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平成25年第39号 不当利得返還請求事件

原告 店舗組合員 13名

被告 SDマンション管理組合法人

 

第7準備書面

平成26年9月1日

東京地方裁判所民事第32部合議B係 御中

 

原告ら訴訟代理人弁護士

 

 

被告準備書面⑷の各論部分に対し,下記のとおり反論を準備する。

 

1 Mビルについて

被告は,102号室は,M建設からMビルが区分所有権を取得している(甲23・順位番号72参照)と主張する(4頁)。

しかし,102号室について,O氏は,いずれも昭和59年6月30日受付で,Mビルから敷地持分1万分の65の全部移転,M建設から敷地持分1万分の14の全部移転,M建設から建物所有権移転(甲23・甲区順位番号131,132,甲20)の各登記を受け,売買契約書は,昭和59年5月29日付けで,S工業株式会社との間で締結している(甲19)。

これらの証拠上,MビルがM建設から102号室の区分所有権を取得したとまではいえないことが明らかである。

2 O氏の物件説明について

被告は,S氏は,昭和56年3月,宅地建物取引主任者のO氏より物件の説明を受け契約しており,住戸と店舗とで管理費に差があることは当時O氏本人から聞いている旨説明していると主張する(5頁・脚注3)。

しかし,O氏が昭和56年3月に,S氏に対し契約対象物件(107・108号室)の説明をし,契約に至ったことは認めるが,その余は否認する。当時一介の営業社員であったO氏は,店舗と住戸間に専有面積1㎡(共有持分)あたりの管理費等の額に格差があることを知らなかったし,店舗の購入者であるS氏に住戸の管理費等の説明をしたこともない。

なお,O氏は,昭和56年9月にはM建設を退職しており,本件マンションの引渡式の時(昭和57年2月)には在籍していない。

 

3 長期修繕計画(甲55)に中通路の修繕が記載されていないことについて

⑴ 被告の主張(11頁)

被告は,長期修繕計画(甲55)に中通路の修繕計画が記載されていないのは,予算に限りがあるため,優先順位を付けて修繕をせざるを得ないからであると主張する。

⑵ 被告が中通路の修繕の必要性を認めていないこと

しかし,被告から依頼を受けた株式会社S設計が平成25年1月に作成した長期修繕計画(甲55)は,文字通り,長期の修繕計画であり,向こう30年間にわたる計画が記載されているものであるが,そのどこにも中通路の修繕が記載されておらず,そもそもその項目自体が存在しない。また,本件マンションの元管理会社であるD株式会社も,被告から依頼を受け,平成17年5月,向こう30年間にわたる長期修繕計画表(甲5。なお,乙20の7参照)を作成しているが,やはり中通路の修繕という項目自体が存在しない。すなわち,被告が,中通路の修繕について優先順位を検討した形跡は認められないのであり,このことは,被告が中通路の修繕の必要性を認めていないことの証左である。

実際,中通路の人造大理石タイル(テラゾ)は,風雨や直射日光の影響を受けることがないので,ワックス掛けなど適切な管理がなされていれば,その耐用年数は長く,にわかには修繕の必要が生じない。被告は,現在,上記タイルに亀裂が複数散見されると主張しているが(12頁),もともとテラゾには素材の特徴として石目模様が入っており,仮に亀裂が進行したとしてもアクリル樹脂型補修材の塗布で足りる。このようなことから被告も,実際には補修の必要性を認めていないのである。

⑶  被告の判断が恣意的であること

ア 特に緊急を要する工事と提案しながら実施していないこと

平成25年1月,前記S設計作成の長期修繕計画書(甲55)が作成され,同年度中に実施する計画の工事として給水方式変更工事(概算工事費5959万円)が記載された。その後,被告は,平成26年3月,第31期通常総会に,第32期事業計画案を提案し,その可決承認を得た。同事業計画案には,第1回大規模修繕工事の第2期分について計画を検討の上,臨時総会にかけること,特に,共用部給水設備更新・改修工事等については,現在,工事仕様書の作成を行っており,詳細が決まり次第,今期中に臨時総会にかける旨が記載されていた。

しかし,被告が,工事の仕様を確定の上,臨時総会にかけることはなかった。被告は,平成25年度末(12月31日)の時点で,繰越金残高9590万円及び管理費剰余金712万円(合計1億0302万円)を有していたにもかかわらず(甲67),緊急を要するとされていた給水設備の更新工事等を実施しなかった。

イ 特に緊急を要しない工事費を支出していること

他方で,被告は,平成22年には,バルコニー枠を鉄製からアルミ製にグレードアップする不要不急の工事を総会決議を経ることなく実施し,そのために多額の支出をしている。すなわち,同年2月開催の臨時総会において,被告は,大規模修繕工事中,鉄部塗装工事の範囲について質問され,部分補修のみ行う旨回答していたが(甲68),実際は塗装を超えて手摺りの交換まで無断で行ってしまったのである。

ウ 小括

以上のような経緯からして,工事の要否・緊急性に関する判断は恣意的といわざるをえない。予算に限りがあるため優先順位を付けて修繕を行っている旨の被告の主張は信用しえないものである。

 

4 廊下仕上げ材の張替えについて

⑴ 被告の主張(12頁)

修繕計画書(甲55)に,2階以上の住戸部分が主に利用する廊下仕上げ材の張替のために10,804,000円が計上されていること(甲55・6頁「Ⅰ建築」「6防水」「⑩開放廊下床防水」「⑪渡り廊下床防水」)について,被告は,この張替工事はそもそも防水工事であり,1階店舗への漏水防止策でもある旨主張する。

⑵ 2階廊下床の構造について

しかしながら,本件マンションの2階廊下床の構造及び仕様は,コンクリート床(スラブ)の上に,均しモルタルを塗り,その上にアスファルト防水層を形成し,更にその上に保護モルタル,そして押さえコンクリートを打設し,最後に,歩行部分に長尺シートを貼って仕上げる,というものである。

すなわち,2階廊下床において防水機能を担っているのはアスファルト防水層であり,仕上げ材(長尺シート)ではない。被告の主張は誤りである。

 

5 店舗用シャッターを含む防火設備について

⑴ 被告の主張(13ないし15頁)

被告は,本件マンションでは,複合用途型であることを前提に,1階部分をショッピングゾーンとすることを念頭に設計されたため,中通路が設置され,中通路に面している店舗について,防火用シャッターの設置や自動火災感知器・自動火災警報器との連動が義務付けないし要請される等,住戸専用の単棟型マンションでは生じない費用を要しているとし,これらの事実が管理費等の格差の合理的理由である旨,平成25年には防火用シャッターを含む消防設備の改修工事を実施し,約500万円の費用が発生している旨主張する。

⑵ 店舗用シャッター(防火用シャッターを除く。)について

しかしまず,店舗用シャッター(中通路に面しない個所に設置されたものであって,火災感知・警報設備と連動した防火用仕様ではなく,手動で昇降させるもの)について言えば,国交省の標準管理規約(複合用途型)(甲57)は,各店舗のシャッター(錠及び内部塗装部分を除く。以下同じ。)を,店舗一部共用部分ではなく全体共用部分とした上で,専用使用権の対象と規定している(第7条2項2号,第8条1号,第14条1項,別表第2の1項「専有部分に属さない建物の附属物」,別表第4)。そして,各店舗のシャッターの管理に要する経費は,各区分所有者が全体管理費としてその共有持分に応じて負担すべきものとしている(第25条)。

他方,標準管理規約(複合用途型)は,住戸の玄関扉(錠及び内部塗装部分を除く。),窓枠及び窓ガラスについても,住戸一部共用部分ではなく全体共用部分とした上で,専用使用権の対象と規定し(第7条2項2号・3号,第8条1号,第14条1項,別表第2の1項,別表第4),その管理に要する経費は,各区分所有者が全体管理費としてその共有持分に応じて負担すべきものとしている。

以上から既に明らかであるが,店舗の区分所有者は,住戸の玄関扉等について店舗専用の商業施設では生じない費用であるとして住戸に格差負担を要求することができず,これと同様,住戸の区分所有者も,店舗のシャッターについて住戸専用の単棟型マンションでは生じない費用であるとして店舗に格差負担を要求することはできないというのが標準管理規約の考え方である。

ちなみに,単棟型である本件マンションの管理規約(甲17)においても,店舗用シャッター(錠及び内部塗装部分を除く。),住戸の玄関扉,窓枠及び窓ガラスは,標準管理規約(複合用途型)と同様,全体の共用とされているから(第7条2項2号・3号,第8条,第14条1項,第23条1項,第24条1項,別表第2の2項「消防・防災設備」「専有部分に属さない建物の附属物」,別表第3),費用負担についてだけ,標準管理規約(複合用途型)と別異に解し店舗の負担を加重する理由はない。

⑶ 防火設備(防火用シャッターを含む。)について

次に,標準管理規約(複合用途型)は,各店舗のシャッターだけでなく火災警報設備についても全体共用部分と規定し(第8条1号,別表第2の1項「火災警報設備」),その管理に要する経費は各区分所有者が全体管理費としてその共有持分に応じて負担すべきものとしている(第25条)。そして,本件マンションの管理規約(甲17)も,標準管理規約(複合用途型)と同様,消防・防火設備を全体の共用と規定している(第7条2項2号,第8条,第14条1項,別表第2の2項「消防・防災設備」「専有部分に属さない建物の附属物」,別表第3)。

標準管理規約(複合用途型)において,これらの物が全体共用部分とされた趣旨は,防火性能を維持する上で,管理権及び管理責任を組合に帰属させるのが適当と考えられたからであり,その考えは本件マンションの管理規約(甲17)にも共通のものと解される。防火用シャッターは,たとえ火元が焼尽しても類焼は生じさせないためのものであり,また,火災警報設備も,火元(いち早く火災の発生を知りうる立場にある。)よりむしろその周辺に火災の発生を知らせるためのものであるから,受益者は,火元というよりむしろ他の店舗や住戸である。

したがって,受益者負担の原則(標準管理規約〔複合用途型〕第25条,第26条)からして,負担者は区分所有者全体と解するのが正当である。被告の主張は,防火用シャッター及び火災警報設備の設置目的を誤解しており,失当である。

⑷ 被告は,前記のとおり消防設備改修工事に約500万円がかかったのは店舗の存在に基因するかの如く虚構している。

しかしまず,被告は,上記工事の明細について,決算報告による開示をしておらず,総会において理事から報告をすることもなく,店舗所有者からの閲覧請求に対しても拒否をしているから,店舗のためにかかった費用と認めることはできない。

また,本件マンションの消防設備のうち不備・不適切を指摘されたのは,次のような事項であり,住戸部分や地下駐車場に関するものが多く存する(甲71)。

ア 消火器具(地階7本,1階5本,2ないし9階51本)

表示・標識が不適切なものが14個所あり(うち2本は地下駐車場)(3頁「点検項目/表示・標識」「判定/14」,4頁「備考/①標識なし―14枚」),また,指示圧力計が破損している(3頁「点検項目/指示圧力計」「判定/1」,4頁「備考/②指示圧力計破損―1台(№47)」)。

イ ハロゲン化物消火設備(地下駐車場)

ハロン起動時に地下駐車場入り口のシャッターが作動しない不良がある(10頁「開口部の自動閉鎖装置/電気で作動するもの/防火シャッター」「判定/×」,11頁「備考/①」)。

ウ 自動火災報知器設備(地階,1階)

充電装置の不良のため,端子電圧及び総合作動に不足がある(14頁「点検項目/端子電圧」「判定/×」,14頁「点検項目/充電装置」「判定/×」,16頁「点検項目/総合作動」「判定/×」,16頁「備考/①」)。

エ 避難器具(住戸バルコニー)

514号室はハシゴが全伸しない,205号室は標識がなく,縦棒が腐食,420号室は上蓋が全開しない不備がある(19頁「点検項目/降下空間」「判定/×」,19頁「点検項目/標識」「判定/×」,19頁「点検項目/縦棒」「判定/×」,20頁「点検項目/上蓋」「判定/×」,20頁「点検項目/降下」「判定/×」,20頁「備考/①②③④」)。

オ 防火用シャッター

感知器作動時に連動しない,光電式スポット型煙感知器に不良がある(28頁「点検項目/防火シャッター/作動状況」「判定/×」)。

これらの消防設備は,警報・避難誘導の役割を果たし,全体として区分所有者全体の利益のために存するものであるから,各区分所有者が共有持分に応じて負担すべきものである。すなわち,地下駐車場にあるハロゲン化物消火設備は駐車場専用使用権者の負担であるとか,住戸バルコニーの避難器具は当該住戸の負担であるなどと解することはできない。防火用シャッターや火災警報設備もそれと同じことである。

 

6 自家用受変電設備(キュービクル)について

⑴ 被告の主張(15ないし20頁)

被告は,本件マンションでは,当初よりも多くの店舗の入居が予定され,また中通路にしか面していない店舗については,公道にある電柱から直接電気を引くことが困難であることから,その地下に,住戸用の高圧受変電設備に加え,別途,店舗及び1階共用部分のための自家用受変電設備(キュービクル)が設置されている,住戸用の高圧受変電設備が東京電力の管理・所有であるのに対し,自家用受変電設備(キュービクル)は電気事業法上被告が管理するものとされているため,点検費用,修繕・交換費用を管理費等から支出している旨主張し,管理費等の格差負担を合理化しようとする。

⑵ 本件マンションに受変電設備が2系統ある理由について

被告は,店舗があるから自家用受変電設備(キュービクル)が必要になると主張しているが,誤りである。本件マンションのような規模のマンションでは,高圧(6000V)で供給された電力を低圧に変換する受変電設備が必ず必要である。

本件マンションの受変電設備には,被告が主張するとおり,東電所有の高圧断路器(電気室内にある。)と被告管理の高圧自家用変圧器(キュービクル室内にある。)の2系統が存するが,それは,本件マンションの規模からして,前者だけでは容量が不足するため,後者が併設されているのである。現状で,前者が住戸用,後者が店舗用となっているのは,設計・施工担当者が,後者をスーパーマーケット用にしようと考えたことに由来するだけであって,スーパーマーケットの出店が頓挫した段階で,店舗が前者を使用することも技術的に可能であった。要するに,東電所有の設備だけでは容量不足である以上,誰かが自家用設備を利用しなければならないのであって,それが店舗でなければならない必然性はない。

被告は,東電所有の高圧断路器を住戸用と決め付け,中通路にしか面していない店舗は公道の電柱から直接電気を引くことが困難であるため自家用受変電設備(キュービクル)が必要となったかの如く主張するが,そもそもこれが誤りである。マンションの電気を公道の電柱から直接引かないのは,それをすると,美観を損ね,却って保線に手間が掛かるからであって,決して,公道に面していないからではない。そのことは公道に面している住戸が公道の電柱から直接電気を引いていないことを考えれば自明のことである。店舗が,自家用設備を利用しているのは,公道に面していないためにそうせざるを得ないということではなく(実際,公道に面している店舗はたくさんあるが,自家用設備を利用させられている。),単に,設計・施工担当者がそのように割り振ったからであって,店舗側が好んで選択したものではなく,そのことについて店舗には責任もなければ特別の受益もない。

⑶ 店舗以外による高圧自家用変圧器(キュービクル)の利用について

のみならず,高圧自家用変圧器は,店舗のみが利用しているものではなく,地下駐車場や住戸の共用部分にも利用されており,更に,その周辺機器である開閉器等は,店舗だけでなく住戸も利用している。

⑷ 標準管理規約(複合用途型)は,「電気室」及び「電気設備」を全体共用部分と規定し(第8条,別表第2の1項),これらの管理に要する経費は,各区分所有者が全体管理費としてその共有持分に応じて負担すべきものとしている(第25条)。

本件マンションの管理規約(甲17)も,上記同様,「キュービクル室」及び「電気設備」を全体の共用部分と規定しているから(第8条,別表第2),費用負担についてだけ,標準管理規約(複合用途型)と別異に解し店舗の負担を加重する理由はない。

 

7 店舗前敷地(犬走り)について

⑴ 被告の主張(20ないし21頁)

被告は,店舗前敷地部分の床タイル更新工事を実施し約170万円を支出した,店舗所有者が長年犬走りにエアコンの室外機等を設置していたため,床部分の陥没や合流枡・点検口の潰れとこれに基因する開閉不良が生じたことから,その更新工事を行い,約165万円の支出をした旨主張する。

⑵ 店舗前面敷地の使用権の状況

店舗前面敷地(犬走り)とは,建物の軒下の外周部地盤面に,雨水が建物に浸透しないよう土間コンクリート等を設けたものである。店舗の区分所有者は,標準管理規約(複合用途型)においては,営業用看板等の設置場所及び通路としての用法で専用使用する権利を有すると規定されているが(第14条,別表第4),他方,本件マンションの管理規約(甲17)においては,そのような用法は規定されておらず(第14条1項,別表第3),むしろ店舗前面敷地への看板等の設置や駐車・駐輪は禁止されており(使用細則〔甲17〕第8条2号・4号),住戸の区分所有者も,店舗前面敷地を通行など通常の用法に従って使用しうるから(第13条),店舗による使用の排他性はほとんど無い。

また,本件マンションの店舗前面敷地に空調機の室外機が設置されるに至った経緯は,被告が平成7年ころ,屋上にあった店舗用クーリングタワーの廃止を求め(甲69,70),これに応じて各店舗が個別に空調室外機を設置せざるをえなくなったことによる。そして,本件マンションの設計上,店舗のための室外機置場が設けられていなかったため,各店舗は,これを前面敷地に設置するほかなかったのである。

⑶ 標準管理規約(複合用途型)は,店舗前面敷地を,区分所有者が共有しそれぞれの通常の用法に従って使用し,管理組合が管理の責任と負担を負うものと規定している(第9条1項,第13条,第21条1項)。そして,店舗前面敷地の管理に要する経費は,各区分所有者が全体管理費としてその共有持分に応じて負担すべきものとしている(第25条)。

他方,標準管理規約(複合用途型)は,住戸のバルコニーについても,住戸一部共用部分ではなく全体共用部分とした上で,専用使用権の対象と規定し(第8条1号,第14条1項,別表第2の1項,別表第4),その管理に要する経費は,各区分所有者が全体管理費としてその共有持分に応じて負担すべきものとしている(第25条)。

以上から既に明らかであるが,店舗の区分所有者は,住戸のバルコニーについて店舗専用の商業施設では生じない費用であるとして住戸に格差負担を要求することはできず,同様,住戸の区分所有者も,店舗の前面敷地について住戸専用の単棟型マンションでは生じない費用であるとして店舗に格差負担を要求することはできないというのが標準管理規約の考え方である。

ちなみに,本件マンションの管理規約(甲17)も,店舗の前面敷地及び住戸のバルコニーの共有及び共用関係について,標準管理規約(複合用途型)と同様に規定しているから(第8条,第9条,第13条,第14条,第23条1項,別表第2,別表第3),費用負担についてだけ,標準管理規約(複合用途型)と別異に解し店舗の負担を加重する理由はない。

 

8 看板等の設置について

⑴ 被告の主張(21ないし23頁)

被告は,本件マンションでは分譲以来店舗から看板使用料を徴収してこなかった旨,店舗の看板等の設置が本件マンションの躯体に影響を生じさせている旨,平成22年には看板の取り外しにより外壁を破損するおそれがあったので,一部,看板設置部分の外壁下地補修工事を見合わせた旨を主張し,管理費等の格差を合理化しようとする。

⑵ しかし,本件マンションにおける店舗の看板の設置方法は,原告ら第4準備書面第1,3⑵(7頁)で述べたとおり,躯体の外部の仕上げ部分(モルタル及びタイル)にアンカー等で固定し,周囲にシール打ちをするものであって,躯体に影響する工事ではない。

被告は,シールを打つ行為自体が躯体に影響を与える旨主張するが,事実ではない。シールは,タイルを傷つけるものではなく,また,タイルと看板との間にカッターを入れると極めて容易に切り取ることができ,あとはヘラですき取ったりテレピン油で拭き取れば,タイルを傷つけたりシミを残すことはない。

また,一般に,看板使用料が徴収される看板は,屋上に設置するネオン看板や大型看板,外壁に複数階にまたがって設置される大型袖看板であり,これらの看板用の照明(電気)や維持管理が共用部分の管理費として区分所有者全体の負担においてなされている場合である。しかし,本件マンションにおける店舗の看板は,いずれも小型・軽量のもので,その維持管理も店舗の区分所有者が負担して行っているから,看板使用料が掛からないのは別段不合理ではない(そうであるからこそ被告もずっと徴収しないできたのである。)。

更に,平成22年に一部,看板設置部分の外壁下地補修工事を見合わせたとの点も,単に,補修の必要性のある状態でなかったというに過ぎない。

したがって,店舗の看板の点も管理費等の格差を合理化しうるものではない。

 

9  人の出入り及び清掃費用の点について

⑴ 被告の主張(23頁)

被告は,本件マンションの1階部分がショッピングゾーンとすることを念頭に設計され,不特定多数の店舗利用者がマンションに出入りすることが想定されていたとし,住戸専用の単棟型マンションよりも多くの管理コストが生じることが当然考慮されているとか,中通路はもちろん,1階の共用部分であるピロティ(原告ら注・現在,自転車置場及び避難通路となっている部分を指しているものと思われる。)等について,住戸専用の単棟型マンションに比して,損耗・劣化が激しくなり,清掃の必要性が増すなどと主張する。

⑵ しかしながら,スーパーマーケットの構想が頓挫した現状で,本件マンションの1階部分に不特定多数の人が参集することはない。この点は,原告ら第4準備書面6頁(第1,3⑵)及び11頁(④「使用目的」)で既述のとおりである。

加えて,被告が管理会社との間で締結した管理委託契約(甲58)によれば,被告が損耗・劣化が激しくなると主張する現況・自動車置場(被告のいうピロティ)の「清掃仕様」は単に「ゴミ拾い」が約されているにとどまり,中通路に至っては「清掃対象部分」自体から外されてしまっている(別表第二別紙〔21頁〕)。また,長期修繕計画書(甲55)においても,中通路の修繕計画が予定されていないことは,原告ら第4準備書面第1,3⑵(6頁)で既述のとおりである。

このように,中通路が清掃対象部分からも長期修繕計画からも外されているという事実は,破損・劣化が少ないことを被告及び管理会社の双方が認識していることの証左といわねばならない。被告の上記主張は,自ら締結した管理契約の内容とも,自ら承認した長期修繕計画の内容とも,矛盾している。

更に,被告が「ピロティ」と主張する現況・自転車置場は,約110台のうち約100台を住戸居住者が停めており,殆ど専ら住戸で利用していると言うことができる。すなわち,住戸専用の単棟型マンションでは生じない経費であるなどと言う前提自体が崩れている。

 

10 結語――被告の主張は本件格差を合理化できないこと

被告は,マンションの管理・修繕に関して,一時点の一部の項目のみを捉え,店舗のために要する経費がいかに大きいかを強弁しようとしている。しかし,住戸と店舗間の費用の分担を論ずるのであれば,マンションの管理・修繕に要する経費を全体的かつある程度の長期間で捉えて,経費額を算定すべきであり,店舗のために要する経費を羅列するのみではあまりに一面的にすぎる。

しかも,被告が店舗のために要する経費として列挙したものは,必ずしも店舗のためだけの経費ではない。被告が列挙した事項は,①アーケード天井ルーバー撤去(平成22年,約51万円)(12頁),②消防設備指摘事項改修工事(平成25年,約500万円)(14頁),③自家用受変電設備点検(年間約31万円)(16頁),④1階店舗前敷地部分の床タイル更新工事(平成22年,約170万円)(21頁),⑤陥没部分補修工事・合流枡点検口更新工事(平成22年,165万円)(21頁)であるが,前記のとおり,②③は住戸も含めた全体で負担すべきものである。

①については,被告が提出した見積書(乙32)には,「アーケード天井ルーバー撤去」「172.2㎡」で51万6600円と積算されているが,ルーバーが設置されている面積は72㎡にすぎないので,上記積算は現場の状況と齟齬している。

④については,同見積書(乙32)には,「犬走り部分やり替え」「113.5㎡」で170万2500円と積算されているが,犬走り部分の面積は,店舗前面が約80㎡,それ以外(ごみ置場,エントランス,避難階段,避難通路等の前面)が約50㎡であるから,被告が,約170万円の工事費用について店舗所有者の利用により生じた費用である旨主張するのは(21頁),前提事実に誤認がある。

⑤については,合流枡点検口とは,住戸(2ないし9階)のバルコニーに降った雨水を雨水本管(1階)に流す設備の点検口であり,1階に設置されていても上階の住戸のためのものである。また,この点検口の設置場所は,店舗前面に14か所,ごみ置場・エントランス等の前面に5か所,両者の境界部分に5か所であって,すべてが店舗の前面にあるわけではない。このとおり,被告の主張は,合流枡の機能を店舗のためのものであるかの如く誤解し,また,点検口の設置場所についても24台すべてが店舗前面に設置されているかの如く誤解しており,失当である。

そしていずれにせよ,①④⑤の合計は約386万円にとどまるのであり,平成22年に実施された大規模修繕工事の見積金額1億2500万円(乙32)に占める割合は,3パーセントに過ぎない。

この程度の比率の修繕工事によって2.45倍の格差を合理化しうるはずはない。被告の主張は失当である。

以 上

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