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平成25年第39号 不当利得返還請求事件(管理費格差)

原告 店舗組合員14名

被告 SDマンション管理組合法人

第6準備書面

平成26年6月27日

東京地方裁判所民事第32部合議B係 御中

 

原告ら訴訟代理人弁護士

 

第1 原告らの主張

1 はじめに

被告は,「問題とすべきは,住戸と店舗とで管理費等の額に差を設ける内容の原始規約を設定した際,分業者であるM建設がどのような事実を念頭に置いていたかである」,「M建設は,建物の形状,面積,位置関係,使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して区分所有者間の利害の公平が図られるよう本件マンションにおける管理費の負担を決定した」などと主張するが,単なる被告の推測にすぎず,そのように認定しうる的確な証拠はない。

また,その後,被告の総会や理事会において,管理費等の負担割合について実質的な検討や議論がなされた形跡もない。

2 マンション総合調査結果報告

国交省は,平成26年4月,平成25年度マンション総合調査結果報告書を公表した(甲65)。

この調査結果によると,

⑴ 完成年次(データ編29~30頁)

昭和55ないし59年に完成したマンションは,調査対象となった全国2324棟のうち255棟(11.0%),東京圏の794棟のうち123棟(15.5%)である。

本件マンションは,昭和57年2月1日新築であるから(甲40等),これらの類型に属する。

⑵ 敷地面積(データ編31頁)

敷地面積が1000㎡超で2000㎡以下のマンションは,調査対象となった全国2324棟のうち587棟(25.3%),単棟型1733棟のうち550棟(31.7%)である。

本件マンションは,敷地面積が1584.61㎡であり(甲6等),住戸・店舗併用の単棟型マンションであるから,これらの類型に属する。

⑶ 階数(データ編33~34頁)

6ないし10階建のマンションは,調査対象となった全国5310棟のうち1412棟(26.6%),昭和55ないし59年完成の1105棟のうち170棟(15.4%),東京圏2774棟のうち493棟(17.8%)である。

本件マンションは,9階建であり(甲22等),昭和57年2月1日新築であるから,これらの類型に属する。

⑷ 住宅部分の戸数(データ編35~36頁)

住宅部分の戸数が101ないし150戸のマンションは,調査対象となった全国2324棟のうち249棟(10.7%),昭和55ないし59年完成の255棟のうち35棟(13.7%),単棟型1733棟のうち147棟(8.5%),東京圏794棟のうち99棟(12.5%)である。

本件マンションは,住戸が124戸であるから,昭和57年2月1日新築の単棟型であるから,これらの類型に属する。

⑸ 店舗その他の非住宅の区画数(データ編37~38頁)

住戸以外の店舗や事務所などが入っているマンションは,調査対象となった全国2324棟のうち487棟(21.0%),昭和55ないし59年完成の255棟のうち89棟(34.9%),単棟型1733棟のうち362棟(20.9%),東京圏794棟のうち194棟(24.4%)である。

本件マンションは,昭和57年2月1日新築,大田区所在の住戸・店舗併用の単棟型マンションであるから,これらの類型に属する。

⑹ 小括

以上の統計的観点からすれば,本件マンションは,決して稀有な種類のマンションではない。

3 負担額決定方法

他方,同じマンション総合調査結果(甲65)によると,

⑴ 管理費負担額決定方法(データ編177~178頁)

管理費負担額を各戸の専有面積の割合に応じて算出しているマンションは,調査対象となった全国2324棟のうち1851棟(79.6%),昭和55ないし59年完成の255棟のうち163棟(63.9%),総戸数規模101ないし150戸である254棟のうち194棟(76.4%),単棟型1733棟のうち1514棟(87.4%),6ないし10階建の単棟型887棟のうち772棟(87.0%)である。

これに対し,各戸の専有面積の割合に応じて算出せず,かつ,各戸均一でもない「その他」は,調査対象となった全国2324棟のうち23棟(1.0%),昭和55ないし59年完成の255棟のうち9棟(3.5%),総戸数規模101ないし150戸である254棟のうち3棟(1.2%),6ないし10階建の単棟型887棟のうち5棟(0.6%)である。

なお,ここで念のため附言すると,母数となった全国2324棟のマンションには,前記2⑸記載のとおり,住戸以外の店舗や事務所などが入っているマンションが487棟(21.0%)も含まれていることに留意されたい。すなわち,住戸・店舗併用型であることと,管理費負担額を各戸の専有面積の割合(持分割合)に応じて算出しないこととの間には,有意的な相関関係が認められないということである。

本件マンションは,昭和57年2月1日新築,総戸数144戸,9階建のの単棟型であるから,管理費負担額を各戸の専有面積に応じて算出していれば主流に属するが,仮に,そのようにせず,かつ,各戸均一でもない場合には,かなりの異端に属することになる。

⑵ 修繕積立金負担金額の決定方法(データ編209~210頁)

修繕積立金の負担金額を各戸の専有面積の割合に応じて算出しているマンションは,調査対象中,修繕積立金制度がある全国2167棟のうち1800棟(83.1%),昭和55ないし59年完成の239棟のうち158棟(66.1%),総戸数規模101ないし150戸である237棟のうち197棟(83.1%),単棟型1630棟のうち1443棟(88.5%),6ないし10階建の単棟型831棟のうち743棟(89.4%)である。

これに対し,各戸の専有面積の割合に応じて算出せず,かつ,各戸均一でもない「その他」は,調査対象となった全国2167棟のうち17棟(0.8%),昭和55ないし59年完成の239棟のうち7棟(2.9%),総戸数規模101ないし150戸である237棟のうち1棟(0.4%),6ないし10階建の単棟型831棟のうち4棟(0.5%)である。

したがってやはり,本件マンションが,修繕積立金の負担金額を各戸の専有面積の割合に応じて算出していれば主流に属するが,仮に,そのようにせず,かつ,各戸均一でもない場合には,異端中の異端といわざるを得ない。

4 月額管理費等の㎡当たり平均値

公益財団法人東日本流通機構が発行した「会報誌れいんず平成24年夏号」(甲66)によれば、平成23年に同機構を通して成約した首都圏中古マンションの月額管理費は、1㎡当たり平均177円、修繕積立金は1㎡当たり平均135円であった。
また、国交省の平成25年度マンション総合調査結果報告書(甲65)によれば、㎡当たりの月額管理費は、全体平均145円、総戸数規模101~150戸の平均128円、単棟型の平均152円、6~10階建単棟型の154円、東京圏の平均173円であった(れいんずの首都圏中古の平均値と国交省報告の東京圏平均とは近似している。)。そして、㎡当たりの月額修繕積立金は、全体平均149円、完成年次昭和55~59年の平均166円、総戸数規模101~150戸の平均151円、単棟型の平均148円、6~10階建単棟型の平均146円、東京圏の平均169円であった(データ編175、176、204~206貢)。

一方、本件マンションにおいて、住戸が負担する管理費は1㎡当たり概157ないし158円、修繕積立金は1㎡当たり概196ないし197円である。ところが、被告が主張する店舗に管理費は1㎡当たり概385ないし386円、同修繕積立金は1㎡当たり概481ないし482円である(甲17別表第4ー1[25~26貢])。

つまり、被告が主張する店舗の管理費は、最も高いれいんずの首都圏中古平均177円と比較しても2.2倍であり、同修繕積立金は、最も高い国交省報告の東京平均169円と比較しても2.8倍であり、いづれも極めて割高となっている。逆に、店舗の負担を住戸の負担と同等にまで軽減すれば、住戸・店舗とも、平均的水準に近づく。

5 結論

以上によれば,被告が主張する本件マンションの管理費等の負担額は,相当の異端といわざるを得ない。しかし,前記1で述べたとおり,このような異例の決定方法をとらなければならない理由や必然性はなく,そもそも,本件マンションにおいては,この点について検討らしい検討や議論らしい議論がなされてきた形跡もないのである。

したがって,本件マンションの管理規約に「別段の定め」がないという現実を直視したうえで,管理費等の負担額の決定方法については,大多数のマンションと同様に,各戸の専有面積の割合(持分割合)に応じて算出するよう正常化を急ぐべきである。

第2 求釈明(再度)

1 本件マンションの各区分所有者が有する共有持ち分はそれぞれいくつか。被告の主張(認識)を特定・明示されたい。
この点は、原告ら第2準備書面3,6(31貢)で、理由を付して釈明を求めたところであるが、いまだに釈明がない。被告は、平成23年管理規約(甲17)の「区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出した別表第4の金額とする。」(第27条2項)という規定の有効性を主張しているが、そこでいう「共有持ち分」がそれぞれいくつあるのかがはっきりしないのは、甚だおかしなことである。

2 共有持ち分は、組合運営の基礎となる数値であるから、判決を得るうえでも、あるいは仮に和解で解決するにせよ、関係者の認識が一致している必要がある。

マンション標準管理規約(単棟型)はもとより、被告が援用する標準管理規約(複合用途型)においても、各区分所有者の共有持ち分を、「別表第3」に掲げて特定・明示するようになっている。ところが、本件マンションの管理規約は、共有持ち分を特定・明示したことがいまだかつてない。それどころか、共有持ち分の記載の異なる重要事項説明が存在しており(甲22、乙3、原告ら第2準備書面3,1(5)[10貢])、この点に関する混乱ぶりを示している。

前述したマンション総合調査(甲65)も、共有持ち分の定めの有無を調査項目に挙げていない。これは、共有持ち分の定めをしないのは論外であり、国交省もそのようなマンションの存在を想定していないためと思われる。
以上の意味でも、本件マンションの現状は、異例であり、正常化されるべきである。

以 上

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