専用の単棟型マンションに比べ、店舗が存在することにより、住戸専用の単棟型マンションでは生じない費用が生じるから、区分所有者間の実質的衡平を図るため、住戸と店舗との間で管理費等の額に差が設けられる。 原告らは、分譲業者であるM建設が既に破産していることを奇貨として、本件マンションでは、住戸と店舗の格差について合理的理由が一切検討されていないなどと主張している。 しかし、M建設は、1階に等価交換契約をした店舗(コンビニ)とそれ以外の店舗のみ存在する複合用途型マンションでは、住戸と店舗について、一律に1平方メートルあたり200円としたうえで、専有面積に応じて管理費の額を定めているのに対し(前記東京地裁八王子支部平成5年2月10日判決)、本件マンションとほぼ同時期に分譲された別の複合用途型マンション(Mマンション)においては、本件マンションと同様、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等の額を設定しており、M建設が、分譲をした複合用途型マンション具体的な状況を踏まえて、個別に管理費等の額を定めていることは明らかである(なお、Mまんしょんでは、1平方メートルあたりの管理費等の額は店舗のほうが住戸より高額であるものの(乙25及び乙29)、本件マンションより規模が小さく、1階店舗部分に後述する中通路も存在しないため、住戸と店舗の管理費の差は、本件マンションより小さいものとなっている)。 問題とすべきは、住戸と店舗とで管理費等の額に差を設ける内容の原始規約を設定した際、分譲業者であるM建設がどのような事実を念頭に置いていたか、かかる事実を前提に、住戸と店舗とで管理費等の額に差を設けることは、合理的か、さらには、平成18年の規約改定時において、当時の具体的状況に照らし、用途分類制度を前提とした管理費等の差を維持することに合理性があったか否かである。 原告らは、本件マンションにおける店舗の現在の実情を鑑みれば、被告の主張は事実に基づかないなどと縷々述べている。しかし、その主張自体、正当な理由のある主張でないのみならず、そもそも本件で問うべき問題は、現在の状況を前提とした事後評価の問題でもない。 また、原告らは、繰り返し住戸と店舗とをその個数や面積の点からのみ単純に比較し、住戸部分がと店舗部分よりも管理費が余計にかかっているなどと主張しているが、これもまたミスリーディングな主張である。 複合用途型マンションにおいては、通常、1階部分を中心に低層階に店舗が入居するため(だからこそ、世間では「下駄ばきマンション」などと呼ばれているのである)、単純に区分所有権の数や専有面積のみを基準とすれば、必然住戸の方が大きくなる以上、住戸の方が管理費計算上、数値が大きくなるのは、当然のことである。 前述のとおり、複合用途型マンションにおいて問題とすべきは、店舗部分が存在することにより、住戸専用の単棟型マンションでは生じない管理費等が余計に生じる点を踏まえ、どの程度、住戸と店舗とで管理費等の額に差を設ければ、両者間で実質的衡平を実現できるか、である。 複合用途型マンションであることから生ずる特殊性、すなわち店舗部分が存在することにより余計に生ずる費用は何かという最も重要な点を一切捨象し、単純に住戸と店舗部分の面積を比較する原告らの主張は、およそ意味の無いしゅちょうである。 2 原始規約設定時について (1)M建設がショッピングゾーンを念頭に置いていたこと ア 店舗出入り口や中通路の存在 前述のとおり、分譲業者であるM建設は、本件マンションを複合用途型マンションとして分譲しているところ、その際、1階店舗部分につき、念頭に置いていたのは、「ショッピングゾーン」である(甲29、乙26)。 すなわち、リーフレット(甲29)の最終貢には「1階は19店舗が揃うショッピングゾーン」と記載され、パンフレット(乙26)には、「1日の暮らしの全てが結集する”SDマンション”」、1階には各種の店舗が並び、遠くまで出かけなくても毎日のお買いものはここでOK、あわただしい夕暮れも余裕を持って過ごせます」ときさいされており、M建設が1階店舗部分について、相当規模のショッピングゾーンを念頭に置いていたことは明らかである。 そのため、本件マンションにおいては、共用部分として、店舗の利用者のための出入り口や中通路(なお、戸の出入り口と中通路は住戸専用の入口より広く設計されている)が設けられ、店舗の顧客も利用できることを想定して地下駐車場が通常のマンションより広くなっている(乙3の2枚目の図で「店舗出入り口」、「通路」と記載されている部分。なお、地下駐車場には、大規模な排煙設備、ハロゲン化物消火設備及びセンサー付き信号機まで設けられている)。 上記分譲業者であるM建設の意向及び本件マンション1階部分、さらには地下駐車場・設備に鑑みれば、原始規約設定時において、1階店舗部分の営業活動により、多数の顧客等の参集が想定され、管理費等の金額が消耗の増加等を加味して設定されていたことは明らかである。 イ 原告らの主張につて 原告らは、平成25年3月に承認された長期修繕計画(甲55)に中通路のテラゾの修繕計画が記載されていないことを理由に、中通路に損耗は無く、修繕を必要としないことの証左であるなどとしゅちょうしている。 しかし、長期修繕計画(甲55)に中通路の修繕計画がきさいされていないのは、予算に限りがあるためで、優先順位をつけて修繕をせざるを得ないからに他ならない。 すなわち、中通路についてはテラゾーブロックが使用されているところ、テラゾブロックの1平方メートルあたりの定価は2万8000円であり、住戸部分の開放廊下に使用されている長尺塩ビシートは約3500円と比較すると8倍程度高い。 現在、中通路のテラゾーブロックには、亀裂が複数散見される状況にあるものの(乙31)、予算の問題から、まずは、通路を利用する顧客等の安全を確保するために最低限必要な天井部分の工事を平成22年に実施し、床については、亀裂は見られるものの、差し迫った安全上の支障までは生じていないことから、修繕工事の項目から落としたに過ぎない。 なお、原告らは、上記修繕計画書では、「2階以上の住戸部部が主に利用する廊下仕上げの張替のために」10,804,000円が計上されているなどとも主張しているが、そもそも戸の張替工事は防水工事であり、1階店舗への漏水事故防止策でもあり、事実を歪曲した主張である。 ウ 中通路が存在していることから生ずる構造上の問題 前述のとおり、本件マンションにおいては、1階店舗部分を、ショッピングゾーンとするとされたため、共用部分として店舗の顧客等が利用するための出入り口や中通路が設けられ、さらには地下駐車場が広く設計されている。 そして、1階店舗には、公道に面した店舗、公道と中通路に面した店舗、中通路にしか面していない(出入り口の無い)店舗が存在している。その結果、下記に詳述するとおり、中通路に面している店舗について避難経路を確保する必要があり、検知器基準法及び消防法上、中通路に店舗用の防火シャッター等を設置義務があるとともに、1階店舗部分には多くの店舗が入居することが予定され、また、中通路にしか面していない店舗は外の電柱から直接電気を引くことが構造上困難であることから、本件マンションでは、住戸用の高圧受変電設備に加え、地下に店舗及び1階共用部分のための自家用受変電設備(キュービクル)を別途設置することで対応しており、(なお、後述するとおり、住戸は上記自家用受変電設備を利用していない)、これらの点検維持管理費等が単棟型マンションに比べ余計に生じているのである。 (2)店舗用シャッターを含む防火設備の維持・管理について ア 本件マンションにおける防火管理システム 前述のとおり、本件マンションでは、分譲中、1階店舗部分について、ショッピングゾーンとすることが想定されていたため、中通路及び店舗の利用者のための出入り口が存在している。 そして、1階店舗部分には、防火用シャッターを設置することが義務付けられているのである。 のみならず、かくてんぽには、自動火災感知器(共用設備)が 設置され、1階管理事務所に設置された自動火災警報機(共用設備)、さらには防火用シャッターと連動する仕組みとなっており、本件マンションにおける自動火災警報機設備が構築されている(なお、住戸の自動火災感知器は、各住戸が自費で購入し、設置している。そのため、各住戸部分の自動火災感知器は、管理事務所に設置された自動火災警報機と連動しない。) このような自動火災警報機設備を維持し、法律上義務付けられた点検を定期に実施し、設備を修繕するためには、当然のことながら費用を要するのであり、事実、被告が平成25年に実施した防火シャッターを含む消防設備指摘事項改修工事では、約500万円の費用が発生している。 M建設が上記各事実を考慮して管理費等の額を設定したことは明らかである。(なお、現在は、店舗のみならず住戸にも自動火災感知器(報知機)の設置が義務付けられているが、分譲当時は、法律上、住戸には義務付けられておらず、店舗のみが義務付けられていた。) イ 原告らの主張について ところで、原告らは、、防火用シャッターについて、住戸のバルコニーと同様、全体共用部分に専用使用権が付着した部分であり、一部共用部分ではないから、その管理に要する経費を店舗所有者のみの負担とすることは許されないなどと主張している。しかし、そもそも、現在はもちろん、これまでにも、防火用シャッターの管理に要する経費を店舗所有者のみに負担させた事実は無いのであり、事実誤認も甚だしい(さらに言えば、バルコニーには、シャッターは付いていないのであり、バルコニーとの比較で議論をすること自体、ミスリーディングである)。 前述のとおり、問題とすべきは、店舗部分が存在することにより、住戸専用の単棟型マンションでは、生じない管理費等が別途生じる点を踏まえ、どの程度、住戸と店舗とで管理費等の額に差を設ければ、両者の間で実質的衡平を実現できるかどうかである。 本件マンションでは、複合用途型マンションであることを前提に、1階をショッピングゾーンを念頭に設計されていたため、中通路及び出入り口が設置され、中通路に面している店舗が存在しているのである。そのため、それらの店舗の避難経路を確保する必要上、中通路に面している各店舗について、防火用シャッターを設置することが義務付けられ、さらには、自動火災感知器(共用設備)や自動火災警報機(共用設備)と連動することが要請され、自動火災警報機設備を維持・管理するのに住戸専用の単棟型マンションでは生じない費用の支出を要しているのである。 なお、原告らは、店舗用シャッターの保守点検について、予算上、「店舗シャッター点検・保守」(収支計算書)と管理委託料(甲58)とで、二重に計上されているなどとも述べているが、管理委託契約に含まれている「シャッター設備点検」とは、駐車場に設置されたシャッター点検を指すのであり、これもまた事実誤認である。 (3)自家用受変電設備(キュービクル)等の維持・管理について ア 本件マンションにおける電力の供給 繰り返し述べているが、本件マンションは、複合用途型マンションであることを前提に、1階店舗部分をショッピングゾーンとするとされたため、中通路及び出入り口が設置され、中通路にしか面していない店舗が存在している。 このように、本件マンションでは、当初より多くの店舗の入居が予定され、また、中通路にしか面していない店舗については、事実上、公道にある電柱から直接電気を引くことが困難であることから、本件マンションの地下には、住戸用の高圧受変電設備に加え、別途、店舗及び1階共用部分のための自家用受変電設備が設置され、各店舗に電気が供給されているのである。 住戸用の高圧受変電設備は、東京電力の管理・所有であり、東京電力が個別に電気メーターを検針し、東京電力から各住居に対し直接、個別に、請求が来るのに対し、自家用受変電設備は、電気事業法上、管理組合が管理する者とされ、管理組合が東京電力と一括契約したうえで、まず、東京電力からの請求に対し、管理組合が一旦立て替え払いをし、その後、管理組合が各店舗の子メーターを検針し電気料金を各店舗の使用料に応じて按分するための計算をして、毎月、各店舗に対し電気料金としてその按分した金額に事務手数料相当額を加算した金額を請求している。 自家用受変電設備(キュービクル)を維持するには、点検費用(現在は、月1回あたり2万4300円、年間約31万円)。なお、竣工時から平成16年までは、点検費用として年約60万円が支出されている)と修繕・交換費用をようするところ、自家用受変電設備は、子メーターも含め管理組合が所有する者であるため、その上記各費用は、全て管理費及び修繕積立金から支出されている。 上記自家用受変電設備の維持・管理費は、上記のとおり、本件マンションの1階店舗部分がショッピングゾーンとされ多くの店舗の入居が予定されていたこと、及び中通路が設置された結果、中通路に面していない店舗が存在していることから生じる追加費用である。 にもかかわらず、電気事業法上、自家用受変電設備は、管理組合が管理せざるを得ないことから、その維持・管理に要する費用は、住戸からも徴収されている管理費から支出されているのである。 以上より、分譲当時から設置されている自家用受変電設備の存在が、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等を定める合理的理由とされていることは明らかである。 イ 自家用受変電設備を利用した場合の店舗のメリット ところで、原告らは、店舗のみが自家用受変電設備を利用し、これによって住戸よりも安い電気料負担を享受しているという事実は存在しない等と主張しているが、以下のとおり、この主張もまた事実に反する。 すなわち、店舗の区分所有者は上記自家用受変電設備を利用することにより、使用量にもよるが本準備書面添付の別紙表のとおり、長年にわたり、多額の金銭的メリットを享受している。 添付の表は、本件マンションの1階店舗が、上記自家用受変電設備を利用した場合(すなわち、管理組合が「電気需給約款[特定規模需要(高圧)]」に基づき東京電力と一括契約を締結した場合)の電気料金と、現在の住戸と同様に、各店舗が東京電力との間で「電気供給約款」に基づき、直接「個別契約(重量電灯・低圧動力等)」を締結した場合の電気料金とを比較したものである。 自家用受変電設備を利用する場合、高圧電力(6000ボルト)の電流を自家用受変電設備に通すことにより低圧電力に変換し、従量電灯Bと動力に分け、店舗用メーター(共用設備)をとおして各店舗に電気を供給することになる。 そこで、電灯の契約については、契約種別を「従量電灯B」(なお、これは一般の住居の契約である)とし、「契約アンペア」は、現在、1階店舗が使用している各主幹ブレーカーのアンペアとし、その基本料金とした。但し、主幹ブレーカーのアンペアが明確でない場合(たとえば、複数の区画をしようしている場合等)は、当該主開閉器盤のアンペアを上限としている。 その結果、東京電力と「個別契約(重量電灯・低圧動力等)」をした場合と自家用受変電設備を利用した場合(一括契約)とでは、一括契約の方が廉価である(店舗Aについて、6496円、店舗Bについて、5925円)。 また、動力の契約については、契約の種別は「低圧電力」とし、「契約主開閉器低格電流」は、主幹ブレーカーのアンペアとした。 その結果、東京電力と、「個別契約(重量電灯・低圧動力等)」をした場合と現在の一括契約とでは、動力についても、一括契約のほうが廉価である(店舗A:1万4101円、店舗B:6158円)。 このように、各店舗は住戸からも拠出される管理費によって維持されている自家用受変電設備を利用することによって、これまで1月あたりの電気料金を低額で抑えられるという多額の金銭的メリットを長年にわたり享受することができているのである。 繰り返し述べているとおり、本件で問題とすべきは、店舗部分が存在することにより、住戸専用の単棟型マンションでは生じない管理費等の額に差を設ければ、両者の間で実質衡平を実現できるかである。 住戸からも拠出される管理費により維持・管理されている自家用受変電設備を利用することにより、店舗区分所有者は多額の金銭的メリットを享受続けられる(また、現実にも享受してきた)ことが、管理費の実質的な衡平を図るために、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等の額に差を設けることの一つの事情・理由となること(区分所有法30条3項の「その他」に該当)は明らかである。 ウ 原告らの主張について なお、原告らは、住戸と店舗の個数を単純に比較したうえで(このような比較自体意味が無いことは、前述したとおりである)、「変電設備の維持管理費用はむしろ住戸側の負担が大きくなるはずである」などと主張しているが、上記のとおり、そもそも住戸は、東京電力が所有している高圧受変電設備のみをりようし、自家用受変電設備を利用しておらず、自家用受変電設備の維持管理費用を負担する立場にないのだから、原告らの主張は失当でしかない。 エ 店舗が滞納をした場合の立て替え払いの必要性 前述のとおり、本件マンションでは、、住戸については、東京電力から直接請求されるのに対し、店舗については、電気事業法上、自家用受変電設備を管理組合が管理しなければならないことから、東京電力からの請求に対し、一旦、管理組合が各店舗の電気料金を立て替え払いしたうえで、各店舗に個別に電気料金(正確には、事務手数料相当額を上乗せした料金)を請求せざるを得ない仕組みになっている。 その結果、管理組合には、以下の負担が新たに生じている。 すなわち、裁判例によれば、管理組合が公共料金の支払いを滞納した区分所有者に対し、水道の供給を停止することが違法となる旨判示されており(たとえば、福岡地裁小倉支部平成9年5月7日判決)、水道料金の滞納があった場合、管理組合が水道の供給を停止することは原則できない。 この理は、同じくライフラインである電気についても妥当すると考えられ、その結果、住戸について電気料金の滞納が生じた場合、当該住戸に対し東京電力から電気の供給が停止されるだけであるが、店舗について滞納が生じた場合には、管理組合は東京電力に対し立て替え払いをする一方、当該店舗から電気料金を徴収できない地位におかれることになる。 事実、本件マンションにおいても、現実にある店舗において、電気料金の支払いが滞納されており、管理組合が当該店舗の電気料金を立て替えている実態がある。 このような管理組合による立て替え払いの必要性も。住戸専用の単棟型マンションではおよそ生じる事態ではなく、店舗が存在していることから生じる問題である以上、この事実も又、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等を定める合理的理由となることは明らかである。 (4)共用部分である店舗前敷地(犬走り)の利用について ア 店舗による利用行為 各店舗がエアコンの室外機を設置したり、ビールケース等置くなどして、共用部分である店舗前敷地を利用していること、店舗の利用行為に伴い、点検維持管理費用、修繕・補修費等が生じていることは、被告準備書面(3)9貢以下で主張したとおりである。 イ 原告らの主張 原告らは、平成25年3月に承認された長期修繕計画書には、店舗前敷地部分の補修修繕費用は計上されておらず、被告が点検維持管理費用等がより必要となると主張することは、本件マンションの実情や被告自らの運営状況とも矛盾しているなどと主張している。 しかし、上記長期修繕計画書に店舗前敷地部分の補修修繕費が計上されていないのは、平成22年どに改修工事を実施済みだからに他ならない。 すなわち、被告は、平成22年12月に本件マンション1階の店舗前敷地部分の床タイル更新工事を実施している(工事費用は約170万円)。のみならず、その際、工事に先立ち調査したところ、店舗所有者が長年にわたり犬走りにエアコンの室外機を設置していたため、床部分の陥没や約24か所について合流枡・点検口が潰れているのが発覚し、開閉不良と確認され更新工事(費用は165万円、税込173万2500円)をおこなっている。 このように、共用部分である店舗前敷地を長年にわたり店舗所有者が利用していることにより、通常の補修費用のみならず、追加の修繕費用(合計340万円)まで現実に生じている。 上記の費用は店舗所有者の利用により生じた費用に他ならず、竣工当初より行われている店舗所有者らによる店舗前敷地部分のしようという事実が、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等を定める管理費等が合理的理由となっていることは明らかである。 (5)看板等の設置について ア 店舗所有者による看板等の設置 店舗所有者による看板等の設置について、 ・店舗区分所有者が、営業目的のために、本件マンションの建物の一部壁面若しくは敷地の一部に看板等を設置していること、 ・本件マンションでは、分譲以来、店舗区分所有者が看板等を設置することに対し、通常の複合用途型マンションでは徴収している看板使用料を一切徴収していないこと ・店舗区分所有者の中には、看板等の設置する際、壁面にドリルで穴を開けたり、強力な接着材等を使用しているものもあり、建物の躯体に影響が生じていること、 は、被告準備書面(3)10貢で主張している。 イ 原告らの主張について 原告らは、 ・各店舗は建物の躯体に影響するような看板を設置していない、 ・看板等の設置による補修工事については、長期修繕計画表に全く計上されていない、 などと主張している。 しかし、そもそも長期修繕計画表に記載がないのは、平成22年に補修工事を実施しているからである。 なお、上記補修工事の際、容易に取り外しの出来ない態様で建物に看板を設置していた区分所有者が3名おり、うち1名については、看板を外し、清掃・補修後に再度看板を取り付けるという作業を業者に依頼することで対応し、もう2名については、施工業者より取り外しを試みたものの、外壁を破損する恐れがあったことから、已むなく当該部分について外壁下地補修工事を見合わせるという事態が生じている。 そもそも、原告らが述べるシールを打つという行為自体、定期的に補修をしなければ壁面の劣化を招き、体躯に影響を与えるものであることはもちろん、上記のとおり、現実に剥がす際にタイルごと剥がれてしまう態様(接着剤+ドリル)で看板を設置しているものも存在しているのであり、店舗所有者による看板を設置が建物の体躯に影響を及ぶ形で行われていることは明らかである。 (6)不特定多数の出入りによる危険及び清掃費等の増加 本件マンションが、複合用途型マンションであることを前提に、1階店舗部分をショッピングゾーンとすることを念頭に設計がされ、中通路及び出入り口が設置されていることは、繰り返し述べているとおりである。 1階店舗部分をショッピングゾーンとすることを念頭に設計がされている以上、店舗の営業活動に伴い、不特定多数の店舗利用者がマンションに出入りすることが想定されており、管理費等の設定に際しては、安全・防犯のため、住戸専用の単棟型マンションよりも多くの管理コストが生じることも当然考慮されている。同様に、多くの店舗利用者が本件マンションを訪れることにより、中通路はもちろん、ピロティ等についても、住戸専用の単棟型マンションに比して、損耗・劣化が激しくなり、清掃の必要性も増すのであり、これらの事実も当然に管理費等を設定する際の前提事情となっている。 (7)騒音・臭い・煙 1階店舗部分をショッピングゾーンとすることを念頭に置いて設計がされている以上、管理費等を設定する際には、入居する店舗の営業活動により、騒音、臭い、煙、さらに衛生上の問題が生じることも、当然、加味されていたものと思われる。 なお、原告らは、被告の主張に対し、実際に店舗の存在によってこのような問題が発生しているとは言えないなどと主張しているが、本件マンションにおいては、本請求に係る期間に限ってみても、火災警報機の鳴動及びボヤ騒ぎが複数回発生しており、また、カラオケの騒音等についても苦情が多数寄せられている。 (8)小括 以上のとおり、住戸と店舗とが併存する複合用途型マンションである本件マンションにおいては、住戸専用の単棟型マンションに比べ、店舗部分が存在することにより、住戸専用の単棟型マンションでは生じない追加の費用がしょうじているのである。 そのような当該マンションの特質を踏まえ、住戸と店舗という用途分類に応じて、管理費等の額を設定し、区分所有者間の実質的衡平を実現することは、当然、許容されるものであり、合理的なものである。 そして、繰り返し述べているとおり、本件マンションの各区分所有者は、分譲時に本件マンションが複合用途型マンションであることを認識し、住戸と店舗という用途分類に応じ管理費等が定められていることを理解したうえで、それを承諾し、本件マンションを購入し、定められた管理費等を長年にわたり支払い続けてきたのである。 以上を踏まえれば、住戸と店舗という用途分類を前提に、タイプごとに分けて別異に定められた管理費等が、合理的理由に基づくこと、そして具体的な金額の範囲も合理的範囲であることは明らかである。 3 平成18年の規約改定時の状況 平成18年の第23回定期総会時に、従前どおり住戸と店舗という用途分類を前提とした管理制度を維持すること及び修繕積立金増額の基礎として用途分類制度を前提とすることに合理性があったことは、被告準備書面(3)16貢で述べたとおりである。 すなわち、平成18年当時の本件マンションに入店していた各店舗の業種は、喫茶店、不動産会社2店、スナック3店、飲食店、床屋、医院、保険代理店、マッサージ店、印刷関連会社、空室、建築設計事務所、倉庫 であり、当時においても、各店舗の使用目的が各店舗において顧客の参集等を目的とする営業活動にあったことは明らかである。 平成18年当時においても、本件マンションが複合用途型マンションであることを前提に、1階店舗部分をショッピングゾーンとすることを念頭に設計されたことに起因する住戸専用の単棟型マンションでは生じない追加の管理コストの発生と言う状況は何ら変わりなかったのであり、区分所有者間の実質的衡平を実現するため、用途分類前提とした管理費等の決議をすることは、当然、許容されるものである。 4 区分所有法第30条3項の解釈について ところで、原告らは、現行区分所有法30条3項について、縷々述べているが(原告第4準備書面10貢)、前述した本件マンションの実態を無視した主張であり、規約の衡平性を確保するという同条3項の立法趣旨に沿った解釈とは到底言えないことは明らかである。 繰り返し述べているとおり、本件マンションは複合用途型マンションであり、複合用途型マンションにおいては、店舗部分が存在することにより、住居専用の単棟型マンションでは生じない管理費用が余計に生じる点を踏まえ、当該マンションの個別具体的事情を踏まえ、住戸と店舗という用途分類に応じて、管理費等の額に差を設けることにより、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定められる」ことを求めているものである。 原告らの主張は、本件マンションの事情を総合的に考慮して実質的な公平を図るというよりも、一面だけを一方的に解釈し、本件マンションの多くの重要な具体的事情を一切捨象したうえでおこなった偏頗的な解釈に過ぎず、原告らの主張は失当というほかない。 第5 甲2の管理規約が総会決議を欠いていること 1 被告の主張 甲2の管理規約が有効に成立していないこと、すなわち、総会決議を欠いていることが証拠上明らかであること(乙18、乙19)及び現実にも、平成13年以降も管理費等は従前どおりの金額のまま実務処理が行われていることは、被告準備書面(3)13貢以下で述べたとおりである。
3 原告らの主張
原告らは、甲2が成立して運用されていたことは、被告が提出している平成18年4月に作成された乙2の記載からも明らかである等と主張しているが(原告第4準備書面12貢)、繰り返し述べているとおり、甲2の管理規約は、平成13年ころ、当時各戸に印刷物として配布され、有効な管理規約であると区分所有者に誤信され、今般、調査をするまで判らなかったのであるから、記載があること自体に意味は無い。
乙18に記載のとおり、平成16年12月頃に作成された「臨時総会開催のお知らせ」の文案には、第3号議案として「現行管理規約承認の件」と記載され、その説明として、「正式に管理組合総会で認証の手続きを取っていないため、改めて承認頂ききたい」と記載され、その後、開催された臨時総会においては、第3号議案が削除され、審議されていないのである(乙19)。
原告らにおいて、なお甲2の管理規約が有効に成立している、すなわち総会の決議を経ていると強弁するのであれば、具体的にいつ開催された総会において、第何号議案として決議されたのかを特定したうえで、客観的な証拠を提出されたい。
第6 平成18年の改定後の管理規約(乙16)が従前と同様の管理費の金額を前提としていること及び修繕積立金の増額決議が有効であること
1 被告の主張
平成18年5月14日開催の第23回定期総会において、
・全員の賛成により決議された改定後の管理規約(乙16)は、文言上、「共有持ち分に応じて算出する」と規定されているものの、実質は従前どおりの住戸と店舗という用途分類に応じ定められた管理費の額を前提としていること
・この総会で同時に審議されて、賛成多数により可決された修繕積立金の増額決議が、用途分類制度を前提とするものであること
・上記増額決議の際、用途分類制度を前提とすることは、本件マンションの当時の具体的状況に照らし、合理性があること、
・増額決議に至るまでの過程において、管理組合は、専門家の調査も行い、公開理事会も6回にわたり開催し、各区分所有者に対する長期修繕計画表(案)及び大規模修繕工事実施概要を送付し、修繕積立金の増額の必要性及び改定後の修繕積立金について十分に説明を行ったうえで、総会の決議を得ていること、
は、被告準備書面(3)14貢以下で述べたとおりである。
2 原告らの主張
原告らは、議事録(甲7)によれば、第23回定期総会において、修繕積立金値上げの計算方法に関して質問があったにもかかわらず、被告から23年前の分譲時に設定された金額が安価に失したという程度の説明しかなされておらず、値上げを行うことについて、説明らしい説明が行われた形跡は皆無である等と主張している(原告第4準備書面13貢)。
しかし、議事録(甲7)の2貢冒頭に記載されているとおり、総会当日は、マンション顧問及び管理会社担当者が、建物診断調査表・長期修繕計画表に基づいて説明を行っており、原告らの主張は事実に反する。
繰り返し述べているとおり、被告は、平成18年5月14日に開催された第23回定期総会に先立ち、招集通知とともに長期修繕計画表(案)及び大規模修繕工事実施概要を配布し、半年近くにわたり計6回、公開理事会を開催している。
招集通知に添付された資料を見れば、通常の合理的な区分所有者にとって、修繕積立金の値上げの必要性はもちろん、その計算方法についても理解できることは明らかである。
なお、原告らは、修繕積立金の増額決議について、平成20年の第25回通常総会で改めて信任決議がなされていることに対して、無関心な住戸所有者を利用して、実質的審理の無いまま決議を得たものにすぎないなどとしゅちょうしているが(原告ら第4準備書面16貢)、被告の準備書面(3)24貢以下で主張したとおり、上記総会においては、原告らの中にも、賛成票を投じている区分所有者が存在しており、原告らの主張は背理でしかない。
第7 平成23年の管理規約の改定決議が有効であること
1 被告の主張
平成23年の臨時総会について
・被告が、臨時総会に先立ち、各区分所有者に対し、招集通知と合わせて、①臨時総会上程議案説明書、②管理組合法人規約集(改定管理規約案、別表が付されている)、③管理規約改正(案)新旧規約比較対照表を送付していること、
・上記資料②には「別表第4」が付され、「別表第4-1」には、「店舗別及び児童館専有面積、管理費等一覧表」が記載されていること、
・平成23年の規約変更決議は、管理規約全体を改めるものであり、改定後の規約の全条項(別表を含む)、新旧規約比較対照表の規約案一式を通知すれば、議案の要領の通知(区分所有法35条5項)として足りること、
・平成23年の規約変更は、従前より現実に各区分所有者から異議なく支払われてきた金額を何ら変更するものでなく、原告らの権利に特別の影響を及ぼすもの(同法31条1項)ではないこと
・原告らの内、原告A、同B、同E、同F、同H、同J、同K、同I、同Mは、平成23年の規約変更決議について、管理費等が住戸と店舗という用途分類に応じて金額に差があることを認識したうえで、賛成票を投じていること(なお、原告㈱H、同C、同G、同Lは、当時管理組合に対し届けられた区分所有者ではなく、総会招集通知の受領者ではない。また、原告Dは、本総会を欠席)
・複合用途型マンションである本件マンションにおいて、具体的状況を踏まえ、各区分所有者間の衡平を確保するために、住戸と店舗という用途分類に応じた管理費等を定めることが、裁判例(東京地裁昭和58年5月30日判決)はもちろん、文献においても肯定されており、区分所有法第30条3項に違反しないこと、
は、被告準備書面(3)20貢以下で述べたとおりである。
2 原告らの主張について
まず、原告らは、平成23年の総会招集の際、議案説明書が送付されていたことのみを認め、管理組合法人規約集(改定管理規約案、別表が付されている)、管理規約改正(案)新旧規約比較対照表が送付された事実を否認している。(原告第4準備書面16貢)。
しかし、招集通知に別表4を含む管理組合法人規約集及び管理規約改正(案)新旧規約比較対照表が添付されていたことは、証拠上、明らかである(乙21の1から6)。
そもそも、原告らは、別表第4を総会開催までの間に見たことが無い、などと述べるものの、O氏は、平成23年11月に開催された総会に出席した際、招集通知に同封されていた管理組合法人規約集(甲17)をめくっていた旨、さらには、議事の最中、規約集に別表4ー1を発見した旨を自ら認めているのであり(原告第4準備書面20貢)、招集通知に従前の管理費の支払いについて、管理費の格差について認識していなかった、請求権の存否について誤認に陥っていたなどと主張している。(原告準備書面16貢)
しかし、繰り返し述べているとおり、原告らが区分所有者となった当時から、住戸と店舗とで異なる管理費等が設定されていることを認識していたことは、分譲会社からの説明、重要事項説明書添付の価格表の記載、さらには、平成18年の総会招集通知一式(たとえば、大規模修繕工事に向けて(乙20の7)の3項)では、一時負担金とした場合の費用負担について、住戸と店舗とで分けたうえで、一見して店舗の方が高いことが分かる平均負担額を記載している)からして明らかであり、原告らの主張は事実に反する。
第8 原始規約及び平成18年改定規約の解釈について
1 原始規約等の文言
本件マンションの原始規約(乙6)及び平成18年5月14日改定の管理規約(乙16)は、管理費等について、次の通りさだめている。
(原始規約:乙6)
「各区分所有者は、”第5条の各区分建物の持ち分割合”に応じたタイプ別管理費・・を負担する者とする」(第13条1項)
(平成18年5月14日改定の管理規約:乙16)
「管理費等の額については、各区分所有者の共有持ち分に応じて算出するものとする」(第25条2項)
2 管理規約の解釈
原告らは、上記各規約の解釈について、いずれも持ち分割合を基礎とした文言が使用されていることから、住戸と店舗という用途分類に応じて区分することなく、形式的に解釈すべき旨を主張している。
しかし、繰り返し主張しているとおり、本件では、
①複合用途型マンションにおいては、住戸専用の単棟型マンションでは生じない管理費用が生ずることから、住戸と店舗という用途分類に応じて管理費が定められている、
②本件マンションも、分譲業者であるM建設が、複合用途型マンションであることを前提に、本件マンションの事情を総合的に考慮して実質的な衡平を図る観点から、住戸と店舗という用途分類に応じて管理費等の額をさだめている。
③各区分所有者は、本件マンションが複合用途型マンションであることを前提に、住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等の支払い義務があることを了解し、区分所有者となっている。
④区分所有者は、規約に基づき、用途分類に応じて定められた管理費等を継続して支払い続けてきた。
という厳然たる客観的事実が認められるのであり、各区分所有者は、住戸と店舗という用途分類に応じて管理費等が定められていることを前提としているのである。
このことは、平成18年の規約改正と同じ総会で決議された修繕積立金の増額決議においても、各店舗各住戸ごとの修繕積立金改定表に基づいた決議がされており、そこにも、店舗と住戸による用途分類に応じた修繕積立金の改定が承認されたこと、また、平成23年11月6日に改定された管理規約(甲17)が、
「管理費等の額については、各区分所有者の共有持ち分に応じて算出した別表第4の金額とする」
と平成18年改定規約とほぼ同じ文言をしようしつつ、別表において住戸と店舗という用途分類に応じて両者を別異に管理費をさだめていることからも明らかである。
管理規約の解釈に際しては、各区分所有者がどのような認識の下、どのような行動を採っていたかが第1次的に検討されるべきであり、本件マンションの区分所有者が原告らの主張する解釈をとっていないことは、上記事実関係に照らしても明らかである。
第9被告による管理費等の収受が適法であること
1 被告の主張
被告による管理費等の収受が適法であることは、前記第2ないし第8に述べたところから明らかである。
2 原告らの主張について
原告らは、最高裁平成16年4月23日判決が示した管理費等債権の発生原因は、本件においても妥当すると述べているが(原告第4準備書面17貢)、上記最高裁判決は、原告が繰り返し述べる、予算案について「各区分所有者ごとの金額」(第1準備書面7貢)を記載する必要がある等とは一言も述べていない。
そもそも管理費等の債権が定期債権であることからして一旦、議会決議で承認をされれば、そのご、金額を変更しない限り、その金額で継続して支分権たる債権を発生させることは明らかであり、原告らの主張は失当と言うほかない。
第10 信義則ないしは権利濫用であること
原告らの本請求が、これまでの総会における投票経緯、さらには過去の裁判の不当な蒸し返しであることから、信義則に反し、権利の濫用であり許されないことは、被告準備書面(3)24貢以下で述べたとおりである。
以上
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