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平成25年第39号 不当利得返還請求事件(管理費格差)

原告 店舗組合員14名

被告 SDマンション管理組合法人

第5準備書面

平成26年6月11日

東京地方裁判所民事第32部合議B係 御中

 

             原告ら訴訟代理人弁護士

 

被告準備書面⑷に対し下記のとおり反論を準備する。なお,本書面は総論部分であり,各論については追って書面を提出する。

 

1  本件マンションが複合用途型であるとの主張について

被告は,国土交通省の「マンション標準管理規約検討委員会」では,標準管理規約の作成に際し,一般分譲の住居専用マンションを単棟型とすること及び店舗併用等のマンションを複合用途型とすることを当然の前提としていると主張する(7頁)。

しかし,被告が「当然の前提としている」という意味は定かではないが,いずれにせよ,マンションの管理規約を決めるのは総会であって国交省ではないことは言うまでもない。その意味で,標準管理規約はモデルにすぎない。国交省も,「マンション標準管理規約(以下「標準管理規約」という。)は,管理組合が,それぞれのマンションの実態に応じて管理規約を制定,変更する際の参考として,作成,周知しているものであり」(平成23年7月27日報道発表資料),などと説明しており,標準管理規約が参考にとどまるものであることを当然の前提としている。

そして,本件マンションは,住戸・店舗併用の単棟型マンションではあるが,住戸部分の区分所有者のみの共有に属する住戸一部共用部分や,店舗部分の区分所有者のみの共有に属する店舗一部共用部分が存在しないことに端的に示されているように,およそ複合用途型の標準管理規約が採択されることなく,今日に至っているということである。

2 格差の合理性に対する判断基準について

被告は,複合用途型マンションでは,住戸専用の単棟型マンションに比べ,店舗が存在することにより,住戸専用の単棟型マンションでは生じない費用が生じることから,区分所有者間の実質的衡平を図るため,住戸と店舗との間で管理費等の額に差が設けられる(8頁),複合用途型マンションにおいて問題とすべきは,店舗部分が存在することにより,住戸専用の単棟型マンションでは生じない管理費等が余計に(別途)生じる点を踏まえ,どの程度,住戸と店舗とで管理費等の額に差を設ければ,両者の間で実質的衡平を実現できるかである(10頁,15頁,19頁),と繰り返し主張する。

しかし,裏を返せば,住戸・店舗併用の単棟型マンションでは,店舗専用の平家建て商業施設に比べ,住戸が存在することにより,店舗専用の平家建て商業施設では生じない費用が余計に生じると言うこともできるのである。被告の主張は,後者の側面を完全に等閑視し,店舗の経費は店舗の負担,住戸の経費はみんなの負担と言っているにひとしい。それは,国交省が作った複合用途型標準管理規約の理念とは根本的に相容れない,極端に偏った考えである。

若干敷衍する。複合用途型標準管理規約は,「住宅一部共用部分」の管理に要する経費に充てるための費用は,住戸部分の区分所有者が,「住宅一部管理費」ないし「住宅一部修繕積立金」として負担すべきこと,逆に,店舗部分の区分所有者が負担・納入する「店舗一部管理費」及び「店舗一部修繕積立金」は,「店舗一部共用部分」の管理に要する経費に充当すること(つまり「住宅一部共用部分」の管理に要する経費に充当してはならないこと)を規定している(第8条,別表第2,第26条,第29条,第31条)。しかして,本件マンションにおいては,仮に複合用途型標準管理規約が採択されたと仮定すれば「住戸一部共用部分」とされる住宅用階段,住宅用廊下,住宅用エレベーター室,住宅用エレベーター設備,住宅用給水設備(特に揚水ポンプ)等の管理に要する経費が極めて大きいので,「店舗が存在することにより生じる費用」(つまり仮に複合用途型標準管理規約が採択されたと仮定すれば「店舗一部共用部分」の管理に要する経費とされるもの)の存在だけをいくら挙げつらってみても,店舗・住戸間の2.45倍の格差を合理化することは不可能なのである。

本件マンションの管理に要する経費の全体的構造について,要点のみ再論すれば,次のとおりである(詳細は第4準備書面で既述のとおりである。)。

まず,通常の管理に要する経費についてであるが,複合用途型標準管理規約の下で「全体共用部分」とされる部分の管理に係るものが1413万円,「住宅一部共用部分」とされる部分の管理に係るものが233万円,「店舗一部共用部分」とされる部分の管理に係るものが11万円(つまり住宅一部共用部分の20分の1以下)であり,住戸と店舗の専有部分の面積比はおよそ5対1であるから,店舗のほうが管理費の負担が重いという結論は出てきようがない。次に,特別の管理に要する経費については,複合用途型標準管理規約の下で「全体共用部分」とされる部分の管理に係るものが3億8602万円,「住宅一部共用部分」とされる部分の管理に係るものが1億1214万円,「店舗一部共用部分」とされる部分の管理に係るものが237万円(つまり住宅一部共用部分の47分の1以下)であり,店舗の5倍の広さの住戸に店舗の50倍近い特別管理経費が掛かるのであるから,やはり店舗のほうが修繕積立金の負担が重いとの結論はどうやっても出てきようがないのである。

以上のとおり,本件マンションの管理においては,住戸こそがいわゆる金喰い虫なのであって,店舗区分所有者の2.45倍の負担を合理化することは不可能である。

3 合理性を判断すべき対象について

⑴ 被告は,問題とすべきは,住戸と店舗とで管理費等の額に差を設ける内容の原始規約を設定した際,分譲業者であるM建設がどのような事実を念頭に置いていたか,かかる事実を前提に,住戸と店舗という用途分類に応じて定められた管理費等の額の差は合理的かである(9頁),本件で問うべき問題は,現在の状況を前提とした事後評価の問題ではない(10頁),などと主張する。

ア 審査対象について

しかし,本件において原告らが求めているのは,直接には,被告総会決議の無効であって,M建設の判断の合理性に対する審査ではない。そして,原告らが無効を問題にしている総会決議は,無効確認請求の対象としては平成23年11月6日付け規約変更決議であるが,それだけでなく,平成14年ないし平成24年の各総会決議の効力についても,不当利得返還請求の前提問題として設定しているところである(原告ら第3準備書面1頁,7頁以下)。

すなわち,本件の管理費等の債権は,①基本権としての定期金債権が,管理規約の規定に基づいて,区分所有者に対して発生し,②その具体的な額が総会の決議によって確定することにより,月々支払うべき具体的な管理費等債権が,上記基本権から派生する支分権として発生すると解されるから(原告第1準備書面第1,1。最高裁平成16年4月23日第二小法廷判決・民集58巻4号959頁),本件においても,原告らは,平成14年ないし平成24年の範囲内で,毎年の総会決議の効力を問題としているのである。

原告らがこのように設定した審判対象を,被告が歪めることは許されない(処分権主義)。東京高裁平成13年8月29日判決(甲28)も,原始規約成立後の事情変更(建物各室の現実の使用状況等)にもかかわらず,その後,不公平性の是正措置をとらずに管理費等の格差割合を維持した総会決議を無効としており,原始規約がその成立当時に一応の合理性があったか否かだけ判断すれば事足れりとしているわけではない。

なお,被告は,管理費等の債権は,一旦,総会決議で承認されれば,その後,金額を変更しない限り,その金額で継続して支分権たる債権を発生させると主張する。しかし,最高裁平成16年4月23日第二小法廷判決・民集58巻4号959頁は,管理費等の債権の「具体的な額は総会の決議によって確定し,月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は,基本権たる定期金債権から派生する支分権として,民法169条所定の債権に当たるものというべきである。」との判示部分に続けて,「その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い,総会の決議により増減することがあるとしても,そのことは,上記の結論を左右するものではない。」(傍点引用者)と判示している。そして,他方で,同判決は,前提事実として,「本件マンションの管理規約中には,管理費及び特別修繕費に関する定めとして,次のような規定がある。(中略)その額については,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出し,毎会計年度の収支予算案により,総会の承認を受けるものとする」(傍点引用者)と摘示している。したがって,同判決は,具体的な額が総会の決議により増減するか否かを問わず(すなわち,決議をした結果として前年度と同じ額になったとしても),毎会計年度の収支予算案により総会の承認を受けて,具体的な支分権は派生すると判示していると解するのが正当である。

本件マンションの管理規約も,上記事案と同様,「毎会計年度の収支予算案を通常総会に提出し,その承認を得なければならない」(甲2・第47条1項,乙16・第58条1項,甲17・第60条1項)と規定しており,むしろ,「収支予算を変更しようとするときは,理事長は,その案を臨時総会に提出し,その承認を得なければならない。」(同各条2項。傍点引用者)とされているのである。したがって,管理費等の額について,金額を変更しない限り,毎会計年度の通常総会において承認を得なくてもよいということにはならない。被告の主張は理由がない。

イ M建設の前提事実の誤認について

そもそも被告が,M建設の判断過程・結果として主張する内容は,単なる被告の推測にすぎず,同社が実際どのような判断過程を経たのかを示す証拠は,「M建設は,このスーパーマーケットに管理費を多く負担させ,住戸の負担を軽くして販売しやすくしようとして,管理費に格差を設けた」(甲39陳述書4頁)というN氏の陳述しかない。

確かに,M建設が分譲時に使用していたパンフレット(乙26)には,「暮らしのすべてが整い」,「毎日のお買物はここでOK」という「ショッピングゾーン」構想が記載されている。というのも,元々,M建設は,当マンション1階の店舗部分の全体にスーパーマーケットを入居させる計画を立てていたからである。このため,同社は,北側屋上にクーリングタワーを設置し,地下駐車場をスーパーの来客用の仕様とする等したのである。

しかし,このスーパーマーケットの出店計画は,地元の商店の反対運動により頓挫し,その後の店舗部分の分譲も難航して空室の状態が続いた(甲39陳述書1頁,4頁以下)。その結果,実際には,本件マンション1階は,喫茶店,不動産会社,スナック,床屋,整形外科,マッサージ店,設計事務所などで占められ,上記構想とは程遠い雑居ビルの様相を呈した。本件マンションにおいては,暮らしのすべてが整うことも,毎日の買物が揃うことも,いまだかつてない。

このように,M建設が想定してはみたものの結局実現しなかった事実(ショッピングゾーン構想)を前提に合理性を判断するのは妥当ではない。

ウ 小括

以上のとおり,M建設が想定したものの結局実現しなかったショッピングゾーン構想の事実を前提に同社の判断の合理性を審査するのが本件訴訟の目的であるとは到底いえない。

 

以上
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