スポンサードリンク

東京地方裁判所民事第32部3A係 御中

 

陳述書

平成26年12月3日

 

原告 OM

 

私は,原告である株式会社HCの代表取締役を務めております。私は,マンション管理士の資格を有しておりますが,マンション管理士としての専門的な見地から,マンション管理費のあり方について以下に申し述べます。

1,住戸と店舗の管理費の格差が発生する素地について

一般的に,マンション分譲時に分譲業者が作成する原始規約において,不適正又は不公平な条項が散見されるという事情があります。たとえば,特定の区分所有者(分譲業者であって1戸又は数戸の専有部分を所有する区分所有者や,敷地の元所有者又は現所有者であって1戸又は数戸の専有部分を所有する区分所有者等)に対し,管理費や修繕積立金を低額にするといった条項が存在するのです。

後で分かったことですが,本件マンションにおいても,蓮沼児童館と分譲業者との間で,管理費及び修繕積立金の平米単価を住戸の2分の1にするという密約があり,この規約に基づかない運用が,長らく秘密裡に行われていました。その後,平成18年5月14日の臨時総会で修繕積立金が12.5倍に値上げされた後,平成19年のことですが,理事会は,総会に諮らず,秘密裡に児童館の管理費を住戸と等倍に変更しました(本来,管理費変更は総会決議事項のはずです。)。なぜ児童館が,住戸の0.5倍から等倍へと変更になったのか,なぜ店舗と同等ではないのか,一切開示も説明もなされることはありませんでした。

私は,平成23年11月臨時総会の際に配布された変更規約案を見て初めて,児童館を含めて全144戸分の管理費額と専有面積を知り,計算してみたところ,児童館の負担が住戸と等倍になっていることを知りました。しかし,児童館と店舗との格差は,現在も解消されていません。

 

2,格差放置の背景について

かかる不公正な格差が放置される背景については以下の事情が挙げられます。

(1) 区分所有者の高齢化

現在,築20年から30年のマンションで発生している問題は,区分所有者の高齢化です。

つまり,区分所有者が高齢となればマンションの管理組合の役員として活動する気力も失せてしまい,役員の成り手も限られます。

実際,本件マンションにおいても30歳,40歳代で区分所有権を取得した組合員は60歳,70歳代となっています。また区分所有権が売却されたり,相続されたりして,所有者が交替し,管理組合がまとまりのないものとなってしまっています。

(2) 賃貸化率の上昇

マンションの経過年数とともに区分所有者の実住から賃貸にする賃貸化が進み,外部所有者が増加する傾向にあります。その結果,さらに管理組合の役員に成る人材が枯渇します。ましてや,本件マンションのように,規約で役員の居住要件が設定されているのであればなおさらです。現在本件マンションの規約では,役員は居住していなければならないことになっており,店舗の区分所有者は,役員として就任できない状況であり,甚だ不公平です。本件マンションは,外部所有者25戸,店舗区分所有者19戸,児童館1戸であるところ,総戸数144戸の内,これら45戸の区分所有者については,役員資格が剥脱奪されているのです。

(3) 管理会社の台頭

マンションの管理は,自主管理から管理会社への委託管理が主流となっています。上記(1)及び(2)の状況と相俟って,一部の区分所有者役員と管理会社(又はその担当者)が結託し,一部の区分所有者役員の意向が反映された管理運営がなされる傾向にあります。

本件マンションもその例に漏れません。

(4) 一部区分所有者の専横化

以上のような理由により,一部の区分所有者に長期にわたり役員が独占され,一部の区分所有者への利益誘導,あるいは改正すべき事項が放置されてしまいます。本件マンションがその好例であり,現役員は10年もの長きに渡り連続して就任し続けています。

(5) マンション自治の機能不全

結局,最高意思決定機関であるマンションの総会が一部役員に牛耳られ,非役員の組合員の正当な意見は取り上げられないことになってしまっています。意見や質問,組合員の権利である管理組合が保管する資料に対する閲覧申請も無視されてしまいます。また,総会において管理組合は,圧倒的な大多数の白紙委任状の数で議案を可決してしまうことが顕著になっています。このような自治機能が崩壊しているマンションが実際多数存在するのです。そのいい例がまさに本件マンションです。

 

3,本件マンションにマンション標準管理規約複合用途型を準用することの可否

区分所有法3条で「一部共用部分」は,一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分と定義されています。店舗と住戸の費用負担を明確にするには「店舗共用部分」「住戸共用部分」「全体共用部分」に区分しなければなりませんが,一般の店舗と住戸が混在するマンションでは,店舗の一部共用部分か又は住戸の共用部分かを明確にすることは困難であり,多くの労力を必要とします。そこで,特段の差異が無いものは,等倍とすることが最も合理的かつ社会通念上も相当であり,最近では等倍が主流となっています。

この点,被告が例示した「AK」「IR」は明らかに店舗と住戸が完全に明確に区分されている例であり,マンション標準管理規約複合用途型を採用することが規模的,構造的に可能な事例です。むしろ,建築設計段階で複合用途型管理規約を念頭において設計されているものと推察されます。

これに対して,平成14年区分所有法改正以前の店舗と住戸が混在するマンションでは,マンション標準管理規約複合用途型を念頭において設計又は分譲されたことはありません。ましてや,分譲後の区分所有者間の管理運営に配慮することはありません。分譲業者は専ら,元の地権者への配慮など,販売をしやすくするための偏った利益誘導やお手盛りを行ってきたのです。設計的・構造的にマンション標準管理規約複合用途型になっていないものを,「店舗共用部分」「住戸共用部分」「全体共用部分」に区分することはそもそも無理があることであり,矛盾を生じることになります。つまり,平成14年区分所有法改正以前のマンションは,その大多数がマンション標準管理規約複合用途型を準用出来ないものです。

 

4,本陳述書添付の28物件について

本陳述書添付の一覧表に記載した28物件は,すべて東京23区内の物件で,レインズに登録されたものです(元のデータも別途証拠として提出します)。いずれも店舗が負担する管理費・修繕積立金の単価は,住戸のそれより低くなっています。

このような物件も存在するのですから,被告が,あたかも店舗だけが特別の利益を享受しているかのように前提したり,店舗は住戸より多く管理費・修繕積立金を負担しなければならないかのように主張するのは,実態においても誤っています。 

 以 上

スポンサードリンク