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平成25年第39号 不当利得返還請求事件

原告 店舗組合員14名

被告 SDマンション管理組合法人

 

第 8 準 備 書 面

平成26年11月26日

東京地方裁判所民事第32部合議B係 御中

 

原告ら訴訟代理人弁護士

 

被告準備書面⑸に対する認否・反論を下記のとおり準備する。

(目次)

第1  被告準備書面⑸第1について  ・・・・・・・・・・・・ 2
1  分割請求禁止規定の趣旨について  ・・・・・・・・・・  2
2 分割請求禁止規定の理論的背景について  ・・・・・・・ 3
3 分割請求禁止規定と不当利得返還請求との関係について ・ 4
4 小括  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

第2 同第2,2(乙43)について  ・・・・・・・・・・・ 4
1 1番館北棟の管理規約について   ・・・・・・・・・・・ 4
⑴ 1番館北棟の管理規約が複合用途型であること ・・・・・4
(2)  被告の管理規約が複合用途型でないこと  ・・・・・・・・6

2 1番館北棟と本件マンションとの相違点について           7

⑴ 店舗共用部分の存在について …………………………………………………7
⑵ 電気設備について ………………………………………………………………7
⑶ 空調・排気設備について ………………………………………………………8
⑷ 消防設備について ………………………………………………………………8
⑸ 小括 ………………………………………………………………………………8
3 神戸地裁平成26年7月23日判決(甲74)について ……………………8
⑴ 格差を許容した根拠について …………………………………………………8
⑵ 判決の認定事実について ………………………………………………………9
⑶ 判決の要旨について……………………………………………………………11
⑷ 小括………………………………………………………………………………11
第3 同第2,1(乙42)について…………………………………………………12
1 本件マンションが複合用途型でないこと………………………………………12
2 乙42のデータの不実性について………………………………………………13
3 被告の情報操作の前歴について…………………………………………………14
4 乙42が基礎的情報を欠いていること…………………………………………15
5 乙42の比較案件選択の不当性について………………………………………16
6 他物件を比較対照することの限界について……………………………………17
第1 被告準備書面⑸第1について
争う。
1 分割請求禁止規定の趣旨について
組合員が納付した管理費等について返還請求又は分割請求をすることができ
ない旨の管理規約の規定(甲17第62条5項等)は,管理組合の解散時に残
余財産を清算する旨の規定(同第67条等)と裏腹の関係を成すものであり,
通常の共有とは異なり清算前の分割ができないという団体的拘束に服すること- 3 –
を定めたものである。それは,民法上の組合について,「組合員は,清算前に
組合財産の分割を求めることができない。」(民法676条2項)とされている
のと同趣旨である。
後者の趣旨については,次のように説かれている。「通常の共有にあっては,
共有者相互間に特別の共同関係はなく,単に同一物の上に所有権を共有してい
るにすぎないのであるから,各共有者はいつでも共有物の分割を請求し共同所
有を解消して単独所有に移行させる自由をもつ。これに反し,組合財産の共有
においては,組合の存続中に組合財産の分割を請求することは許されない。け
だし,組合財産は組合の共同目的を遂行するための経済的手段であって,これ
の分割の自由を認めると組合事業の遂行に支障を来すからである。組合が解散
するときは,組合財産は組合財産たる実質を失うのであるから,分割に親しむ
ものとなる。」(新版注釈民法⒄150頁)。
以上と同様,マンション管理組合についても,組合員が共有持分を理由に分
割請求をすることができるとすると管理組合の目的遂行に支障をきたすため,
解散前のそれを禁止したのが標記規定である(渡辺晋「最新マンション標準管理
規約の解説」223頁)。
2 分割請求禁止規定の理論的背景について
ところで,分割請求禁止と理論的に同根の問題として,管理組合の側から(滞
納)管理費等の債権を放棄しうるか,放棄しうるとして組合員全員の合意が必
要か,という論点があり,管理組合の財産関係を単なる共有関係とみてその放
棄(処分)には組合員全員の合意が必要とする見解と,総有関係(団体的拘束
を受ける共同所有形態)とみて総会決議により債権放棄と損金処理をすること
が可能であるとする見解とが存する(コンメンタールマンション標準管理規約2
14頁)。また,下級審裁判例には,マンションの区分所有者が管理組合に対
して有する金銭債権を自働債権とし管理費等支払義務を受働債権として相殺し
管理費等の現実の拠出を拒絶することは,管理費等拠出義務の集団的,団体的- 4 –
な性質とその現実の履行の必要性に照らすと,その性質上許されないとしたも
のがある(東京高裁平成9年10月15日判例時報1643号150頁。なお,民
法上の組合につき,組合と組合員との取引により組合員が組合に対して債務を負う場
合,全額債務を負うのであって,組合は,その組合員の持分相当額を控除せずに全額
につき弁済を求めうるとした大審院大正5年4月1日判決・民録22輯755頁参
照)。
組合員が納付した管理費等について返還請求又は分割請求をすることができ
ない旨の規定も,以上のような理論的背景をもった諸問題のうちの一場面なの
である。
3 分割請求禁止規定と不当利得返還請求との関係について
他方,管理規約及び総会決議により有効に具体化された額を超える額の管理
費等が納入された場合には,過払分を不当利得として返還すべきは当然であっ
て,共有財産の清算前分割の禁止の問題とは,まったく次元の異なる問題とい
わねばならない。これを株式会社で喩えるならば,一旦払い込んだ株金の返還
を求めることはできないけれども,発起人が有効に定めた額を超える額の株金
を払い込んだ場合にその差額の返還を求めうるのは当たり前であって,過払分
の不当利得返還請求と,資本充実・維持の原則とは何の関係もないことである。
4 小括
以上のとおり,被告が援用する管理規約の規定は,本件争点(有効に具体化
された管理費等債権の額及びそれを超えて支払った過払金の返還請求の当否)とは
関係がない。
第2 同第2,2(乙43)について
争う。
1 1番館北棟の管理規約について
⑴ 1番館北棟の管理規約が複合用途型であること- 5 –
被告引用の神戸地裁判決が対象としたアスタ国塚1番館北棟(以下「1
番館北棟」という。)は,その管理規約(甲72。以下「アスタ国塚管理規
約」という。)において,次のとおり定めており,国交省の標準管理規約(複
合用途型)の本質的特徴(原告ら第4準備書面第2,2〔21頁〕参照)をすべ
て具備している。
ア 共用部分の区分
共用部分を全体共用部分,店舗共用部分及び住宅共用部分に画然と区分
している(7条,8条,別表1,別図1)。
イ 管理経費の区分
管理費の負担については,共用区分,専有部分の面積,設備内容,業務
内容及び業務量等を勘案し,店舗の区分所有者及び住宅の区分所有者に配
分すると定めている(33条2項,管理費等取扱規則3条1項)。
また,①店舗部会業務(管理者が行う店舗共用部分の保全,保守,修繕等
に関する業務)に係る毎年度の収支予算・決算等,②店舗部会会計に係る
管理費等,③店舗共用部分の大規模な修繕については,店舗の区分所有者
全員で構成される店舗部会集会の決議を経なければならない(57条2項,
23条3項,62条2項,51条3項)。他方,住宅共用部分に係るこれら
の事項については,住宅部会集会の決議を経なければならない(57条3
項,51条4項,23条4項)。
ウ 経理の区分処理
会計を,共通会計,店舗部会会計,住宅部会会計に区分している(61
条)。
店舗部会会計における収入は,店舗部会業務(管理者が行う店舗共用部分
の保全,保守,修繕等に関する業務)に要する経費として店舗の区分所有者
から徴収した管理費等によるものとし,その収入は店舗共用部分の通常管
理経費・特別修繕費に充当する(62条2項,34条,35条,23条3項)。- 6 –
他方,住宅部会会計は,住宅共用部分固有の収支となっている(62条3
項,34条,35条,23条4項)。
エ 管理組織の区分
集会については,全体集会のほか,店舗の区分所有者全員で構成される
店舗部会集会,住宅の区分所有者全員で構成される住宅部会集会が設けら
れ(51条),役員会についても,全体役員会のほか,店舗の区分所有者
の互選により選出される役員をもって構成される店舗部会役員会,住宅の
区分所有者の互選により選出される役員をもって構成される住宅部会役員
を設置されている(41条,42条,44条)。
以上のとおり,アスタ国塚管理規約は,国交省の標準管理規約(複合
用途型)に準じた規定を設けている。その結果,店舗区分所有者は,店舗部
会集会における議決権を通じて管理費等の負担をコントロールする権能を有
している。すなわち,管理費等の全体は,①全体集会の決議によって定まる
全体共用部分の管理費等,②店舗部会集会の決議によって定まる店舗共用部
分の管理費等,及び,③住宅部会集会の決議によって定まる住宅共用部分の
管理費等,を積み上げたものであるが,①については,(ⅰ)全体共用部分で
あること,(ⅱ)専有部分の面積,(ⅲ)設備内容,(ⅳ)業務内容及び(ⅴ)業務
量等を勘案し,店舗の区分所有者及び住宅の区分所有者に配分すると定めら
れており(33条2項,管理費等取扱規則3条1項),その配分については,店
舗の区分所有者にも議決権が保障されている(57条1項,51条2項,23
条2項)。②については,店舗共用部分の管理にいくら必要で,いくら徴収
されるべきかの点につき,店舗の区分所有者だけの意思決定手続が保障され
ている。
したがって,①ないし③の積上げの結果,管理費等の合計額が,店舗・住
宅間で格差のあるものとなったとしても,そのことには民主的な合理性があ
るといえる。- 7 –
⑵ 被告の管理規約が複合用途型でないこと
ひるがえって,被告の管理規約は,上記のような標準管理規約(複合用途
型)に準ずる規定をことごとく欠いているのであるから,本件マンションと
1番館北棟とを同列に論ずる前提・基礎がそもそも存在しないといわざるを
得ない。
2 1番館北棟と本件マンションとの相違点について
1番館北棟の店舗が本件マンションの店舗と大きく異なる点は次のとおりで
ある(甲72)。
⑴ 店舗共用部分の存在について
1番館北棟においては,全体共用部分,店舗共用部分及び住宅共用部分が
明確に区分されており,本件マンションにはない次のような店舗共用部分が
存在している。
すなわち,①店舗専用のエレベーター4台,②店舗専用のエスカレーター
4台,③店舗専用の男女別トイレ,④店舗専用の階段5か所,⑤店舗専用の
広場・ショッピングモール,⑥店舗専用の給湯室,⑦店舗専用のガス遮断弁
室,⑧店舗専用の駐輪場,⑨店舗専用の荷捌き室,⑩店舗専用の監視室,⑪
店舗専用のファンルーム,⑫店舗専用のギャベージルーム(生ごみ冷蔵貯蔵
室),⑬店舗専用の駐車場,⑭店舗専用のゴミ置場,⑮店舗専用の排煙室,
⑯店舗専用の自家用発電設備置場,⑰店舗専用の共用ロビー,⑱防災センタ
ー51.4㎡,⑲同控室33.1㎡(浴室,トイレ付),が存在する。
⑵ 電気設備について
1番館北棟の店舗共用部分には,本件マンションにはない次のような電気
設備が設置されている。
すなわち,①店舗専用の自家用発電設備,②店舗専用の有線放送設備,③
店舗専用の非常放送設備,④店舗専用のトイレ非常呼出し設備,⑤店舗専用
のITV(監視カメラ)設備,⑥店舗専用のインターホン設備,⑦店舗専用- 8 –
の中央監視設備,⑧店舗専用の防犯設備,⑨店舗専用の駐車場管制設備,が
設置されている。
⑶ 空調・排気設備について
1番館北棟の店舗共用部分には,本件マンションにはない①空調設備,③
排煙設備,が設置されている。
⑷ 消防設備について
1番館北棟の店舗共用部分には,本件マンションにはない次のような消防
設備が設置されている。
すなわち,①スプリンクラー設備,②泡消火設備,③移動式粉末消火設備,
④非常放送設備,⑤非常電話設備,⑥非常コンセント設備,⑦ガス漏れ火災
警報設備,⑧自家発電設備,⑨厨房用自動消火設備,⑩総合操作盤,⑫消防
用水,⑬消防機関へ通報する火災報知設備,が設置されている。
⑸ 小括
以上のとおり,1番館北棟には,本件マンションに無い店舗部分の共用部
分が存在し,かつ,同部分には充実した設備が備えられているのであり,他
方,住宅部分は賃貸の市営住宅(後述)なのであるから,店舗の負担すべき
管理費の額について,同棟と本件マンションとを同列に論ずることができな
いことはあまりに明白である。
3 神戸地裁平成26年7月23日判決(甲74)について
⑴ 格差を許容した根拠について
同判決が対象とした1番館北棟は,店舗部分の共用部分(本件マンション
には存在しない。)が存在し,同部分には充実した設備が設けられているた
めその管理に多額の経費がかかり,また,全体共用部分の管理に要する経費
のうち防災センターの運営費が占める割合が突出して高く,その運営費の大
半は店舗部分のために必要となる費用であるということが,同判決が,管理
費の格差を有効とした最大の根拠となっている。- 9 –
防災センターとは,高さ31mを超える超高層マンションや,11階建て
以上で延床面積が10,000㎡以上(または地下部分が5,000㎡以上)
の大規模マンションに設置が義務づけられる,防災の集中管理・監視制御室
である。防災センターの運営費中,大きな割合を占めるのが人件費である。
防災センターに置かれる要員は,防災設備等の監視や操作方法について公的
な講習が必修であり,マンションの一般の管理人とは違う。小規模の防災セ
ンターでも常時最低2名が24時間常駐し,警報機の発報,警告,センサー
が反応すれば1名が現場に急行して確認し,異常があれば防災センターの他
の1名に直ちに連絡し対処しなければならず,最低複数名の要員が必要とな
る。そのほか,防災センターには,交代要員のための仮眠室,トイレ,湯沸
かし室等の設備も要求される。
現に,1番館北棟は,同南棟などとともに合計9棟で,防災センターを設
置・運営しているが,防災センター要員は,毎日24時間保安管理業務にあ
たり,そのうち警備員として,24時間勤務職の3ポスト,日勤職の3ポス
トが存るほか,施設員として日勤の4名が稼働している(甲75の1〔アスタ国塚
1番館南棟管理委託契約書〕別表第2-1)。

⑵ 判決の認定事実について
同判決の認定によれば,1番館北棟は,平成11年11月19日に新築さ
れた地下1階付き地上13階建の複合用途型マンションであり,概ね3階以
下は店舗,4階以上は神戸市が所有する市営住宅となっており,店舗部分の
区画数は27区画,その専有部分の床面積は合計4921.16㎡,住宅部
分の戸数は108,その専有部分の床面積は合計6185.71㎡であり,
店舗部分の共用部分に乗用エレベーター2台,荷物用エレベーター2台及び
エスカレーター4台が,住宅部分の共用部分に乗用エレベーター2台が設置
されている。
また,同認定によれば,日常清掃,定期清掃,各槽清掃,害虫駆除,空気- 10 –
環境測定などは,店舗部分の共用部分についてのみ行われており,1番館北
棟を含む9棟については,アスタ国塚3番館に設置された防災センター
において防災関連設備の集中管理及び監視制御並びに防災機器の維持管理が
行われており,防災センターの対応状況は次のとおりである。
ア 上記9棟を合算した店舗部分の専有面積は3万7338.48㎡,区画
数は304,住宅部分の専有面積は5万6256.14㎡,戸数841で
ある。
イ 平成25年1月1日から同年4月30日までの間の全9棟に対する防災
センターの対応状況は次のとおりである。
店舗         住戸
設備員出動回数  478回      195回
設備員出動時間  471.5時間   218.9時間
警報出動回数   566回     186回
警報発報     766回     476回
防犯カメラ台数  165台      41台
中央監視盤管理点数 2770点    681点
警備員巡回時間  9万3380時間  5万0600時間
そして,同認定によれば,1番館北棟の店舗部会集会の決議において店
舗部分の区分所有者が負担すべきものとされた管理費総額は月額491万
円余であり,そのうち店舗部分の共用部分の管理に要する費用は月額41
7万円余,全体共用部分の管理に要する費用のうち店舗部分が負担すべき
費用は月額74万円余であり(以上合計491万円余),上記74万円余の
うち69万円余が保安管理費(防災センター要員費)である一方,全体の
共用部分の管理に要する費用のうち住宅部分が負担すべき費用は概ね14
万円余であり,そのうち保安管理費(防災センター要員費)は10万円余
である。- 11 –
⑶ 判決の要旨について
同判決は,以上のような認定に基づき,店舗部分の共用部分には,エレベ
ーター4台,エスカレーター4台が設置されているといった設備の状況,店
舗部分には日中不特定多数の人の出入りがあること,清掃作業などの店舗部
分が享受しているサービスの内容及び程度に照らせば,相応の設備管理費,
保安管理費,清掃管理費等が必要になるというべきであり,上記月額491
万円余の算定の基礎とされた費目ごとの金額が明らかに不相当であると認め
るに足りる証拠はない旨判示した。
また,同判決は,全体の共用部分の管理に要する費用の大半は保安管理費
(防災センター要員費)が占めているところ,住宅部分が負担すべき費用と
比較すると,金額ベースでの比率は概ね87:13と,店舗部分の区分所有
者がより多額の負担をしていることになるが,防災センターの対応状況によ
れば,実数ベースでみても店舗部分に係る対応が多くなっており,専有面積
当たりで比較すると,概ね70:30ないし85:15の割合で店舗部分に
係る対応が多くなっていることが認められるとした上で,1番館北棟の住宅
部分は市営住宅となっており,他の市営住宅との均衡からして,徴収する自
治会費(1番館北棟の住宅部分の管理に要する費用は原則として神戸市が負担し
ているが,保安管理費〔防災センター要員費〕10万8000円については,自治
会費から1戸当たり月額1000円〔108戸合計10万8000円〕を負担させ
ている。)に差異を設け難いという事情も考慮すると,店舗部分が負担すべ
きとされた保安管理費(防災センター要員費)の額が区分所有者間の衡平を
害するとまではいえず,店舗部会集会の決議において定められた管理費等が,
区分所有者間の衡平を害する不相当なものであると認めるに足りないという
べきである旨判示したものである。
⑷ 小括
以上のとおり,1番館北棟においては,標準管理規約(複合用途型)に準- 12 –
ずる規約によって規整されている。店舗部分の区分所有者が負担すべき全体
管理費及び店舗一部管理費の額は,積算根拠の透明性が確保されている上に,
店舗区分所有者には,店舗部会集会における議決権等を通じてその額をコン
トロールする権能が保障されている。
他方,本件マンションにおいては,店舗・住戸間の格差は,その係数的根
拠が誰にも認識し得ないブラックボックスの状態にある。そして,本件マン
ションにおいては,店舗部会集会のような少数者保護のための意思決定機関
も全く欠けている。
また,1番館北棟は,神戸市の震災復興再開発事業の一環であり(被告平
成26年9月10日付け上申書添付資料),その店舗部分は,本件マンションと
は比較にならないほど充実した共用部分及び設備を備える一方で,その住宅
部分は,住宅に困っている比較的収入の少ない世帯に対し安い家賃で住んで
もらうために神戸市が供給する市営住宅(賃貸)である(神戸市ホームページ
http://www.city.kobe.lg.jp/life/town/house/information/shiei/)。したがっ
て,1番館北棟と本件マンションとを同列に論ずる前提が欠けている。
よって,被告が本件に神戸地裁判決を引用するのは不当といわざるを得な
い。
第3 同第2,1(乙42)について
争う。
1 本件マンションが複合用途型でないこと
被告は,被告が調べた範囲でも,乙42記載のマンションにおいて住戸と店
舗とで管理費等の額に差が設けられているとか,実数としては,より多くの複
合用途型マンションにおいてかかる差が設けられていると考えられる,などと
主張する。
しかし,本件マンションが複合用途型でないことは,原告ら第4準備書面第- 13 –
2,2(21頁)及び本書面第2,1において詳述したとおりである。
2 乙42のデータの不実性について
乙42は,被告の作成文書であるが(実際には被告から委託を受けた日本ハウズイング株式
会社の担当者が作成したものと思われる。),マンションの状況や管理
費等の額を示すオリジナルの証拠(生データ)ではなく,その信用性は極めて
疑わしい。
⑴ すなわち,物件番号1の京成サンコーポ浅草について,乙42は,管理費
等の負担割合が店舗は住戸の1.83倍である旨記載しているが,原告らが
平成26年10月31日に現地調査をしたところ,同マンションの管理組合
の理事長及び管理会社の担当者の双方とも,負担割合は等倍である旨明言し
ており,乙42の記載は誤りと思われる。
⑵ また,物件番号2のライオンズマンション東神田について,乙42は,住
戸の管理費が修繕積立金を含み14,440円である旨,管理費等の負担割
合は店舗が住戸の1.78倍である旨記載しているが,原告らが調査したと
ころ,実際は,住戸の管理費は12,040円,同修繕積立金は16,55
0円であり,管理費等の負担割合は店舗が住戸の0.9倍であり,店舗の負
担が逆に少なかった。
⑶ また,物件番号8のエクシール平河町について,乙42は,住戸の修繕積
立金が1,600円である旨,修繕積立金の負担割合は店舗が住戸の2.8
4倍である旨記載しているが,原告らが調査したところ,実際は,住戸の修
繕積立金は4,600円(専有面積1㎡あたり227.8円)であり,修繕積
立金の負担割合は店舗が住戸の0.99倍であり,店舗の負担が逆に少なか
った。
⑷ 更に,物件番号9のモナーク大井について,乙42は,店舗の専有面積を
登記簿上の面積(いわゆる内測計算)で記載する一方で,住戸の専有面積を
いわゆる壁心計算で記載し,住戸の専有面積あたりの単価が少なくなるよう- 14 –
粉飾している。住戸の専有面積についても登記簿上の面積で計算すると,店
舗の負担は管理費等の負担割合は,乙42がいう1.15ではなく,実際に
は1.08にとどまる。
⑸ 乙42は,被告の証拠説明によれば,被告が,平成26年10月17日に
作成し,同月20日付けで提出したものであるが,原告らは,その直後の同
年11月4日以降,REINS(レインズ。国土交通大臣指定の不動産流通機
構が運営・管理する不動産流通標準情報システムである。)等によって,乙42
記載の10物件について,販売物件登録状況・成約事例を検索した。
しかるところ,店舗と住戸の双方について専有面積や管理費等が確認でき
たものは,3物件(物件番号2のライオンズマンション東神田,同7のクレアシ
ョン青砥,同8のエクシール平河町)にすぎず,しかもそのうち2物件につい
て,乙42の記載は,店舗の負担割合が,実際には住戸より低いのにあたか
も高いかのように虚偽の記載をしている(上記⑵及び⑶記載のとおり)。
また,残る7物件については,店舗・住戸の双方または一方が,販売登録
物件として登録されていないため,格差の真偽について検証することができ
ない。不動産業者が販売依頼(専任媒介契約)を受けた場合,広く情報を知
らしめて速やかに取引がおこなわれるよう,REINSに登録することが義
務づけられているのであり,REINSに登録されていない乙42の情報は,
その真偽について検証することができず,信憑性に疑いがある。
3 被告の情報操作の前歴について
被告は,これまでにも,他のマンションの管理費等の負担割合について,不
当に情報操作をした前歴がある。
⑴ すなわち,被告の平成24年3月31日開催の総会において,管理受託会
社である日本ハウズイング株式会社の担当者は,同社東京南支店が管理して
いる複合用途型(店舗併用)のマンションは110棟あり,そのうち管理費
等の格差について不明が30件,差がないものが60件,他は差があり,負- 15 –
担割合は店舗が住戸の0.33倍のものから4.3倍のものまである旨説明
した。しかし,被告は,同総会の議事録の作成に当たり,店舗が住戸の0.
33倍,0.68倍,0.75倍,0.84倍,0.86倍,0.87倍,
0.92倍,0.96倍,1.05倍,1.08倍である各事例を割愛し,
「最大で4.3倍のマンションがある。」とのみ記載して,各戸に配布した
から(甲76〔先行調停の甲5〕),総会に出席しなかった多くの区分所有者は
誤った認識を植え付けられることとなった。
⑵ その後,4.3倍の格差があるとされた上記マンション(東京都大田区西
蒲田6丁目所在の西蒲田ダイヤモンドマンション)について,店舗の区分所有
者から,実際にはかかる格差はない旨の指摘を受けた結果,被告は,平成2
4年10月3日,「そのマンションの管理費等を再確認したところ,4.3
倍では無く等倍であった旨の発言の訂正報告がありました。」旨訂正した(甲
77〔先行調停の甲27〕)。
⑶ その後,被告は,本件に先行する調停において,上記東京南支店管理の案
件に係る管理費等比較一覧表を書証として提出したが(先行調停の乙7),本
件訴訟においては,もはやかかる書証による立証を断念し(格差がないもの
が過半数を占めている上に,格差があるものについても,むしろ店舗の負担割合が
低いものが多数存在するのであるから,被告が断念するのももっともである。),
訴訟係属後1年半余を経た段階で,乙42を提出するに至り,本件マンショ
ンと似ても似つかない他社の売出し物件を参照させようと裁判所を欺いてい
るのである。
⑷ 小括
以上のような経緯に照らしても,乙42は到底信用し得ないものである。
4 乙42が基礎的情報を欠いていること
乙42は,単に,所在,階数・総戸数,売出し物件の階数・専有面積を記載
しているだけであり,総専有面積や共有持分比率の記載すらない。つまり,乙- 16 –
42では,専有部分や共用部分の形状,面積,位置関係,使用目的及び利用状
況など,区分所有者間の利害の衡平を図るための諸要素(区分所有法30条3
項)が,それらのマンションにおいてどのようになっているかが皆目分からな
いのである。各マンションの立地条件,店舗と住戸の各戸数(乙42ではこの
仕分けがなされていない。)や,全体共用部分,店舗共用部分及び住戸共用部分
の各面積,設備の状況,仕様のグレード等が分からなければ,費用負担の格差
の合理性についてまったく判断しようがない。
また,乙42は,その体裁からしても,単に売出し物件の情報を転載したに
すぎず,当該マンションの管理規約がどのようになっているのか,管理費等の
負担についていかなる機関が決定しているのか(アスタくにづか1番館北棟では
前記のとおり店舗部会集会が意思決定に関わっているが,それと同様であるのか。),
管理費等の負担について訴訟等の紛争を抱えていないか,等の情報についても,
一切分からないものである。
少なくとも,前記神戸地裁判決が行ったように,各種共用部分の管理に要す
る経費の構造がどうなっているかを分析し,管理費等の額の算定基礎とされる
費目ごとの金額を明らかにして,その合理性を検討しなければ,費用負担の格
差の合理性・不合理性は検証のしようがないが,乙42はこの目的にはまった
く役立たないものである。
5 乙42の比較案件選択の不当性について
乙42は,構造・規模,築年月,管理人の勤務形態(常駐・通勤・巡回の別
など),エレベーター設備や地下駐車場の状況など,管理費等に影響する要素
を捨象・欠落させているが,原告らが現地調査したところによれば,乙42記
載の物件は,これらの諸要素の点において,本件マンションとは類似しないも
のであった。特に違いが甚だしいのは,次のような物件であったが,その他の
物件も,本件マンションとは類せず,参考にならないものばかりであった。
⑴ 物件番号3のパレスハイツ千歳烏山は,店舗用の階段2個所,店舗用の常- 17 –
夜灯,店舗顧客用の便所,店舗用の地下天窓(ドライエリア),店舗用の監視
カメラが備えられている一方で,住戸は,全戸とも専有面積14㎡台の狭い
ワンルームマンションであり,住戸用の廊下は幅員が狭小であり,電灯も昼
間は点いておらず,住戸用のエレベーターも設置されていない。
⑵ 物件番号4のアイタウン・レピア(以下「レピア」という。)は,西新宿6
丁目再開発事業によりできた複合施設「新宿アイタウン」のうちの住居棟で
あり,商業施設である「アイタウン・プラザ」(以下「プラザ」という。)など
とともに「新宿アイタウン」を構成している。しかし,地下4階付き地上2
2階建てのうち,地下1階から地上3階までを占めるプラザには,防災セン
ター(1階),スプリンクラー,店舗用エレベーター,店舗用地下駐車場(地
下2ないし4階),噴水が併設された広場(地下1階),高級な黒御影石仕様の
外壁,埋め込み式の天井照明,植栽など充実した設備が施されているが,レ
ピアにかかる設備はない。
⑶ 以上の物件のほか,店舗部分が地下にまで及んでおり,相応の施設を要し
ているものとして,物件番号5のメイジャー神楽坂,同8のエクシール平河
町があり,また,住戸用のエレベーターがないものとして,同7のクレアシ
ョン青砥がある。
このように本件マンションとは似ても似つかない物件を持ち出してきた被告
の意図は,極めて作為的で不自然といわざるを得ない。
6 他物件を比較対照することの限界について
⑴ 区分所有法30条3項は,区分所有者間の利害の衡平を図るために規約が
考慮すべき要素を掲げているが,その中には,「近傍同種のマンションの管
理費等に比較して」というような要素は含まれていない。その意味で,借地
借家法32条1項が「近傍同種の建物の借賃に比較して」と定めているのと
は対照的である。一口に「近傍同種」と言っても,共用部分の管理に要する
経費の構造は各マンションごとに違いがあるから,やみくもに近傍同種のマ- 18 –
ンションの管理費等と比較して同列に扱っても衡平を図るゆえんではないと
いう考えをここに読み取ることができる。たとえ近傍同種のマンションの管
理費等を参照にするにしても,各マンションの経費構造の違いを意識した上
で比較しなければミスリーディングになるだけである。
まして,乙42は,経費構造も異なる上に,近傍同種ですらないマンショ
ンの売出し情報を羅列しただけであって,何の参考にもならないものである。
⑵ 一方,国交省の平成25年度マンション総合調査結果報告書(甲65)に
よれば,マンションの8割方が管理費等の負担額を各戸の専有面積の割合に
応じて算出しており,これに各戸均一のものを合わせると,97ないし99
パーセントにも達している(原告ら第6準備書面で既述のとおりである。)。
これは,経費構造の違いを捨象してもなお,大多数のマンションにおいて,
専有面積(共有持分)の割合に応じた費用負担がなされており,多くの人が
それを「衡平」と捉えていることを示している。上記報告書(甲65)は,
このような大きな傾向を示す情報として極めて有益である。
⑶ 上記報告書(甲65)においても,例外として,費用負担が専有面積(共
有持分)の割合に応じていないマンションの存することが認識されている。
しかし,そのようなマンションの中には,店舗の管理費負担割合が住戸の
それより多いマンションもあれば,逆に少ないマンションも存在するはずで
ある。現に,原告HC代表者が,平成26年11月22な
いし24日の間に,前記REINSで,東京23区に限定して登録販売物件
を検索しただけで,そのようなマンションは合計28件も見つかった(甲7
8〔陳述書〕)。
しかしこのような格差が許容されるためには,AK1番館北棟
の例で見たとおり,経費構造上の合理的根拠が必要というべきである。
⑷ また,管理費等の負担割合に格差が現存するマンションの中には,①格差
の合理性を裏付ける事情(立法事実)があり,かつ,格差を設ける手続に適- 19 –
正手続(デュー・プロセス)が保障されていたマンションだけでなく,②こ
のような合理性・適正手続を欠いたまま不合理な格差が生じ,これが是正さ
れないままになっているだけのマンションも含まれているということにも留
意されるべきである。
本件マンションには,格差の合理性を裏付ける事情はなく,また,適正手
続の保障のもとに規約や決議において格差が設けられたというような事実経
過も存在しないのであるから,不合理な格差を放置したままのマンションに
該当することは言うまでもない。
以 上

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